連載
「第162回: GDC 2008に見るゲーム業界の最新トレンド」で,“民主化”ともいえる,ゲーム業界の新しい流れを紹介した。これは,ゲーム開発のハードルを下げ,より多くの人がゲーム開発に参加できるようにするといったものだ。このトレンドの兆しは見え始めており,たった一人でMMOを作る開発者などが,現われている。
自分と仲間が楽しむための“ブティックMMO”
オンラインゲームの面白さは,PvPなどの競争から得られる優越感よりも,仲間と同じ時間を共有し,友情を育んでいくことにある。そんなふうに考えている人も多いのではないだろうか。そんなタイプのプレイヤーには,「Love」がピッタリかもしれない。
Loveは,サーバーに常時接続して楽しむアクションアドベンチャーゲームで,小さな市場を狙って確実に利益を上げる“ブティックMMO”と呼ばれるタイプの作品だ。画面写真を見れば分かるように,独特の雰囲気があり,どことなくカプコンのPlay Station 2用ゲーム「大神」を思わせる。1人称視点のゲームで,村の周囲に生息するモンスターと戦ったり,ほかのプレイヤーと一緒に村をデコレートしたりするのだ。
そんなLoveだが,なんと,スウェーデン在住のEskil Steenburg(エスキル・スティーンバルグ)氏たった一人によって開発されている。Loveには,スティーンバルグ氏が開発したネットワークプロトコル「Verse 2.0」と,グラフィックスエンジン「Quel Solaar」が使われている。Verse 2.0は,別の場所にあるPCで変更したグラフィックスをインターネットを介してほかのPCに瞬時に伝えられるというのが特徴だ。またQuel Solaarは,マップやモンスターなどをすべて,プロシージャル技法によって自動生成できるため,開発者への負担がかなり抑えられるという。Loveが小さな市場をターゲットとしているため,ゲームの規模がそれほど大きくないということもあるが,Quel Solaarの自動生成機能をうまく活用しているからこそ,一人での開発が可能なのだろう。
見た目のユニークさもさることながら,技術やコンセプトもユニークな「Love」は,スウェーデンで開発されているMMO。たった一人で開発されているとは驚きだ。「プロシージャル」(procedual)というのは,「Spore」の発表以来,ゲーム業界のトレンドとなっている
現在公開されている画面写真だけでは,詳しいことまでは分からないが,Loveはオンライン専用ゲームでありながら,Verse 2.0の特性を生かし,地形の変更などを自在に行える。しかもOpenGL 2.0をサポートしており,爆発の炎や煙といった細かい表現もできる。
Loveというタイトルには,“ゲーム仲間への愛情”という意味が込められている。実際には個人プロジェクトとしての性格が濃いために,まだ一般にリリースされるかは未定だ。だがスティーンバルグ氏は,200人ほどのプレイヤーがいれば,サーバーを維持するための経費を得られると試算している。ただ,地形を変えられるフィーチャーなど,注目すべき点があるMMOなだけに,ローンチされれば“たった200人”の参加者では済まないのではないだろうか。
Loveの成功次第で,ブティックMMOは世界中のゲーマーや開発者達の注目を,今以上に集めるようになるだろう。
マップの数がほぼ無限のリズムアクション「Audiosurf」
2月15日にオンライン配信サービス「Steam」でリリースされた「Audiosurf」も,ほぼ一人の手によって開発が行われた作品で,そのコンセプトの面白さからゲーマー達の間で話題になっている。Game Developers Conferenceに付属する形で開催された,第10回Independent Games Festivalのグランプリには,ノミネートされながらも受賞を逃していたが,オーディオ賞と観客賞の2部門を獲得した。
Audiosurfは,リズムベースのパズルアクションを,「F-ZERO」風にアレンジしたゲームで,ゲームのマップを作り出すのは,音楽データだ。曲のデータはプロシージャル技法によって解析され,チューブ型の通路マップが自動生成される。そのため,マップのパターンは音楽の数だけあり,ほぼ無限。ロックだろうがラップだろうが,はたまたシンフォニーや浪曲さえも,マップになってしまうのだ。
2月にリリースされたAudiosurfは,Valveの新サービスSteamworksをサポートし,チャットを楽しんだり,同じ曲でプレイした人のスコアが表示される。Portalのエンディングテーマ「Still Alive」や「The Orange Box」のサントラが使用できるのも筆者としてはうれしい
マップには三つのレーンがあり,リズムに合わせてカラフルなブロック(本作ではcarと呼ばれる)が,画面上部から流れてくる。プレイヤーは,マウスか方向キーを動かして,ブロックに体当たりして,コース手前のマス目にブロックを集めていく。ブロックはレーンごとにランダムに配置され,同じ色のブロックが三つ揃うと消えてポイントが加算される仕組みだ。うまく進めれば,曲とリズムが合うので,好きな音楽を聴きながら,クルージングを楽しむような感覚で遊ぶのが,本作の正しい楽しみ方なのかもしれない。
ちなみに,このAudiosurfは早くからSteamを運営するValveに目を付けられていたようで,2008年にローンチされたSteamのコミュニティ活動をサポートする新サービス「Steamworks」対応ゲーム第1号に選ばれた。アートやサウンドクリップ以外は,コンセプトからプログラムまでを,Dylan Fitterer(ディラン・フィッタラー)氏一人で作り上げたというのだから驚きだ。
最近は,インディ(独立)系ゲームがかつてないほど注目を集め始めている。Game Developers Conferenceで,ゲーム開発者達が選出するGame Developers Choice Awardで2008年のGame of the Yearを獲得した「Portal」も,数人の学生達によるプロジェクトがもとになっている(ちなみに,筆者も2007年12月に「Access Acceptedゲーム大賞」に選出していた)。
前回は,アマチュア開発者達にゲーム業界が門戸を開け始めていると説明した。今回紹介したLoveやAudiosurf,そしてPortalのような作品に大きなスポットライトが当てられていることを考えると,「ゲーム業界の民主化」はすでに具現化し始めているといえるだろう。新しい技術やアイデアがいっぱい詰まったインディゲームは,今後もゲーム業界を賑わせていくはずだ。
|
- この記事のURL:
キーワード