お気に入りタイトル/ワード

タイトル/ワード名

最近記事を読んだタイトル/ワード

タイトル/ワード名

LINEで4Gamerアカウントを登録
ダッシュボードを超えてエージェントへ。質問するだけで分析する「AIサーチ」開発の試行錯誤と,ゲームデータ分析の未来をレポート[NDC26]
特集記事一覧
注目のレビュー
注目のインタビュー

メディアパートナー

印刷2026/06/18 17:32

イベント

ダッシュボードを超えてエージェントへ。質問するだけで分析する「AIサーチ」開発の試行錯誤と,ゲームデータ分析の未来をレポート[NDC26]

 NEXON Koreaのカンファレンスイベント「Nexon Developers Conference 26(NDC26)」では,ネクソン内外の開発者による実務セッションが多数行われている。本稿で取り上げるのは,ネクソンコリア データ統合サービスチームのキム・ソヒョン氏による講演だ。
 長年ネクソンで分析サービスを運営してきた同チームが,既存のダッシュボードベースの分析プラットフォームをAIエージェント基盤へと転換するまでに経験した「苦悩」と,その先に生まれた「AIサーチ」サービスの姿が共有された。

画像ギャラリー No.001のサムネイル画像 / ダッシュボードを超えてエージェントへ。質問するだけで分析する「AIサーチ」開発の試行錯誤と,ゲームデータ分析の未来をレポート[NDC26]

 2026年現在,AIは「いつか導入すべき技術」ではなく,すでに日常の一部だ。自然言語で問えばAIが複雑なクエリを書き,データを分析し,可視化までしてくれる。だからこそデータ分野の人は一度はこう考える――「AIの発展でアナリストの立場が狭まるのでは」という現実的な懸念から,「AIは自社のドメイン知識を反映した良質な分析結果を本当に出せるのか」という技術的な疑問まで,さまざまだ。キム氏は,その問いへの答えを示すと宣言した。

 まず氏は,自チームが運営する分析プラットフォーム「NXレポート」を紹介した。ゲームデータ特化型の分析サービスで,約200のネクソンサービスに対し5000種類以上のダッシュボードを提供し,企画・開発・マーケティング・事業まで月平均1600人以上が利用しているという。「ここにAIを加えれば,もっと多くの人が効果的に使えるのでは」――そう考えて実際にAIと向き合うと,「技術的に可能であること」と「自社のビジネスで信頼できる分析結果を出せること」はまったく別の問題だと分かった。

画像ギャラリー No.002のサムネイル画像 / ダッシュボードを超えてエージェントへ。質問するだけで分析する「AIサーチ」開発の試行錯誤と,ゲームデータ分析の未来をレポート[NDC26]

 氏が挙げたのが「Sales KRW」というカラムの例だ。賢いAIはカラム名から「ウォン建ての売上」と即座に理解する。だがアナリストはそこで止まらない。「これは総売上か? VAT抜きか? 返金は反映されているか? 特定チャネルの売上だけではないか?」と,経験に基づく検証を重ねる。あらゆるデータの内側には“ビジネスコンテキスト”が隠れており,AIはそれを自動では捉えられない。そのため,ソースデータを渡すだけでは使える分析結果は得られない。

 そこでキム氏は,AIと人の役割を再定義する。データ加工・レポート生成・インサイト導出は,AIが人より速く効果的に自動化できる領域になった(最終検査は人が担う)。だがその前段――ビジネス要件を明確にし,AIが誤解なく正確なデータを使えるよう適切な場所にデータを定義して載せる作業は,まだデータエンジニアやアナリストの手を要する。「AIが自動化を担い,人は業務文脈を埋め込み,効果的な意思決定に集中する」――両者の領域を明確に分け,調和させることが,サービスにAIを加える出発点だとした。

画像ギャラリー No.003のサムネイル画像 / ダッシュボードを超えてエージェントへ。質問するだけで分析する「AIサーチ」開発の試行錯誤と,ゲームデータ分析の未来をレポート[NDC26]

 続いて,既存のダッシュボードが抱える3つの限界が整理された。第一に「解釈方法のガイドラインがない」こと。同じ離脱率レポートを見ても,企画者は「どの段階で離脱しているか」を,事業チームは「他ゲームと比べ71%は高い」を,アナリストは「ファネル分析が必要だ」を考える。ダッシュボードは数字を要約するが,その意味や取るべきアクションは導いてくれない。

 第二に「開発プロセスが長く複雑」なこと。新しいレポートを依頼すると,要件定義→データ検証→加工→開発→検査→配布という長い道のりを経る。データが存在しなければ,データ設計・ログ開発・ログQA・ログ配布まで加わり,関係部署とリソースが膨らみ,完成する頃には意思決定のタイミングを逃す。この経験から依頼者は「後で見そうな指標を全部入れて」と過剰要求し,結果として数十のチャートが詰まった複雑なダッシュボードが生まれる。

 第三が「コンテンツ過多」。指標の重複生成,表示速度の低下,コンピューティングコストの増大を招く。担当者が代わると「前任者の指標は見ない,新しいダッシュボードを作って」となり,多大なリソースをかけて作った既存ダッシュボードが放置され,新規ばかりが量産される悪循環に陥る。

画像ギャラリー No.004のサムネイル画像 / ダッシュボードを超えてエージェントへ。質問するだけで分析する「AIサーチ」開発の試行錯誤と,ゲームデータ分析の未来をレポート[NDC26]

 これらを乗り越えるべく開発されたのが,エージェント基盤の「AIサーチ」だ。その背後には,誰もが自由にデータへアクセスし活用できる“データ民主化”を目指して構築されたネクソンの社内データ統合基盤「Monolake」がある。とくにSnowflake環境を活用し,Snowflake IntelligenceがデータとAI機能を単一プラットフォームで提供していたため,インフラをゼロから作らず,実証済み技術をNXレポートへ取り込むことに集中できた。

 仕組みはシンプルだ。AIがアクセスしやすいSnowflakeデータレイクを設計し,ユーザーが質問すると中央のオーケストレーターが質問の意図を判別し,適切なエージェントへルーティングする。ユーザー行動に関する質問はユーザー行動の専門エージェントへ,ゲームに関する質問はゲーム特化エージェントへ――という具合だ。Monolakeで既にSnowflakeにデータが載っていたからこそ,この構造を素早くサービス化できたという。

画像ギャラリー No.005のサムネイル画像 / ダッシュボードを超えてエージェントへ。質問するだけで分析する「AIサーチ」開発の試行錯誤と,ゲームデータ分析の未来をレポート[NDC26]

 会場では実際のデモが披露された。推奨質問から「直近7日間の売上を分析して」と尋ねると,AIサーチは分析計画とクエリを透明に提示しながら,「分析結果・核心インサイト・追加分析の提案」という3段構成で答える。チャット欄に自由入力もでき,「週報の形式で」と頼めば分析計画を動的に変えてその形で出力する。
 さらに高度なコホート分析では,「2026年5月13日に登録したユーザーを他グループと売上・継続率で比較して」という問いに対し,AIが自ら比較対象(直前1週間の平均など)を選び,5月13日コホートが優れた指標を示すこと,登録2日後にARPPUが異常に高いこと(要追加分析)まで導いた。
 最後に,ニュース記事やパッチノートといった非構造化テキストの連携分析も実演。「直近2週間のゲーム業界の更新ニュースを要約・分析して」に応え,競合の更新時期を踏まえて「自社の更新は5月20〜22日が良い」と提案してみせた。

画像ギャラリー No.010のサムネイル画像 / ダッシュボードを超えてエージェントへ。質問するだけで分析する「AIサーチ」開発の試行錯誤と,ゲームデータ分析の未来をレポート[NDC26]

 この高速かつ立体的な分析は,単に高性能なAIモデルを使ったからではない。「言葉と同じで,AIも未精製のデータからは良い分析を出せない」。背後にあったのは,NXレポート運営で蓄積してきた標準化データセットだ。ゲームごとにバラバラなログではなく,徹底的に標準化されたKPIマート「Game Mart」,構造化されたユーザープロフィール,テキストデータ――これらが「AIサーチにとって優れた教科書」になった。

 さらに彼らは「AI Readyなデータ」を整えた。全テーブル・カラムにメタデータを付与し,1つのマートに積まれた列をAI分析用に複数テーブルへ分割した。
 累計課金グループ・性別・年齢・加入市場といったよく使うユーザー情報をインゲームのテーブルに列として追加し,複雑なJOINで起きるAIの誤りを最小化するため,連携分析が頻繁に行われるテーブルはあらかじめ結合した形(プリジョイン)で用意した。

画像ギャラリー No.007のサムネイル画像 / ダッシュボードを超えてエージェントへ。質問するだけで分析する「AIサーチ」開発の試行錯誤と,ゲームデータ分析の未来をレポート[NDC26]

 その上にSemantics(セマンティクス)とエージェントを綿密に設計した。氏はセマンティクスを「どのテーブルのどのカラムにどんなデータがあるかをAIに教える百科事典」と例える。
 KPI統計・ユーザー単位・インゲーム・リアルタイムといった分析カテゴリごとに複数のセマンティクスを定義し,「ユーザー数を数えるにはどの識別子カラムを使うか」「テーブル分割にどの日付カラムを使うか」といったSQL生成ルールや,各テーブルの列構成・意味・JOINキーを示すLogical Tableを細かく規定。エージェントには「そのゲームの10年目のデータアナリスト」という明確なペルソナを与え,回答を必ず3段構成にすることで品質の一貫性を担保した。

 技術的な決断も率直に語られた。中核となるAIモデルはClaude 3.5 Sonnet,Gemini,OpenAIなどを実際に接続・テストし,Claude 3.5 Sonnetを採用。軽量モデルはコストが下がる一方で分析品質も落ちたため見送った。
 プロンプトエンジニアリングでは,ユーザーは「2026年6月17日KST基準で」とは聞かないため,「昨日」「直近7日」を自動で文脈補完する処理を組み込み,膨大なデータ読み込みでサーバー負荷を招かないガードレールや,ゲームデータと無関係な質問への防御ロジックも加えた。

画像ギャラリー No.008のサムネイル画像 / ダッシュボードを超えてエージェントへ。質問するだけで分析する「AIサーチ」開発の試行錯誤と,ゲームデータ分析の未来をレポート[NDC26]

 さらに同チームは,回答品質を継続監視するための専用のモニタリングエージェントまで構築・運用している。だがキム氏が最も強調したのは,「どれほど自動化・高度化しても,人が直接見ることが不可欠だ」という点だ。
 モニタリングエージェントは回答の正誤・エラー・プロンプト修正ガイドを自動導出するが,最終判断と修正は人が行う。

 「毎朝,実際のユーザーの質問を観察してプロンプトを微調整する。業務文脈を継続的に足す人の繊細な手入れこそが,良いエージェントと良い分析サービスの維持に不可欠だと,日々実感しています」。

画像ギャラリー No.009のサムネイル画像 / ダッシュボードを超えてエージェントへ。質問するだけで分析する「AIサーチ」開発の試行錯誤と,ゲームデータ分析の未来をレポート[NDC26]

 最後にキム氏は,分析サービスの将来像を率直に語った。エージェントは,人が設計し長い検証を経た高品質ダッシュボードを完全に置き換えられるのか――2026年現在,答えはノーだ。数千人が毎日信頼して見るダッシュボードには,アナリストやエンジニアによる検証が依然不可欠だという。だから同チームは「既存ダッシュボードの運用を維持しつつ,同じデータをAI Readyなデータへ変換しエージェント化する」という2つを並行し,AIと人が協働する過渡期にあるとした。

 「AIモデルが将来もっと賢くなるなら,今から苦労する必要があるのか」という問いへの答えは明快だ。「今積み上げる資産が,将来の競争力になるからです」。汎用AIモデルやインフラは“お金があれば誰でも持てる道具”になり,技術だけでは競争の差は生まれない。
 自社の業務文脈を完全に埋め込んだAI Readyなデータとエージェントという知的資産こそが,真の競争力の差を生む――「そして,それが今日私たちのやるべきことだ」と述べ,誰もが思い描く"アイアンマンのジャーヴィスのような"完璧なAIの未来へ,一歩ずつ近づいていると締めくくった。

  • 関連タイトル:

    講演/シンポジウム

  • この記事のURL:
4Gamer.net最新情報
プラットフォーム別新着記事
総合新着記事
企画記事
スペシャルコンテンツ
注目記事ランキング
集計:06月17日〜06月18日