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インディーズゲーム開発とAIは相性が良い。「AIは貧者のツール 〜ゲーム開発支援AIの今と未来。インディーゲームとの相性〜」聴講レポート
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印刷2021/09/03 15:33

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インディーズゲーム開発とAIは相性が良い。「AIは貧者のツール 〜ゲーム開発支援AIの今と未来。インディーゲームとの相性〜」聴講レポート

 日本インディペンデント・ゲーム協会は2021年9月2日と3日,インディーズゲームイベント BitSummit THE 8th BITを開催している。
 本稿では,9月3日に配信された「AIは貧者のツール 〜ゲーム開発支援AIの今と未来。インディーゲームとの相性〜」の模様をお伝えする。このセッションでは,ゲームAIを専門に扱うモリカトロンの代表取締役 / モリカトロンAI研究所 所長 森川幸人氏が,ゲームに使われる数々のAIや,ゲーム開発支援AIとインディーズゲーム開発との相性などを紹介した。

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森川幸人氏
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 セッションの前半では,ゲームAI──すなわちゲームで使われる数々のAIが紹介された。
 そもそもAIとは1956年のダートマス会議で初めて公の場に出た概念であり,昨今は多くのAIアルゴリズムが存在する。例えば,よく耳にする強化学習は実のところ,大きなカテゴリーの1つに過ぎず,さらに数十種類に細分化されるとのこと。森川氏は「今や数え切れないほどのAIアルゴリズムがある」と表現した。

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 このようにAIアルゴリズムが乱立している理由について,クルマに例えると「用途によって適切な車種がある」ことと同じだという。つまり,何でもかんでもディープラーニングを使えばいいのではなく,それぞれに長所短所があるので,使う場面によって適切なAIを選ぶ必要があるとのことだ。

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 ゲームAIの代表的なものが「キャラクターAI」である。これはキャラクターが自分の状態と周囲の情報を認識し,それらを総合して最適な行動を判断し決定するというもの。
 また,強化学習型のキャラクターAIであれば,それらの判断がうまくいけば次回以降に活かし,うまくいかなければ反省するといったように学習する。森川氏によると,モリカトロンではこうしたAIを人間に勝つためのものではなく,人間を楽しませるためのものとして研究しているそうだ。

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モリカトロンが開発した,強化学習型のキャラクターAI
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 ゲームAIには「パラメータ最適化」用のものもある。これはゲーム開発支援に使うもので,ゲームに追加するキャラクターやアイテムのパラメータを最適化するときに活用される。昨今のゲームは敵・味方のキャラクターが多く,武器や防具も種類が豊富だ。それぞれには多数のパラメータが設定されているので,その組み合わせをどうするのかが大きな課題となる。
 とくにスマートフォンゲームのように,短いスパンで次々に新しいキャラクターやアイテムを投入する場合,過去に実装されたものと比較してどうなのか,あるいはバランスブレイカーになる可能性はないかを速やかにチェックしなければならない。そこですべてのデータをそろえて,AIに順列・組み合わせ的にチェックさせ,バランス調整に要する時間の短縮を図るわけだ。

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 「会話の自動生成」をするゲームAIは,プレイヤーとの会話(チャット)から意味や状況を理解して,回答メッセージを自動的に生成する。森川氏によると,ゲーム業界ではNPCの会話を自然なものにしたいというニーズが多く,それに合わせた研究が進められているという。

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モリカトロンが開発したチャットボット
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 「背景の自動生成」をするゲームAIは,主にオープンワールドなどの広大なフィールドを持つゲームの開発に使われている。「ここは草原,ここは森,ここは湖,遠景には山岳地帯……」といったように大まかな指定をすれば,AIが草木や岩などを適切に配置していく。
 また,このAIはゲーム内のステージやパズル画面の設計,レベルデザインの調整などにも使われるとのこと。

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モリカトロンのAIパズルジェネレーター。難度などの条件を設定すると,それに合わせたパズル画面が自動的に作成される
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 「メタAI」は,プレイヤーの腕前に合わせてリアルタイムにゲームバランスを調整する。例えば,同じところで何度も敵に倒されているプレイヤーに対しては,敵の出現頻度を下げたり,逆に悠々と道中を進んでいくプレイヤーには敵の出現頻度を上げたりといった,プレイヤーに応じて適度な緊張感を与えられるようにバランスを変えていく。

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 「QAデバッグAI」はその名のとおり,テスターに代わってゲームのテストプレイをするAIである。今回のセッションでは一例として,プレイヤーの行動パターンを学習させて,同じようなことを繰り返させる「模倣学習」のQAデバッグAIが紹介された。例えば,一定の確率でアイテムがドロップするようなケースにおいて,本当にその確率になっているかを検証するときに,こうしたAIが使われるという。

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 「コリジョンチェック」を行うゲームAIも存在する。これは「この壁を抜けて,外に出てしまっては困る」といった場所で,キャラクターを延々と歩き回らせてチェックするというもの。

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 こうしたゲームAIの学習方法も紹介された。キャラクターAIの紹介で少し触れているが,基本的には膨大な教師データを事前学習したAIが,人間が出すリクエストに応じて結果を出す。それを人間が評価して,OKであれば成功体験として学習する,逆にダメ出しをされたら失敗体験として学習するといったサイクルで精度を高めていく。
 森川氏はAIについて「実用化が始まったばかりの技術」とし,「一緒に進化していきたい」と語っていた。

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ゲームAIの分類や得手不得手
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 話題はセッションのテーマである「AIは貧者のツール」に移った。“貧者”という言葉にはネガティブな印象があるが,今回はそういう意味では使っていないという。
 森川氏は「そもそもゲーム開発費はほとんど人件費」であるとし,「人件費は人月単価×開発人数×開発期間で算出できる」と説明。このうち,人月単価を減らすわけにはいかないが,開発人数を減らせば,単純に人件費(=開発費)を下げることができる。すなわち,開発スタッフのやっていることをAIに任せてしまえばいいのである。

 AIに任せるといいのは「たくさん作らないといけない仕事」「正確でないといけない仕事」「単純で退屈しそうな仕事」「何度も同じことをしないといけない仕事」など。なかでも,森川氏は「思いもよらなかったことが起こってほしい仕事」を挙げ,「人間では思いつかないアイデアを,AIが思いつく可能性がある。この部分をゲーム作りに活かせると,どんどん深みが増すと捉えている」と語った。

 また,AIはインディーズゲーム開発にも向いているとのこと。インディーズゲームは小規模チームや個人で開発することが多く,スタッフ1人あたりがさまざまな職種を兼任しなければならない。そこでAIが得意とする作業を任せられれば,各スタッフの負担が減り,人間しかできない部分のクリエイティブに専念できるというわけだ。

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 AAAゲームにはメインとなる要素のほかにも,たくさんの“遊び”の用意する必要がある。その点,極論を言えば,インディーズゲームは1つの優れたアイデアがあれば成立する。AIにさまざまな作業を任せることができれば,そのアイデアをブラッシュアップする時間がそれだけ増えることになる。

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 さらに,森川氏はクリエイターを「まったく新しいものを自分で作り出すタイプ」と「先人の作ったものを模倣し,それらの要素を組み合わせてデザインするタイプ」に分類する。後者のやり方について,AIが得意していることにほかならないことから「今はまだ人間のほうがうまくやれるが,ゆくゆくはAIに任せたほうがいい仕事になっていく」と持論を示した。

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チャットボットやボイスアバターなどのAI技術を使ってゲームを拡張することや,AIを使ったゲーム実況,推理ゲームの制作などの可能性も指摘された
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 最後に,森川氏はあらためて「インディーズゲームは1アイデアでゲームを成立させることが可能で,ゲームAIは1アイデア向きのツールである」「AIを使えばコストを抑えられる」「面倒な仕事はAIに任せて,クリエイティブに専念できる」ことを強調し,「AIはインディーズゲームの味方だ!」と述べてセッションを締めくくった。

「BitSummit THE 8th BIT」公式サイト

Steamの「BitSummit THE 8th BIT」特設ページ

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