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「黒川塾 六十一(61)」聴講レポート。3名のインディーズゲーム作家/クリエイターが,自身の開発スタンスを語る
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印刷2018/07/13 18:02

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「黒川塾 六十一(61)」聴講レポート。3名のインディーズゲーム作家/クリエイターが,自身の開発スタンスを語る

 2018年7月12日,メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏主催のトークイベント「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾 六十一(61)」が,東京都内で開催された。

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 黒川氏が毎回さまざまなゲストを招き,ゲームを含むエンターテイメントのあるべき姿をポジティブに考えるというこの黒川塾だが,今回はアプリ・ゲーム業界向け開発&運営ソリューション総合イベント「Game Tools & Middleware Forum 2018」(GTMF 2018)との共同開催となった。タイトルにも「GTMF2018東京前夜祭」と銘打たれ,ゲームクリエイターの中道慶謙氏ところにょり氏,ゲーム作家のいたのくまんぼう氏が参加し,各自のインディーズゲームに対するアプローチなどが語られた。

黒川文雄氏
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ゲーム開発に至るそれぞれの経緯


いたのくまんぼう氏
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 トークは,まず登壇者の経歴などについて,それぞれが紹介を行うところからスタートした。
 一番手のいたの氏は元チュンソフトのプログラマーで,在籍時には「不思議のダンジョン」シリーズサウンドノベルシリーズを手がけていたそうで,独立後は主にスマートフォンアプリの開発に従事している。

 いたの氏がチュンソフトに入社したきっかけは,同社が「ドラゴンクエスト」シリーズの開発を手がけたデベロッパだったからだという。しかし時が経ち,2000年代中盤になるとゲーム開発の規模が大きくなり,ゲーム1タイトルあたりに個人で担当できる部分がほんの少しだけとなり,「自分がこのゲームを作った」と胸を張って言うのが難しくなっていた。
 そこでいたの氏は,「自分だけで一つの世界を作ろう」と,独立当初は絵本作家を志したとのこと。そうこうするうちにスマートフォンが登場し,個人でもアプリやゲームを開発して世界に配信できる環境が整ったため,ゲームの個人開発にも取り組むようになったそうだ。

 独立した当初のいたの氏は,フリーランスのプログラマーとして活動しつつ,個人での創作に取り組んでいた。転機となったのは,ユーザーが首を振るだけでページがめくれる電子書籍リーダー「MagicReader」のリリースである。
 リオ・リーバス氏と共作したこのアプリは,リリース2日めに一般メディアで取り上げられ,最終的には国連が主催するWorld Summit Awardsで表彰される運びとなった。
 もともと「MagicReader」は,リーバス氏とともに「世界を変えてやる」「賞を取る」くらいの意気込みで企画開発したアプリだったが,実際に大きな評価を受けたことで,いたの氏はより目標やターゲットを戦略的に意識するようになったという。戦略的なのは“和尚”と呼ばれる自身のルックスも同じで,出会った人の印象に残るよう意識しているそうだ。

ところにょり氏
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 ところにょり氏は,スマートフォンゲーム「ひとりぼっち惑星」iOS / Android「からっぽのいえ」iOS / Android「あめのふるほし」などの作者で,独特の作風で評価を得ているゲームクリエイターだ。
 大学在学中の就職活動に苦痛を感じたところにょり氏は,一人で活動していても生活ができる道を模索したとのこと。もともと小説を書いていたので,小説家を目指すという手もあったが,こちらもまたヒット作が出るまでは兼業などをしなければならない厳しい道である。

 そこでところにょり氏の目に留まったのが,ゲームの個人開発だった。そこには,2008年のスマートフォン登場時,個人でもアプリを開発・配信できることに関心を抱いた経緯があったという。
 学生時代のところにょり氏自身は,仲間内ではやっているタイトルを遊んでいた程度で,とくにゲーマーというわけではなかったというが,「やってみるか」とゲーム開発に取り組んでみたところ,意外にできてしまったのだとか。
 ところにょり氏の作品は内省的な雰囲気が特徴的だが,昔から好きだった映画や小説の影響が大きいとのこと。もちろん明るく楽しい作品の中にも好きなものは多いが,自身で作るならどこか悲しさや寂しさが漂うものと決めているという。
 また「ところにょり」という作家性を守るため,今後も作風を変えるつもりはないと話し,仮に違う作風を選ぶのであれば別の名前を使うと続けた。実際にスマホゲーム以外の活動は別名義でやっているそうだ。


中道慶謙氏
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 中道氏率いるI From Japanが現在開発しているのは,プレイヤーがSNSに投稿した内容を解析し,キャラクターが装備するオリジナルの武器を生成する,「Last Standard」という対戦ゲームだ。本作はSony Music Entertainment(SME)のレーベル・UNTIESよりリリースされる予定となっている。

 中道氏自身はもともと大学で神経科学を専攻していたが,あるときUnityの存在を知ったという。試しに触ってみたところ,本当に簡単にキャラクターが動くことに衝撃を受け,さまざまなアイデアが湧き上がってきた。そして,そのアイデアを形にしたいと考えた中道氏はゲーム開発の道に進むことに決め,大学を中退してしまったそうだ。

 中道氏は,ゲームにインディーズやメジャーといった区分は関係なく,面白いかどうかだけが重要であると言う。例えば「Last Standard」は東京ゲームショウ 2017のインディーゲームコーナーに出展していたが,当時はまだアイデアを形にしただけのデモレベルで,試遊した人達の評価は散々だったという。
 しかしそんな中,SMEのスタッフだけが中道氏のアイデアを「面白い」と評価したそうだ。中道氏はSMEをパブリッシャに選んだ理由を,「Sonyグループというメジャーな存在だからではなく,アイデアを認めてくれたから」と説明していた。


インディーズゲームの現在と未来


 続いて話題はゲーム開発ツールの話へと移る。いたの氏はUnityの台頭について「まずスマホの普及という土壌があって,そこにUnityやUnreal Engineといった個人で使えるゲームエンジンが登場し,ハードルが下がった」と,ここ10年前後の経緯を説明するところから話し始めた。
 ただ出自がプログラマーであるいたの氏は,Unityに慣れるまで戸惑うことも多かったという。ところにょり氏は,当初Appleの統合開発環境であるXcodeでゲーム開発をしていたが,Android版も作りたいということでUnityを使い始めたとのこと。また中道氏は,先述のとおりゲーム開発を志したきっけかけはUnityだったが,現在はUnreal Engineを使っているそうだ。その理由は,頭で考えたことをより速く実現できるからだという。

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 次の話題は,現在のゲーム市場における自身のあり方についてだ。
 いたの氏は肩書きを“ゲーム作家”としているが,そこにはいくつかのコダワリがある。
 1つは自分のゲームへの関わり方が,小説家や画家などと同じく,人の“生き方”だと思えるからだという。それに,ゲームにあまり縁のないお年寄りなどに“ゲームクリエイター”と名乗ってもまず分かってもらえない。が,“ゲーム作家”ならなんとなく理解してもらえるのだとか。
 そしてコダワリのもう1つの理由が“後進の育成”のため,なのだそうだ。そもそも氏がゲーム業界を志した時代は,ゲームを個人で企画・開発するのが普通だった。再び個人でのゲーム開発が可能になった今の時代に,そのスタイルをきちんと次代に継承するためには,“ゲーム作家”という肩書きが適している。先のお年寄りの話にもあったとおり,そうすることで一般の人への理解を深めていきたいと話していた。

 また,いたの氏は後進の育成に絡めて,個人開発を志す若者達が,早々にドロップアウトしてしまうケースが増えていることに懸念を覚えるという。その理由は,スマホゲームが世間一般に飽きられはじめ,新しいタイトルを能動的に探す人が減っているからだと言い,開発者の生存確率を上げるためには,きちんと生活できるビジネスを考えなければならないとした。そして開発者側もただ面白いゲームを作るだけでなく,その面白さを積極的に伝えていく必要があるという。
 また自分の“やりたいこと”とビジネスのバランスを取ることも大事で,どちらを主目的にするのかを定めることが秘訣だとも語っていた。事実,目下のところ氏は1年以上かけてタイトルを開発しているが,その間の生活は,これまでに作った別タイトルの二次利用などで賄われている。つまり自分が本当にやりたいタイトルと,稼ぐタイトルを明確に分けているのである。「きちんと意識しないと,1つのタイトルですべてやろうとしてしまう。それではどれも叶えられない」と,氏は話していた。

いたの氏制作の「お水のパズル a[Q]ua」。優しさを感じる水の表現で評価の高いタイトルだが,同作は最初から著名YouTuberに大きく取り上げてもらえることが決まっていたので,内容はかなり好きに作ることができたそうだ
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 一方,ところにょり氏は「自分のやりたいこと,好きなことが世間的にどれだけニッチなのか」ということに意識を向けるのが大事だと語った。ニッチすぎるとユーザー層が薄くなり,必然的に収益も少なくなる。だからといって人気の高いRPGなどのジャンルに参入しても,そうそう多くの人を満足させられるものは作れない。
 氏の場合,リリースしたゲームの収益で自身の生活を維持しつつ,次のゲーム開発の資金がまかなえるというサイクルが作れているそうなので,結果として現在のポジションはビジネスとやりたいことのバランスが取れた,いい落としどころとなっているとのことだった。

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 話題は,次にどういったビジネスを展開していくかという部分にもおよんだ。
 中道氏は,「今の日本にはアニメや映画,ボーリング,カラオケなど娯楽があふれかえっている」とし,その中で人々が“ゲームをやる理由”の一つとして,限られた時間の中で鍛錬し,大会に出て結果を残すというサイクルを持つeスポーツを挙げた。

 ただ,現状eスポーツの競技として選ばれるタイトルやジャンルで上位にランクされる選手達は,過去数年,場合によっては10〜20年プレイを続けてきた人達ばかりである。例えば「一か月後に賞金1億円の大会があるから」と,そのタイトルをプレイし始めたばかりの人が勝ち進むことはまずあり得ない。したがって,どうしてもエントリーのハードルが上がり,多くの人にとって“ゲームをやる理由”にはなりにくい。

 その一方で,中道氏の手がける「Last Standard」は,SNSを解析するという性質上,基本的にほかのプレイヤーの能力が分からないようになっている。大会上位に入るようなプレイヤーともなれば,その能力や戦術も広く知れわたってしまうだろうが,新たに始めたプレイヤーの能力は未知である。ひょっとしたら,前回優勝したプレイヤーの能力と戦術を封じるような能力を持った新参プレイヤーが現れるかもしれない。そして,それは自分かもしれないのである。

 したがって「Last Standard」であれば,「来週,大会があるから練習して参加してみよう」といった“ゲームをやる理由”が生まれやすいというのが,中道氏の考え方である。またSNSのアカウントを利用することによって,対戦ゲームにつきまとうチートやサブアカウントを使った初心者狩りといった問題にも対応しやすいのではないかとの見解も示した。
 以上をまとめて中道氏は,「今のゲーム市場,eスポーツ市場とは違う,数年先を見据えてビジネスを考えている」と話していた。

「Last Standard」
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 来場者からの質疑応答では,個人で活動していくモチベーションを保つために何をやっているのか,という質問が挙った。
 ところにょり氏は「自分で締切を設定し,そこに向かって作るしかない状況に追い込む」とし,「変に考え始めると『好きで作っているいるはずなのに,その意欲が湧かないのはおかしい』といったようなループに陥ってしまう」「締切がなければ世の中の本の数は10分の1になっていたかもしれない」との見解を示した。
 中道氏は「作っている中で,何か違うと思う瞬間が必ず来る」とし,「そうなったら真剣に自分のゲームをプレイする。そうすると,どこがアラなのかが見えてくるので,そこを直す。すると,これも直そう,あれも直そうと,やらなければならないことが次々に生まれる」と話していた。
 そしていたの氏が,「自分はゲーム作りが好きで,常に作りたいものがあり,朝起きてPCの前に座ったら,ゲームを作り始めるのが習慣になっている。そのため自分の場合は,モチベーションに頼ったゲーム作りではない」と語っていた。

 最後に黒川氏が,登壇者3名の今後の活躍に対する期待を語り,来場者の中からもぜひヒットタイトルを出すようなゲームクリエイターが生まれてほしいとして,トークを締めくくった。

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