インタビュー
[インタビュー]マビノギモバイルは,自分が特別なものだと感じられるオンラインRPG――開発8年・費用100億円超の“厄介者”を韓国ゲーム大賞3冠に導いたキム・ドンゴン氏に聞く
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※韓国版MITとも呼べる,ソウル大学と並ぶ韓国最高レベルの大学。理工学/科学技術系に特化した学校で,授業は原則すべて英語で行われる(世界のトップと肩を並べる研究者であれ,ということだ)
ゲーム内では「ナック(Naak)」の名で知られる彼は,「ウルティマ オンライン」に衝撃を受けてNEXONの門を叩き,2004年にPC版「マビノギ」をこの世に送り出し「内気な人が自然にみんなと付き合える場所」をオンラインゲームの中に実現した。
さらにそこから20年以上を経て,今度は韓国のオンラインRPGそのものを塗り替えてしまった。
それがこの「マビノギモバイル」(iOS / Android / PC)だ。
2017年の発表から実に8年の開発期間を経て,2025年3月27日に韓国でサービスを開始したこのタイトルは,リリース前の評価は決して芳しいものではなかった。
開発費は1000億ウォン(約100億円)を超え,社外からも“厄介者”とまで揶揄されていたその作品は,実際にフタを開けてみたら,App Store売上1位を記録し,リリースからわずか50日で累計売上3000万ドル(約47億円)を突破,7か月で売上2800億ウォン(約297億円)を叩き出し,累計ダウンロード数は394万件に達した。
ユーザーの66%は10〜20代となっており,30〜40代が主流の韓国モバイルオンラインRPG市場の常識を覆す数字を叩き出した。また課金でキャラ性能を一切競わせないそのスタイルは,ユーザーの間で「モビノギライク」※という新語を生むほどの存在感を示している。
2025年の韓国ゲーム大賞では,大賞である大統領賞だけでなく,企画・シナリオ部門の技術創作賞とサウンド部門の技術創作賞で合わせて3冠を達成し,「世代を超えたヒーリングオンラインRPG」という評価を確立しつつある。
※マビノギモバイルを「モビノギ」と表現するのは,ちょっとうまい
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ネクソンの「マビノギモバイル」が韓国ゲーム大賞を受賞。技術創作賞など3冠を達成
11月12日,釜山BEXCOで開催された「2025大韓民国ゲーム大賞」授賞式で,「マビノギモバイル」が大賞の栄光を手にした。技術創作賞でも2部門を受賞し,計3冠の達成だ。ほか最優秀賞には「The First Berserker: Khazan」が,優秀賞には「セブンナイツ Re:BIRTH」「Lies of P:Overtune」「RFオンラインネクスト」が選ばれた。
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そしてそのタイトルは,むろん日本での展開もアナウンスされている。
グローバル同時リリースのものではなく,日本に向けたハイパーローカライズ―――単なる言語翻訳だけにとどまらない,日本向けの最適化も施される予定だという。ネクソンのLee社長が「どれだけ売れたかではなくて,どれだけ愛されたかを重視する」と語った長期戦略の象徴ともいえるタイトルである。
キム・ドンゴン氏自身も「日本の漫画やアニメ,ゲームで育った自分にとって,日本市場に紹介することは特別」と語り,「自分の人生最後のオンラインRPGローンチになる」という覚悟でこの仕事に臨んでいるようだ。
今回のインタビューは2026年1月20日,極寒のソウルのdevCATオフィスの,ドンゴン氏の社長室で行われた。
部屋にはApple IIの実機を始め,所狭しとガジェットが並び,それらは今も現役で稼働しているという。キム・ドンゴン氏はそこで,趣味としてApple II用のウルティマ風ゲームや,ゲームボーイ用のゲームを作り続けている。
「会社では数百人で作る。でも家では,1バイト,2バイトまで自分でコントロールできる」。その言葉には,韓国ゲーム業界の黎明期から30年以上にわたって“遊びを作る人”であり続けた氏の矜持がにじみ出ているのかもしれない。
Apple IIの起動音が響くオフィスで語られた,氏のゲーム開発の原点と哲学,AIとの向き合い方,そして「優しさが伝播する世界」の作り方など,年内予定という日本ローンチを前に,“マビノギの父”との雑談インタビューをお届けしよう。
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4Gamer:
今日はお時間ありがとうございます。
キム・ドンゴン氏(以下,キム氏):
こんな狭いところですみません。
4Gamer:
いやいや,全然大丈夫です!
こんな楽しそうなもの,撮らないともったいない。
キム氏:
そう,これらを自慢したいということもありまして(笑)。
4Gamer:
いやあ……Apple IIからのAppleユーザーとしては,ワクワクですよこの部屋。
……というか,本当にインタビューを受けてもらえてありがとうございます。G-STARのパーティでお会いしたときにノリでお願いしてしまったんですが,受けてもらえて本当に嬉しいです。日本ではとくにそんなに表舞台に出てるイメージないですし。
キム氏:
そうですね。韓国でもあんまり表に出ないですよ(笑)。
シャイなので自分はあんまり出ないです。ディレクターのイ・ジンフンが代わりに出てくれたりしてます。
[インタビュー]ネクソンの「マビノギモバイル」が,20〜30代に刺さって売上320億円達成。次は50〜60代の世代を狙う
日本でのローンチにも期待がかかる,ネクソンの新作MMORPG「マビノギモバイル」について,先行サービスインしている韓国で,合同インタビューが行われた。日本でも長くPC版をサービスしているのでファンやユーザーは多いと思うが,絶好調で運営されているようなので,まずは国内サービスに期待しておこう。
4Gamer:
そんな状態の中,どんな人が「マビノギモバイル」を作っているのか,ぜひちょっと紹介させてください。
実は僕とドンゴンさんは割と年齢が近くてですね,世代的にほぼ同じジェネレーションだと思います。あと,あなたのネクソンでの年数と4Gamerの年齢が全く同じなんですよ。どちらも2000年からですね。
キム氏:
お,いいですね。昔話は大歓迎です(笑)。
4Gamer:
しましょう,ぜひ。あと僕があなたに一方的に親近感を覚えているのが,同じApple IIからのスタートだということですね。
僕はApple IIの「Wizardry(ウィザードリィ)」で人生を踏み外して,今こういう仕事をしているわけですが。
キム氏:
ええ,Apple IIのゲームはいっぱいプレイしましたね……。今でもApple IIのゲーム作ってます。
4Gamer:
今でも!?
キム氏:
見せましょう。
ーーーーびっ(Apple IIの起動音)
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4Gamer:
うわ,このApple実動品なんですね。
キム氏:
作ってるのは家ですけどね。趣味なので。
4Gamer:
いや懐かしいなぁ……。
キム氏:
これです。韓国語ですけどね。
4Gamer:
お? これはもしやUltima(ウルティマ)レスペクト?
キム氏:
うん,ウルティマと似てますね。マビノギのキャラクターたちも出てきます。
4Gamer:
なるほど,マビノギ版のウルティマ※(しかもAppleII版)ということですね……すごい。
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暇をみてもちょこちょこ作ってます。あと,ゲームボーイ用のゲームも作ってますよ。MSXとかもそうですが,こういうのが自分の趣味なんです。
4Gamer:
MSXいいですね! MSXも好きですよ。チマチマとカートリッジをコレクションしてます。
いやしかし,これKickstarterとかで出してくださいよ。AppleIIエミュとかで当時っぽく遊びたいです。もうさすがに1Dディスク※は買えないでしょうし……。
※片面倍密度のフロッピーディスク。PC-88とかPC-98あたりから入った人ならフロッピーはたぶん2Dとか2HDとかだと思う……といっても今の人には何を言ってるか分からないだろうから容量の話をすると,1枚あたり約140〜160KBぐらい。CPUのL1キャッシュくらいしかない。いまとなっては「何も入らない」といってもいい。ところで「片面」倍密度なので,ライトプロテクト(久々に書いた)の切り込みを入れると,裏表両面が使えるのだ
キム氏:
とてもゆっくり作ってるので,いつ出来上がるか分かりませんよ(笑)。
4Gamer:
でも実機で作っているのがすごいですね。というか,もしかしてここにあるApple,全部動くんですか?
キム氏:
全部動きますよ。実は自宅にはもっとあるんですけど,もうスペースがなくて,オフィスにまで持ってきてるという……(笑)。
4Gamer:
こんなにあるの初めて見ましたよ。
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キム氏:
一つ,二つと集めていたらこんなになってしまいまして。
ご存じだと思いますが,実は自分が小さい頃使ってたApple IIは本物じゃなくて韓国のクローンだったんですよ。年を取ったらそれがまた懐かしくなって,また使いたいなーと思って探したらクローンはもう入手困難でして。
逆に本物はeBayとかにたくさんあるので,それらを一つ,二つと買い始めたらこんな感じになってしまいました。
4Gamer:
僕も,家にまだApple IIがありますよ。
キム氏:
自分は,家で作業する時はApple IIeを使いますね。
4Gamer:
Lisa※も買わないと。
※1983年1月19日にApple Computerが製造・販売した,オフィス向け16ビットパーソナルコンピュータ
キム氏:
Lisaも買うかどうか迷ったんですけど,Lisa自体にあんまり思い出がなくて。
思い出の機種はやっぱりApple IIeまでなんですよね。
4Gamer:
まあ,違うものですもんね。
キム氏:
韓国の場合,昔,AppleとMSXが市場を二分していた時期があったんですけど,急に政府が16ビットのコンピュータを推し始めて,8ビットのコンピュータは全部なくなっちゃったんですよね。
4Gamer:
あ,そんな昔から政府が絡んでるんですね。でもちゃんと「結果」に結びついてるのがすごいな。
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そうですね。その時期は,韓国政府が国家成長のために推進をかけていた時期だったので,「教育用のコンピュータは16ビットだ」※と。自分は8ビットコンピュータが大好きなのでちょっと残念でした。
※全斗煥政権は1983年を「情報産業の年」と宣言し,韓国の情報通信技術(ICT)産業の体系的な育成と情報化社会への転換を本格的に推進するよう8ビットコンピュータ5種を教育用コンピュータに指定して学校に普及し始めた。その後,1989年に政府で教育用コンピュータを8ビットではなく16ビットIBM PC互換機種に公式再指定し,AppleクローンおよびMSX互換機種は大きく衰退するという背景がある。(Namuwiki参考)
4Gamer:
その頃,大体何歳ですか?
キム氏:
たぶん中学生ぐらいですね。
4Gamer:
あれ,中学生のころって,もしかしてもう何かプログラミングとかしてました?
キム氏:
ええ。ちょうど中学校のころにプログラミングを始めて,大会に出て受賞もしましたね。
4Gamer:
すごい。昔から「作る人」なんですね。
キム氏:
そうなんですよ。
編集長もApple IIを使ってたならご存知だとは思いますけど,Apple II用のゲームってMSX用のゲームと比べたら見た目とかがちょっと地味だったんです。だからMSX用のゲームがやりたくてやりたくて。それでどうしてもApple IIでMSX用のゲームのようなものを作りたくて,いろいろとやっていたんです。
4Gamer:
子供のピュアな欲求ですね(笑)。まぁそんなMSXも,パソコンゲームとかアーケードが多く移植されていたので,見た目とかちょっとアレでしたけど当時は。
でも今も作ってるとは。何がそんなにあなたの心を掴むんですか,この8ビットのプログラミングは。
キム氏:
会社で作る作品は,本当にいろんな人が一斉に関わるものなので,完全に自分勝手には作れないんですよね。当たり前ですが。
でも家でする個人作業は,1バイト,2バイト,そういう細かいところまでコントロールできて,全部把握できるので,自分の思い通りに操るという感じがとても心地いいです。
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4Gamer:
ということは,もしあなたの制作において莫大な時間が許されるのであれば,全部1人で作りたいですか?
キム氏:
そうかもしれません。
会社ではもちろんみんなと一緒に作りますけど,家では1人の時間を楽しむタイプですし。最近はAIのおかげで,さらに楽になりました。
4Gamer:
あぁ,韓国の開発者の方って,割とAIにポジティブな発言をすることが多いですよね。そういうとこ,ちょっと好感を持って見ています。
キム氏:
うーん,そこは複雑ですね。使われる分野によって少し反感される部分もありますが,積極的に使わないといけない部分もあって,色々と模索している最中,という感じですかね。
4Gamer:
「ゲーム開発」という世界の中で色々あるということですか? ネガティブだったり,ポジティブだったり。グラフィックスだとかコーディングだとか。
キム氏:
そうですね。特に,人が作ったのだと感じさせなければいけない部分では,作る側もユーザー側もAIをネガティブに受け取りがちですが,コードを書いたりプログラミングをしたり,そういう部分では結構オープンになってます。
4Gamer:
人が書いたのとAIが書いたものは,もうしばらくしたらほぼ差がなくなる※気がするんですよね,技術的には。それでもなお,開発者ってやっぱり自分で書くんですか?
※インタビューをした2026年1月時点でもすでにそう思っていたが,昨今それがますます加速しているのは皆さん知ってのとおり
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そこは……何を作るかによって違うと思いますし,ゲームを作るときの立場でもそれぞれ違うと思います。
人が描いたかどうかはあんまり重要じゃないと考える開発者もいれば,それがとても大事な部分だと思って,それ以外の部分をAIに任せる開発者もいると思います。ゲームと個人それぞれですよね。
4Gamer:
なるほど。
これはただの純粋な疑問なんですが,たぶん見てる側……消費者サイドからは,人が描いてもAIが描いても,ほぼ差が分からなくなると思うんです。今でもすでにその傾向はありますし。
そういう時代になったとき,例えば,じゃあコストなり納期なりを考えた時に,devCATの最高責任者としてAIを推奨するとか,それとも拒絶するとか,なんかそういう方向性みたいなものは考えてたりしますか?
キム氏:
そうですね……どこまでが許容されるのかは,ちょうど今が過渡期だと思います。これ以上は受け入れられないという部分が確かに存在するのも事実なので,ちょっと状況がどう変わるのかを見て決めたいと思います。
4Gamer:
今現在は,どんな風に使っているんですか。
キム氏:
自分の場合は,ゲームのプロトタイピングでよく使っています。
昔はこういうのを,いちいちスタッフに「こういうの作って」と説明して作ってもらって,それをテストして結果物を見るという,だいぶ時間がかかるものだったんですが,今はアイデアさえ投げれば実際動くところまで作ってくれるので,面白そうかどうかを判断するにとても役立っています。
4Gamer:
あんまりAIの話ばっかりしても仕方ないので,最後に1つだけ。
AIがこの後どんどん発展していくのは既定路線だと思うんですが,その進化の先で「マビノギ」のような,優しい世界が作れると思いますか?
キム氏:
自分は技術にポジティブな人なので,長期的にはできると思います。でもそれがいつになるかはまだ見えてこないですね。
4Gamer:
ありがとうございます。
でも,その優しい世界の「マビノギ」に至るまでに,キムさんはインディーとかも含めて,いろんなもの作っているじゃないですか。最終的にマビノギにたどり着いた,経緯というかプロセスってどんな感じなんですか。
あの時代にはまったくなかった概念の作品なので,ちょっと気になっています。
キム氏:
私は,こういうゲームを作ることを目指したり人生の目標にしてたりしてたわけではなくて,小さい頃の思い出や経験がマビノギに溶け込んでいるんだと思います。
4Gamer:
というと?
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自分はとてもシャイで,小さい頃から,人と付き合ったり,みんなでアクティブに遊んだりすることがあんまりうまくできませんでした。
それでも,他人と繋がりたいという欲求はすごくあったんです。私みたいに内気な人がどうやったら自然にみんなと付き合えるかを考えているうちに,マビノギのような世界が作れたんだと思います。
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4Gamer:
それがヒットしたということは,じゃあその内気な人もすごくたくさんいたんですねきっと。
キム氏:
昔の韓国でオンラインゲームが登場する前,パソコン通信でのチャットや掲示板※で,ほかの人とテキストベースの会話をしたりする関係がたくさんありました。
その時すごく楽しかった記憶,人々と話をした記憶,温かい記憶……こういったものがたくさんあったんです。そのようなものは,ゲームを通じても十分に伝わるだろうとずっと思っていました。
※日本だとNIFTY-Serveなどが有名だが,韓国ではおそらくHITELを差すと思われる(Hangang Information Telecommunication Exchange&Library)。インターネットが普及する前の時代に,電話回線を使ってコンピュータ同士を接続し,電子掲示板(BBS)やチャット,メール,ゲームなどができたパソコン通信サービスだ(1986年〜2007年)
4Gamer:
あのころの,みんなが仲間みたいだったパソコン通信時代は,いまとなっては確かにいい思い出ですよね。あの時代,「28800bps超速い!」とか言ってたのが,遠い遠い昔のようです。
でもその次の,出てきたばかりのころのオンラインゲームって,そういうものとは違って基本的には競争と戦闘しかなかったじゃないですか。だから,マビノギが出てきたときすごくびっくりしました。
キム氏:
ほかとはちょっと違うゲームを作ってみよう,と思ったのもありましたね。あと「ウルティマ オンライン」(UO)みたいなゲームから結構影響を受けたと思います。
4Gamer:
お,UO。どこのサーバーにいました?
キム氏:
どこだったかな……Sonomaだったかな。
4Gamer:
もしかして,全サーバーにキャラがいたり?
キム氏:
いや,そこまではプレイしてないです(笑)。
でも,とても印象的な経験でしたね。ゲームでひたすら釣りをしたり,家を買ったり,そういう経験がすごくいい思い出になっています。
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4Gamer:
UOは衝撃でしたよね,最初遊んだ時。
キム氏:
UOとは違いますが,さっき見せたApple IIで作っているあのゲームも,指摘されたようにすごくウルティマに似ています。なにしろウルティマは僕にとても大きな影響を与えているので,尊敬を抱いています。
4Gamer:
ウルティマシリーズのどの辺が刺さったんですか?
キム氏:
たぶん日本では「ウィザードリィ」の方が人気でしたよね。僕も好きですよ,とくにIVとか。
4Gamer:
ウィザードリィと言って「IV」が最初に出てくるのは,渋いというか異端というか……。
まあでも確かにそうですね。日本ではウィズのほうが人気があったと思います。私もウィズ派ですが,あとなにせファミコン版の出来がよかったから,日本での知名度はそこそこあると思います。
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当時のRPG界隈では「ウィザードリィ」と「ウルティマ」が有名でしたよね。あと「バーズテイル」。
自分の場合は,ウルティマをより楽しめたというか,今のゲームに例えたらGTA(グランド・セフト・オート)みたいな感覚でした。
キャラなんか本当に数十ピクセルにも満たないグラフィックスだったけど,自分がその世界で実際に暮らしている感じがして,たくさんの驚きを味わって,すごいと思いました。
4Gamer:
「ウィザードリィ」は,冒険が基本的にダンジョンの中ですからね。「ウルティマ」は確かに世界が広がっていく感じがします。仲間と一緒にフィールドを歩いたりとか。
キム氏:
まるでその世界がどこかに存在しているかのようなリアリティがあって,自分がそこに入って旅をしているというその感じがすごく良かったんです。強烈に引き込まれました。
4Gamer:
ウルティマで一番好きなのはやっぱりIVですか?
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IVですね。ご存じのようにIVは,単純に「悪を退治する」という目標ではなくて,まるで仏教の涅槃を思わせるような過程を描いていますよね。
アバタールがそうですが,ゲームをプレイすることで,自分がより良い存在になったかのように感じられる―――その強烈な高揚感は,子ども時代の私に大きな衝撃を与えたんです。
4Gamer:
あの独特の世界観は,いまもあんまり類を見ないですよね。人の家の宝箱を勝手に開ける勇者とは,もう全然違う何かです。
キム氏:
僕は,すごく大それた哲学を持っているような人間ではないので,マビノギという作品ににそこまでの深みを込められているかは分かりませんが,ゲームを遊ぶ過程で「何か少し良い存在になれた気がする」という感覚を味わってもらいたい,という想いはずっと持っています。
4Gamer:
あぁ……いいですね。ゲームとはそういうものであってほしいです。
キム氏:
まぁそんなことを言ってますが,マビノギにもっとも強い影響を与えたゲームは,ちょっと名前を出した「バーズテイル」なんですけどね(笑)。
4Gamer:
あれ,そうなんですね。
キム氏:
マビノギは「吟遊詩人の物語」という意味なんですが,そのまんま「バーズテイル」(The Bard's Tale)と同じ意味なんです。
4Gamer:
あぁ……なるほど! しかしあなたはその後もウルティマから離れられず,UOも好きすぎたのかハングルパッチ※を作ってましたけどね(笑)。
※ドンゴン氏は,UOのハングルチャットパッチを作ったことでも有名だ
キム氏:
よくご存じで。当時は英語でしか表示されなかったので,ハングルパッチを作りました(笑)。
4Gamer:
韓国の人はみんなそれを使ってやっていたんですよね。
キム氏:
そうですね……そうだと思います。
4Gamer:
まぁあの頃のギーク達は,だいたい「Ultima」か「Wizardry」,「Diablo」「UO」「EverQuest」あたりを通ってますよね。
キム氏:
Diabloも,大学のときに結構プレイしましたね。
4Gamer:
ウルティマとマビノギの性格の近さみたいなものは,なんとなく理解できるんですが,でもあなたはその前段階でも結構いろんなものを作ってましたよね。それらの作品は,何かマビノギに生きてたりするんですか?
マビノギで広く知られることになったあなたのカラーから考えると,結構似ても似つかぬ,想像もできないもの※を結構作ってるじゃないですか。
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キム氏:
そうですねえ……マビノギのユニークなユーモア要素につながってるのではないかと。
インディーで作ったゲームもユーモアなものが多かったので,そういうものがマビノギにも結構溶け込んでいたんじゃないかなと思います。
4Gamer:
ということは,それまでのあなたの作品の集大成的な意味で作られたのが「マビノギ」?
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マビノギを作ったのはもう20年も前で,その後も色々作りました。マビノギのカードゲーム※も作りましたし。あれこれやって,その時もっとあったらよかったなとか,ちょっと残念だったなという部分を補って作ったのがマビノギモバイルです。
つまり,自分の集大成をあえて決めるなら「マビノギモバイル」だと思います。
4Gamer:
なるほど。
キム氏:
マビノギモバイルには,マビノギの後に作った「ハスキーエクスプレス」※や「マビノギ英雄伝」,「マビノギデュエル」,そしてリリースまでは至らなかった「マビノギ2」に入れた色んな要素,その他にもdevCATで作った色んなゲームに登場するキャラクターやストーリーなどが入っています。
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4Gamer:
おお,ハスキーエクスプレス要素入っているんですね。僕あれ好きだったんですけど。
キム氏:
マビノギモバイルも犬ぞりに乗れますよ!
4Gamer:
まだ日本ではサービスされてないのでよく分かってないんですけど,今あるPC版のマビノギのモバイル版というわけではなくて,さらにそこにいろんな要素が追加されて,グレードアップしたものという感じなんでしょうか。
キム氏:
ええ,マビノギの世界観を共有する別のゲームとして見ていただいたほうがいいと思います。要は完全新作ですね。
4Gamer:
見た感じは「マビノギ」なんですが,それを別のゲームだと表現する理由はどの辺りですか?
キム氏:
実際プレイしてみたら,結構多くの部分が違うと分かると思いますよ。
PC版は20年前に作ったものなので,その時代に合った方法でプレイできますが,今になってみたらそれはちょっと残念な方法だったり,モバイルでプレイするにはちょっと操作が難しかったり,複雑に感じられる部分もありまして,そういう部分でも結構変わっています。
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4Gamer:
なるほど。
キム氏:
マビノギは“吟遊詩人の物語”という意味なんですけど,詩人によってみんな違う歌を歌います。3人の詩人がいるとして,同じ出来事を見たとしても3人それぞれが違うように語り継ぐかもしれません。
じゃあ誰の歌が最も良いだろうとなったとき,PCのマビノギか,マビノギ英雄伝か,マビノギモバイルか……と,意見は分かれると思うんです。
そういう違いなんですが,分かっていただけます?
4Gamer:
同じテーマだけど切り口や目指すものが違うんだな,という解釈をしました。その「テーマ」が持つコアな部分は変わらないですよね。
キム氏:
はい,このゲームが求めているコアバリューは保ちつつ,テイストを変えてみました。
4Gamer:
そのコアバリューとは,一言で言うとなんになります?
キム氏:
一言で言うと……このゲームをプレイしている自分が,とても特別な人だと感じられること。それを一番大事に思っています。
それをいろんな方法で伝えています。ストーリーだったり,キャラクター表現だったり,自分と似ているキャラ作りだったり,そういう色んなことが必要だと思います。
4Gamer:
「自分が特別に思える」とはずいぶん……なんていうか,慈愛に満ちた表現ですね。
それはあなたの小さい頃の経験というか,内気な子供で,みんなと遊びたいけどうまく入っていけないという,そういうときの経験を,何か払拭するためのもの?
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ええ,そういう側面もあると思います。
優しさや温もりというものは,話すには簡単ですが,実際なかなか経験できないものの一つだと思うんです。優しいことを一度経験してみると,記憶に鮮明に長く残りますし,ほかの人にも同じように伝えていきたい気持ちができると思います。
4Gamer:
そういう気持ちが作られることを目指してる?
キム氏:
そう,ゲームでも同じです。NPCであれほかのプレイヤーであれ,何か優しさを受けるとそれに感動して,また自分もほかの人に優しくしたくなると思います。そういうことを表現できるゲームになれればといいな,と思っています。
4Gamer:
僕はゲームは作れませんが,文章の世界で生きているわけで,文字コミュニケーションでは好意とか,好きだという気持ちとか,そういうものは意外と伝わりづらいんですよね。
その代わりに,悪意はいとも簡単に伝わります。なので,キムさんが目指すものは分かる気がします。そういう世界,いいですよね。とくに普通のオンラインゲームは,非常に悪意が伝播しやすいですし。
キム氏:
ええ。マビノギをプレイして選んでくださるユーザーの方々がそういう優しさを望んで,この世界に来てくれたんだと思います。なのでそれをコアバリューとして,しっかり守っていこうとしています。
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4Gamer:
守っていくにあたって,開発サイドとしてこれだけは絶対にしてはならないと思っていることはありますか?
キム氏:
どうでしょう……実はこのゲームでは,やってはいけない要素がたくさんあります。
4Gamer:
聞いていいものであれば,ぜひいくつか教えてください。
キム氏:
まず分かりやすいのは,自分のキャラクターは絶対に喋りません。喋った瞬間に,自分らしくなくなるからです。あとこれも些細なことですが,プレイヤーキャラが静かに立っている時,あれこれ勝手にポーズを取ったりしません。それをやり始めると,自分らしくなくなるから。
4Gamer:
あぁなんか分かります。MMOのキャラは自分なのに,そんなことしねーよ!っていうことありますよね。個人的な話ですが,なので私はemoteを絶対に使いません。自分なら絶対そんなアクションやらないから。
キム氏:
ですよね。
このゲームの画面の真ん中に立っている自分のアバターは,常にこれが自分だという感じを与え続けなければならないわけで,このキャラクターが突然自分がしないような行動を始めるとか,そうなった時点ですでにマビノギらしくなくなるわけです。
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4Gamer:
分かります。でもポーズすら取らないのは結構珍しい気がしますけど。
キム氏:
すごく微妙なボーダーラインなんですが,例えば自分のキャラクターの周りで誰かが話をしたら,自分のキャラクターがちらっと見るじゃないですか。キャラクターが首をパッと回したり。
そういうディテールはあります。それは,プレイヤー自身でもそう行動したはずだからです。
4Gamer:
なるほど。でもそれ,なかなかボーダーラインが難しそうですね。
キム氏:
そうなんです。キャラクターが踊るときも,何となく自分が踊れそうなダンスでなければならないのに,突然ブレイクダンスをシャキっと踊ったりすると,それは実際の自分と違いすぎて没入感がなくなると思いますね。
そういうラインを守るのが,とても大事だと思います。
4Gamer:
その“ライン”はすごく繊細で難しそうな線の上にありそうなんですが,それを決めているのは誰なんですか。
キム氏:
最初のディレクションは自分なので自分から出してましたけど,今のスタッフ達はみんな息を合わせて長く一緒に作ってきた人達なので,ある程度頭の中に共通した判断基準を持っています。
4Gamer:
それはどこかに明文化されているんですか? それとも経験として学んでいるとか。
キム氏:
こういう方向性で作るという方針は私から出して,その後成果物を確認するときに,これはオッケー,これは方向性から外れている,という判断プロセスを繰り返していたらみんなに根付きました。
今はゲームがローンチしましたし,開発スタッフもうちのゲームがどういうゲームだということはよく理解しているので,みんな結構なレベルで共通意識を持っています。
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4Gamer:
その「共通の意識」を持つまでに,どこまで完璧を追求しましたか? 当然のことではありますが,あなたの考えと100%イコールではないと思うんです。
キム氏:
そうですね。でもそれを何パーセントとまとめるのはちょっと難しくて……。自分が非常にこだわる部分もありますし,逆に完全に任せるところもあります。
4Gamer:
それぞれどんなところなのか,聞いてもいいですか?
キム氏:
僕は,画面に映る“割合”をすごく重視しています。
4Gamer:
割合……?
キム氏:
画面を見た時に,木や草はどれぐらいの割合で,人はどれくらいいて,大人がどれくらい,子供がどれくらい,動物は何頭……みたいな割合の話です。髪の毛の色なんかもそうです。こういう色がどんな比率で,あの色がどんな比率で,という。
そういうことは,あまりにも現実の感覚からかけ離れてはいけないと思います。僕はそういうことを結構こだわっていて,細かく見ています。
4Gamer:
すごく興味深いんですが,そういうのって数値化されているんでしょうか。実際に作業してもらうにあたっては,数値があるとやりやすいかなと今思いました。
キム氏:
数値がきっちり決められているというよりは,我々が見ている現実からあまりかけ離れないというのが指針です。例えば,美男美女だらけとか。美男美女しか存在しないゲームもあるでしょうが,それはあまりにも現実感覚が生じません。
ゲームの中にはイケメンもいるし,普通の顔もいるし,太った人もいるし,痩せている人もいます。背が高い人も低い人も,それぞれがいなければならないです。ゲームでも現実と同じように,多様に存在するものの割合を守ることが指針です。
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4Gamer:
アンリアルな世界でリアルを追求してるわけですね。
キム氏:
現実的な比率じゃないと,「独特」とか「スペシャル」という感覚を持つことが逆にすごく難しくなると思います。
さっきの例のようにみんなが美男美女だったら,美男美女なんていうものは,まったく全然特別なものじゃなくなるわけです。
4Gamer:
あぁ,それはそうですね。
キム氏:
でもそうやって多様な人々が混ざっている中であれば,自分はもっと特別になれるし,「私は特別な存在だ」という感情を持ちやすいと思います。それが,マビノギのコアバリューと密接に関わっていると思っています。
4Gamer:
なるほど。ここでさっきの話に返るんですね。
キム氏:
はい(笑)。
PC版のマビノギもそうですけど,マビノギモバイルをプレイするユーザーさんは,自身のキャラクターをとても愛しています。キャラクターを自分の分身のように考え,大事にしていることが感じられます。
全員が全員でキャラを美しく飾るのではなく,可愛くカスタムする人もいるし,ちょっと面白い格好にする人もいるし,ほかのキャラクターのコスプレをする人もいます。
皆さんそれぞれの個性を出していますが,みんなが自分のキャラクターを本当に愛しているという共通点があります。
4Gamer:
あと,あの当時すでにキャラクターが普通の服着てましたよね,マビノギって。あれがなかなか斬新だなぁと思った覚えがあります。
キム氏:
僕がマビノギで追求するものの一つとして,「日常的で平凡で自然なものが綺麗で可愛い」ということが挙げられます。
また自分のこだわりの一つが,動物は動物らしく表現することです。動物が人間みたいに喋ったり,人間みたいにして歩き回らせたりするのはあまり好きではありません。
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4Gamer:
いいですね! 個人的にはすごく同意です。動物は動物らしくあってほしい。
キム氏:
人の言葉を喋る猫商人もいたりするんですけどね……。
4Gamer:
まぁそれは聞かなかったことに(笑)。
でもそういう部分も含めて,リアリティを追求しているんですね。
キム氏:
はい。現実らしいから非現実を求めたくなる気持ちになれると思います。
4Gamer:
なるほど,逆説的です。
ゲームのグラフィックスはこんなにもリアルに近づいてきているのに,絵以外はそこまで劇的な進化はないんだなと思ってるんですが,マビノギは逆のアプローチなんですね。
グラフィックスレベルを上げるのではなくて,なんかもっと違うところでリアルを追求している。
キム氏:
はい。実はマビノギモバイルのリリース前には,グラフィックスについて韓国でも色々と言われたこともありました。
でも実際リリースしてプレイしていただいてからは,逆にグラフィックス表現において好評をいただいています。それはそういうスタイルであり,ディテールの不足やレベルが低いわけではないのです。
4Gamer:
みんなが大好きなゼルダだって,かなり綺麗なグラフィックスになりましたが,別に超絶ディテールで写実的なグラフィックスというわけじゃないですしね。
キム氏:
マビノギモバイルで表現しているディテールはそれこそ,海に入ったらズボンが濡れたり,雨が降ったり,ほかのゲームではあまり見られないそういった細かい表現が多いです。そういう部分でも好評をいただいています。
編集長が好きそうなネタで言うなら,雪原で猫か犬が歩いたら,猫と犬はそれぞれ異なる足跡を残しますよ(笑)。
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4Gamer:
おお,素晴らしい。両者はひと目で分かる全然違う足跡なのに,無頓着なゲームが多すぎです。
キム氏:
僕も動物大好きなので分かります(笑)。
4Gamer:
でも,写実的なグラフィックに寄せるのは比較的結果が分かりやすいですよね。どこまでリアルになったのかというのは,見れば誰にでもすぐ分かる。
でもマビノギみたいなアプローチだと,どこまでリアルに近づけているのか,それがうまくいっているのか,そういうのをどこで測ってるんですか。
キム氏:
そこは……どうなんでしょうね。私たちのスタッフがあまりにもゲームを長く作ってきたので,うまくやってくれているんですが(笑)。
でもたぶん,漫画の影響をたくさん受けていると思います。我々のゲームは漫画なのです。
4Gamer:
確かに漫画的かもしれません。
キム氏:
漫画の場合は,全部線で描くじゃないですか。その線が面になり,いろんなものが省略されていたり,とんでもなく力を入れて強調する部分もあったりする。そういう部分からいろいろ学んでいます。
ほかのゲームだと,キャラがすごく細かくカスタマイズできて,鼻の高さとか,目の大きさとか,頬の具合とか,とても細かく作りますよね。
そんなことはできないマビノギモバイルのキャラクターがプレイヤー自身のように感じられるのは,漫画の歴史から積み上げてきたもののおかげだと思います。省略するところもあり,個性的に表現するところもある,という感じですね。
4Gamer:
任天堂のMiiに似てるんですよねえ。
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そう! 任天堂のMiiを見てちょっと感動しました。
任天堂のMiiが出た時,ほかの会社……当時だと,XboxのキャラクターやSamsung携帯にあったアバター※とか,そういったものに比べて,Miiは細かい要素が全部省略されていますけど,はるかに自分らしくキャラクターを表現できるわけです。とても素晴らしいと思いました。
※Xboxについては,2008年のアップデートでXbox 360に登場した「Avatar Editor」だと思うが,サムソンはなんだろう……?
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4Gamer:
ええ,結構似てますよね,雰囲気が。
あと個人的な意見ですが,細かいキャラメイクって面倒くさいだけなんですよね……。
キム氏:
マビノギモバイルも,適当に作ってもいい感じになるようにしてますよ。
あとそれに似た感じで溶け込んでいるのが,最近アップデートしたハウジングです。家を飾る機能を入れました。
4Gamer:
乱暴に飾れるんですか?(笑)
キム氏:
そうです(笑)。
細かくコントロールしなくてOKです。細かくいじって,角度をいじって,とても繊細な調整を繰り返して……みたいなことをしなくていいです。パパパッと置けるようにしてるんです。
4Gamer:
ありがとうございます。と面倒くさがりを代表して御礼を。
キム氏:
でも全部やり終えると,すごく誇らしいですよ。あぁ,私がこの家を飾ったんだと。
4Gamer:
UOの家の内装も,死ぬほど面倒くさかったでしたもんね……。
キム氏:
UOの家は,買うまでが楽しいんです(笑)。
4Gamer:
血眼になって場所を探し回ったりね(笑)。
そろそろ時間がちょっと迫ってきたんですが,日本でマビノギモバイルをローンチするにあたって,何か心配になっていることってあります?
キム氏:
うーん,ローンチのことを考えると,誰でも心配があると思いますよ。でも自分としては,実は早くローンチしたいし,楽しみにしているというほうがもっと大きいです。
4Gamer:
その流れでそのまま聞きますが,何月頃予定ですか?
キム氏:
それはパブリッシャーのネクソンが決めることです。でも年内は確かだと思いますよ。自分はとにかく早くしたいです。
4Gamer:
ネクソンのLee社長に「いつ日本でやります?」って聞いたら,「キム・ドンゴンに聞いてください(笑)」って言ってました。
[インタビュー]「マビノギモバイル」が日本先行サービスされる,その真意――「どれだけ売れたか」ではなくて「どれだけ愛されたか」を最終的に重視する,ネクソンの長期戦略
ちょうど1年くらい前にインタビューしたネクソン社長のイ・ジョンホン氏に,再びインタビューする機会を得た。前回はイ氏本人と会社のことを聞いたので,今回は「この1年」の話を聞こうと思っていたら,マビノギモバイルという思わぬ伏兵が。
キム氏:
いや,それはダメでしょう。本当に言っていいのかな?(笑)
僕は小さい頃から日本のゲームをプレイしてきて,日本の漫画やアニメもずっと見てきたので,自分が作ったゲームを日本市場に紹介すること自体がすごく嬉しいことであり,うまくやり遂げたい気持ちでいっぱいです。
でも,オンラインRPGは開発にとても時間がかかるので,おそらく自分のキャリアでこの後新しいオンラインRPGをローンチすることはありません。今回のマビノギモバイルのローンチが,自分の人生最後のオンラインRPGのローンチだと思って,ベストを尽くしたいです。
4Gamer:
オンラインRPGは確かにそうかもしれません。じゃあ次は何作ります?
……と聞かれても困るでしょうから,10年後のゲーム業界はどうなっていると思いますか? そしてキムさんは,その時にどういう役割を果たしていると思います?
キム氏:
10年後だったらきっと家でゆっくりしてますね(笑)。
冗談はさておき,特に現在は10年後の予想がとても難しい時代になっています。AI,SNS,ショート動画……数年後のことすら予想が難しい状況ですよね。
4Gamer:
ホントそうですね。
キム氏:
10年後も自分は一生懸命にゲームをやっていると思いますし,ゲームをする人は確かに残っているでしょう。でもその時のゲームが果たしてどんなゲームなのかは,断言するにはちょっと難しいところがあります。
4Gamer:
では質問を変えて,あなたがゲーム開発を引退する時が来たとして,そのとき若手の開発者にどんな感じになってると思いますか。
キム氏:
ゲームをプレイするとかゲームを楽しむということ自体は当然変わらないと思いますけど,今作っているゲームを次もまた作るのかはちょっと疑問ですよね。
昨今話題のGTAの延期もそうですが,発売延期を繰り返していて,開発期間が本当にすごく膨大になっています。
さっき「オンラインRPGを作ることはないと思う」と言ったその裏には,ゲーム開発にかかるコストも時間も人数もどんどん天文学的数字のように大きくなって,今度ローンチするゲームは恐らくこの世代の最後のゲームになって,次世代のゲームは,まったく違う形ゲームになるだろうということです。市場も完全に再編される可能性が高いです。
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4Gamer:
それは思いますね。ゲームそのものは形を変えてちゃんと生き残るだろうけど,いまの「ゲーム業界」なんていうものはまったく残らないのではないかな,と。
キム氏:
例えば……すでになっていますが,AIを使ってインディーゲームが爆発的に量産される時代になって,自分がプレイするゲームは自分が作って楽しんだりとか。あるいは誰もゲームなんていうものを作らなくても,インタラクティブな映像がゲームみたいに楽しまれたりする時代が来るかもしれないです。
どんな形になっても,「ゲーム開発者」は残ると思います。今の“ゲーム”というものが続けて作られるのかはまた別の話になりますが,どんな時代でも遊びを作る人自体は存在し続けるわけで,そこにうまく歩調を合わせて,適応していかなければならなくなるでしょうね。
4Gamer:
では,その将来のゲーム開発者に残したい言葉は何かありますか。長いことゲームを作っているあなたの口からぜひ。
キム氏:
え,難しいですね。なんといえばいいのかな……「ゲーム作りを選んだことを応援します。生き残ってください」ですかね(笑)。
自分はゲームを作ることが楽しくて始めましたし,後悔はないです。難しい道のりであることは事実だし,これからもさらに難しくなっていくでしょうが,それでもゲームを作ることに意味があると思って続けてほしいです。
4Gamer:
しかし本当にどうなっていくんでしょうね。ファミコンのころ,ドラクエって1年に1本出てたんですよ。信じられます? 翻っていまどうかというと……ねえ。
キム氏:
僕がゲーム開発を始めた頃も,ゲームは1人や2人で作るものでした。昔のApple IIゲームとか,全部一人や二人で開発できるものですし,今すぐ始めても全然問題ない感じの。
今の時代は数百人が莫大な時間をかけて作るものなので,開発の方式もその動機も全然違います。なので「こうするべきだ」という言葉は思い付かないし,仮に思い付いてもちょっと言いにくいですね。
開発者になる方はその方なりの目標や夢があると思いますので,それをちゃんと失わず,守り続けて,がんばってやっていってほしいです。
4Gamer:
ありがとうございます。
では最後に,年内リリースということなので日本のユーザーに向けて何か。
キム氏:
まずはリリースをうまく成し遂げたいです。
スマホでほかの人と交わって温かさを感じられる作品だと思うので,ぜひ遊んでみていろんなことを経験してほしいです。
このマビノギという“社会”が,次のジェネレーションにもうまく伝わればいいなと思います。
4Gamer:
社会とはまさにそのとおりで,プレイヤーそれぞれが“体験”できるというのが,ほかのエンタメメディアとは全然違うところですよね。
キム氏:
そうなんです。それをもう一歩進んだ話にするならば,ゲームというものは,開発者が体験したことを「体験そのものの形」で伝えることができる,非常に独特なメディアなんです。
確かにYouTubeやNetflixは便利ですけど,何十時間観たところで,それは自分自身が体験したことにはなりません。しかしゲームで体験したことは完全にプレイヤー自身のものであり,それがやがて自分自身の物語になります。
4Gamer:
確かにそうですね……だから記憶にも強く残るんでしょうか。
25年前に自分がどんなことをしていたのか,どんなことを頑張っていたのか,咄嗟に思い出せませんが,25年前のMMORPGのことはそれはもう鮮明に覚えています。
キム氏:
そうですよね。皆さんが,そんな自分の物語を書いていける舞台を用意することが,開発者の仕事だと思っています。
マビノギの世界で,皆さんそれぞれの,多様で数多くの物語が紡がれていくことを期待しています。
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4Gamer:
しかしマビノギって今にして思うと,一番最初に登場した“メタバース”だと思うんですよね。時代の遥か先を進んでいたのかもしれない。
キム氏:
そうですね……マビノギがこんなに長くサービスを続けるとは思わなかったですし,ちょっと責任感のようなものも感じています。
マビノギの中で出会って,友達になったり,結婚したり,そういうエピソードはたくさんありますが,そういう記憶がたくさん残っている空間なんです。なので,ある意味ちょっと故郷のように考える方も結構いますし,この先もずっと残っていってほしいですね。
4Gamer:
じゃあ「10年後は家で寝てます」なんて言ってないで,モバイル版でまた新しい世代をいっぱい引き入れて,あと20年は頑張らないとダメですよ(笑)。
キム氏:
そうですね(笑)。いまのマビノギモバイルは,私の母も娘も妻もプレイしていて,4人でゲームの中で会って写真撮ったりしてます。そういうのがずっと続くように頑張らないとですね。
4Gamer:
そういうユーザーが日本にもいっぱい増えることを期待して,ローンチを待っています。
頑張ってください。ありがとうございました!
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―――2026年1月20日収録





















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