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「横浜GGプロジェクト」記者発表会レポート。地域に根ざしたeスポーツの活性化と選手のセカンドキャリア支援,雇用創出に取り組む
業種の異なる3社が協力し,横浜のeスポーツを活性化する
プロeスポーツチームのVARRELと,パソコン販売のPCデポ,そして京浜急行電鉄がパートナーシップを締結し,eスポーツの普及推進と地域経済の活性化,新たな雇用創出,そしてeスポーツ選手が引退した後のセカンドキャリア支援に取り組んでいく。これが「横浜GG(GoodGame)プロジェクト」だ。
当面の活動内容としては,まずVARRELが2023年6月からeスポーツイベントを開催し,PCデポは2023年8月よりeスポーツスクールを開設し,そして京浜急行電鉄はスポーツを核としたまちづくりをeスポーツを絡めて行っていくという。
●「横浜GGプロジェクト」3社連携協定を通じた主な活動内容
・駅構内等を活用したeスポーツ複合拠点開設(ゲーミング拠点,教室,デジタルライフサポートなど)
・地域交流拠点を活用した高齢者向け体験会の開催,eスポーツ学童施設などの開業
・高齢者,障がい者を含む雇用の創出
・部活動支援を通じた市場拡大,優秀な選手の発掘育成
・地域セミナーの共同開催 (eスポーツとの正しい向き合い方など)
・eスポーツを活用した引きこもり支援事業
・eスポーツを活用した地域コミュニティの拡充
・選手や選手を目指す若者向けゲーミングハウス(シェアハウス)の設置
・選手のセカンドキャリア支援
・プラットフォーム参画企業の拡充
・横濱ゲートタワーに開設予定のeスポーツ拠点,スクールを活用した活性化企画の実施
・京急沿線eスポーツ大会(カップ戦,リーグ戦)の共同開催,沿線広域連携
この日の記者発表会にはVARREL 代表取締役社長の鈴木文雄氏,ピーシーデポコーポレーション 代表取締役社長執行役員である野島隆久氏,京浜急行電鉄 取締役社長の川俣幸宏氏の三社代表が登壇。eスポーツチーム,PC販売,鉄道会社というそれぞれの立場から,「横浜GG(GoodGame)プロジェクト」への取り組みや展望を語った。
近年は相応に認知度を高めているeスポーツだが,さらなる発展のために,「引退後に選手時代の経験を生かして活躍できるセカンドキャリア,雇用創出,地域貢献が求められる」と鈴木氏は語る。まずは2023年6月10日からeスポーツイベント「VARREL ZONE」を月1回のペースで開催し,ゆくゆくはeスポーツ大会のパブリックビューイングを定期的に行っていく予定だという。
「VARREL ZONE」の定期開催によって横浜にコアなeスポーツ関連人口を増やしていき,高齢者や引きこもりへの支援を行うほか,「全国高校eスポーツ選手権」に出場する横浜のeスポーツ部にコーチングし,横浜による全国制覇を目指していきたいと意欲を示した。
野島氏のピーシーデポコーポレーションでは,2023年8月からeスポーツを学べるスクールを開設する(野島氏曰く,月会費制による短期プログラムで,卒業証書が授与されるようなものではないとのこと)。eスポーツの普及に努めるのはもちろんのこと,将来的には,同社が進める「デジタルパイロット構想」にも会員の才能を生かしていきたいと考えているという。
デジタルパイロット構想は,野島氏によれば人材不足やデジタル格差,サイバーリスクといった社会課題を「デジタルパイロット」が解決していくものであるという。野島氏は「稼ぐ社会課題解決」をポリシーとして掲げており,既に「デジタルライフプランナー」サービスを展開している。これは家庭や地域内でのデジタル格差を無くすため,デジタルライフプランナーが,デジタル環境を整備するコンサルティングや機器の操作レクチャーなど,家庭に密着したサービスを行うという活動だ。
デジタルパイロット構想も,こうした取り組みの延長線上にあるものと思われる。デジタルパイロットを,社会的使命を自覚した上で就く職業とし,eスポーツ選手のセカンドキャリア形成も含め,「子どもたちが夢ある仕事ができるようにしたい」と野島氏は展望を語った。
そして,京浜急行電鉄の川俣氏が掲げるのは,eスポーツによる自社沿線地域の価値創生だ。鉄道会社がeスポーツに協力するというのは珍しい例だが,地域の特性を生かした街作りを進める上で,若い層から人気があるeスポーツに可能性を感じたと川俣氏は語る。
これまでにも京浜急行電鉄ではスポーツを核とした街作りを進めており,ANAウインドサーフィンワールドカップ横須賀・三浦大会や,久里浜にある横浜F・マリノスの新練習場などのサポートを行ってきたが,こうした取り組みをeスポーツにも広げていくという。
既に京急沿線には,横浜のVARREL,川崎のSCARZ,横須賀のBC SWELLといったように,地域に根ざした活動を標榜するeスポーツチームが存在している。この状況を踏まえて京急沿線を「eスポーツ集積地」と位置づけ,中韓など海外から横浜への人の流れもサポート。沿線各駅においてハード的な支援を行うことで,eスポーツチームが地域住民と馴染んでいく助力もしていきたいとコメントした。
連携する2社に期待したいこととして鈴木氏は,ピーシーデポコーポレーションに「所属選手のセカンドキャリアとして,デジタルライフプランナーやデジタルパイロットなど,選手卒業後の環境を作ってほしい」,京浜急行電鉄には「沿線チームのつながりやコラボ大会の開催などを通し,横浜におけるeスポーツの起爆剤となってほしい」とリクエスト。また,野島氏は「(eスポーツスクールを)デジタルを用いて人の役に立つという理念を取り入れたものとしたい」,川俣氏は「大会のサポートや告知に,高架下や駅構内など,自社が持っている媒体を使っていきたい」と,今回のパートナーシップにおける展望を熱く語った。
記者発表会の後には,鈴木氏,野島氏,川俣氏に,横浜F・マリノス eスポーツ代表 eスポーツ事業課の武田裕迪氏,eスポーツチームBC SWELLを率いる,BC SWELL 代表取締役の管野辰彦氏を加えてのパネルディスカッションも行われた。
BC SWELLは2023年5月から横須賀市の「eスポーツパートナー制度」に参画(参考),高校生のeスポーツスキル向上やキャリア形成を支援していく。選手たちは横須賀市のゲーミングハウスで共同生活を行い,地域との交流も行っている。また,チーム名を「横須賀 BC SWELL」として市のイメージアップを図っていくという。
2018年にサッカーの横浜F・マリノスがeスポーツに参入した際は大きな話題となったが,武田氏によれば「マリノスが“公器”を目指して30年間培ってきたものが,eスポーツでも生かせるのではないか。そして,eスポーツもスポーツとして人々に寄与するものがあり,その伸び代も大きいはず」という考えをもって,eスポーツ活動を進めているという。
ピーシーデポコーポレーションの参画について川俣氏は「(自社の)会員の中には子供がゲームに熱中していることを不安視する人もいるが,ゲームは道具であり,どう使うかを親御さんに普及させなければならない」という思いがあったのだという。そしてデジタルパイロット構想については,「ゲームに熱中したということは素養を身につけたということであるから,eスポーツ選手にセカンドキャリアがないのはもったいない。問題は人間力を育てながら熱中させることであり,これは我々がするべき努力。子供たちに選手とデジタルパイロットの道を示せるのであれば,今はゲームに熱中しなさい,と言っても良いだろう」とセカンドキャリアとしてのデジタルパイロット構想の可能性を語った。
また,今後の活動について,川俣氏は「京急杯を掲げるエリア対抗大会」,鈴木氏から「eスポーツ選手の1日駅長」,武田氏より 「リアル桃鉄」など,さまざまなアイデアが飛び出した。武田氏は個人的な思いつきであると前置きした上で「リアル桃鉄」をプレゼン。“サイコロを振って京急沿線を巡り,物件買収の代わりに現地名物を食べたりすれば,急行が止まらない駅の良さも伝えられるのではないか”とユニークかつ京急線の現状を踏まえたアイデアで会場を盛り上げた。
また,武田氏は「大きいハコ(会場)は横浜にたくさんあるが,まずは小規模でも“聖地”を作れるといいのではないか。そうした中で(京浜急行電鉄が持つ)高架下というのは良い発信源になるのでは。黄金町はまちづくりで高架下がアートのイメージとなった。どこかの高架下や沿線を,いつも誰かがやり合っているゲーセン文化の令和版とできれば,そこから高い熱量を発していけるのではないか」と,地域に根ざした形でeスポーツを発信することへの可能性を語った。
eスポーツも選手のセカンドキャリアや,これを軸としたまちづくりを意識したフェーズに入ったということで,状況の変化をまざまざと感じた「横浜GGプロジェクト」。今後の展開に注目したい。
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