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Access Accepted第636回:ゲームジャムと,アメリカへの入国を拒否されたパキスタンの女性ゲーム開発者
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印刷2020/02/10 00:00

業界動向

Access Accepted第636回:ゲームジャムと,アメリカへの入国を拒否されたパキスタンの女性ゲーム開発者

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第636回:ゲームジャムと,アメリカへの入国を拒否されたパキスタンの女性ゲーム開発者

 学生からプロまで,世界中のゲームクリエイターが参加し,1万作近いゲームを短時間で作り出すイベントGlobal Game Jamが2020年1月末に開催された。ここで大きな話題となったのが,パキスタンの女性開発者達が作った「Trying to Fly」というゲームだ。アメリカの政策とグローバルなゲームカルチャーの狭間に置かれた彼女達の憤りが,コミカルに表現されている。


世界中のゲームクリエイターが腕を競うゲームジャム


 この連載をお読みの皆さんなら,「ゲームジャム」という言葉を耳にしたことがあるはずだ。ずいぶん前の記事になるが,2012年4月9日に掲載した本連載の第341回「開発者の心を支えるゲームジャム」でも詳しく解説したように,その場で主催者から与えられたテーマに沿ったゲームを,「週末の48時間」といったごく短い時間で作るという,ゲームクリエイターの即興バトルのようなイベントだ。

画像集#003のサムネイル/Access Accepted第636回:ゲームジャムと,アメリカへの入国を拒否されたパキスタンの女性ゲーム開発者
 あちらこちらで開催されるゲームジャムの多くは 「競争」や「コンテスト」の形を取らないため,勝者が表彰されたり多額の賞金が与えられたりすることはあまりない(つまりニュース性は高くない)ものの,アマチュアが自分の力を試したり,同好の士とコネクションを作ったりできる場として業界的な人気は高い。プロのゲーム開発者が参加することも少なくなく,何年も大きなプロジェクトの一部分だけに携わっていることでストレスが溜まっていたり,自分のクリエイティビティを見せつけたい人の発散場所としても役立っているようだ。最近は,ゲームメーカーが社内イベントとしてゲームジャムを開催するといった話もよく聞かれるようになった。
 「Goat Simulator」「SUPERHOT」などが,社内のゲームジャムでアイデアが生まれ,やがて製品化されたゲームであることはよく知られている。

 そんな中,世界最大規模のゲームジャムとして認知されているのが,Global Game Jamだ。IGDA(International Game Developers Association/国際ゲーム開発者協会)の呼びかけで2009年に始まり,以降,毎年1回のペースで開かれているイベントで,世界各地に会場が設けられ,同じ日程,同じテーマでゲームが作られる。現在の運営は,専門の非営利組織であるGlobal Game Jam, Inc.が行っている。

 第12回となる2020年のGlobal Game Jamは,「Repair」(修復)をテーマに1月31日から2月2日まで行われた。Microsoft,Sony Interactive Entertainment,Valve,Facebook,Epic Games,そしてUnityといった大企業がスポンサーとなり,初参加のベナン,キプロス,モーリシャスなどを含めた世界118か国の934会場に,総計4万8700人の「ジャマー」が参戦。3人一組のチームで,ゲーム制作にチャレンジした。
 完成したゲームはGlobal Game Jamの公式サイトに掲載されているが,本稿の執筆時点で実に9592作品を数える。日本からは,2010年の第2回大会以来,連続参加中の東京工科大学が今年で11回めのゲーム制作に挑んでおり(関連記事),今のところ日本産のタイトル数は146となっている。Global Game Jamで作られた作品の知的財産権はそれぞれのクリエイターに帰属するものの,多くは無料でダウンロードできるので,興味のある人は公式サイトを調べてみてほしい。

Global Game Jamに参加した東京工科大学の様子(公式YouTubeチャンネルの映像よりキャプチャ)。同大学のゲームとしては,24作品が公開されている
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Global Game Jam公式サイト



招待されたのに,ビザが発給されない!


 第12回Global Game Jamsで生まれた1万作近いゲームのすべてを1つ1つ吟味できるほど余裕がある人はいそうにないが,公開直後に大きく注目された作品がある。それが「Trying to Fly」というゲームだ。パキスタンのゲームデザイナー,ビスマ・ジア(Bisma Zia)さんとプログラマーのアナム・サジッド(Anam Sajid)さん,そしてアーティストのアリ・ハムザ(Ali Hamza)さんUnityで制作した。

IGDAパキスタンの公式ツイッターより。パキスタンのゲーム開発者であるビスマ・ジアさん(左)と,プログラマーのアナム・サジッドさん(右)。2人ともイスラマバードの国立大学でコンピュータサイエンスを専攻し,ジアさんはユーザーインタフェースの専門家,サジッドさんは機械学習のエンジニアだそうだ
画像集#005のサムネイル/Access Accepted第636回:ゲームジャムと,アメリカへの入国を拒否されたパキスタンの女性ゲーム開発者

 ジアさんとサジッドさんは,パキスタンでは珍しい女性ゲーム開発者だが,「Trying to Fly」が話題になったの理由はほかにある。2人は昨年もタッグを組んでGlobal Game Jamに参加し,その将来性を買われてIGDAの招待を受け,今年3月にカリフォルニア州サンフランシスコで開催されるGame Developer Conference 2020に参加することになっていた。しかし,アメリカ大使館から入国ビザの発給を拒否されたというのだ。
 「Trying to Fly」は,その憤りをユーモアを交えてゲーム化したもので,大使館職員とのコミカルなやり取りを描きつつ,中東や西アジアの人達がアメリカ大使館の質問に真面目に答えていくと,ビザの発給が拒否される結果になってしまう。今年のテーマである「修復」とはあまりつながっていない気がするが,つまりは「ビザの申請システム(ひいてはアメリカの政策)を直してほしい」ということなのだろう。ゲーム開発者らしく,ゲームを作ることで,アメリカ政府の対応に一矢報いた形だ。

 ここ数年アメリカでは,パキスタンなど指定国からの移民受け入れ規制を強化しており,また,イランや北朝鮮といった7か国に対しては渡航禁止措置がとられている。ほかの多くの国についても,学生やビジネスパーソンだけでなく,特殊技能者やアスリートでさえ,ビザが取得しにくくなっているようで,2月には,ミャンマーやナイジェリア,スーダンなど6か国からの渡航者に対する受け入れ規制の強化措置も発表された。

「Trying to Fly」は,特定の国の人々がアメリカ政府からビザをもらうことの難しさをテーマにしたゲームだ。「白人(Caucasian)」を選択するといきなりパスしてしまうあたり,かなりカリカチュアライズされてはいるが,ゲーム業界でも歴史ある組織から招待されたのに入国拒否では,怒るのが当然だろう
画像集#006のサムネイル/Access Accepted第636回:ゲームジャムと,アメリカへの入国を拒否されたパキスタンの女性ゲーム開発者

 ゲーム開発やソフト販売といったゲームビジネス,そしてeスポーツなどを含めたゲームカルチャーは非常にグローバルであり,人々の交流によって新たなアイデアやビジネスが生まれてくる。これは,Global Game Jamだけを見ても明らかなことだ。パキスタンの若いゲーム開発者達にとっても,アメリカにとっても有益なはずであり,それだけに,短期の入国さえ認められないという現状には疑問を覚える。
 ゲームやゲームジャムの将来には,ゲーム開発者会議をアメリカで開催していいのかという議論が横たわっているように思えてならない。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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