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Logicool Gのヘッドセット開発拠点を大人の社会科見学。「億単位のコストを投じて,本気で試行錯誤」のすごさを目の当たりにしてきた
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印刷2015/09/14 05:00

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Logicool Gのヘッドセット開発拠点を大人の社会科見学。「億単位のコストを投じて,本気で試行錯誤」のすごさを目の当たりにしてきた

G633(左)とG933(右)
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 去る2015年8月27日,Logitech International(日本ではロジクール,以下 Logitech)が,ゲーマー向け製品ブランド「Logitech G」(日本では「Logicool G」)の新作となるヘッドセット「G633 Artemis Spectrum Surround Gaming Headset」(国内製品名:G633 RGB 7.1 サラウンド ゲーミング ヘッドセット,以下 G633)および「G933 Artemis Spectrum Wireless Surround Gaming Headset」(国内製品名:G933 ワイヤレス 7.1 サラウンド ゲーミング ヘッドセット,以下 G933)を発表した。

 製品概要や,プロダクトマネージャーへのインタビューはすでにお伝えしているわけだが,そこでも紹介しているとおり,今回Logitechは,世界中のメディアを,米ワシントン州キャマス市にある,サウンド&オーディオ関連の研究開発部門,通称「Camas Audio Lab.」に集めている。そしてそこでは,半日かけて,施設の中を見学するというプログラムも実施されたのだが,今回はその中から,とくにLogitechの「音質へのこだわり」が感じられた部分に重きを置いてレポートしてみたい。

米オークランド州ポートランド市街から,バスに揺られること約1時間くらいで,ワシントン州の外れにあるCamas Audio Lab.に到着。開発拠点ということもあってか,“ザ・田舎”的な場所にある。低層棟のオフィスなので,一見しただけではそれほど大きく感じないかもしれないが,中はたいへん広い
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Camas Audio Lab.の廊下や階段には,そこかしこにそれっぽい展示があるのだが,これはその一部。アメリカンオフィス全開といったところだ。Ultimate Ears製品の開発も一部行っているためか,「UE ROLL!」(※We Roll!のもじり)なんて書き込みもあった
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徹底した試行錯誤から形を作る――デザインラボ


先の記事でインタビューに応じてくれたDoug Sharp氏(Global Product Marketing Manager Gaming, Logitech International)が,デザインラボを案内してくれた
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 さて,まずはデザインラボからだ。
 デザインラボは,いわゆるプロトタイプの開発現場であり,粘土や発泡スチロール,あるいは3Dプリンターなどを使いながら,試作品を作っていく場所という理解でいい。ヘッドセット/ヘッドフォンの外観のみならず,イヤーパッドやヘッドバンドの装着感,RGBライトの確認まで,ありとあらゆるデザイン作業がここで行われるとのことだ。
 さまざまな耳の形状を模した模型を使用したり,異なる素材でイヤーパッドなどを作成したりする場所でもある。

ラボに展示されていた,さまざまな試作品。G633とG933を作るのに,これだけの試作を行うわけだ
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 ここでは,写真メインでお伝えしたほうが,雰囲気も伝わりやすいだろうということで,以下,写真とキャプションで紹介していきたい。

最初期に近いサンプル。2013年リリースのアナログ接続型ヘッドセット「G230 Stereo Gaming Headset」に,G633&G933におけるキモでもある「Pro-G」ドライバーの試作品が組み込まれたものだ
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「Foam Models」とされる試作品。イヤーカップからヘッドバンドまでのイメージをつかむためのものである
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デザインラボの隣室にある3Dプリンターを使用して,Form Modelsで得られたアイデアをベースに,よりディテールに富んだイヤーカップやヘッドバンドの試作品を作成し,どれがいいか選んでいく
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3Dプリントされたイヤーカップやヘッドバンドを,実際に装着できるようにした試作品。操作ボタンが取り付けられた試作品もあった
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音質にも装着感(≒快適さ)にも大きく影響を与えるイヤーパッド素材の試作品。メッシュ生地から合皮まで,非常にたくさんの素材を試していることが分かる
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Mechanical,日本語でいうところの「機構」の試作一覧だ。マイクブームやヘッドバンドの金属部分以外にも,本機ならではのイヤーカップ収納バッテリーや「着せ替え」可能なタグもこの段階で試作が行われている。G633&G933のマイクブームが伸縮する機構は,ここで採用されたようだ
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パイロット版。スピーカーや機構も組み込まれており,音まで聴ける試作機というイメージでいいだろう。製品版にかなり近づいている印象だ
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最終製品の試作機(左,中央)。量産前の手作業で作り上げられるものだが,仕様は製品版と基本的に同じで,G933ではバッテリーパックも内蔵される。右はLEDイルミネーションの光り方を確認するための半透明モデル
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デザインラボの四隅には,こんな感じで作業スペースや部材・工具入れが並べられている。いかにもハードウェアエンジニリング工房,という手作り感がよい
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Logitechこだわりの巨大無響室――音響ラボ(1)


音響ラボを最初に案内してくれたMatt Green氏(Manager, Acoustic Engineering, Logitech International)。手に持っているのが耳型である
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 見学プログラムで次に訪れたのが,いわゆる音響ラボというか,ヘッドセットの心臓部ともいえるスピーカードライバーやマイクを試作する場所だ。
 ここでは音響関連エンジニアリング担当マネージャーであるMatt Green(マット・グリーン)氏が案内してくれたのだが,印象を一言でまとめると「まあ,なんてお金がかかっていることでしょう」といったところである。
 しかも,ただコストがかかっているだけではなく,ここでは相当に細かな検証がなされている気配だ。Green氏いわく「人間の耳の形状はけっこう異なるので,測定にあたっては,さまざまな形状をした耳の模型を用意している」とのことで,実際に,耳型と,装着して使うための高価な顔模型(ダミーヘッド)も披露されている。

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こちらが,実際に披露された耳型
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ラボの計測器。周波数特性を計測したりするのに使われる
ヘッドセットの音響計測を行うための人間の顔模型。しかも独Neumann製だ。「ダミーヘッドがあると,きっとヘッドセットレビューは捗るよね」という話は,担当編集とよくしているのだが,残念ながら4Gamerでは導入できないくらい高価である
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 だが,この音響ラボの真骨頂は,耳型と,それを利用するためのダミーヘッドではない。筆者や4Gamerには高価すぎて手が出ないダミーヘッドが“はした金”に思えるほどの装置が,このラボにはあったのだ。それが「無響室」である。そう,外部ノイズを遮断し,完璧な計測を行うための,あの無響室だ。

無響室の内部
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無響室は扉からしてこの大きさ
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 Green氏によれば,そのスペックは「70Hz以上で無反響。ノイズレベルは0dB」。2010年から2011年頃に作られたものだという。

 下に写真で示した無響室の入口は建物の2階にあるのだが,部屋はかなり大きく,天井は3階まで,金属製のロープによって編まれた簡易的な床の下では,おそらく1階まで空間が広がっている。そして,その壁面という壁面には,存在感のある,大きな吸音材が貼られていた。
 個人的に,無響室は何度か見たことも入ったことも,利用したこともあるが,ここまで巨大なものを日本で見たことはない。

壁面の吸音材。これほど大きな櫛形吸音材は筆者もほとんど見たことがない。ちなみに,録音用スタジオでは,反射音が完全になくなってしまうと,味気ない音になってしまうため,こんな大がかりなものは使わない。録音用と計測用では,まったく異なる吸音材を使っていることに注意してほしい
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 ところで,無響室とはなんぞやいう話だが,簡単にいえば「外部の音が振動を含め一切入ってこないうえ,内部のノイズレベルが極めて低く,反射音もない部屋」のことである。
 一般的には,「とても静か」と評される部屋でもノイズレベルは30dB前後で,音は必ず壁にぶつかって反響する。Green氏の言う「ノイズレベルは0dBとなっており,音を慣らしても70Hz以上はすべて壁面で吸収され,反射しない」なんて環境は,当たり前だが自然界ではあり得ない。Camas Audio Lab.の無響室は,それほどまでに,音響測定に向いた環境になっているわけだ。

無響室はとにかく天井が高く,当然,そこにも吸音材(左)。そして注目は,“床の下”にも貼り廻らされているところだ。とにかく天井が高い。また,高所恐怖症の筆者には恐怖だったのだが,床は目の粗い金網になっていて,その下に吸音材が見える
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無響室の施工業者は,ケンブリッジにあるECKELという会社だそうだ。パネルには「Acoustic Testing Facilities」と書かれており,この無響室が計測用であることを確認できる
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スピーカー製品の開発に使うマイクも,無響室内には吊されていた。ブランド名は分からなかったが,間違いなく「いいもの」であろう
 ちなみにこの無響室,総工費はざっくり1億2000万円とのこと。Ultimate Earsブランドのカスタムイヤーモニター(=ユーザーの耳に合わせて調整される,カスタムメイドのインナーイヤフォン)を除く自社のサウンド/オーディオ製品のためだけに,この設備を用意できるのが,大企業の強みだろう。

 無響室での計測にあたって,Camas Audio Lab.のチームが細心の注意を払っていることがよく分かるのは,部屋に置かれた計測用のバストアップ模型が,服を着て,首には布を巻いてあるところだ。
 たいていの人間は,ヘッドセットやヘッドフォンを装着するとき,衣服という布をまとっている。そして,布があればその分だけ音は吸収されるわけだが,ここではそれがシミュレートされているわけである。実使用環境における特性を,まじめに取得しようとしていることが窺えよう。

 なお,模型の口にはスピーカーがマウントされており,ここから計測用の波形を再生することで,ヘッドセット用マイクの計測も行えるようになっていた。

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計測に利用されるバストアップ模型は,服を着て,さらに首のところに布を巻いてある。首のところの布も,ここで音が反射しないようにという配慮だ
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口元にはスピーカーがマウントされ,ここから音を再生できる。ご覧のとおり,マイクは口元からだいぶ離れている,シビアな環境だ。一般的な「マイクの前にスピーカーを置いて行う」テストよりも,実際の環境に即している


Pro-Gドライバとマイクの開発現場――音響ラボ(2)


Tracy Wick氏(Senior Acoustic Engineer, Logitech International)。Logitech G/Logicool Gだけでなく,Logitechが扱う,すべてのヘッドセット製品の開発に携わっているそうだ
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 以上,ほぼ完璧な無響室での計測を行いながら作り上げられたG633とG933だが,その最大のキモでもあるスピーカードライバー,Pro-Gの開発に関する技術的な話題は,Camas Audio Lab.で10年以上ものキャリアを持つシニアアコースティックエンジニアのTracy Wick(トレイシー・ウィック)氏が解説してくれた。

 解説にあたって氏はまず,スピーカーエンクロージャとPro-Gドライバーを示した。「これは『音響エンクロージャ』『スピーカーボックス』とでも呼ぶべきものです。サブウーファだと考えてもらってもいいでしょう。スピーカードライバーとマッチするサイズになっていまして,空気孔や,吸音フィルターも設けてあります」とのことだ。

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Wick氏はまず,半透明版のエンクロージャ見本を開けて,左手に,スピーカーボックスを持って見せてくれた。要するに,エンクロージャの中に,スピーカードライバーとマッチするサイズでスピーカーボックスが用意されているという感じだ
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こちらはPro-Gドライバーの埋め込まれたスピーカーエンクロージャ。バスレフポート(※写真手前側にある3つの隙間)と,スピーカードライバーに,吸音フィルターが取り付けられている

 「私達は,従来製品の開発において,あらゆるパラメータをデータ化することに成功しています。それをもとに作り上げたのが(国内未発売の)『G930』で,その完成度に満足していますが,今回,私達はそれ以上を求めました。従来製品で採用していたスピーカードライバーは,そのマグネットのギャップ(gap,磁力によって反発したり引き合う差分)を利用することで,ボイスコイルが磁力を増し,その結果パフォーマンスが向上するという,伝統的なアプローチになっていましたが,G933の開発にあたっては,まずこのドライバーの弱点を洗い出しました。それが,『精密さを欠いている』というものです」(Wick氏)。

G930で採用されていたドライバー(左)とPro-Gドライバー(右)
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 ここでWick氏は,G930用ドライバーとPro-Gドライバーを取り出し,続ける。
 「少し昔話をさせていただくと,スピーカードライバーの開発にあたっては,『1本のマイクが教えてくれること』以上の情報が必要でした。そこでCamas(Audio Lab.)では10年前に,「Klippel」という歪み解析機材を導入しています。この機材は,特殊なオーディオ信号を再生したうえで,レーザーを用いてスピーカーコーンの動きを計測して,計測時点の電圧と位置情報を得るというもので,得られた情報はPC側から解析できるようになっています」。

Klippel(左)と,レーザーを照射する装置(右)
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 氏は解説を続ける。
 「回路の交差するセクションには磁気回路があり,ボイスコイルもあって,これが出入りすることによって音が出ます。そして,動きが大きすぎたり小さすぎたり,“出”と“入”に違いがありすぎたりすると,歪みが生じます。それを計測し,対策することで,歪みを最小化できるというわけです。ボイスコイルの動作がフラットか,出入りがどちらかに偏り過ぎていないかを計測することで,ドライバーを最適化できるようになった,とご理解ください。ここまでが昔話,10年前の話です。
 その後,6年前になって,別の要素もパラメータ化には必要だということが分かりました。そのとき用いた新しい解析システムを,私達は「Ramped Element Parameter Model」と呼んでいまして,その解析結果を,ボイスコイルや機構,ダンピングといった,あらゆる要素の最適化に応用できるようになりました」。

2枚のシートを実際に振って,音を聞かせてくれたWick氏
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 ここで,Wick氏は2枚のシートを取り出した。
 「いまお見せしているシートは,ドライバーの振動板(diaphragm,ダイアフラム)に用いている素材そのものです。左がG930用で,これはよいものでしたが,改善の余地がありました。2枚のシートを振って音を出してみると分かるのですけれども(と言って実際に振り),G930用のものは若干のうるささがあり,これが,音を聞くとき『artificial』(アーティフィシャル,不自然)に聞こえてしまうのです。一方,G633とG933で採用している素材に,そういったうるささはありません。
 先ほど紹介した計測機器にスピーカードライバーを取り付けて,都合3000か所に対してレーザーを照射し,Klippelで振動板の動きを計測します。すると,振動板のどの場所が期待どおりに持ち上がり,どの場所が期待どおりに動かないかを視覚化できるわけです。そして,期待したとおり動いていないということは,そこで歪みが生じているということになります」

 下に示したのは,レーザー照射による振動板の動きを視覚化したものを取り込んだビデオだ。どこに問題があるのか把握しやすくするよう,かなりのスローモーションになっているため,振動板が呼吸をするように上下しているのが分かる。

従来製品で採用されていたスピーカードライバーでは,赤いグラフの19kHz付近が極端に大きく落ち込んでいる
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 これがきちんと上下同じくらいの大きさで振動し,場所による違いが出ないほどよいのだが,なかなかそうはいかないらしい。「従来のドライバーでも,100Hzのオーディオ信号を再生した場合,完璧な,リニアな動きが得られます。600Hzでもまだまだ安定していますが,少し揺れが生じ,動きが非対称になってきます。2.6kHzだと,ボイスコイルのすぐそばに異常が見られ,修正が必要だと分かるでしょう。さらに10kHzになると,もっとひどいことになり,19kHzではほとんど出力がありません。正負の運動の中でマイナス方向の運動が妨げられていて,キャンセリング状態になっているため,周波数特性上この19kHzが大きな谷になってしまいます」(Wick氏)。


G930(左)とG633&G933(右)における振動板の比較
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 「以上のテストで原因を特定できました。磁気構造やコイルを最適化するモーターはすでに有していますが,このデータがあれば,一部が空気に触れる振動板も最適化できます。
 というわけで,Pro-Gドライバーの動きを見てみますと,100Hzは完璧で,600Hzも完璧。2.6kHzは,先ほどよりは滑らかな反応になっています。よりクリーンで,歪みの少ないサウンドになるわけですね。このデータの意味するところは,よりディテールに富んだ,クリーンで,仮にインターネットラジオのような『きれいではない音』があるなら,それをそのまま再生する忠実さ(fidelity)を体感できるということです。
 10kHzはよくないですが,従来製品と比べると,よりコントロールされています。共振がより抑えられていますね。19kHzも,先程よりずっとコントロールされているのが分かります」(Wick氏)。

 以上が,Wick氏による「パフォーマンス計測マトリックス」の説明だ。エンジニアによる,相当に専門的な説明なので,100%理解するのは難しいかもしれないが,並大抵の作業ではないことは分かってもらえるのではなかろうか。

G633&G933のマイクは,G930で採用されたものと同じとのこと。黒い部分はゴムパッキン(rubber gasket)で,振動を抑える役割を担っているという。写真で左に見えるのがマイクのカバーだ
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 さて,マイクである。
 G633とG933のマイクそれ自体は,G930から変わっていないという。ただし,目で見て分かる違いとして,「口のそばまで届かせたかった」(Wick氏)という理由から,G633とG933では,マイクブームが引き伸ばせるタイプに変わっている。
 また,Wick氏は,G930のマイクを開発したときに,一般的な電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor,FET。マイク内部でコンデンサのエネルギーを電気に変える部品)では十分な音質を獲得できないことが分かったという話をしていた。「そこでG930から,オーディオ用マイクのプリアンプを使うことにしました。もちろん相当なコストアップになりますが,パフォーマンス面での利点はより顕著です。歪みは少なく,よりリニア。バックグラウンドのノイズを減らしながら,ボイスをしっかり集音してくれます」。

 見てのとおり,G930から引き続いての採用となるマイクはシングル仕様だが,プロジェクトにおいては2マイクを使ってのノイズキャンセリングやビームフォーミングも検討されたそうだ。
 「しかし,最も音がいいのは,指向性のシングルマイクでした。そもそも,録音スタジオでボイスや楽器の音を収録するときに使うのは指向性のシングルマイクです。これは,指向性のシングルマイクが最も純粋に高い音質を実現できるからで,そしてそれこそが,私達の開発におけるゴールでもあります」(Wick氏)。

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 ちなみに,音響ラボにおける見学の最後のタイミングで,Wick氏は,スピーカーやマイクは自前で作っているわけではないが,今回紹介されたような機材を用いてデザインを行っており,10年以上にわたってカスタムメイドを貫いていると語っていた。要するに,約10年かそれより少し前のタイミングでWick氏が入社し,その後,Logitech側でデザインして,サプライヤーに指示を出して製品を製造するという方針に切り替えたということなのだろう。
 10年前はまだコイルやマグネットといった機構レベルの改良が関の山だったのが,6年前くらいから異なる振動板素材の計測を行えるようになり,さらに4〜5年前には無響室も用意し,さらにここ数年で計測環境の見直しも行うことで,現在ではスピーカードライバーの挙動をモニタリングして修正できるレベルにまで到達しているというのが,氏による説明の要旨ということになる。Pro-Gドライバーは,現時点におけるCamas Audio Lab.の到達点,というわけだ。

 多くのオーディオ機器メーカーが,品質の善し悪しの判断にあたって,1人の“オーディオマスター”的な人物の耳に頼っているなか,Logitechは,非常に論理的かつ第三者的判断を行いながら,製品開発を行っているというのは,Logitech G/Logicool Gのタグライン(≒キャッチコピー)である「Game with Passion, Win with Science」の後半を,まさに体現していると言っていいのではなかろうか。


DTS Headphone:X体験〜Logitech Signature Studio


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 続いては,Camas Audio Lab.の誇る「Logitech Signature Studio」こと「MOS Room」である。今回の見学では,DTSのエンジニアがオペレーションを担当し,G633と,Logitech Signature Studioに置かれたモニタースピーカーを使用したデモが行われた。
 ちなみにこのMOS Roomは,できあがったサウンド製品を使って実際にゲームをプレイして,音響特性などに問題がないかどうかをチェックするためのリファレンスルームになっているとのことで,既報のとおり,G633とG933でサポートされる「DTS Headphone:X」では,このスタジオのルームプロファイルを選択可能になっている。

Logitech Signature Studio(MOS Room)の内部
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 さて,デモでは,据え置きのデモスピーカーで7.1chのマルチチャネルサラウンドサウンド信号を再生。その後,G633を装着して同じ信号を再生して,定位が変わらないことを確認するというものになっていた。
 筆者は幸い,「スイートスポット」と呼ばれる,7.1chシステムのど真ん中を陣取れたので,定位感は良好だったのだが,同行していた担当編集はその隣で,「リアチャネルが今一つ」とこぼしていた。まあ,これは考えてみれば当然の話で,スピーカーを用いたリアルな7.1chシステムでもスイートスポットがずれると一気に定位感は崩れてしまう。
 後で尋ねたところ,今回用意されたルームプロファイルは特別版で,着座位置ごとに収録を行った,別々のものが設定されていたとのこと。なので,筆者と担当編集とで聞こえ方が異なるというのも,「プロファイルが異なる以上,同じ聞こえ方になるわけがない」という意味で,納得できる話ではあった。

DTSのデモ操作担当者
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 デモはその後,3DゲームとDTSデモムービーの2つをG633を装着してDTS Headphone:Xを体験するというデモが続いて終了したのだが,とにかく出来不出来の違いが激しいDTS Headphone:X市場にあって,筆者が試した中ではトップクラスの完成度であった点は報告しておきたい。
 ただ,「リアルスピーカーとG633をこの2つのデモでも試聴させてくれ」というリクエストに対しては「システム上,準備できていないので,今回は物理的に無理」という回答だったのが残念だった。DTS Headphone:Xの詳細な試聴印象は,後日掲載予定の製品レビューを待ってもらえればと思う。


G933のワイヤレス試験〜電波試験ラボ


G933本体の基板
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 見学プログラム,最後の訪問先は電波試験施設だ。ここではLogitech製のワイヤレスデバイスでお馴染みとなっている2.4GHz帯の無線接続試験が行われているのだが,下に示したのは,電波暗室(=干渉電波の存在しない環境)における無線接続試験設備だそうだ。
 無響室の超小型版のような,電波を通さない壁面に囲まれた箱の中に首像が配置され,これにヘッドセットが取り付けられている。うまく撮影できなかったので申し訳ないが,箱は右奥にワイヤレスレシーバー兼トランスミッタが用意されており,首像がぐるぐる回転して,さまざまな角度で,問題のない無線接続を行えるかがチェックされることとなる。

直方体に近い大きな箱の中(左)でモニタリングを行い,無線接続に問題がないか,確認する。壁面に張られているのは,音波ではなく電波を遮断する素材である。右は,箱の向かって右奥を撮影したもの。うまく撮れていないが,十字状をしたところの中央部にワイヤレスレシーバー兼トランスミッタがある
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筆者はワイヤレス技術の専門家ではないのだが,左のグラフでは中央が2.4GHzで,これだけ強ければよいようだ。右はワイヤレスでの接続状況を視覚化したもの。これでヘッドセットの位置が変わることにより変化する通信状況が把握できる
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 続いては,干渉電波を発生させ,電波干渉によるパフォーマンスの低下がないかどうかをチェックする部屋だ。ここでは,先のテストをパスした機器をより過酷な環境でテストするということのようである。

これまた大きな部屋だが,無響室ではない。ここでも壁面に貼られているのは電波を遮断する素材である。ちなみにこちらの総工費はざっくり6000万円ほど
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PCと無線接続されたG933がダミーヘッドに装着されていた(左)。右は,何かの武器に見えるが,部屋の片隅に立てられた干渉電波発生機を下から見上げたところだ。これで電波干渉を起こし,その状況でもヘッドセットのパフォーマンスが落ちないかどうかチェックすることになる
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 最後は電圧試験の部屋。ここは普通の小さな――といってもざっと12畳以上はあったが――部屋であった。

電圧など耐久試験を行う部屋(左)。ここでは,担当者が実際に行う耐電圧試験を実演してくれた。本体に過電圧を与えたり,USB端子に過電圧を与えたりして耐久試験を行う
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見学を終えて


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 「これだけの開発環境が揃っていて,そこでしっかり開発して,いいものができあがったら,そりゃあイベントを開催して見せびらかしたくもなるよなあ」というのが正直な感想だが(笑),記事っぽく表現するなら,「Logitech G/Logicool Gは他社以上に音質や耐久性に注意を払っています。そのためにこれだけの設備を導入しています。部品もカスタムオーダーです」というアピールを行うために,今回,ラボ公開に踏み切ったのであろう。エンドユーザーに対して,自分達の真摯な態度をきちんとした形で伝えたかったのだと思われ,そしてその狙いは成功しているように思う。また,本稿のほかに,世界中で掲載されるであろうレポート記事を見た競合他社は,脅威を感じるはずだ。

 個人的に一番驚いたのは,音響ラボを見学しているときに,Wick氏が「マイクのFETが気に入らないから,オーディオ用プリアンプを採用した」と述べていたところ。「コストが上がっちゃうんだけど,その分,音がいいんだよね」と,いたずらっ子のような笑顔で,しかし平然と言ってのけていたことには,Logitechという企業の底知れなさを感じた。普通は,そこでコストを切り詰めるのが,周辺機器メーカーのやり方だ。コストを切り詰めながら,それでもなんとか高い性能を実現しようというのが,開発担当者の腕の見せ所なのだが,そんな“常識”を完全無視のうえ,「だっていい音がしないから」という理由で,部品を設計してカスタムオーダーし,オーディオグレードのマイクプリアンプを採用してしまうというのは,他社からすれば,うらやましい限りだろう。

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 ビジネス的な話をすれば,世界市場でそれだけたくさん売れる(=さばける)ことを予測できるからこそ可能な,まさにグローバル企業であることのメリットを最大限に活かした戦略ではあるわけだが,役員レベルはいざ知らず,Sharp氏やWick氏をはじめとするエンジニア達を見ていて,「えぐいグローバル企業」という感じが,少なくともキャマスのオフィスからはしないのも印象的だった(※というか,役員が「典型的なグローバル企業幹部」だったら,あの無響室は許可しないはずだ)。オーディオのノウハウを持つ猛者が,田舎に集まって,ああでもない,こうでもないと試行錯誤しながら,少しずつよい製品を作り上げていっている感じと表現したら,通じるだろうか。
 Logitech/ロジクールといえば,押しも押されもせぬ,ナンバーワンのPC周辺機器メーカーであり,いろいろ完成されているイメージだったが,Camas Audio Lab.を見る限りは,むしろ真価が発揮されるのはまだまだこれからのように思う。

 8月28日のレポートでもお伝えしているとおり,G633とG933は,基本的な音質も,DTS Headphone:Xの出来映えも,かなり高いレベルにある。Logitch G/Logicool Gのブランドが立ち上がった頃に流通していたヘッドセットと比べると,機能的にも音質的にもかなり進化しているというのが,ファーストインプレッション時点での評価だ。レビューはこれからだが,ここから評価を大きく落とすことはないと思うので,気になっている人は国内発売を期待していいように思う。
 それに対してスピーカーは……というのが今後の課題かもしれないが,ヘッドセット開発にここまで気合いもコストも投下して,「音質こそがトッププライオリティ」とまで言い切っているのだから,こちらも今後に期待したい。

Logicool Gのサウンド関連製品情報ページ

Logicool G,部屋の広さを表現できるゲーマー向けヘッドセット「G633」「G933」を発表。オリジナルドライバー搭載で10月以降に発売

Logicool Gのプロダクトマネージャーに聞く,新型ヘッドセット「G633」「G933」の音づくり

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    Logitech G/Logicool G

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