プレイレポート
[プレイレポ]地獄をめぐり,月を割り,そして寝落ちする。「Skate Story」がもたらす,最高に“チルい”スケートゲーム体験
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本作はタイトル通りスケートボードのゲームなのだが,その手触りはよく知る「それ」の定番からは少し外れている。
スケートゲームと思って遊び始めたら,本作はどうやら“地獄めぐり”をするゲームだったようだ。本稿で詳しく紹介しよう。
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地獄をめぐり,月を喰らう
この手のジャンルでは通常,広大なオープンワールドや街の一部を模したパークに無数のミッションが散らばっていて,「あとは好きに滑れ!」と放り出されがちだ。しかし,本作は極めてストーリードリブンな構成となっている。
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ゲームは,テクニックを学ぶためのオベリスクや,実践の場となるオブジェクトが置かれた箱庭状のエリアと,ライディング用のコースを行き来することで進行していく。基本的には用意されたコースを滑り,その先に待つボスにトリックをキメて戦い(?),物語の断片を拾い集めていくスタイルである。
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――月のウサギに導かれ,飢えたDemonは月を喰らうためボードに乗って近づいていく。そしてDemonは月を……喰った!
とまあ物語については,こんな感じの詩的な調子で進行していく。激しめの楽曲の歌詞のようなノリに,思わず「最高かよ」と声が漏れる人もいるかもしれない。物語の筋を読んでいくというよりは,ニュアンスを楽しむタイプのゲームだ。
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舞台となる冥界の姿は,哲学者たちの園,ゴミだらけのダウンタウン,ワシントン・スクエア公園,地下鉄,コインランドリーと,次々に移り変わっていく。それは作者の目を通したニューヨークであり,同時にダンテの「神曲」,日本風に言うなら“地獄めぐり”を彷彿とさせた。
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ちなみに筆者は東京ゲームショウ2024の折り,本作のデモ版が日本語化されていると聞き試遊してみたのだが,日本語なのは「タイトル画面のみ」という仕打ち(?)に遭っている。
だが,製品版のローカライズは細かい粗こそあれど,プレイにはまったく支障がないレベルで,メッセージの詩情もよく出ているように思う。
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ガラスの体と路面のざらつき
そんな「地獄のスケート旅」を支える操作感もまた,一般的なスケートゲームとは一線を画している。スティックやボタン操作には独特の「タメ」と「重み」があり,それが着地の瞬間の衝撃や,路面のざらついた質感を指先に伝えてくる。
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最大の特徴でもある主人公の「ガラスの体」は,見た目に美しいだけでなく,プレイにも強烈な緊張感を与える。ほんの少し段差や障害物に接触しただけで,主人公の体は粉々に砕け散るのだ。実際には,軽いショックならある程度は耐えるのだが,続けざまだとさすがにアウトとなる。
だが,その破片が暗闇に飛び散るエフェクトやカメラワークがなかなかに見応えがあり,失敗したはずなのに「今は綺麗だったな」などと,妙な納得感を得てしまうのが面白いところだ。
それはスケーターでもある作者が,「路面の質感」や「接地の衝撃」(それは好ましい接地も,そうでない接地も)を表現の中に落としこんだものなのだろう。
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ゲームを進め,新たなトリックを習得するごとに,無機質なコースの上に自分なりのラインを描く「創造的なプレイ」が可能になっていく。
トリックはオーリー(ジャンプ),マニュアル,スピン,レールグラインド,それらのバリエーションが無数にあるが,本作の操作はシミュレーター寄りの作品に比べれば易しめに設計されている。
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操作の負荷が低く,必死にトリックを決めるというよりも,いくら失敗しようが納得がいくまで,作り込んでいけるような気軽さがあった。
何度も砕け散るうちに,この壊れやすさそのものがプレッシャーではなく,美しい区切りとして受け止められるようになってくる。
そのため,一度ノリをつかむと妙にチルいというか,まるで箱庭やテラリウムをいじっているような,不思議に落ち着いた心地になる。
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チャプターが進むにつれ,ゲームのテンポはメリハリを増していく。静まり返った暗闇をただ滑走する瞑想的な時間もあれば,強烈な色彩とノイズに包まれながら連続トリックを要求される瞬間もある。この「静」と「動」の揺さぶりが,本作を単なるアクションゲームやレースゲーム,あるいはスポーツゲームではなく,一種のサイケデリックな体験へと近づけている。
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本作を形作るクリエイターたちにも注目
最後に,本作に関わった人々の作家性などについてもお伝えしておこう。まず作者のSam Eng氏は,その美学を作品で実現するために,プログラム,アートディレクション,レベルデザイン,そしてマーケティングまで,そのほとんどを自ら担うインディークリエイターだ。
本作の「砕けやすいガラスの体」や前作「Zarvot」にも表れている通り,Sam Eng氏の作品には「脆いものが砕け散る」美しさへのこだわりが感じられる。そして本作ではただ美しいだけではなく,あえて粗いポリゴンや歪んだ魚眼レンズを通すことで,まるで熱にうなされているような,悪夢的なビジュアルを作り上げた。
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この偏執的なまでに作り込まれた世界に,多数の楽曲が命を吹き込む。本作のサウンドトラックは,正反対ともいえる2つの個性が混ざり合っている。
まず,穏やかな曲を手掛けるJohn Fio氏は,「Gravity Blanket(加重毛布)」や,無重力のような座り心地のクッション「Moon Pod」を生み出した人物でもある。彼の創作の根底には,「人間の不安を和らげ,感覚をリラックスさせる」という一貫性がある。
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本作のチルい楽曲を聴いて「速攻で眠くなったから,続きは明日」となったなら,それは偶然ではない……まあ筆者が少し疲れているだけかもしれないが。
だが,いつまでも眠らせてくれるわけでもない。もう一方の,素顔を隠し,謎に包まれたアーティスト集団Blood Culturesの楽曲が,プレイヤーの精神を覚醒へ引き戻す。ノイズと強烈なビートによって奏でられるサイケデリック・サウンドは,安らぎとは真逆の「焦燥感」や「高揚」を煽る。
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この両極端な“楽の調べ”のせめぎ合いこそが,「Skate Story」というゲームを忘れがたい体験にしているのかもしれない。
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- ライター:高橋祐介
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