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印刷2008/10/10 12:45

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奥谷海人のAccess Accepted / 第190回:「Star Wars Galaxies」の新人開発者

奥谷海人のAccess Accepted

 「Star Wars Galaxies」は,大きな期待をかけられながら,結果として大成功には至らなかったMMORPGの一つである。3年前にリリースされた大型アップデート,「New Game Enhancements」は失敗の烙印を押され,今年で6年めに入る本作は,もはやゲーマーの話題にもほとんど上がらない状況だ。それにまつわる,一人の新人開発者の人生についても紹介しよう。

「Star Wars Galaxies」の新人開発者
大型アップデートで生じた大きな誤算

 Sony Online Entertainment(以下,SOE)がLucasArtsと提携して制作したMMORPG,「Star Wars Galaxies: An Empire Divided」がリリースされたのは,2003年6月のことだ。ローンチ前はファンフォーラムを中心にコミュニティへのメンバー登録数が,前代未聞の40万人に達するなど,一時は「史上初の100万アカウントも確実」などといわれていたが,蓋を開けてみれば,ピーク時でも30万アカウント程度という結果に終わった。

 スター・ウォーズ ユニバースをベースとした巨大なマップやクリーチャーの相互関係など,世界観においては絶賛された同作だが,ゲームとして未完成な部分が多く,あと半年は開発を続けるべきだったというのが当時の評価だった。「Ultima Online」や「EverQuest」などが全盛期を迎えており,多くのMMORPGプレイヤーから「ゲームが正常に運営されるまでは移行の必要性はない」と思われてしまったことも不振の理由の一つだろう。

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2005年11月1日に投入された拡張パックが,「Star Wars Galaxies: Trials of Obi-Wan」。だが,その2週間後にはゲームシステムを根本から変えてしまうほどのアップデート,「New Game Enhancements」が突然リリースされる。プレイヤーに事前の説明がなかったのは,あらかじめTrials of Obi-Wanを売っておくためだったというウワサも出たほどで,多くのファンが脱退していった

 筆者も,ログイン初日のミッションを他人に横取りされ,どうしても先に進めなくなったため,仕方なく新しいキャラクターでやり直した記憶がある。スター・ウォーズファンとして慣れないMMORPGに初挑戦した人達にとっては,そういう状態で定着しろというほうが無理だったかもしれない。

 しかも,2003年末には「World of Warcraft」がリリースされ,瞬く間に100万アカウントを突破している。これには,SOEの幹部や開発者達も悔しい思いを抱いたに違いない。2004年11月にスペースコンバットの要素を加味した,「Star Wars Galaxies: Jump to Lightspeed」という拡張パック第1弾がリリースされたが,もはやWorld of Warcraft旋風に逆らう力にはなり得なかった。

 鳴り物入りで登場したStar Wars Galaxiesだったが,皮肉にもその崩壊は内部からやってくる。当時のSOE内では開発部隊が複雑化しており,誰が何の責任を負っているのかがよく見えてこないという状況だった。

 2005年11月には,悪名高い「New Game Enhancements」(NGE)がリリースされる。キャラクタークラスが32から9種類へと一気に削減されたり,戦闘がアクションRPG風の速いペースになるといった内容の大型アップデートだったのだが,これらの変更はファンの希望に添ったものではなく,多くのプレイヤーにとって,悪い意味で驚きのアップデートだったのだ。

 しかも,拡張パック第3弾となる「Star Wars Galaxies: Trials of Obi-Wan」が発売されてから2週間も経たない時期のリリースであり,あまりの不評に,SOEは「購入者すべてに払い戻しを保証する」という声明を出さざるを得ないほどにまで発展したのだ。それでもプレイヤーの脱退はとどまるところを知らず,当時発表されていた20万アカウントもたちまち減少。それ以来,アカウント数が発表されることはなくなった。

 

非難の矢面に立たされた不幸な開発者

 少し話は脱線するが,このNGEが発売される数か月前,“Dundee”という名前でコミュニティに知られていた開発者,Jeff Freeman(ジェフ・フリーマン)氏がSOEに入社した。当時,同社でチーフ・クリエイティブ・オフィサーという重職にあった,Raph Koster(ラフ・コスター)氏が自ら選んだ人物だったと,コスター氏のブログには書かれている。

 二人の出会いはユニークで,コスター氏がOrigin Systemsで「Ultima Online」のデザイナーとしてフォーラムに書き込みや返答をしていた時代にまで遡る。パッチが出るたびに変更点や仕様についてさまざまな質問をしてくる人物がおり,コスター氏がどんなに説明しても,納得がいかない限り,しつこく書き込んで来るファンこそがDundeeだったというわけだ。

 ファンに対しマメにアプローチすることで知られていたコスター氏だが,持論をまくし立てるフリーマン氏に手を焼き,それなら自分でMUDなりを作ってみればいいだろうと勧めたところ,なんとUltima Onlineの不法シャードを自主運営するという形でそれに応えたらしいのである。

 もっとも,「強権でPKをも抑止する平和な世界」はほかのファンには受け入れられなかったようだが,それから二人はMMORPGについて熱く語り合うような間柄になった。不法サーバーの運営者と話し合うコスター氏も見上げたものだが,それもこれもフリーマン氏のUltima Onlineに対する熱意に感心してのことだろう。

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フリーマン氏がゲームデザイナーとして所属していたSpacetime Studiosが開発中の「Blackstar」。通常のスペースコンバットにロボットアニメの要素を取り入れたような感じで,陸戦やほかのキャラクターとの交流などもできる。今年はじめにNCsoftからの販売契約を破棄されたが,今はZeniMax Mediaと提携しているようだ

 コスター氏がSOEに移ったことなどもあって,二人の交流はしばらく途絶えるが,その間もフリーマン氏は,某有名MMORPGファンサイトで論客として活躍していた。そしてあるとき,フリーマン氏からEメールで「なんのプロジェクトに関わっているのか」と聞かれたコスター氏が「経歴書を送ってきたら教えてもいい」と返答したのである。フリーマン氏はそのオファーにビックリした様子だったという。

 面接が行われ,実際にフリーマン氏と面会したコスター氏は,それまでの印象と実際の彼とのあまりのギャップに驚いたらしい。フリーマン氏は非常に物静かで人見知りをする性格で,いつもの攻撃的でウィットに富んだ論調はインタビュー中まったく出てこなかったという。彼は典型的なネット論客だったのだ。

 コスター氏はフリーマン氏の採用をほかの幹部に説得し,彼はNGEの開発部隊に採用され,コンバットシステムを担当するデザイナーの一人になった。彼には“リード・ゲームプレイ・デザイナー”という立派な肩書がついていたが,それは駆け出しが担当するポジションの一つでしかなかった。

 実際には,駆け出しのフリーマン氏はほとんど関与することがなかったNGEだが,発売直前に自分のブログに書き込んだ内容から,NGEのプロジェクトを任されていた責任者だとファンに誤解されてしまい,その後執拗なまでのこき下ろしに遭うこととなる。「フリーマンがたった一人でStar Wars Galaxiesをダメにした」とまで非難されたらしい。

 普通なら,こうした問題はディレクターやプロデューサー,あるいはPR担当者に任せるところだが,ネット論客だったフリーマン氏はファンとの対話を選び,やがて,彼一人ではどうすることもできなかったNGEを一人で背負い,2006年末に同社を去るまで,説明と謝罪を繰り返すことになってしまうのだ。

 彼の念頭には,自分がコスター氏と交わしたような建設的な意見のやりとりを,NGEを非難するファンとも交わせるはずだ,という気持ちがあったのかもしれない。

 それから1年半あまりの時間が経ち,ジェフ・フリーマン氏が妻と三人の子供を残したまま自殺したというニュースが2008年9月30日に報道された。

 SOE退社後,Spacetime Studiosが開発するスペースコンバット系のMMORPG,「Blackstar」のデザイナーをしていたが,昔のように自分のブログも頻繁に更新していた。最近ではほとんどゲームに関するエントリーはなかったものの,悪意ある書き込みは今でも続いていたようだ。自殺の理由ははっきりしないが,MMORPGコミュニティの発展に少なからず寄与していた同氏に,心から哀悼の意を表したいと思う。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。最近,奥谷氏の住むカリフォルニアでよく見かけるのが,街角でイチゴやスイカを売る行商の人。先日,奥さんにスイカの購入を頼まれると同時に,「どんなスイカか分からないから半分に切ってもらうように」との追加命令が下された奥谷氏。言われたままに話したところ,売り手も快く半分に割ってくれたのだが,運が悪いことに勢い余って切ったスイカの片方がトラックから転げ落ちてしまったのだとか。気まずい雰囲気の奥谷氏は,さらに悪いことに十分な現金を所持していなかったため,半分の代金を払ってとりあえず残りのスイカを買ったのだとか。そのスイカ,おいしかったのかどうかは,言を左右する奥谷氏であった。

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