業界動向
Access Accepted第640回:次世代コンシューマ機への期待とインディーズ開発者達の苦境
Xbox Series XとPlayStation 5のスペックが発表され,この冬の発売に向けて世界中のゲーマーのワクワク感が止まらない……と言いたいところだが,北米ではゲームイベントの中止や延期が続いており,先週のGDC 2020もストリーミング配信だけでは盛り上がったとは言い難い。今週は,次世代コンシューマ機の話題と,新型コロナウイルスによる自粛ムードの中,新作発表の機会を奪われたインディーズ開発者達の現状をお伝えしよう。
次第にベールがはがされる次世代コンシューマ機
2020年3月19日に掲載した記事でお伝えしたように,ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下,SIE)が,年内発売を予定している次世代コンシューマ機,「PlayStation 5」の詳細が発表された(関連記事)。それに先立つ3月16日にはMicrosoftが「Xbox Series X」のスペック情報をWebで公開しており(関連記事),対応タイトルなど,これから本格的に始まるはずの情報公開を楽しみにするゲーマーのワクワクは止まらないはずだ。
PlayStation 5とXbox Series Xの2製品には,事前の大方の予想どおり,スペック的にそれほど大きな違いはないように見える。PlayStation 5はローディング時間が短く,Xbox Series Xはフレームレートが高くなりそうだが,普通にプレイしていてハッキリと違いが感じられるほどではないように思える。
Xbox Series Xの特徴として挙げられていたハードウェアによるリアルタイムレイトレーシングや,最大12TFLOPSというCPUの演算性能についても,PlayStation 5でもほぼ肩を並べる数値が発表されていた。
こうなれば,ゲーマーへの大きなアピールポイントになるのは値段と提供されるサービス,そしてエクスクルーシブタイトルやローンチタイトルのラインナップということになるはずだ。PlayStation 4のローンチ時にはSIE(当時はソニー・コンピュータエンタテインメント)がこの点で手際の良さを見せつけたが,対するMicrosoftはここ数年,欧米の優れたインディーズスタジオを取り込み,Microsoft Studiosの傘下メーカーを増やしてきた。
現時点ではMicrosoftが343 Industriesの「Halo Infinite」と,Ninja Theoryの「Senua’s Saga:Hellblade II」という欧米ゲーマーの注目を集めそうなタイトルをすでに発表しており,PlayStation 5では,PlayStation 4向けタイトルに対する高い後方互換性を報告している。ともあれ,双方,年末までにどれくらいのラインナップを揃えられるかが気になるところだ。
あとは,PlayStation 5の形状や両機種の発売日と価格などに全世界の注目が集まことになるだろう。
SIEが配信した,リードシステムアーキテクトであるマーク・サーニー(Mark Cerny)氏による冷静な説明は,「PlayStation VR」を発表したときと同じ雰囲気だ。もともとはGDC 2020で行われる予定だった発表で,開発者やコアゲーマー向けということで華やかさに欠け,内容も非常に専門的だった。
一方のMicrosoftはE3 2020での大々的なアナウンスを予定していただけあり,E3の中止に大きな影響を受けているだろう。
最大の被害者はインディーズ開発者か
さて,本来なら3月16日〜20日,欧米ゲーム業界を大きく盛り上げているはずのGame Developers Conferenceが,アメリカでも新型コロナウイルスが猛威を振るい始めたことを受け,一部の登壇予定者がストリーミング配信でセッションを行う形に変更された。わずか3週間前に中止が決定されたあと,いかなる形であれ開催にこだわったGDCの努力には賞賛を贈りたいが,配信の内容は必ずしも十分とは言えなかった。
普通なら立ち見が出るほどの人気になるホットな内容の講義は少なく,メディアとして読者に伝えるべきものは,さらに少なかったというのが,正直な印象だ。
近くのホテルやイベントホールなどで紹介されるゲームをチェックしたり開発者に話を聞いたり,エキスポフロアを歩いて初めて見るインディーズゲームに触れてみたりなど,いわゆる「足で稼ぐ」取材ができなかったのは,筆者だけでなく,ほかのジャーナリストにとっても残念なことになったと思う。
偶然ながら,本来のGDC開幕日になる3月16日に,サンフランシスコでは市民の外出を原則禁止にする命令が出された。今のところ警察に職務質問されたり罰金を科されたりといったことは起きていないようだが,町には人通りがなくなり,レストランも「配達・ピックアップオンリー」で営業しているところ以外,軒並み閉まっている。アメリカ人が家でじっとしているなど考えられないことだが,こんな状況下でGDCが開催されていたら,それこそ大きな問題になっていただろう。
さらに3月19日には,カリフォルニア州全域に外出禁止令が出ており,この未曾有の状況下,大きな被害を被っているのがインディーズゲームの開発者達だ。3月9日に掲載した記事でも書いたように,GDCは彼らにとって重要な発表の場であり,出展に備え,時間をかけてデモを用意するなどの苦労が,水の泡になってしまったわけだ。
筆者は,新作のインディーズゲームを記事で紹介することも多いが,その記事を見た開発者が,わざわざお礼のメールを送ってきたり,記事にリツイートするというケースによく遭遇する。ただでさえ,「インディカリプス」(IndiesとApocalypseの合成語)と言われるほど新作過剰な昨今,多くのゲームが消費者の目に留まることさえなく消えていくことも少なくはなくなった。筆者の記事を見た開発者達の嬉しそうな表情を思うと,現在の彼らの苦境が気の毒だ。
筆者もできる限り応援したいが,新作を紹介するにしても,時間的,体力的に限界がある。ここはぜひ,航空業界や製造業と同様に公的な支援を与えてほしいと思うし,プラットフォームホルダーには若いデベロッパに発表の機会を与えてほしい。SIEやMicrosoftが今後,どのような形で新ハードの情報発信をするのかは分からないが,対応ソフトのラインナップに少しでも多くのインディーズゲームが並ぶことを期待している。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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