連載
インディーズゲームの小部屋:Room#514「Getting Over It with Bennett Foddy」
あけましておめでとうございます。新年最初の「インディーズゲームの小部屋」の第514回は,理不尽極まりない山登りゲーム「Getting Over It with Bennett Foddy」を紹介する。本作は,大きな釜にすっぽりと入った上半身裸の男が,長柄のハンマー1つで険しい山やビルをよじ登っていくというアクションゲームだ。今年も1年間よろしくお願いいたします!
新しい年を迎え,新たな目標に向かって決意に燃えている人も多いことと思うが,そんな人にぜひお勧めしたいのが,今回紹介するゲームだ。本作をプレイすれば,困難に立ち向かうことや忍耐の大切さ,そして人生における理不尽さや空しさといった,生き馬の目を抜くがごとき現代社会を生きるうえで大切なすべてのことを学べる……ような気がする。
本作のゲーム内容は冒頭で軽く触れたとおり,大釜にすっぽりと入った男を操作し,長柄のハンマーを振り回して切り立った崖や廃ビルの壁をよじ登っていくというもの。なぜ男は上半身裸なのか,なぜ釜から出て自分の足で歩かないのか,なぜよりによってハンマーで進もうと思ったのか,そのすべてが謎に包まれているが,ともかくそういうルールなので納得してほしい。
遊び方は簡単で,マウスでハンマーを操作して地面やちょっとしたでっぱりにひっかけ,ハンマーを引き寄せたり,打ち込んだときの反動を利用したりしながら,ひたすら前進していく。しかし,ハンマーの操作は非常に独特で思うように動かすのが難しく,これで険しい崖をよじ登っていくのは困難を極める。わずかな操作ミスで,せっかく乗り越えた岩場から転落し,落ちた先がスタート地点だったなんてことは日常茶飯事だ。
このゲームでは,それまで慎重に積み上げてきたものが,一瞬の気の緩みからすべて台無しなってしまうのは当たり前の光景である。プレイ中はときおり,作者からの励ましの言葉やら,本作を開発した意図やらのナレーションが流れてくるが,高所から転落してスタート地点に逆戻りしてしまったときは,ここぞとばかりにジャズの名曲と共に,エドガー・アラン・ポーやクリスティーナ・ロセッティといった著名な作家や詩人達による“人生の教訓”が流れてくるのも,実にイラッとさせられる。
しかし,何度も何度も挑戦しているうちに,次第にハンマーの扱いにも慣れ,それまで乗り越えられなかった壁を攻略できたときの達成感はひとしおだ。それも次の瞬間にはすべておじゃんになってしまったりするのだが,不思議とやめられない魅力があるのもまた事実。確かに操作は難しいし,道のりの厳しさは理不尽としか言いようがないが,クリア不可能なほどではなく,筆者も思わず原稿そっちのけで,夢中になって遊んでしまった。
はっきり言って,かなり人を選びそうなゲームだが,決してただのクソゲーではなく,これほどまでに手に汗握ってマウスを操作している自分に気づかされたゲームは久しぶりだ。人生は登山に例えられることもあるが,本作に比べればどんな険しい山道でもハイキングのようなものであり,クリアしたあかつきには困難に立ち向かう勇気と忍耐力を手に入れている……かもしれない。そんな本作はSteamにて820円で発売中なので,努力の何たるかを知りたい人はどうぞ。
■「Getting Over It with Bennett Foddy」公式サイト
http://www.foddy.net/2017/09/getting-over-it/- この記事のURL:
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