2023年1月31日,東京・AP日本橋にて,
“ウェルプレイド・ライゼスト eスポーツビジネスセミナー&商談会――全て見せます,eスポーツの活用事例”が行われた。本稿では同イベント内で行われた講演,
“eスポーツ×地域創生まちづくり”で語られた内容をレポートする。
“eスポーツ×地域創生まちづくり”の講演に登壇したのは,南海電気鉄道株式会社(南海電鉄)の執行役員で,2022年に同社で新設された,eスポーツ事業部の部長を務める
和田真治氏。講演では主に南海電鉄がeスポーツ事業に参入した理由や経緯と,南海電鉄を中心に現在大阪で広がりを見せている,eスポーツにまつわる取り組み,今後の展望などが語られた。
和田真治氏。南海電鉄の執行役員としてイノベーション創造室新規事業部に在籍しつつ,創設されたばかりのeスポーツ事業の部長も務める
 |
南海電鉄がeスポーツ事業に参入したのは,現在南海グループ全体で2022年度から2024年度にかけて中期的なスパンで取り組んでいる事業計画,
“共創140計画”の影響が大きいという。同事業では新規事業への進出,将来的に核となり得る事業をステークスホルダーとともにまさしく“共創”することが重要視されており,そのひとつとしてeスポーツという産業は適しているのでは……という考えからeスポーツに関心が集まり,社内にeスポーツ事業部が誕生。そこに大阪,なんばのまちづくりなどで新規事業の開拓に知見と経験があった和田氏が部長に選ばれ,本格的な活動がスタートした。
南海電鉄のeスポーツ事業参入のきっかけになった,共創140計画
 |
 |
和田氏は現部署に所属する前に在籍していた“グレーターなんば創造室”で大阪・なんばのまちづくりに携わっていた経験から,今後日本の新しい文化になり得るeスポーツが,お笑い,映画,スケートボード&ブレイクダンスといった,文化の発信地として機能してきたなんばとは親和性が高いのではと推察。また,戦後まもない時期に球場の建設やプロ野球への参画,ボーイズリーグの創設など,野球を文化として日本に根付かせた一翼を担ったという自負と実績があったことが,
「令和(で近いことをやる)ならeスポーツだろうな」と,和田氏の中では高い納得感を感じたという。
文化の発信地としてのなんばに着目。アメ村,日本橋にはすでにeスポーツに関連する施設が個々に展開されているという
 |
スポーツを根づかせるための投資は「南海のDNA」と話す和田氏。プロ野球球団(南海ホークス)は手放して久しいが,ボーイズリーグの本部は南海電鉄のビル内に居を構えている
 |
和田氏は将来的にはなんば駅周辺の再編に合わせて,なんばをeスポーツの聖地にしたいという意気込みも表明した
 |
南海電鉄がeスポーツ事業に参入した経緯がひと通り語られると,講演の話題はここ数年の間に大阪周辺で行われた,eスポーツに関連する施策が紹介された。
南海電鉄がまず最初に目に見える形でeスポーツに関わったのは,2021年。同年の7月18日に開業したなんばスカイオに南海電鉄の直営施設,eスタジアムなんば Powerd by NANKAIがオープンした。eスポーツを楽しむメインストリームではなく,
「街の公園みたいな,子どもと親が安心できる空間」をコンセプトに掲げ,既存のeスポーツ施設とは違った独自性を出した展開から南海電鉄のeスポーツ事業は始まった。
eスタジアムなんば Powerd by NANKAI
 |
コロナウィルス関連の規制が緩和されつつある2023年は,海外からの来客やZ世代が南海電鉄に興味を持つタッチポイントして機能することも期待しているとのこと
 |
 |
eスタジアムなんば Powerd by NANKAIで行われたイベントの一例。学生向けの大会や子供や親向けの体験会,有識者を招いてのフォーラムなど,幅広い取り組みが行われた
 |
 |
 |
 |
eスタジアムなんばでの取り組みで“熱”を感じた和田氏は,「検討しているだけではしかたない」と,社内決議でeスポーツへの本格参入を取り付け,2022年に他社や行政に対して大々的にアピール。その結果,南海電鉄が中心に開催していた関西eスポーツ学生選手権には,第4回目にして80近い企業や団体が協賛や後援に名を連ねるまでに成長した。さらになんば以外の地域,泉佐野市や岐阜県などにも,eスタジアムが開業するまでに至った。
eスタジアムの増店,協賛企業の広がりなど,一気に飛躍を見せた南海電鉄を中心とした大阪のeスポーツ事業
 |
 |
岐阜でのeスタジアム開業,佐賀県の学校への機材提供といった,関西圏を飛び出しての活動もスタートしている
 |
 |
2023年に入ってからはプロチーム,ENTER FORCE.36とオフシャルパートナーシップも締結。南海電鉄としてはあくまでeスポーツの裾野の拡大に軸足を置きつつも,大阪からeスポーツのスターが誕生することでの盛り上がりにも期待をかけている
 |
和田氏は2022年,とくに印象に残ったイベントとして,8月に泉佐野市,ウェルプレイド・ライゼストと共に開催した,高校生を対象にしたeスポーツキャンプを挙げた。このeスポーツキャンプで和田氏は,まったく接点のなかった高校生の子たちが4日間のキャンプを経て仲を深めていく姿を見たり,参加した高校生の保護者から感謝の声が届いたことから,改めてeスポーツの力を実感したという。
関連記事
大阪府泉佐野市が「eスポーツ先進都市・泉佐野市」の確立を目指す施策を発表した。関西国際空港からアクセスできるりんくうタウンを中心とした,eスポーツを推進するための3つの取り組みを2024年までに実施するという。本稿では記者発表会の模様をお届けする。
[2022/08/26 17:43]
南海電鉄,泉佐野市,ウェルプレイド・ライゼストの3社によって開催されたeスポーツキャンプ。しかし和田氏は決して安くはない参加費(税込5万9400円)を子供のためにと捻出した「親御さんの協力あってこそ」と,保護者への感謝を強く述べた
 |
 |
泉佐野市はeスポーツキャンプのみならず,積極的にeスポーツを活用した施策を打っている
 |
講演の最後に和田氏は今後の南海電鉄のeスポーツ事業のキーワードとして「プレイヤーファースト」「コミュニティファースト」を挙げ,eスポーツの正しい理解を世間一般に広め,文化として成長,成熟させていくのが,南海電鉄がeスポーツ事業でやりたいことと強調。そのうえでeスポーツが文化として日本に定着した時,「最初から(eスポーツ事業を)やってた南海に何かご褒美があったらいいな。いやらしい話ですけど(笑)」とオチ(?)をつけつつ,講演を締めくくった。
「将来どうなるかわからんことをやれる(投資できる)のが南海の存在意義。だからこそeスポーツ事業をしっかりがんばりたい」と力強く語る和田氏
 |
なお,本公演の模様は,ウェルプレイド・ライゼストのYouTubeチャンネルでアーカイブを視聴することが可能。詳細を知りたい人は,
こちらを参照してほしい。