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Access Accepted第705回:「リビングルームへの進出」を目指したXbox20年の歩み
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印刷2021/11/22 11:00

業界動向

Access Accepted第705回:「リビングルームへの進出」を目指したXbox20年の歩み

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 2001年11月15日にMicrosoftの家庭用ゲーム機である初代Xboxがリリースされてから,はや20年が経過した。「Halo」,「Forza」,「Gears of War」といった自社タイトルを柱に,コンシューマーゲーム機市場の一角を占めるXboxプラットフォームだが,そのローンチ以前から業界ウォッチャーを始めていた筆者が思い出した,当初の1つのキーワード「リビングルームへの進出」を掘り下げつつ,これまでのゲーム産業の変革と,今後の市場を見据える上でのXboxの今を解説しておこう。


“リビングルームへの進出”を切望していたMicrosoft


 初代Xboxが公開されたのは,2000年3月10日にカリフォルニア州サンノゼ市で開催された「Game Developers Conference」でのことだ。筆者は,それ以前からこのイベントには何度か参加していたが,当時はまだ数千人程度の小さな規模で,その2年前までは「Computer Game Developers Conference」と呼ばれていたように,コンシューマ機がクローズアップされることもそれほどはない,シリコンバレーの地味めなローカルイベントといった雰囲気だった。

 そこに乗り込んできたのがMicrosoftの創業者であり初代会長兼チーフ・ソフトウェア・アーキテクト,そしてこの当時,世界最高の資産家であったビル・ゲイツ(Bill Gates)氏だ。筆者の記憶でしかないが,事前にメディア登録をしてバッジを受け取るという厳格な参加システムは,これが初めてのことだったように思う。
 今で言う基調講演が始まり,どこか似合わない黒の革ジャンを着たゲイツ氏が,台の上に掛けられていた黒い布を取ると,そこから現れたのは「X」をかたどった銀色の筐体を持つ,初代Xbox機の試作機だった。日本においては,その1週間ほど前にソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)が「PlayStation 2」をローンチしたばかりだったので,いかにもアメリカっぽい,まるでPCのMOD筐体のような試作機を見た観衆は,少し微妙なイメージを持ったかも知れない。

筆者も21年前に目撃した銀色のアレ。空気冷却には最高っぽい感じもする。「空港の灰皿」などと軽口を叩かれた「Xbox Series X|S」もそうだが,Microsoftのハードウェアデザインは機能と効率を優先し過ぎているところが,同社のお堅いイメージに合っている(画像はGeoff Keighleyの公式Twitter(関連リンク)より)
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 当時のMicrosoftにとっては「どのようにリビングルームに進出するか」が大きな問題だった。「Windows 95」の普及以降,ビジネスや教育機関だけでなく,一般家庭でもPCを持つユーザーは急激に増えていたが,多くの場合は自室でキーボードをカチャカチャ叩いているようなオタクっぽい印象のホビーであり,Microsoftは“家電”としての地位を模索していたとされる。

 当時のゲーム人口は世界的に見ても2900万人程度とされ,PCゲーマーはそのうちの3分の1ほどだった。さらに,PlayStation登場以前から,「ドリームキャスト」や「NINTENDO 64」などの日本産のゲーム機が受け入れられており,3DOやAtariなどアメリカ企業の家庭用ゲーム機の存在感は薄かったのだ。
 1995年から2000年頃の家庭用ゲーム市場はソニーが47%を掌握し,セガと任天堂がその残りのほとんどを占め,その他は合計しても2%に達しないような状況だった。そのうえソニーは,ゲーム以外のCDやDVDも再生できたPlayStation 2を「ホーム・エンターテインメントの中核になる」ものと宣伝しており,Microsoftは大衆娯楽に化けないパソコン市場の先行きに危機感を募らせていたのかも知れない。

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 Xboxの「X」は,「DirectX API」から付けられたものであるが,現在も活躍する日系人ジャーナリストであるディーン・タカハシ氏の名著「Opening the Xbox」によると,ソニーが後にPlayStation 2としてリリースされる新作ゲーム機を開発中という情報を得たゲイツ氏が,このDirectXをベースにしたプログラミングツールをソニーに売り込み,オープンプラットフォームにすることを促すために来日したことがあったという。
 しかし,当時のソニーの代表取締役社長であった出井伸之氏との交渉が決裂し,憤慨したままアメリカに帰国し,自社でハードウェアを作る決断をしたのだと,タカハシ氏は著書で綴っている。
 GDC2000においては,“Xbox”はまだコードネームであると発表されたが,それ以前にはMicrosoft内部で“プロジェクト・ミッドウェイ”と呼ばれていた。日本人としては少し思うところがあるネーミングセンスだが,好意的に見れば「リビングルームを日本企業から取り戻す」という意識を表すためには適した言葉だったのだろう。


インディーズゲームのサポートとオンライン化で成長したゲーム産業


 そうした苦悩の末,20年前に誕生し,リビングルームに進出したXboxだが,この20年で葛藤を繰り広げつつさまざまなマイルストーンを積み上げてきた。それを事細かに書くと本が1冊できてしまうため,割愛させてもらうが,そうした20年の歩みの中でXboxが目指したものは「どのようにしてパソコンをリビングルームに持っていくか」というコンセプトの拡充だったのではないかと筆者は考える。
 Xboxの北米リリースから1年経過した2002年11月(日本では2003年1月)に,Microsoftがローンチしたサービスが「Xbox Live」(現Xbox Network)である。当時は,ドリームキャストがモデムを搭載してオンラインプレイをフィーチャーしており,続いて2001年7月(北米では2002年8月)にはPlayStation 2においてもオンライン機能がスタートしていたというタイミングだ。

 Xbox Liveは,まだそれほど普及していなかったブロードバンド専用であるなど多くのゲーマーの理解を得たわけではなかったが,もともとパソコン市場ではサブスクリプションサービスの「MSN Gaming Zone」を1996年から展開していたMicrosoftだけに安定したサービスとサーバーを提供した。2004年にリリースされた「Halo 2」は,当時としては珍しくマッチメイキングやフレンド登録,そして標準化されたボイスチャットシステムやダウンロードコンテンツ(DLC)といった機能を搭載したことでXbox Liveは人気を博し,結果として2005年にローンチされたXbox 360の大ヒットへとつながっていったのは間違いないだろう。

 また,カジュアルゲームのマーケットプレイスとして「Xbox Live Arcade」というダウンロードサービスが2004年末から始まっていた。これは,それまでPCゲーマーの特権的なものだったオンラインプレイが大衆化していった過程の大きな出来事の1つだし,それによってプラットフォームごとにバラバラだったゲーム市場が,どこか多様性を残しつつも1つの産業としてまとまる要因になったと考えることもできるだろう。

2004年当時の「Xbox Live Arcade」の画像
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 これに反応したのが,アメリカ各地の教育機関で設置され始めていたゲーム科を卒業していた若者を中心にした開発者たちで,インディーズゲーム隆盛の流れが加速されていくことになる。Xbox Live Arcadeで販売されるソフトは,当初は50MBという今から見ればごく小さな容量のゲームのみという規定で配信されていたが,ブロードバンドのメインストリーム化とともに徐々に販売される大容量化していった。
 Xbox Liveのアカウント数も順調に増えていき,2005年の時点でアカウント数は200万人程度だったのが,2007年末には800万,さらに2010年には2500万人まで膨れ上がっていった。

 ライバルプラットフォームもインディーズゲームの需要を感じ取り,各社ともにインディーズゲームのサポートを行うようになる。インディーズゲームのメインとなるプラットフォームは,その時代に合わせた収益性や開発・販売の手軽さ,広報を含めたプラットフォームホルダーのサポートの手厚さなどで頻繁に変化していった。どれだけインディーズ開発者たちに支持されているのかは,人気あるゲームプラットフォームの1つのバロメータになっていったのだ。

筆者は,生粋のパソコンゲーマーだったので,XBLAを利用したのは随分と遅かったと記憶している。その中でも,息子がゲーム雑誌を見ながらプレイしたそうにしていたので購入した2010年の「Toy Soldiers」は良く印象に残っている作品だが,最近「Toy Soldiers HD」として復活したのはうれしい限り
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サブスクリプションサービスとクラウド化で新たな局面へ


 こうしたブロードバンド時代に適合したインディゲーム開発にXboxプラットフォームが大きく寄与したのは間違いないが,数年前からMicrosoftはXbox Series X/Sを見据えた戦略の方針転換を行ってきた。顕著なのは,E3 2018において「Forza Horizon」シリーズのPlayground Gamesと「State of Decay」のUndead LabsといったXboxではお馴染みのメーカーだけでなく,「Hellblade: Senua's Sacrifice」のNinja Theory,「We Happy Few」のCompulsion Games,そしてまだ実績のないThe Initiativeという5つの独立系開発会社の買収をアナウンスしたことだ。
 2020年に「第661回:MicrosoftによるBethesda Softworksの買収を考える」関連記事)でも書いたように,Bethesda Softworksを75億ドル(当時約7800億円)で買収することに成功し,今や,Xbox Game Studiosは世界中に23の開発スタジオを抱える大所帯となった。

 その戦略変更の最大の理由は,2017年6月にXbox Oneでスタートしたサブスクリプションサービスの「Xbox Game Pass」だ。
 サブスクライバーはリリースされたばかりの「Forza Horizon 5」など,ファーストパーティタイトルは全てローンチ初日から楽しめるし,Electronic Artsのタイトルやインディーズメーカーの作品を中心に数百のタイトルがプレイできる。さらにXbox Cloud Gamingによるクラウドゲーミング化により,スマートフォンでもプレイすることも可能になった。
 先週には,多くのゲーマーが期待する「The Elder Scrolls VI」はXboxプラットフォーム専用タイトルになりそうだということが示唆されたが(関連記事),サブスクリプションサービスを常にフレッシュなものにするために,こうしたメーカーの買収による独占タイトルの増強が必要と判断したわけだ。
 2021年1月の時点で,Xbox Game Passのサブスクライバーは1800万アカウントにも達しており,似たようなサービスであるソニー・インタラクティブエンタテインメントの「PlayStation Now」が320万人ほどであることを考えると,Xboxプラットフォームのメインコンテンツと言えるほど成長していることがうかがえる。

MicrosoftによるBethesda Softworksの買収により,一気に20タイトルがXbox Game Passのライブラリー入り。「Starfield」や「The Elder Scrolls VI」などの新作タイトルを発売初日からプレイ可能になるであると考えると,かなり魅力的なサブスクリプションサービスになっている。
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 Xboxプラットフォーム20周年のことを考えると,「時代がMicrosoftに追いついた」というのは言い過ぎにせよ,当初彼らが考えた「リビングルームへの進出」という夢は達せられたばかりか,今ではいつでもどこでもクラウドにアクセスし,Xbox Game Passのライブラリーを自由に楽しめる時代になっている。
 今後20年,PlayStationやNintendoプラットフォームは元より,SteamやEpic Games,NVIDIAなどを柱とするPCゲーム市場のライバルたちと切磋琢磨しながら,どのような方向に向かって進化を遂げていくのだろうか。

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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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