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Intel「SSD 660p」を試す。QLC NAND採用のNVMeモデルはゲーマーの選択肢になり得るのか
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印刷2018/11/17 00:00

レビュー

QLC NAND採用のNVMeモデルはゲーマーの選択肢になり得るのか

Intel SSD 660p(SSDPEKNW010T8X1)

Text by 米田 聡


 SSDの容量あたり単価は割と順調に下がっているが,それを加速させることが期待されている技術がQLC(Quad-Level Cell)のNAND型フラッシュメモリだ。2018年9月には他社に先駆けてIntelがQLC採用のSSD製品「SSD 660p」を発表し,10月にはMicron Technologyが「Crucial P1 NVMe」でそれに続くなど,今後,採用例が増えそうな気配がある。

SSD 660p
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 TLC(Triple-Level Cell)がそうであったように,今後,QLCのNAND型フラッシュメモリが当たり前のようにSSD製品で採用される可能性は高いと思われるが,ではQLCでSSDの性能はどの程度を期待できるのか。今回4GamerではSSD 660pの容量1TBモデル(型番:SSDPEKNW010T8X1)を独自に入手できたので,テスト結果をお届けしたい。


QLC NAND型フラッシュメモリの採用でSSDの低価格化を担うSSD 660p


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 2018年秋のSSD市場では,一部のハイエンドモデルでメモリセル(Memory Cell。メモリチップ内にある,実際にデータを書き込んだり読み出したりする場所)あたり2個のビット情報を記録する2bit MLC(Multi Level Cell)を採用する一方,ハイクラス以下ではメモリセルあたり3個のビット情報を記録するTLC(Triple Level Cell)を採用するのが一般的となっている。

 かつてはメモリセルあたり1個のビット情報を記録するSLC(Single Level Cell)採用モデルもあったが,今日(こんにち)では企業向けのごく一部に採用例があるのみで,一般向けはほぼ存在しない。NAND型フラッシュメモリはセルあたりに記憶するビット数が少ないほど耐久性や書き込み速度が高くなるのだが,コストが高くつき,またそれゆえに大容量を実現しづらくなる。

 一方,メモリセルあたりに記憶できる容量が増えれば増えるほど容量あたりの製造コストが下がり,NAND型フラッシュメモリチップが大容量化し,結果としてSSD製品あたりの容量も増える。だからこそSSD市場ではSLCから2bit MLC,TLCといった具合にSSDの採用するNAND型フラッシュメモリのメモリセルあたりビット容量が増えてきたのだ。価格と容量という,エンドユーザーの関心事に応える格好でSSDは進化してきたと言ってもいいだろう。
 そして今回登場してきた「Quad」Level Cell,すなわちメモリセルあたり4つのビット情報を書き込めるNAND型フラッシュメモリは,そんな価格と容量の需要に対する新たな回答の1つということになる。

Intelが公開しているSSD 660p関連資料より(関連リンク)。左端のSLCだとセルあたり2値(1bit)だが,2bit MLCでは4値(2bit),TLCでは8値(4bit)となり,QLCでは16値(4bit)とセルあたりに記憶するビット数が増えている。QLCはTLCに対してチップあたり2倍の容量が実現できる理屈だ
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 冒頭で述べたように,QLC採用のSSDで先陣を切ったのはIntelだ。日本市場で9月中旬に店頭へ並んだSSD 660pは,論理インタフェースとしてNVM Express(以下,NVMe),物理インタフェースとしてPCI Express(以下PCIe)x4を採用するM.2接続型SSDだが,注目すべきはその実勢価格だ。ラインナップは3モデルなのだが,11月16日現在における税込実勢価格は以下のとおり。ざっくりまとめると,「TLC NAND型フラッシュメモリを採用するエントリークラスのNVMe/PCIe x4接続型M.2 SSDと比べて7〜8割程度」といった値段であり,劇的なインパクトこそ欠くものの,従来と比べて確実に安価だとは言える。

  • 容量2TBモデル(型番 SSDPEKNW020T8X1):5万600〜5万1000円程度
  • 容量1TBモデル(型番 SSDPEKNW010T8X1):2万4500〜2万4700円程度
  • 容量512GBモデル(型番 SSDPEKNW512G8XT):1万2000〜1万3000円程度

 そのスペックは表1にまとめたとおりだ。SSDコントローラの型番は未公開だが,Intelは台湾Silicon MotionとSSDコントローラで提携しており,実際,SSD 660pでもSilicon Motion製のコントローラを搭載することまでは判明している。
 DRAMキャッシュは搭載しているのだが,容量はカタログに記載がないため分からない。

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QLC Technologyに関するペーパーより(※リンクをクリックするとpdfファイルのダウンロードが始まります)
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 そんなSSD 660pだが,Intelが公開しているペーパーによると,SSD 660pでは64層の3D NAND型フラッシュメモリを採用しつつ,その性能を最大化するための技術「QLC Technology」(※「QLC NAND Technology」という表記も見られる)を導入しているという。

 QLCの性能を最大化する技術は,「NAND型フラッシュメモリの一部をSLCとして使い,当該“SLC領域”とQLCの領域を使い分けることで性能向上を図る」というものだ。要は,Samsung Electronicsの「Turbo Write」などと同じような仕組みで,キャッシュの一種と考えていいだろう。
 Intelによれば,SSD全体の空き容量に応じ,SLCとして使う領域の容量を増減させられるのがQLC Technologyの特徴とのことである。しがたって,空き容量は多ければ多いほど高い性能が得られるという理解でいいはずだ。

SSD ToolboxでSSD Optimizerを開いたところ。SSDの「内部キャッシュ」をクリアできる
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 ちなみに,Intel製のSSD用ユーティリティ「Solid-State Drive Toolbox」(以下,SSD Toolbox)の最新版(※11月中旬の時点でバージョン3.5.7)をSSD 660p環境にインストールし,「SSD Optimizer」をクリックすると「パフォーマンスを向上させるには、SSDの内部キャッシュをクリアします」(※原文ママ)とあり,[実行]ボタンを押せるようになっていた。

 SSD Toolboxのリリースノートやマニュアルによると,この項目があるのはSSD 660pのみらしい。実際,手元にあるSSD 600p搭載環境だと表示されなかった。
 はっきりとした言及は見当たらなかったが,おそらく,ここで言う「キャッシュ」はSLC領域のことで,SLC領域に蓄積された未フラッシュのデータをQLCに書き戻してSLC領域をクリアにし,性能を初期化することがSSD Toolboxから行えるということなのではないかと思う。

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 ここで少し「そもそも」の話をしておくと,NAND型フラッシュメモリは絶縁膜で隔離されたゲート――浮遊ゲートとチャージトラップという2種類の方法があるが,どちらも似たようなもの――に電荷を注入すること記録を行っている。
 SLCの場合は電荷のあるなしで1bitととてもシンプルなのに対し,2bit MLCやTLC,QLCではフラッシュメモリ内部の回路がメモリセルごとの電荷量を判断して1つのメモリセルへ多値を記録できるようにしているのが特徴だ。

 メモリセルに多値を記録するNANDメモリは書き込みがとくに遅くなる。理由は大きく2つあるのだが,1つは,メモリセルに対する書き込みをチップの内部で複数回行う点にある。電荷を注入するためにチップ内部の回路がゲートにパルスを与え,さらにゲートの電荷量が正しく注入されたかを確かめ,さらにパルスを与え……といった動作をチップ内部で繰り返し,2bit MLCの場合なら2bitの,TLCなら3bit分の多値が正しく区別できる電荷に調節するといったことをチップ内部で行うことになる。
 2bit MLC,そしてTLCといった具合に「セルに記憶するビット数」が増えるほど,書き込みパルスの回数を増やす必要があるので,書き込みに時間がかかる。QLCでどのような書き込み方法を使っているのかはメーカーがまだ詳細に明らかにしていないので不明ながら,TLCよりパルスの回数が多くなることはまず間違いないだろう。

 ただ,先の表1をあらためて見てもらうと分かるように,SSD 660pのカタログスペックだと逐次書き込み性能は容量2TBモデルと1TBモデルで1800MB/s,容量512GBモデルでも1000MB/sある。NVMe/PCIe x4接続型M.2 SSDとして高速とは決して言えないものの,少なくともSerial ATA(以下,SATA)6Gbpsの最大500MB/s台と比べればNVMe/PCIe x4接続型らしい速度を謳えている。これはQLC Technologyのおかげだろう。


SSD 660pの製品寿命はTLC採用SSD比で約3分の1


 もう1つ,QLC NAND型フラッシュメモリで注意しておかねばならないのは耐久性である。
 NAND型フラッシュメモリにおける浮遊ゲートやチャージトラップの絶縁膜は,電荷を再注入する(≒書き換える)たびに少しずつ劣化する。絶縁膜が劣化すると電荷が抜けてしまうので,最終的には“寿命”を迎えて記憶できなくなり,当該NAND型フラッシュメモリを搭載するSSDが「壊れる」ことになるのだ。

 SLCならば絶縁膜に多少の劣化が生じても電荷の有無だけを判断すればいいので問題が起きにくいのだが,2bit MLCとTLC,QLCでは,メモリセルあたりのビット数が増えるにつれ,わずかな劣化でも正しい値が読み取れなくなってエラーが生じてしまいやすくなる。
 さらに,前述したとおりメモリセルあたりのビット数が増えるほど書き込み時のパルスの回数が増えるので,絶縁膜の劣化も早い。平たく言えば「耐久性が低くなる」のである。

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 以上を踏まえて前出の表1をもう一度見てもらうと,「SSDが製品寿命までに書き込めるデータの総容量」を示すTBW(Total Bytes Written)は,容量1TBモデルで200 TBWとなっている。TLC NAND型フラッシュメモリを採用する容量1TBモデルだと,たとえばIntelの「SSD 760p」であれば576 TBW,Samsung Electronicsの「SSD 970 EVO」なら600 TBWと,中上位モデルでおおむね600 TBW前後なのだが,乱暴に計算してしまえば,SSD 660pの耐久性はTLC NAND型フラッシュメモリ採用モデルと比べて約3分の1ということになるわけだ。

 この点については,2とおりの考え方ができる。
 まず安心できるほうからいくと,容量1TBモデルなら「1日あたり20GBのデータを書き込んでも27年使える」(※200 TBW÷0.02 TB÷365 日)。製品の保証年限である5年からすれば十分だろう。
 一方,不安を煽る書き方をするなら,「ストレージ全体を200回書き換えたら壊れる」わけである。その場合は「たった200回か!」と不安になるかもしれない。

 いま挙げた2つの考え方はどちらも真だが,どちらかといえば前者のほうがより現実的だ。というのは,TLC世代以降ではストレージ全体でNAND型フラッシュメモリの書き換え回数を均一化する技術「スタティックウェアレベリング」(Static Wear Leveling)が当たり前のように採用されており,「カタログどおりの寿命が得られない」ということがまずなくなっているからだ。

 初期のSSDだと,書き換えが起きるデータを中心に書き換え頻度の均一化を行う「ダイナミックウェアレベリング」(Dynamic Wear Leveling)の採用が一般的だたった。この方法だとコントローラの処理の負荷が小さいという利点がある一方,空き容量が少なくなってくると一部のメモリセルにおいて書き換え回数が急激に増えて壊れ,カタログどおりの寿命が得られない現象,俗に言う「SSDの突然死」が起きがちだった。

 対するスタティックウェアレベリングでは,「書き換えの生じていないデータ」が格納されているメモリセルの書き換え回数も考慮しながらSSD全体でデータの再配置を行うことで,書き換え回数の均一化を図るようになっている。そのため,空き容量が少なくなっても,特定のメモリセルが壊れるといったことは生じにくい。
 スタティックウェアレベリングは処理負荷が高く,SSDの性能に対してはマイナスになるが,各社ともSSDコントローラの高性能化を図り,TLCのような耐久性が低いNAND型フラッシュメモリに対応してきた経緯がある。

 何が言いたいかというと,QLC NAND型フラッシュメモリを採用するSSD 660pにおいても,カタログどおりのTBWが得られると考えて構わないということだ。
 もちろん,「TLCと比べてQLCでは寿命が約3分の1」というのは揺るがないところなので,そこは押さえておく必要がある。たとえば,大きなファイルサイズの動画を編集するときに「編集作業用SSD」としてSSD 660pを選ぶのはお勧めできないというか,もっとはっきり言うと,選ぶべきではない。だが,ゲームのインストール先として使うなら,1日あたりの書き換え容量は知れているので,とくに問題なく使っていけるだろう。


上位モデル,そして競合の定番モデルとSSD 660pを比較


 以上,カタログスペックから推測できる内容の紹介が長くなったが,ここからは容量1TBモデルの実機を見ていこう。
 というわけで下に示したは基板両面の写真だ。一見,何の変哲もないM.2 Type 2280フォークファクタのSSDである。チップを搭載しているのはシールの貼ってある側のみなのも分かる。

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製品情報などの記載があるシールの下にDRAMがあるのだが,かろうじて型番を推測できるレベルの情報が見てとれた
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 銀色に光るのがSSDコントローラで,その近くにあるのがキャッシュ用と思しきDRAMチップだ。シールの下にある型番は「NT5CC128M16IP-DI」のように見えるが,そうなのであればNanya Technology製で2Gbit品(容量256MB)ということになるはずである(関連記事)。
 搭載するNAND型フラッシュメモリは2枚構成。空きパターンは2つあるので,「2枚で容量1TB,4枚で容量2TB」という,TLCでよく見られる構成を踏襲していることになる。

 そんなSSD 660p容量1TBモデルの性能を,いつものベンチマークテストで調べていきたい。
 具体的には,一般的なストレージテスト「CrystalDiskMark」(Version 6.0.1)と,I/O性能を測る「Iometer」(Version 1.1.0),そして「PCMark 8」(Version 2.10.901)のテストで,24時間以上にわたってストレージへ負荷をかけ続ける「Expanded Storage」を実行することになる。

SSD 970 EVO(容量1TBモデル)
メーカー:Samsung Electronics
問い合わせ先:サムスン SSD サポートセンター 050-3116-3031(平日9:00〜17:00)
税込実勢価格:3万4800〜3万8000円程度(※2018年11月16日現在)
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 比較対象として今回は,同じIntel製でTLCの3D NANDメモリを採用する上位モデルとなるSSD 760pの容量1TBモデル(型番 SSDPEKKW010T8X1,以下SSD 760p)を独自に用意し,また定番モデルとしてSamsung Electronics製となるSSD 970 EVOの容量1TBモデル(型番 MZ-V7E1T0B/IT,以下SSD 970 EVO)を,Samsung Electronicsの販売代理店であるITGマーケティングの協力で用意した。
 それ以外のテスト環境は表2のとおりとなる。

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CrystalDiskMarkではマルチスレッド環境下において芳しくない結果に


 まずは定番のストレージベンチマークであるCrystalDiskMarkからスコアをチェックしていこう。4GamerではCrystalDiskMarkを「テスト回数9回,テストサイズ8GiB」という設定で5回連続実行し,その平均をスコアとして採用している。

 グラフ1はQueue Depth(以下,QD)=32,Thread数(以下,T)=1という条件における逐次アクセスのテスト結果をまとめたものだ。最大32のコマンドを先送りして逐次アクセスを行うので,対象ストレージの逐次アクセス性能の最大値に近い値が得られる。

 そんなテストにおいて,SSD 660pは逐次読み出しで1900MB/sとカタログ値超えを果たしつつ,逐次書き込みでは1800MB/s弱でおおむねカタログ値どおりというスコアを出した。
 面白いのは,逐次書き込みにおいて上位モデルであるSSD 760pの容量1TBモデルより良好な結果を残しているところで,「これはQLC Technologyのおかげ」と言いたいところだが,SSD 760pでも同じような仕組みを採用している可能性が高い。というのも,もしSSD 760pが同種の技術を採用していないのだとすればここまで高いスコアが得られるわけがないからだ。

 なので,「QLC Technologyがあるかないか」だけでこの結果を生んだと考えるのは早計だ。もしかすると,TLCモデルであるSSD 760pよりもQLCモデルとなるSSD 660pのほうがSLCキャッシュ領域は大きいとか,QLCの処理用にSSD 760pよりも高性能なコントローラを搭載しているとか,そういう可能性はあるだろう。

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 ちなみに,今回もストップウォッチを使ってCrystalDiskMarkを約8分おきに実行している。CrystalDiskMarkは実行に7分ほどかかるのでインターバルは1分程度取っているわけだ。SSD製品によっては実行回数が増えるごとに逐次性能が落ちていく挙動を示すこともあるが,SSD 660pを含め,今回テストした3製品でそういう挙動は見られなかった。

 総合的に見ると,さすがにSSD 970 EVOのスコアが圧倒的だ。SSD 970 EVOは価格も1〜2ランク上なので,価格なりの違いが出ているとも言える。

 続いてグラフ2はQD=8,T=8という条件で実行したランダムアクセスの結果をまとめたものだ。「マルチスレッド環境におけるランダムアクセス性能を見るテスト」として,CrystalDiskMarkのバージョン6世代で新設となったテストの結果となる。
 そんなテストにおけるSSD 660pはランダム読み出しでSSD 760p比約67%,ランダム書き込みで約78%のスコアに留まった。SSD 970 EVOと比べると順に約39%,約50%で見るも無惨だ。複数のスレッドからランダムアクセスを行うとQLCのオーバーヘッドが顕在化してしまう可能性を感じさせる結果であり,マルチコアCPUが一般化している昨今のPC事情からすると気になるスコアだとも言える。

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 続いてはQD=32,T=1という条件で実行したランダムアクセスの結果をグラフ3でチェックしてみよう。

 ここでは最大32コマンドの先送りを行うという,従来型のランダムアクセステストを行うが,ご覧のとおりSSD 660pは優秀なスコアを示した。読み出し,書き込みともSSD 970 EVOより上なのだから,見事と言うほかない。
 前述のとおり,QLCではNAND型フラッシュメモリ内部におけるデータ再処理配置負荷は相応に高いはずだが,最大32個のコマンドをストレージに先送りしてストレージ側で適切な順にコマンドを並び替えることができるQ=32の条件だと内部の負荷が表面化しづらくなるということはありそうな気配だ。

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 グラフ4はQD=1,T=1というという条件で実行したランダムアクセスの結果である。コマンドキューを使わず,しかもT=1なので,ストレージのアクセス遅延が効いてくるテストである。

 ここにおいてSSD 660pのスコはまずまずといったところで,読み出し,書き込みともSSD 760pには一歩及ばない一方,SSD 970 EVOに対しては読み出しでリードで約128%,書き込みでも約97%のスコアを示している。QLCなので本来ならアクセス遅延も大きくなるはずだが,おそらくはQLC Technologyがそれをうまくカバーしているのだろう。

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 以上,SSD 660pはCrystalDiskMarkにおいてまずまずの結果を出していると言えるが,QD=8,T=8という条件で露骨に低いスコアを示すのはやはり気になるところだ。「複数スレッドからのディスクアクセス」は最近だと珍しくないだけに,この性能が低いのは気がかりである。


I/O性能はさほど高くないSSD 660p


 続いてはIometerの結果を見ていこう。Iometerは設定したアクセスパターンを使ってストレージに高い負荷をかけることによって性能を測るベンチマークで,ストレージのI/O性能を確認することができる。
 4GamerのSSDテストにおいては,読み出しと書き込みを混在させたアクセスパターンを使用し,1時間の連続アクセスを行った総合スコアIOPS(I/O Per Second)値をスコアとして採用している。また,同時にIometerスタート直後1分間のIOPS値と終了時1分間のIOPS値も比較する。激しいディスクアクセスを1時間続けることによりIOPSがどのくらい変化するのかが分かるからだ。

テストサイズを4GiB(=8388608セクタ),コマンドキューを32に設定し4KiB単位のランダムリードライトを1時間連続実行させるテストを実施した
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 結果はグラフ5のとおりとなる。
 まずは総合スコアからだが,SSD 660pは比較対象に遠く及ばない。SSD 760p比で約34%,SSD 970 EVO比で約19%だ。よってSSD 660pは,データベース処理のような,ストレージI/Oが主体となるようなアプリケーション用途では選ぶべき製品ではないと断言できるだろう。

 一方,1時間の連続アクセスによる性能低下に着目すると,SSD 660pでは終了直前1分間のIOPS値が開始直後1分間のIOPS値と比べて約93%と,まずまず踏ん張っているように見える。ただ,もともとのスコアが低いので,「それ以上は大して下がる余地がなかった」だけかもしれない。

 なお,性能低下はSSD 760pにおいて最も大きく,終了直前1分間のIOPSや開始時のそれと比べて約68%に留まる。連続アクセスには弱いSSDのようだ。

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実アプリ準拠のテストとなるPCMark 8ではかなり悲惨な結果に


 最後はPCMarkのExpanded Storageテストだ。Expanded Storageについては「HyperX Savage Solid-State Drive」のレビュー記事で詳しく説明しているので,基礎的なところから把握したい人はそちらも参照してもらえればと思う。

 簡単におさらいしておくと,Expanded Storageは「Consistency test v2」と「Adaptivity test」という2つのテストからなる。そして,Consistency test v2は,以下に挙げる3フェーズで構成される。

  • Degradation pass(劣化フェーズ):テスト対象のストレージに大量のランダムデータを書き込み,SSD内部においてデータの再配置が起こりやすい状況を作ったうえで,さらにランダムデータの量を毎回増やしながら合計8回のストレージテストを行い「再配置が多発している状況での性能低下」を調べる
  • Steady state pass(安定化フェーズ):一定量のランダムデータを書き込んだうえでストレージテストを5回実行し,劣化の度合いが最大になった状態での性能を調べる
  • Recovery phase(修復フェーズ):適切なインターバルを置きつつストレージテストを5回実行し「性能が低下した状態からどの程度回復するか」を調べる

 テスト全体を通じた話をすると,一般的にはDegradation passで徐々に性能が劣化していき,Steady state passで性能の劣化が最大となって,Recovery phaseで性能が回復するというパターンを示す。そのため,劣化の度合いと性能の回復の度合いから,SSDに高い負荷をかけ続けたときの性能や快適さを測ることができるわけだ。

 一方のAdaptivity testでは,上のRecovery phaseに相当するテストを10回繰り返し,ストレージにとって性能を発揮しやすい環境にしてから,PCMark 8のストレージテスト結果を求めるものになっている。ベストケースにおけるスコアを見るものという理解でいい。

 というわけで,SSDにかなりの負荷をかけるConsistency test v2から見ていきたい。グラフ6はConsistency test v2におけるStorage testの合計18回の平均帯域幅変化をプロットしたものになる。
 SSD 660pは出だしのDegradation pass 1こそSSD 760pを上回るスコアを示す一方,Degradation pass 2からSteady state pass 5にかけては110MB/s〜136MB/sと低空飛行を続けた。そして興味深いのが,Steady state passをも下回る,95MB/sという最小の平均帯域幅をRecovery phase 1で記録している点だ。

 Steady state pass 5とRecovery phase 1の間には5分間のインターバルが挟まるが,ほとんどのSSDはSteady state pass 5までに蓄積された内部の再配置処理をその時間内に終えるようになっている。実際,SSD 760pは584MB/sに,またSSD 970 EVOは619MB/sにまでRecovery phase 1で回復しているわけだが,SSD 660pは高負荷な状況から解放されて5分経過した時点でもNAND型フラッシュメモリ内部のデータ再配置処理が終わっていないと見て間違いない。

 原因としてあり得る可能性は,SSD 660pのコントローラが極めて遅いか,QLCがゆえにNAND型フラッシュメモリ内部のデータ再配置処理に時間がかかるかのいずれかだが,CrystalDiskMarkのスコアからして前者の可能性はまずないだけに,原因は後者だろう。CrystalDiskMarkは無難にこなしてみせたSSD 660pも,Consistency test v2でQLCの弱点を露呈させてしまったと評価すべきではないかと考えている。

グラフ画像をクリックすると詳細なスコアがまとまった表3を表示します
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 高負荷な状況におけるSSD 660pの振る舞いをより詳しく見るため,平均ストレージアクセス時間の変化を見ておきたい。
 PCMark 8はオフィスやゲームなど複数のアプリケーションのストレージアクセスを再現することで,グラフ6で示した平均帯域幅を算出している。なので,Consistency test v2の実行結果としては「各アプリケーションのワークロードを実行したときのステータス」も得ることができる。今回はそのなかからAdobe製の写真編集アプリケーション「Photoshop」を使った負荷の高いワークロード「Photoshop heavy」における平均ストレージアクセス時間の変化を抜き出して,それをチェックしていこうと思う。

 グラフ7は,そのPhotoshop heavyにおける読み出し時の平均ストレージアクセス時間をプロットしたものだ。SSD 660pはDegradation pass 1でこそ0.56msと1msを下回るものの,Degradation pass 2からSteady state pass 5までは1.05msから1.84msと1msを超え,ときに2msに迫るという平均ストレージアクセス時間を記録した。
 SSD 760pもDegradation pass 1〜2と7で1msを超えるが,それ以外では1ms未満に収まっている。また,安定して0.2ms以下のスコアを示すSSD 970 EVOとは比べるまでもないだろう。高負荷時におけるSSD 660pの弱さがはっきり出た結果だと言える。

 救いはRecovery phase 1以降でSSD 660pもスコアの回復を見せるところだが,それでも他の2製品に比べると弱い。

グラフ画像をクリックすると詳細なスコアがまとまった表4を表示します
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 SSD 660pがある意味ですごい記録を叩き出したのが,Photoshop heavyにおける書き込み時の平均ストレージアクセス時間をプロットしたグラフ8である。
 SSD 660pはDegradation pass 3でなんと80msに迫る平均ストレージアクセス時間を記録した。これは下手をするとHDDより悪いスコアで,少なくとも筆者は「SSDのスコア」として初めて見たというレベルだ。比較対象として用意した2製品とは比べる意義をまるで感じさせない。

 ちなみに,80msものアクセス遅延が10回連続した場合,800msと1秒に近い遅れとなる。こうなると体感できるのはもちろんのこと,人によっては「プチフリ」を感じるかもしれないレベルになるわけだが,原因はもちろんQLCだろう。おそらく,SLCのキャッシュ領域からQLCの主領域への書き戻し(Write Back)に大きな時間がかかり,80msという書き込み遅延に現れたということである。
 書き戻しに多くの時間を要するのは,NAND型フラッシュメモリ内部のデータ再配置処理負荷が高いことと,QLCそのものの抱える書き込みの低さに起因するものと考えられる。

グラフ画像をクリックすると詳細なスコアがまとまった表5を表示します
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 グラフ9は,Consistensy test v2で実行した合計18回のStorage testから,最も高いスコア(「Best score」)と最も低いスコア(「Worst score」)を抜き出したものだ。両者のスコア差が小さいほど高負荷時の性能の落ち込みが小さいことになるが,SSD 660pはBest scoreに対してWorst scoreが約80%と大きなギャップが生まれている。ここまでの結果からして納得のスコアだ。
 ちなみに,SSD 760pは同91%とまずまず,SSD 970 EVOはBest scoreとWorst scoreがほぼ横並びとなっており,非常に優秀だと言える。

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 Adaptivity testの結果もまとめておこう。グラフ10はAdaptivity testで実行したStorage test合計10回のスコア平均を,グラフ11は平均帯域幅をそれぞれまとめたものになる。
 ベストケースにおけるStorage testスコアは,最新世代のSSDだと差がつきにくかったりするのだが,SSD 760pとSSD 970 EVOが5100弱で横並びのところ,SSD 660pはそれらと比べて有意に低い。

 さらにスコア差のつくのが平均帯域幅で,SSD 660pの314MB/sというスコアは「SATA 6Gbps接続型SSD並み」である。600MB/s近くに達するSSD 760pや,700MB/sに迫るSSD 970 EVOと比べると,価格設定以上にスコアは大きく落ちている。

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 PCMark 8のAdaptivity testもまたストレージにとって非常に“重い”テストだが,ストレージに大きな負荷がかかる状況においてSSD 660pはNVMe対応らしからぬ性能しか発揮できないということは,この結果から明らかだろうと思う。


使い方には一定の配慮が必要なSSD 660p。「正しく」使うことが重要に


 以上,SSD 660pを見てきたが,CrystalDiskMarkではまずまずの成績を残した一方,PCMark 8のStorage Consistency v2やAdaptivity testでは相当に厳しい結果となったことで,ここまでのテスト結果をどう判断したものかという読者も少なくないと思う。

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画像集 No.022のサムネイル画像 / Intel「SSD 660p」を試す。QLC NAND採用のNVMeモデルはゲーマーの選択肢になり得るのか
 前述のとおり,CrystalDiskMarkはテストサイズ9GiB,テスト回数5回という条件でテストを実行している。なので,連続的にストレージへ書き込むデータは単純計算で45GiBしかない。この程度のサイズならSSD 660pのSLC領域でテストは完結できてしまうと考えられるが,だからこそCrystalDiskMarkでSSD 660pはまずまずの成績を残せるのだろう。
 一方,Storage Consistency v2やAdaptivity testでは事前処理としてランダムデータの書き込みを行う。そしてその場合,事前処理がSLC領域を食い潰して,QLCの持つ「書き込みの遅さ」という弱点を顕在化させてしまう。

 以上の結果から,SSD 660pは「書き込みが多発する環境以外」で使うべきSSDだと言える。
 たとえば,Windowsのインストール先ストレージにはあまり向かない。Windows 10は(標準だと)接続されているすべてのストレージデバイスにスワップファイルを作成するが,その場合でもシステムのインストール先ストレージにあるスワップファイルを優先的に用いる。スワップへの書き込み(スワップアウト)や読み出し(スワップイン)は頻繁に生じ,かつストレージへかかる負荷も高いので,そのようなアクセスを苦手とするSSD 660pは適任とは言えないのである。
 一方で,ゲームをインストールする追加ストレージとしてなら,まずまずの性能を発揮してくれるだろう。ゲームのインストール先ストレージにも細かなアクセスは発生するものの,Windowsのインストール先ストレージほどではなく,しかもゲーム中は読み出しが主となるので,QLCの弱点が顕在化することはあまりないからだ。

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 もっとも,価格を考慮するとゲームのインストール先としてSSD 660pを検討する場合は,もう1つ考慮に入れるべきことがある。本稿の序盤でSSD 660pは安価だと述べたのは,あくまでも「NVMe/PCIe x4接続のM.2 SSDとしては」という条件付きだということだ。
 SATA 6Gbps接続で2.5インチHDD互換型かつ容量1TBのモデルなら,たとえばTLC NAND型フラッシュメモリ搭載の有名どころをざっと挙げてみるだけでも,2018年11月16日現在の税込実勢価格は以下のとおりで,中上位モデルであってもSSD 660pより安価である。

  • Micron Technology「Crucial MX500」(CT1000MX500SSD1):1万9700〜2万円程度
  • Samsung Electronics「SSD 860 EVO」(MZ-76E1T0B/IT):1万9800円前後
  • Transcend「SATA-III 6Gb/s SSD230」(TS1TSSD230S):2万〜2万500円程度
  • Western Digital「WD Blue 3D NAND SATA SSD」(WDS100T2B0A):2万500〜2万1500円程度
  • Western Digital「SanDisk Ultra 3D SSD」(SDSSDH3-1T00-J25):1万7800〜1万9800円程度

 そして重要なことに,これらはQLCを採用していないため,QLCならではの問題を抱えることがない。ゲームのインストール先としてもSSD 660pとして大差ない快適さが得られるはずなので,価格を考慮に入れた場合に分があるのはいま挙げたSATA 6Gbps接続モデルのように思われる。

 とはいえ,SSD 660pがQLC採用SSDの最終形態ということはないだろう。TLCも“出だし”の性能は芳しいものでなかったが,世代を重ねてコントローラや制御方法の改善を実現することによって現在の高い性能と信頼性を実現するに至っているので,将来的にはSSD 660p以上に「価格が安価で,より容量が大きい」というQLCの魅力を発揮できる製品が出てくるのではないかと思う。
 素の性能がよいとは必ずしも言えないQLCを使いこなし,満足のできる性能を発揮させられるメーカーは果たしてどこになるのかというのが,今後の注目ポイントになりそうだ。

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IntelのSSD 660p製品情報ページ

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