韓国・ソウルで開催された開発者向けカンファレンス「Nexon Developers Conference 26」(NDC26)では,Web3・ブロックチェーン投資会社HashedのCEOであるキム・ソジュン氏が「Games, AI Agents and On-Chain Economy」と題した講演を実施した。
テーマは「AIエージェント社会において,ゲームが最初の実験場になる」というものだ。
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ゲーム業界が長年向き合ってきたボット問題やゲーム内経済は,将来のAIエージェント社会でも重要な意味を持つ。ゲームデザインとブロックチェーン,AIを結び付けながら,キム氏は「エージェント社会の信頼アーキテクチャ」について持論を展開した。
「ボットは最初の“経済主体”だった」
キム氏は,ゲーム業界にとって長年の課題である「ボット」の話題から切り出した。
ゲームにおけるボットは,不正行為やRMT,ゲーム内経済の破壊など,否定的な文脈で語られることがある。しかし,同氏は「ボットはゲームにおける最初の“経済主体”だった」と表現する。
人間に代わってログインし,資源を集め,アイテムを売買し,ゲーム内の市場に影響を与える。その姿は,将来登場するAIエージェントと本質的には変わらないというのだ。
もちろん,従来のボットは歓迎される存在ではなかった。
ゲーム会社が問題視してきたのは,自動化そのものではなく,「誰が操作しているのか分からない」「責任の所在を追跡できない」という点だった。
つまり,本質的な問題はAIではなく,「アイデンティティ」と「説明責任」だったというわけだ。
AIエージェントが社会に広く浸透したとき,同じ問題はゲーム以外でも起こる。
顧客対応や市場分析,ゲーム運営の補助など,AIエージェントがさまざまな役割を担うようになれば,「どのAIが,誰のために,どの権限で動いているのか」を証明できなければならない。
「ボットを排除する」のではなく,「信頼できるエージェントとして扱う」ための仕組みが必要になるというのが,キム氏の考えだ。
AIを「使う」から「育てる」時代へ
講演では,LLMとAIエージェントの違いについても整理された。
LLMはユーザーの質問に回答することが主な役割だが,AIエージェントは自ら状況を認識し,記憶し,外部ツールを利用しながら,目標達成に向けて試行錯誤を繰り返す存在である。
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そのため,人間の役割も変化していく。
これまでは人間が自ら作業を行ってきたが,今後はAIエージェントに目標や制約を与え,結果を評価し,改善を促す「監督者」「コーチ」の立場へ変わっていくという。
キム氏は「ChatGPTを使っているだけでは,AIエージェントの可能性はほとんど体験できない」と語り,実際にAIエージェントを構築し,改善を繰り返す経験こそが重要だと訴えた。
その具体例として紹介されたのが,「ポケットモンスター 赤」をAIエージェントにプレイさせる実験だ。
Hashedが開催したハッカソンでは,参加者自身がゲームを遊ぶのではなく,「ゲームを遊ぶAIエージェント」を開発し,クリアを目指して改良を重ねた。
重要なのは,ゲームをクリアすることではない。
AIエージェントが画面をどう理解し,何を記憶し,失敗からどのように学ぶのか。そして,人間はどのタイミングで介入すればよいのかを観察しながら改善を続けることが目的だった。
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この実験では,参加者から興味深い感想も寄せられたという。
「自分でゲームを遊ぶよりも,AIエージェントへ助言するほうが面白い」
キム氏は,ゲーム実況などでプレイヤーへアドバイスを送る「バックシートゲーム」のような楽しさが,AIエージェント相手にも生まれたと説明する。
プレイヤー自身が操作するのではなく,「どのように育て,どう指示を出すか」がゲームプレイの中心になる。AIエージェントの普及によって,そんな新しい遊び方が生まれる可能性を示した。
ゲームはAIエージェント社会の「風洞」になる
キム氏は「ゲームはAIエージェント社会を試すための“風洞(ウインドトンネル)”になる」と表現した。
航空機は実際に飛ばす前,風洞で空気抵抗や機体の挙動を検証する。同じように,AIエージェントが社会へ広く普及する前に,ゲームという安全な環境でその振る舞いを検証できるという考えだ。
ゲームにはルールがあり,経済があり,コミュニティがある。プレイヤー同士が協力し,競争し,市場を形成する仕組みは,現実社会を小さく再現したような環境と言える。
だからこそ,「AIエージェントが人間と共存したとき,どのような問題が起こるのか」を試すには最適だという。
キム氏は「AIエージェント社会が直面する課題を,ゲーム業界はほかより何年も早く経験してきた」と語る。
ボット対策もその1つだ。
ゲーム会社は長年にわたり,自動化されたプログラムがゲーム内経済やコミュニティへ与える影響と向き合ってきた。その経験は,AIエージェントが社会へ浸透する時代においても,大きな意味を持つという。
ゲーム経済は現実社会の縮図
ゲームが実験場として機能する理由,その1つは「ゲーム内経済」の存在だ。
アイテムや通貨の流通,プレイヤー間の取引,市場価格の変動,インフレーション。オンラインゲームでは,現実社会と同じような経済活動が日々行われている。
ゲームデザイナーはそれらを単に眺めるのではなく,「設計」している。
キム氏は,ゲーム経済では「Source」と「Sink」のバランスが重要だと説明した。
Sourceは,クエスト報酬やモンスターのドロップなど,新たな資産がゲーム内へ供給される仕組みだ。一方のSinkは,装備の強化や修理,税金など,資産を市場から回収する仕組みを指す。
このバランスが崩れれば,通貨価値は下落し,ゲーム経済は機能しなくなる。
つまり,ゲーム会社は長年にわたり,「経済政策」を設計し続けてきたともいえる。
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その代表例として紹介されたのが,MMORPGの「EVE Online」だ。
同作では,プレイヤー自身が資源を採掘し,艦船を生産し,市場で取引を行う。一方で,大規模な戦争では高価な艦船が大量に失われ,膨大な資産が市場から消えていく。
「生産」と「消費」が絶えず循環することで,経済全体のバランスが保たれているわけだ。
キム氏は,こうしたゲーム内経済の設計は,将来AIエージェントが参加する経済システムを考えるうえでも参考になると話す。
AIエージェントが自律的に資産を運用し,売買を行い,他者と契約を結ぶようになれば,現実社会でも同じような課題が生まれるからだ。
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AIエージェント社会に必要なのは「憲法」
もっとも,AIエージェントが高度になれば,それだけで社会へ受け入れられるわけではない。
キム氏は「重要なことは,AIがどれだけ賢いかではなく,どれだけ信頼できるかだ」と強調した。
AIエージェントが経済活動に参加する以上,「誰が所有しているのか」「どのような権限を持つのか」「これまでどのような行動を取ってきたのか」を第三者が確認できなければならない。その意味で,同氏はAIエージェントを単なるチャットボットではなく,「1人の経済主体」として扱うべき存在だと位置付ける。
こうした社会では,共通ルール――いわば「憲法」のような仕組みが欠かせないという。
講演では,AIエージェント向け標準規格MCP(Model Context Protocol)や,エージェント同士の連携を想定したA2A(Agent-to-Agent),さらにオンチェーン上で身元や権限,評判を管理するERC-8004なども紹介された。
「まず信頼し,あとで検証する」のではない。
「まず検証できる仕組みを用意し,そのうえで信頼する」
これがAIエージェント社会の基本原則になるとの考えを示した。
ゲーム会社は「ルールメーカー」になる
こうした変化はゲーム業界にどのような影響を与えるのだろうか。
キム氏は,プレイヤーから「自分のAIエージェントを,なぜこのゲームで使えないのか」と問われる時代が訪れるかもしれないと語る。
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そのとき,ゲーム会社に求められるのは,AIエージェントを一律に排除することではない。
誰が運用しているのか,どのような権限を持つのか,ゲーム内でどこまでの行動を許可するのか。AIエージェントを安全に受け入れるためのルールを設計することこそ,新たな役割になるという。
ゲームには,経済があり,コミュニティがあり,不正対策があり,運営ポリシーがある。
ゲーム会社は長年にわたり,プレイヤー同士が安心して遊べる環境を設計してきた。その経験は,AIエージェント社会における「信頼の設計」にも生かせるはずだ,というのが同氏の考えだ。
「ゲームは最初の実験場になる」
Hashed社内でもAIエージェントの活用を積極的に進めているようだ。
社員は日常業務にAIを取り入れ,定型的な作業はエージェントに任せ,人間は創造的な仕事に集中する。そうした働き方を通じて,AIエージェントとの協業を実践しているという。
もっとも,キム氏が伝えたかったのは「AIを使えば生産性が上がる」という話ではない。
ゲーム業界が長年蓄積してきた知見そのものが,AIエージェント社会の基盤になり得るという点にある。
ボットとの戦いで得た経験,ゲーム内経済を維持するノウハウ,プレイヤー同士の信頼関係を支える仕組み。ゲーム会社が当たり前のように向き合ってきた課題は,いずれ現実社会でも同じように問われる可能性がある。
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だからこそキム氏は,ゲームをAIエージェント社会の「風洞」と表現したのだろう。
新しい技術を現実社会へ持ち込む前に,安全な環境で試し,失敗し,改善を重ねる。その役割を担えるのがゲームであり,ゲーム開発者であるというのが,同氏のメッセージだった。
「エージェント社会には憲法が必要。そして,その最初の実験場はゲームになり得る」
AIやブロックチェーンの未来を語る講演は多い。しかし,今回印象に残ったのは「ゲーム業界はAI時代の受け手ではなく,ルールを設計する側になり得る」という視点だった。
ゲーム開発者がこれまで培ってきた経験は,AIエージェントが社会へ溶け込む未来においても,大きな意味を持つのかもしれない。




















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