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印刷2008/05/16 12:00

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted

 「トゥーム・レイダー」や「DOOM」,そして「Bioshock」など,ゲームが映画のネタになることは少なくない。だが,ゲーム系映画の監督として,本連載で何度も取り上げている人物は,ウーヴェ・ボル(Uwe Boll)監督ただひとり。ボル監督といえば,映画「Postal」の上映がアメリカで迫っているが,公開を拒否する劇場が出たり,ボル監督にゲームをもとにした映画を作らせないための署名活動が始まったりと,かなり追いつめられているようだ。

窮地に立たされたゲーム系映画監督
あのPostalの映画がもうすぐアメリカで劇場公開!
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「オリジナルゲームの評価を落とす」とゲームファンから忌み嫌われるボル監督。だが,Postalに関してはゲームの開発元とウマが合っているようだ。2007年に先行上映されたドイツとオーストリアでは,興行収入が14万ドル(約1400万円)と散々な結果であり,1800万ドル(約18億円)の製作費を,アメリカ公開でどれだけ取り返せるのか疑問だ。もっとも,取り返せなくてもボル監督にはダメージはないようなのだが

 1997年にリリースされ,その暴力的な描写などが話題になったゲーム「Postal」が,映画となって5月23日にアメリカで劇場公開される。この映画版Postalの監督は,ゲーマーの間で悪名が高いウーヴェ・ボル氏だ。以前「第136回: 映画監督達のゲーム業界参戦」でも書いたように,ボル監督は母国ドイツの文化保護政策を利用して,海外の投資家達から資金を集めている。そのため映画の興行が収益をあげなくても,ボル監督の事務所に儲けが出るという,まるで錬金術のような方法で映画を制作し続けているのだ。

 実際,2005年の「Alone in the Dark」は,2000万ドル(約21億円)の製作費ながら820万ドル(約8億6000万円)の興行収入しかあげられなかった。「BloodRayne」(2006年)では若手俳優ミシェル・ロドリゲスを主役に起用して2500万ドル(約26億円)の製作費を投じたものの,興行収入はワールドワイドで365万ドル(約3億8000万円)という具合だ。さらに,7000万ドル(約73億円)という巨費を投じた「In the Name of King: Dungeon Siege」(2008年)にいたっては,投資額の15%ほどに当たる1100万ドル(約11億5000万円)しか回収できていないというありさまだ。ゲームファンは,ベースとなったゲームの世界観をぶち壊したうえに,B級映画から脱しきれないチープな作品しか作らないボル監督に怒り心頭だという。

 そんなボル監督の新作映画「Postal」は,これまでの映画とはちょっと毛色が違う。映画のベースとなる「Postal 2」にもB級臭さがあるためか,ゲームを開発したRunning with Scissorsが,最大限のバックアップをしているのだ。同社社長のVince Desi(ヴィンス・デシ)氏もプロデューサーとして名を連ね,ゲームと同じくチョイ役で映画に登場している。発売を控えている「Postal 3」のプロモーションとしても活用するつもりなのだろう。

 映画は,アメリカ政府とテロリストグループが手を取り合って,大掛かりな保険金詐欺を企むという話で,アリゾナの田舎町を舞台にハチャメチャなアクションが続く。オサマ・ビン・ラディンやジョージ・ブッシュ大統領のそっくりさんが登場し,映画のオープニングに2001年にニューヨークで起きた同時多発テロのパロディシーンがあるなど,アメリカでは笑えないジョークを連発しており,問題になりそうである。実際,上映を拒否する映画館も現われるなど,公開の雲行きさえも怪しくなっている。もっとも,こういったことが話題になること自体,ボル監督とデシ氏のプロモーションに役立ってしまっている気がしないでもないが……。

 

ウーヴェ・ボル監督,
もうゲームの映画を作らないで!

 ボル監督とPostalファンの間では,それほど摩擦はないにせよ,セガのヒット作のイメージを地に落とした2003年の映画「House of the Dead」以来,ゲーマーの評価はすこぶる低い。ついには「ゲームのコミュニティのメンバーとして,これ以上映画を制作/監督しないよう求めます」としたオンライン嘆願書サイト「Stop Dr. Uwe Boll」まで出てきたのだ。

 この嘆願書は,2008年3月末の時点で2万人ほどのオンライン署名を集めたのだが,これを聞きつけたボル監督が噛みついた。オンラインニュース誌Wiredでのインタビューを皮切りに,監督自身が“ボル・へイター”(反ボル派)と呼ぶゲーマーへのビデオメッセージを公開したのである。

 これは,独立系映画作家の広報活動を無料で支援する「MovieSet」というサイトで見られるが,そこでボル監督は「もしPostalの公開までに100万人の署名を集められれば,映画の制作活動から身を引いても良い」と宣言したのだ。しかも「マイケル・ベイのような間抜けと,オレを一緒にしないでくれ。5月23日に公開されるPostalを見たなら,オレがここ10年誰もしていないことを達成していることを理解できるだろう。目を覚まして,オレはこの業界でたった一人の天才だってことに気付いてくれよ」というかなり挑発的なコメントもしている。

 これにゲーマーも触発されたのか,「ボルは最悪だ」「神よ,彼を止めたまえ」などと書き残しながら,現在までに27万人を超える署名が集まっている。果たして,本稿掲載の一週間後に迫ったPostal劇場公開までに100万人分の署名を集められるかは,反ボル派の結束に掛っている。

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メインターゲットであるはずのゲーマーの言葉に耳を貸さず,何本もの名作ゲームを,駄作映画にしてきたボル監督。2006年末には自分に批判的な批評家やブロガーにボクシングの試合を申し込み,彼らを叩きのめす様子をAlone in the DarkのDVD付録にするという暴挙も行っている。当然,自分は何か月も前から練習していたというイカサマで,こうなると嫌われることを広報戦略にしているではないかという気もしてくる

 ちなみに,MovieSetにボル監督は,トレーラーやセット裏のインタビューに加えて,さまざまなビデオメッセージを発信しており,Postalと同時期に公開される「Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull(邦題 インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国)を粉砕する」とか「ボル・へイターはオレがハリウッドに属さないから気に入らないんだ」などと,“ボル語録”を作れるぐらい数多くの暴言を残している。演出っぽさがかなり感じられるのだが,英語が分かる人は直接確かめてほしい。

 2008年4月にHollywood Reporter誌に「もう大きな予算の映画は作らない」と語っているボル監督だが,その一方でBlizzard Entertainmentにアプローチをかけ,「World of Warcraft」の映画制作権の獲得に乗り出していたらしい。もっとも,Blizzard Entertainmentに「映画化権は売りません。少なくともあなたには売りません」と即答されたことがインターネットで暴露され,ゲーマーの笑いものになったという(関連記事)

 Postalの公開後,2009年には映画「Far Cry」のリリースが控えており,こちらはコアなファンも多いことから反ボル運動がさらに過熱しそうな気配である。

 ちなみにボル監督は,ベトナム戦争映画「Tunnel Rats」とホラー映画「Seed」も2009年に公開する予定だが,どちらもオリジナル企画であり,ゲームはベースになっていない。映画化というだけでワクワクしてしまいがちなゲーム業界だったが,ボル監督の映画作りとその結果に懲りて,Blizzard Entertainmentのように映画化権を売らないようになったのかもしれない。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。現在住んでいるサンフランシスコにちょっと嫌気がさしているという奥谷氏。なんでも,サンフランシスコは,アメリカで一番ガソリンの平均小売価格が高いといわれており,学生として移り住んだ頃と比べると4倍近い,4ドル/ガロン(1ガロンは3.8リットル)になっており,車が2台ある奥谷家に重くのしかかっているのだとか。日本では平均小売価格が160円/リットルを超えたので,日本にも住みたくなさそうだ。ちなみに,トルクメニスタンは2セント/リットルらしいですよ。

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