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奥谷海人のAccess Accepted / 第209回:「QUAKE LIVE」が導く先にあるもの
現地時間の2月24日にオープンβテストが始まった「QUAKE LIVE」は,1999年に発売された「Quake III Arena」のリメイクだ。とはいえ,ただのリメイクではない。けして最新のグラフィックスというわけではないが,かなり本格的な3D FPSをWebブラウザでプレイできる,無料ゲームになっている。いってみれば「ハイエンド・ブラウザゲーム」とも呼べるだろう。QUAKE LIVEを開発したid Softwareの狙いはどのへんにあるのだろうか。
パッと見,一昔前のFPSに思える「QUAKE LIVE」だが,実際に遊んでみると,随所に技術力の高さを感じる。FPSをメジャージャンルに押し上げたid Softwareは,ブラウザゲームでも新時代を切り開くのだろうか
id Softwareが数年にわたって開発してきた「QUAKE LIVE」のオープンβテストが始まっている(公式サイト)。1999年に発売されてヒットしたマルチプレイFPS,「Quake III Arena」をブラウザゲームとしてリメイクしたQUAKE LIVE は,ゲーム内広告による収入で運営されるため,無料で誰でも遊べるところも特徴の一つだ。
スタート当初は,最大で5万人ものプレイヤーが待機状態になるほどの大盛況になり,現在でも夜には1万人以上のプレイヤーが本作を楽しんでいる。かなり順調な船出といえるだろう。
日本でもコアなゲーマーにその名を知られるid Softwareは,1992年に「Wolfenstein 3D」,そして1993年に「DOOM」を発売し,“FPS”というジャンルを開拓したメーカーだ。プログラマーであるJohn Carmack(ジョン・カーマック)氏を中心にした少数精鋭主義の開発者集団であり,グラフィックスや
ネットワーク部分の技術力では常に業界トップを走り続けている。設立以来,常に雇用者数が20人以下という少数精鋭システムを保ってきたが,QUAKE LIVEの開発と運営,さらにはリリース予定の「Rage」の開発のために,一気に100人前後の規模の会社になった。
ただし,クラスベースの対戦モードという,ここ最近のマルチプレイFPSのトレンドには乗り遅れ気味で,熱狂的なファンは以前に比べと減っているともいわれる。カーマック氏は,「FPS市場は,完全にコンシューマ機に移った」とコメントしているが,今回のQuake Liveは,そんな閉塞感の漂うPCゲーム市場を,ブラウザゲームという従来とは違った形で活性化しようとしたタイトルであるという見方もできる。
id SoftwareはFPSというジャンルを世に広めただけでなく,新たなビジネスモデルを打ち出したメーカーとしても知られている。DOOMは,8面までは無料で遊べて,その先を遊びたい人がお金を払うという,当時としては斬新な手法で売り出されたゲームなのだ。
そのため,その頃に発売されたサウンドカードやマウスには,必ずといっていいほどDOOMが付いており,筆者も,何枚同じCDを積み重ねたかわからないほどである。
8面よりも先を遊ぶために料金を払ったゲーマーが何人いたのかははっきりしていないが,「1600万本が出荷され,世界中のPCの5分の1にインストールされた」という伝説を生み出すほどで,無料で配って知名度を高めるという同社の戦略は成功を収めていたと言えるだろう。
QUAKE LIVEを“新作FPS”として見ると時代遅れと言わざるを得ない。だが,PCのスペックに依存しないブラウザゲームだと考えれば画期的だ。現在,QUAKE LIVE はWindowsのInternet Explorer 7.0とFireFoxだけがサポートされているが,今後は,MacやLinux上のブラウザでも遊べるようになるという
QUAKE LIVEは,JAVAを使ったブラウザゲームだが,プレイするには約7MBのプラグインをダウンロードする必要がある。つまり,ブラウザではグラフィックスなどを表示しているだけで,基本的な処理はサーバー側で行われているのだ。
純粋なFPSとして見ると,そのグラフィックスクオリティは最新ゲームの足元にも及ばず,数年前のタイトルを遊んでいるような感じだ。しかし,これまでのブラウザゲームよりもさまざまな点ではるかに洗練されており,id Software製ゲームの特徴ともいえる,スピーディなアクションが楽しめる。
Quake III Arenaではレイルガン一発で相手を倒せたが,QUAKE LIVEでは2発命中させないと倒せないなど,いろいろなバランス調整も行われている。また,プレイヤーのスキルに合わせてマッチングするシステムを用意し,さまざまなレベルのプレイヤーが楽しめるように工夫されている。ベテランゲーマーが遊んでみれば,これが「FPSを知り尽くしたメーカーが作った作品」であることがすぐに分るだろう。40種のアリーナと五つのゲームモードが用意されており,ボリュームも十分だ。
QUAKE LIVE のビジネスモデルは,ゲーム内広告がメインとなる。現在はDELLなどが広告を出しているが,世界的な不況の中,収益を満たせるだけの広告主が見つかるかどうかは不透明である。ゲームのスピードが速いため,プレイヤーが広告を見ている暇があるかどうかも疑問であり,広告主が「効果が低い」と感じてしまうかもしれない。
だが,id SoftwareもQUAKE LIVEにおける収益モデルは,「ゲーム内広告というビジネスモデルが有用であるのかの実験」と位置づけており,別の収益方法を模索してもいるようだ。
Electronic Artsが開発中の「Battlefield Heroes」も無料でプレイできるが,ブラウザで遊べるQUAKE LIVEのほうが間口は圧倒的に広いだろう。もちろん,QUAKE LIVEが成功したのかどうかについての判断はまだできないが,DOOMを強引ともいえる方法で一気に広めたときと同じような雰囲気を感じるのは,筆者だけではないだろう。
DOOMによってFPSが一気に広まったように,QUAKE LIVEのようなブラウザゲームが次々に出てくる可能性もある。id SoftwareはQUAKE LIVE によって,PCゲームの新たな方向性を提示しようとしているのかもしれない。
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