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印刷2021/07/21 00:00

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[GDC 2021]「D&D第5版」から「ルート」まで。Board Game Design Summit2021のダイジェストをお届け

 2020年より名称も新たに「Board Game Design Summit」となった旧Board Game Design Dayだが,基本的な内容は以前と変化なく,GDCでボードゲームデザインについての知見が交換される中心的な場となっている。一つ大きな変化と言えるものを指し示すとすれば,2019年には「PCゲームデザインにも活用できる知見」に若干寄せられていたのに対し,もはやそういう縛りはほとんど感じられないということだろうか。
 本稿では,GDC 2021の初日に開催されたBoard Game Design Summitの模様をダイジェストでお伝えする。なおスケジュールのバッティングにより聴講できなかったセッションもあることは,どうかご了承いただきたい。

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D&D第5版における「没入」


 最初のセッションは「Creating Immersion in Tabletop Games(テーブルトップ・ゲームに没入感を与える)」。登壇したのはWizards of the CoastのGame Design DirectorであるMike Mearls氏で,彼は「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(以下,D&D)第5版のリードデザイナーでもある。
 この講演はD&D第4版から第5版への変更点を具体例としつつ,「テーブルトップ・ゲーム(このサミットではいわゆる“アナログゲーム”に対して慎重な用語の使い方をする講演者が散見された)において,どう没入感を作るのか」が論じられた。

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 Mearls氏はまずテーブルトークRPGの特殊性として「即興性の高いゲームであり,プレイグループのインタラクションによって命が吹き込まれるもの」と指摘。最も大事なのは個々のプレイヤー(GM含む)が作り出す体験であり,従ってテーブルトークRPGでは欠員が出た場合,「今日はクレリックがいない」ではなく,「今日は“あなた”がいない」という言い方になる。
 このインタラクションを支えるのがルールであるため,プレイヤーはしばしばほかのプレイヤーではなくルールブックを見てゲームを進行させることになるが,Mearls氏に言わせれば,「ルールを見るのはテーブルトークRPGの主眼ではない」のだそうだ。

 さて,ではこのような特性を持つゲームにおいて,「没入」とはどのような状況を指すのだろう。
 Mearls氏はまず,テーブルトークRPGには「プレイヤー」「キャラクターと設定」「ルール」の3つのレイヤーがあると指摘した。この3レイヤーが調和してこそ,プレイヤーはキャラクターのように思考し,感じることができる――つまり「没入している」状態だというのが氏の考え方だ。GMの仕事は,ルールや設定に即興で手を加えることで,この調和を維持することというわけだ。

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 さて,この3レイヤーを精査すると,それぞれ以下のような特徴が浮かび上がってくる。

  • プレイヤー:「なぜこのゲームを遊んでいるのか?」という問いに答えられる唯一の存在
  • キャラクターと設定:何ができるか/どこにいるのか/何をしなくてはならないのかを定義するもの
  • ルール:活動の限界を定めるもの。期待を作り上げるもの。プレイヤー間でのわだかまりに対する避雷針

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 このうち「ルール」だけは少し複雑なので,解説を加えよう。
 活動の限界を定めるというのは,最も分かりやすい要素だ。「キャラクターと設定」は「何ができるか」を定義するが,その限界を定めるのが「ルール」ということになる。
 「期待を作り上げるもの」というのは,例えばスタンダードな「D&D」を遊ぶなら剣と魔法のファンタジー世界における冒険が期待されるし,「STAR WARS ROLEPLAYING GAME」を遊ぶならスター・ウォーズ世界での冒険を期待する者がほとんどで,その逆は滅多にない。
 最後の「わだかまりに対する避雷針」は,ルールがない状態で「はい敵が奇襲してきた。あなたは死んだ」とGMが宣言するシーンを思い浮かべると分かりやすい。この状態では,プレイヤーはGMに(やもするとほかのプレイヤーに)怒りをぶつけるしかない。だがルールが介入することで,不意打ちに対する知覚判定があり,命中判定があり,ダメージ判定があり……といったプロセスが生まれる。この過程でプレイヤーは「ダイス運が悪すぎた」だったり「奇襲する側が有利すぎる,このシステムはクソゲー」だったりといった形で,GM以外のもの(つまりルール)に自分の不満をぶつけることができる。

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 ここから講演の中心は「3レイヤーを調和させるためのゲームデザイン技術」へと進んでいくが,以後はその中からいくつかをピックアップして紹介する。


ルールと世界を調和させる


 プレイヤーがルールを理解すると,キャラクターが世界を理解できるような構造を作る。例えば魔法が存在する世界であれば,プレイヤーが魔法のルールを使うことで,キャラクターは魔法を行使する。当然のように思えるかもしれないが,ルールの抽象度が上がりすぎると,ルールがより“ゲーム”に寄ってしまう。
 例えばマジックアイテムを3つまでしか装備できないというルールがあるのならば,そこには「キャラクターの魂とアイテムが同調することでアイテムを使えるようになるが,そのため同調できる数には上限がある」といった形で,世界とルールが調和していなくてはならない。

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ルール用語と世界観用語を一致させる


 世界観を表現するために凝った用語を使うのではなく,一般的な用語を使って世界とルールの両方を同時に表現する。いわゆる特殊能力的なものであっても,それぞれに特別な名前を与えるのではなく,より一般的な言葉を名前とする(「盾で殴る」「離脱する」など)。
 これによってルール用語で会話することが,そのままその世界で会話していることになる。もちろん用語が一般的すぎるために混乱が生じることはあり得るが,プレイヤーがより素早くゲームに入れることなどメリットのほうが大きい。

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 なお言うまでもなく,これらはMearls氏の見解であって,テーブルトークRPGにおける(あるいは「D&D第5版」における)唯一無二の真実というわけではないということには注意が必要だ。また「D&D第5版」は「D&D」という長い歴史を背負っているからこそ,あえてそうしている(D&Dっぽくしている)側面もあると氏は指摘している。

 なお個人的には,この講演に限らず「Rough Edge(ラフ・エッジ)」という言葉がさまざまな登壇者の口から出るようになったのが印象的だった。本講演においては,「ルール的にいまひとつ美しくなくても,それがD&Dっぽさを作る,一種のラフ・エッジとして機能する」といった形で用いられていた。
 この言葉は2017年のGDCで行われた「Hearthstone」のリードデザイナー・Eric Dodds氏の講演から普及し始めた言葉だと思われ,GDCという場での知見の共有と,その重なりを感じさせられる一例でもある。


ボードゲームのアートディレクション


 ボードゲームのグラフィックスデザインに言及する講演も複数行われた。なかでも最もこのテーマに集中していたのがGeorge Mason大学のGregory Grimsby准教授による「Art Direction for Board Games: Creating Compelling and Effective Visual Designs(ボードゲームのアートディレクション:説得力のある効果的なビジュアルデザインの創造)」だ。

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 この講演では,ボードゲームのアートディレクションにおいて重要となる4つの要素について解説された。以下,その内容をかいつまんでお伝えしよう。


機能性vs.美術性


 機能的であることと美的であることはつながっていて,100%機能的なところからスタートしても構わないし,100%美的であるところからスタートしても構わない。重要なのは最終的なバランスであり,機能的でありつつも美的であることだ。
 そして実際のところ,「美的でもあってほしい」というのはプレイヤーが持つ強い要望のひとつでもあるとGrimsby氏は指摘する。このことは,日本のアマチュア制作においても,なんのかんのでボードゲームがより「美しく」なっている傾向とも一致する。
 ただし,これは断じて機能性を犠牲にして良いという話ではない。むしろ「よりシンプルであるほうが望ましい」し,「どちらが良いかと悩む状況においては,よりシンプルなほうが良い」のである。アートディレクターの仕事は,必要な情報を殺すことなく,それをより没入感のあるものへと導くことだとGrimsby氏は語っていた。

左端がKickstarter開始時のサンプル。最終的に右端のようなカードになることをプレイヤーも期待していたという
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上手く白地を使うことで情報過多を避けている。荒々しい線はコナンが持つ野蛮さを感じさせる
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ビジュアルの階梯


 最も重要なものを最もしっかりと見せる必要があり,重要性が下がるに従い“見せる”優先度は下がっていく。
 この段階を実際に作るにあたってはコントラストを使うのが効果的だ。一つだけ離れている,一つだけ色が違う,一つだけ大きいといった表現は,その「一つだけ」に対して人間の注意を引きつける。
 この優先順位付けがうまくいっているかどうかは,仕上がったデザインの細部ではなく,全体を見つめることによって判別が可能だとGrimsby氏は指摘した。色合いや文字の大きさなどの兼ね合いで情報が判読しにくくなっているようであれば,デザインとしては失敗だ。
 またコントラストを作るにあたっては,「背景に何も置かない」(白背景にする)ことも有効だ。カードの機能を示すテキストであれば,なにもボックスで囲わなくても,「そのカード全体の中で,唯一の大きな白背景の部分」に書かれていることによって,よりテキストは読みやすく,注意も向きやすくなる。
 なお優先順位を考えるときは,実際のゲームプレイの風景もちゃんと想像しなくてはならない。例えばプレイヤー全員が把握すべき数字は,大きく表示されていなくてはならない。

一つだけ離れている
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大変に興味深い例外。強調されている生物がいるにも関わらず,なぜか目が描かれている生物に視線が行ってしまう
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このような状態はよろしくない
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枠を廃し,ただの白背景を使うことで,よりスッキリとしたデザインになっている
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アフォーダンス(ビジュアルが持つ意味)


 「これはきっとこのように使うのだろう」「このような仕掛けになっているに違いない」と直感させるデザイン。
 ボードゲームであれば,ゲームで使う特定のコマを置く場所は,そのコマの形状と同じ図形を描いておくことで,プレイヤーは直感的に「この形のコマは,ここに置くのだろう」と判断できる。矢印や色によってコマの動きを示唆するケースもあるし,使い方が限定されるアイテム(玩具の銃など)は「これはどう使うのだろう?」と悩むことが少ない。
 アフォーダンスとビジュアルの階梯,そして「シンプルなほうが望ましい」という原則を適用することで,ゲームはより快適にプレイできるものとなる(ちなみに別の講演では「アフォーダンスが予期せぬ方向に機能した例」も語られたが,これは後述する)。

見ただけで「だいたいこうするのかな? こう動かすのかな?」が推測できるデザイン
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説得力のあるアート(=アートスタイル)


 ゲームのビジュアル(色使い,線,テクスチャ,形状など)には一貫性が必要となる。そしてその一貫性は,“このゲームをどういう人達に遊んでほしいか”に強く依存する。
 例えば同じハリー・ポッターをテーマとしたゲームでも,重量級のゲームであればより写実的に,子供向けの軽いゲームならより等身を下げたシンプルなキャラクターで表現する。
 この際,想定されるプレイヤーには,なるべく具体的なイメージが必要だ(年齢やほかにプレイするゲームなど)。またターゲットによってはノスタルジーを刺激するようなアートスタイルも有効となる。

ハリー・ポッターのゲームにおけるビジュアルいろいろ
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類似したテーマのゲームでも,対象年齢によってこれだけ差が出る
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 全体に駆け足の講演だったが,具体的なノウハウが詰まっており,実際にボードゲームのグラフィックデザインをしてみたい/改善したいという人にとっても有益な講演であったように思う。


ハイブリッド・デジタル・ボードゲームとは?


 近年,「スマートフォンのアプリといったデジタル機器の利用をゲームシステムの一部として組み込んだボードゲーム」が増加傾向にある。「Making Sense of Digital Tools In Modern Board Games(モダンなボードゲームにおけるデジタルツールの活用)」と題された講演では,Melbourne大学のMelissa Rogerson氏が,これらのゲームを「ハイブリッド・デジタル・ボードゲーム」(以下,HDB)と命名し,そのデザイン傾向や受け入れられかた,デザインの可能性,そして現状においてデジタル機器がどのようなメカニクスとして利用されているかの調査報告が行われた。
 ちなみにHDBの定義には,「アプリ化されたボードゲーム」は含まれないことに注意したい。あくまで「デジタル機器をゲームメカニクスの一部として使うボードゲーム」でなくてはならない。過去に筆者がEssen Spielで取材した作品としては,「Soviet Kitchen」がこれに該当する。

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 まず興味深い調査結果として,250名ほどの調査対象(いずれもボードゲームが好きな人達)の傾向として,HDBが何か新しいゲームの可能性を切り開いているとは感じてはおらず,HDBをあくまでボードゲームの変種(ないし極端にネガティブな場合「こんなものはもはやボードゲームではない」)と捉えていることが分かったという(調査は2018年)。
 ただし分布を見てみると,「新しいゲームではない」と感じている人は明らかに多いが,ゲームそのものに対しての印象はネガティブからポジティブまで非常にまばらに広がっている。つまり少なからぬゲーマーにとって「まだ評価できない」段階であると考えられる。

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 続いてHDBでデジタル機器が用いられているゲームメカニクスには,大きくわけて8分野,41種類があることが示された。41種類すべてを挙げるのは紙幅の都合上厳しいので,ここでは8分野に絞って紹介しよう(興味のある方はスライドを確認いただきたい)。

  • Timing:制限時間だったりイベント発生までのタイマーだったりの代替
  • Randomizer:サイコロの代用
  • Housekeeping:コンポーネントを適切に移動させたり取り除いたり
  • Informing:情報を伝えるだけでなく,「まだ伝えてはならない情報を伝えない」方向にも利用される
  • Storytelling:効果音なども含む。ビデオゲームのカットシーンに近い使われ方
  • Remembering:ゲームの状態を記録する。「実績」なども含まれる
  • Calculating:理論上は巨大なテーブルで処理することもできるが,現実的に考えればコンピューターに計算させたほうが合理的
  • Teaching:ゲームのインストラクション(遊び方の説明)を人間に代わって行う

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 これらは「すべての要素を使わねばならない」というものではなく,ゲームによって必要な要素がそれぞれ使われることになる。また使われ方の比重もゲームによって異なる。
 さらにゲームデザイナーに対するインタビューでは,以下のような指摘が目立っていた。

  • ゲームの経過を記録できるのは良い(正確なアンドゥができることには大きな可能性がある)
  • コンポーネントの一部が喪失するといった事態を避けやすい(ただしアプリの配信が止まることでプレイ不能になる可能性もある)
  • プレイヤーはあくまでゲームボードやほかのプレイヤーとのやりとりに集中したがっていて,デジタル機器はその補助として使われるケースが多いし,そのほうが良いのではないか
  • GDPR(EU一般データ保護規則)などデータ・プライバシーについて考える必要はある
  • ゲーマーは有体物を触ってゲームをすることに強い執着を示すことには注意が必要
  • アプリの制作とメンテナンスが大変で,継続的にコストがかかることをビジネスモデルに組み込まないと危険
  • プレイヤーはボードゲームに対し,永遠に存在するものだというイメージを強く持っており(事実,祖母から孫へと受け継がれるようなケースもある),HDBが“サービス終了してしまう”危険は,過剰に高く見積もられる傾向がある
  • HDBのアクセシビリティ(および可能性)は,もっと深く考える必要がある

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 講演の最後にRogerson氏が指摘するように,この分野はまだまだ研究が進んでおらず,調べるべきことは極めて多い。実際,Rogerson氏の研究には「ゲームを実際に遊んでみる」段階も含まざるを得なかったのが現状だ(どこにもまとまったレポートなどがないため)。
 一方,HDBそのものがまだまだ黎明期という側面もある。若きゲーム研究者向けの研究対象として,なかなか興味深い題材であるように感じられた。


「ルート」の制作振り返り講演


 Board Game Design Summit2021のラストを飾ったのは,「'Root': A Usability Post-Mortem(「ルート」:ユーザビリティの反省会)」と題された講演だ。登壇したのはLeder GamesのJoshua Yearsley氏。これはタイトルどおり,ボードゲーム「ルート」の遊びやすさについて振り返る講演となっていた。
 ちなみに,講演はあくまでさまざまな「うまくいかなかった点」に集中したものだ。本作は大きな成功を収めた作品であるが,そんなタイトルでさえ,うまくいかなかった点が無数にあったという。そういう意味でも大変に意義深い講演と言える。
 が,すべての項目について詳述するときりがないので,いくつかのトピックのみを取り上げる。

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予想外のアフォーダンス


 本作では「これはこうするものだろう」という予想が,間違った方向に誘発されてしまったケースが多々あったという。
 例えばこちらのゲームシステムだが,チットを取り除くと勝利点が2点入る……というのは,なんとなく推測できるデザインだろう。だがこれは間違ったアフォーダンスを惹起した。もし取り除いたチットが戻ってきたら,勝利得点が減るのではないか?(=だって+2が消えるのだから)という理解を導いてしまったのだ。この問題は解決できず,最終的には「勝利得点は減らない」という追記をする必要が生じた。

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 さらに興味深い「間違ったアフォーダンス」としては,「ちょっとしたルールの覚え書き」が誘発したものもある。
 本作は4つの異なる勢力をそれぞれ別のプレイヤーが受け持つゲームだが,勢力ごとに用意されたボードの1つに,「建物を建てるか,アイテムをクラフトすると勝利得点を得る」という覚え書きが示されていた。
 この覚え書きは本当にただの覚え書きであって,それ以上の意味はないつもりだったという。だがテストプレイをしてみると,多くのプレイヤーが「建物を建てたり,アイテムをクラフトしたりすると,勝利点2を得る」と理解し行動した。それはなぜか。

 理由は簡単で,このボードには勝利条件に関する覚え書き以外,すべて何らかの行動を促すための情報が記されていたからだ。これを読んだプレイヤーは,ほかのルールと合わせて「なるほどこの勢力は建物を建てると1点入って,この特殊ルールによってさらに1点得るのだな」と理解したわけだ。
 これは「プレイヤーが文脈に引っ張られた」形で,間違ったアフォーダンスが生まれてしまったケースであるとYearsley氏は分析した。

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最終的に,覚え書きだけが詰まったカードに問題の一文は移動し,プレイヤーは適切な勝利点を得るようになった
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 もう一つ,文脈にひっぱられて発生した問題として「ジャンルにおける常識」の激突による炎上(?)があったという。
 本作は,ハードコアなウォーゲームと,カジュアルなボードゲームを融合させた作品である。そしてこの融合がうまくいった結果,デザイナー達の想像の範囲を超えることが起こった。ジャンルを融合させたら,それまで異なるジャンルに棲んでいた,異なる種類の文化を持つファンが,一か所に集まることになったのだ。
 結果,本作のルールブックをめぐり,ボードゲーム情報サイト・BoardGameGeekのBBSは荒れに荒れた。

この2つを融合させようというのだから,そもそもが大いなる野望だ。ちなみにウォーゲームとボードゲームの融合は,故鈴木銀一郎先生の見果てぬ夢でもあった
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白熱したスレッドの跡地
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 実際に起こったのは,以下のような戦いだ。
 本作にはウォークスルー/サンプルプレイ/ルールブックの3つを通じてルールが提供されているが,このルールブックは完全にウォーゲームの文法と文化に則って作られていた。つまり文字が密生していて,文章は非常に硬く,解説イラストは少なく,イメージイラストに至ってはほぼ皆無だ。
 このルールブックは,ウォーゲームの世界から来たファンにとっては「非常に明確で分かりやすい」ものだったが,ボードゲームの世界から来たファンにとっては「こんなものはゲームではない」代物でしかなかった。かくして文化の違う2つの集団は,掲示板を舞台に祭りを始めたというわけだ。

よくあるタイプの,ウォーゲームのルールブック
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戦争の再現フィルム
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 そして悪いことに,ここにはもう一つのミスも絡んでいた。
 この「文化の違い」は,実際のところ完全に見過ごされていたリスクというわけでもなく,シンプルに書かれた「ウォークスルー」は,まさにこうした“ボードゲームの世界から来たファン”に向けて用意されたものだったのだ。
 だがこのウォークスルーは,うまく機能しなかった。なぜならボードゲーマーにとってみると,「何をするかは分かった。でもなぜそれをするのか?」という点が示されていないウォークスルーだったからだ。ボードゲーマーはルールに対して,暗にこういった意味を求める傾向があるのである。
 最終的にこの問題はクイックガイドに「なぜそれをするのか」という文脈が盛り込まれることでいったんの解決を見たが,異なるジャンルのユーザーを一箇所に集めるリスクは,想像していたよりも高かったのだ。

機能しなかったウォークスルー
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 このように「幅広いオーディエンスを集める」ことを行いながらも,非常にうまくコミュニティを育てている例として,Yearsley氏はParadox Interactiveを挙げた。曰く,「初代『Crusader King』(以下,CK)の頃は,『これはどうなんだ』と僕ですら感じたが,『Crusader King 3』に至ってゲームそのものはもちろん,WikiやYouTube,Discordチャンネルなど,とても充実した状態にある」とのことだ。この評価は,比較の対象を踏まえると十分に頷けるものだろう。……筆者としては「そこでCKが出てくるようだから,ああいう燃え方をするんだぞ」と思わなくもないのだが。



 以上が2021年のBoard Game Design Summitのダイジェストとなる。
 日本においても,ボードゲーム制作にフォーカスした技術カンファレンスなどの試みは,一部ではすでに始まっており,好調なスタートを切っている。国内外の双方のイベントの発展を祈りつつ,将来における知見の交換会なども期待して,本稿の結びとしたい。

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