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AMD,「Ryzen Desktop 2000」CPUを正式発表。動作クロックが向上し,メモリ周りの最適化が進んだ第2世代モデル
クロックが上がり,DDR4-2933メモリコントローラを統合する第2世代Ryzen
正式発表となったRyzen Desktop 2000シリーズのラインナップと主なスペックは以下のとおりだ。
CPUパッケージは従来どおりのAM4。対応チップセットとして新しい「X470」をAMDは発表しているが,「X370」や「B350」といった第1世代Ryzen用チップセット搭載マザーボードでもUEFI(≒BIOS)を更新すれば基本的に利用可能だ(※なぜ「基本的に」なのかは後述する)。
- Ryzen 7 2700X:
8コア16スレッド対応,定格3.7GHz,最大4.3GHz,共有L3キャッシュ容量16MB,倍率ロックフリー,デュアルチャネルDDR4-2933メモリコントローラ統合,TDP 105W,Wraith Prismクーラー付属,北米市場におけるメーカー想定売価329ドル(税別) - Ryzen 7 2700:
8コア16スレッド対応,定格3.2GHz,最大4.1GHz,共有L3キャッシュ容量16MB,倍率ロックフリー,デュアルチャネルDDR4-2933メモリコントローラ統合,TDP 95W,Wraith Spireクーラー付属,北米市場におけるメーカー想定売価299ドル(税別) - Ryzen 5 2600X:
6コア12スレッド対応,定格3.6GHz,最大4.2GHz,共有L3キャッシュ容量16MB,倍率ロックフリー,デュアルチャネルDDR4-2933メモリコントローラ統合,TDP 95W,Wraith Spireクーラー付属,北米市場におけるメーカー想定売価229ドル(税別) - Ryzen 5 2600:
6コア12スレッド対応,定格3.4GHz,最大3.9GHz,共有L3キャッシュ容量16MB,倍率ロックフリー,デュアルチャネルDDR4-2933メモリコントローラ統合,TDP 95W,Wraith Stealthクーラー付属,北米市場におけるメーカー想定売価199ドル(税別)
AM4プラットフォームでは,第1世代Ryzenに加え,2月には「Ryzen Desktop Processor with Radeon Vega Graphics」(以下,Ryzen 2000G)が加わったことで,一時的に製品数がかなりの数に上っていた。そのためPCユーザーにとってもAMDのOEMとなるPCメーカーにとってもラインナップが分かりにくくなっており,Ryzen 2000シリーズの投入に合わせてこれらを整理した結果,最上位のモデルナンバーが2700になったのだという。
ちなみに,ラインナップ整理の対象になったのは主に下位モデルで,「エントリークラスでは統合型GPUのニーズが大きい」(Lensing氏)ため,2000番台のRyzenにおける下位モデルはAPUが主体になるそうだ。
以上を踏まえてあらためてRyzen Desktop 2000シリーズを見てみると,Ryzen 7 1800Xを置き換える最上位モデルのRyzen 7 2700Xは定格3.7GHz,最大4.3GHzという動作クロック設定となる。Ryzen 7 1800Xだと順に3.6GHz,4.0GHzだったので,とくに最大クロックが大きく向上している。
また,メモリ性能がCPUの総合性能を左右するZen系マイクロアーキテクチャにとって重要なこととして,デュアルチャネルDDR4メモリコントローラのスペックが向上した点もトピックと言えるだろう。Ryzenは組み合わせるメモリモジュールによってアクセス速度が変わるわけだが,その関係は以下のとおりとなる。
- 総メモリスロット数2または4,シングルランクモジュール数2:DDR4-2933
(※マザーボードが6層基板を採用している場合。4層基板の場合はDDR4-2667になる) - 総メモリスロット数2,デュアルランクモジュール数2:DDR4-2667
- 総メモリスロット数4,デュアルランクモジュール数2:DDR4-2400
- 総メモリスロット数4,シングルランクモジュール数4:DDR4-2133
- 総メモリスロット数4,デュアルランクモジュール数4:DDR4-1866
TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)はRyzen 7 2700Xが105W,Ryzen 7 2700以下が95W。Ryzen 7 1800Xは95Wなので,Ryzen 7 2700Xのみ第1世代Ryzenの上位モデルより10W高くなっている。
既存のAM4マザーボードは電源部が95WというTDPに合わせて設計されているため,Ryzen 7 2700Xを差したときに電源周りのトラブルが生じるのではないかと不安を覚えるかもしれないが,この点についてAMDの担当者は「既存の『X370』『B350』チップセット搭載マザーボードで承認作業を行っているが,問題は起きていない」と述べていた。X370マザーボードであれば電力プロファイルに十分な余裕があるため,105WというTDP仕様のRyzen 7 2700Xを取り付けても電力的には問題ないというのがAMDのスタンスというわけだ。
なお,Ryzen 7 2700Xを含むRyzen 2000シリーズでの動作検証済みの300シリーズチップセット搭載マザーボードには専用のバッジが与えられるとのこと。第1世代Ryzen用に購入したマザーボードでRyzen 7 2700Xを使いたいと考えている場合は,マザーボードメーカーの製品情報ページをチェックするといいだろう。
本稿の冒頭で,従来世代向けチップセット搭載マザーボードでも「基本的に」利用可能とした理由はこれである。
動作クロックの引き上げとメモリ周りの最適化がキモに
以上,スペック面の主だった特徴をざっくりまとめたが,アーキテクチャ面で最大の特徴となるのは,Ryzen Desktop 2000シリーズがAMD製品として初めて12nmプロセス技術を用いて製造されるCPUとなる点だろう。
もう少し具体的に紹介すると,Ryzen Desktop 2000シリーズの製造でAMDはGLOBALFOUNDRIESの「12nm LP」プロセス技術を採用している。LPは「Leading Performance」の略で,つまりは高い性能を必要とする半導体向けの製造技術だ。
第1世代RyzenやRyzen 2000Gの製造でAMDはGLOBALFOUNDRIESの14nm LPP(Low-Power Plus)プロセス技術を採用しているので,Ryzen Desktop 2000シリーズでは高集積化を1段階進めた格好だが,非常に面白いのは,トランジスタ数,ダイサイズとも「第1世代Ryzenと同じ」とAMDが紹介していることである。つまりはトランジスタ数48億,ダイサイズ192平方mm2だ。
ダイサイズが小さくなり,製造コストが下がるというのはプロセス技術微細化のメリットとしてよく言われるが,Ryzen Desktop 2000シリーズの12nm LPプロセス技術に,ダイサイズ周りのメリットはないということになる。
では12nm LPの恩恵は何なのか。AMDは以下のとおりまとめている。
- 最大動作クロックが250MHz向上
- オーバークロック設定により全コア4.2GHzの動作が可能
- 同じ動作クロックなら14nm LPPプロセス技術比で動作電圧50mV低減
結果として,14nm LPPプロセス技術と比べて同じ動作クロックなら11%の消費電力低減を,同じ消費電力なら16%の性能向上を成し遂げているとのことだ。
ちなみに,AMDのJoe Macri(ジョー・マクリー)CTO兼コーポレートフェローは,第2世代RyzenのCPUコアマイクロアーキテクチャであるZen+について「第1世代(のZenマイクロアーキテクチャ)から基本的に変わりはない」と述べていた。トランジスタ数が第2世代と第1世代とで変わらないのは,マイクロアーキテクチャレベルでほぼ変わっていないためという理解でよさそうだ。
ただし,「基本的に」変わっていないだけで,まったく変わっていないわけでもない。設計の最適化によってZenマイクロアーキテクチャに対し,
- L3キャッシュアクセス遅延:最大16%の改善
- L2キャッシュアクセス遅延:最大34%の改善
- L1キャッシュアクセス遅延:最大13%の改善
- メモリアクセス遅延:最大11%の改善
を実現し,結果としてクロックあたりの性能(IPC:Instructions Per Clock)は3%向上したという。3%というクロックあたりの性能向上を体感できるかどうかはさておき,第1世代Ryzenの弱点でもあった大枠でのメモリ周りに手が入ったことは歓迎すべきではなかろうか。
Macri氏は,Zen+においてDDR4-2933をサポートしたことについて,「Infinity Fabricはメモリクロックに同期するので,より高速なメモリに対応したZen+では総合的に性能が向上している」とも述べていた。
ちなみに,第1世代のRyzenではメモリクロックのオーバークロック難度が高いという問題があったというLensing氏によると,Ryzen 2000シリーズでは「(オーバークロックメモリモジュールを組み合わせる場合)DDR4-3200設定まではほとんどの場合問題なく動作する」とのことだ。第1世代Ryzenではけっこうな相性問題が出ていただけに,メモリモジュールのオーバークロック動作は行いやすくなっているという理解でいいのではなかろうか。
高クロックを維持しやすくなったPrecision Boost 2とXFR2
Ryzen 2000シリーズの高クロック動作を支えるのが,自動オーバークロック機能「Precision Boost 2」だ。「2000番台のモデルナンバーを持つRyzenの新機能」としてRyzen 2000Gシリーズが先行採用しているため,細かな説明は不要かもしれない。
第1世代Ryzenの採用する「Precision Boost」では,最大クロックで動作する条件として「2スレッド(≒2コア)まで」という制限があった。それに対してPrecision Boost 2では,消費電力とCPUコア温度,コア電圧という「CPUが置かれている状況」を判断して動作クロックを決定するという仕様に一新となった。
条件さえ整えば3コア以上が最大クロックに達し,また負荷のかかるコアの数が増えてもPrecision Boostと比べて動作クロックの低下が緩やかになるというのが,AMDによるPrecision Boost 2のアピールポイントだ。
一方,モデルナンバーの末尾に「X」が付いたRyzen 7 2700XとRyzen 5 2600Xが実装する「XFR2」(Extended Frequency Range 2)は,CPUコア温度が十分に低ければスペック上の最大クロックを50MHz超えて動作する機能である。
第1世代のXFRよりも効きやすくなっており,冷却条件を調(ととの)えることでさらに高い性能が得られるという。
Precision Boost 2やXFR2により高いクロックで動作するRyzen 2000シリーズは,競合となるIntel製CPUよりも優れた価格対性能比を持つとAMDはアピールしている。
とくにマルチコアが効果的なクリエイティビティ系のアプリケーションではライバルを圧倒するとのことだ。
一方,マルチコアが必ずしも有効でないゲームを前にしてもRyzen Desktop 2000はIntel製CPUに対して肩を並べるとAMDはアピールしている。
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オーバークロック耐性や価格対性能比もアピール対象
冒頭で紹介したとおり,Ryzen Desktop 2000シリーズは4製品とも倍率ロックフリー仕様となっている。
事前説明会でLensing氏は,ヒートスプレッダとシリコンダイの間でソルダリングを用いていることもアピールしていた。
デスクトップPC向けCPUやAPUでプロセッサダイとヒートスプレッダの間を埋める熱伝導素材は一般にソルダリング(soldering,はんだ)とシリコングリス(grease,潤滑油)があり,前者のほうが熱抵抗値が低く,冷却には向いているので,倍率ロックフリーとソルダリングの合わせ技で,冷却しやすく,ひいてはオーバークロックさせやすい製品になっているとLensing氏は言っているわけである。
第1世代Ryzenもソルダリングだったが,わざわざあらためて明言する背景には,ライバルのCore i7 8000番台,そしてRyzen 2000Gがシリコングリスを封入しているためだろう。
Ryzen Desktop 2000シリーズは純正オーバークロックツール「Ryzen Master」のバージョン1.3をサポートすることも明らかになった。
Zen系マイクロアーキテクチャでは,1基あたり容量512KBのL2キャッシュを持つCPUコアを4基と,これらCPUコアで共有する容量8MBのL3キャッシュをまとめてCPUモジュール「CPU Complex」(公式略称「CCX」,以下略称表記)を構成するが,バージョン1.3以降のRyzen MasterではCCX単位のオーバークロックが可能になるそうだ。
また13日の記事でもお伝えしているとおり,Ryzen Desktop 2000シリーズでは全製品に純正クーラーが付属するというのも大きなトピックとなる。なかでもRyzen 7 2700Xに付属する「Wraith Prism」(レイスプリズム)クーラーは高い冷却性能と静音性を併せ持つという。
ちなみに,事前説明会でLensing氏は,Wraith Prismは市場価格にして60ドルの価値を持つとしたうえで,Core i7-8700Kにクーラーが付属していないことに触れ,「Ryzen 7 2700Xの価格は329ドルと,この時点でCore i7-8700Kより安価だ。それでいて60ドルのクーラーまで付いてくる。どちらがお得かは火を見るより明らかだろう(笑)」と述べていた。
CPUクーラーを自前で用意するタイプの人だと「その分安くしてくれ」と思うかもしれないが,初めてAM4プラットフォームに触れるPCユーザーにとって純正CPUクーラーが付いてくるのはやはり便利だ。全ラインナップでCPUクーラーが同梱となることは歓迎していいのではないかと思う。
X470の新要素「StoreMI」
冒頭で名前だけ挙げたX470チップセットについても事前説明会では話を聞くことができた。
結論から先に言うと,基本的な仕様でX470とX370との間に大きな違いはない。Ryzen 7 2700Xの105WというTDPに合わせた電力プロファイルにチップセットレベルで対応するというのがX370との最も大きな違いである。
一方,機能面では1つ,X470の新要素がある。それが「StoreMI Technology」(以下,StoreMI)だ。
StoreMIは,SSDを使ってHDDのアクセラレーションを行う機能である。もっとはっきり言うと,その“中身”は,AMDがCES 2018で発表したEnmotus製のHDD高速化ソリューション「FuzeDrive for Ryzen」とほぼ同じものである。
一方のStoreMIだと,順に最大256GB,最大2GB,無制限なので,なんと無償でありながら有償版FuzeDrive for Ryzenより高機能だ。X470ならではの機能としてはかなり有用と言っていいのではなかろうか。
StoreMIではHDDキャッシュとして256GBまでのNVM ExpressもしくはSerial ATA接続型SSDを利用できる。レビュー記事で紹介しているように,Intelの「Optane Memory」も利用可能だ |
相対的に容量の小さなSSDをCドライブに,容量の大きなHDDをDドライブにするというケースは多いと思うが,StoreMIであればこれらSSDとHDDをまとめて1つの高速かつ大容量のCドライブとして利用できる |
AMDはStoreMIによってHDDの速度をSSDとほぼ同等のレベルまで引き上げられると主張している。
同時にレビュー記事を掲載済み。Ryzen 2000の性能が気になるならぜひ確認を
一方,新チップセットのX470は,ハードウェアレベルだとX370と大差ないものの,X370環境では有償のFuzeDrive for RyzenをStoreMIとして無償利用できるというメリットがある。
4月13日掲載の記事でお伝えしているとおり,4GamerではRyzen 7 2700XとRyzen 5 2600Xの評価キットを入手済み。本稿の掲載と合わせて,主にゲーム性能を見るレビュー記事を掲載しているので,興味のある人はぜひそちらもチェックしてもらえればと思う。
「Ryzen 7 2700X」「Ryzen 5 1600X」レビュー。高クロックになった第2世代Ryzenは,そのゲーム性能でついに競合を捉える
AMD公式Webサイト
- 関連タイトル:
Ryzen(Zen,Zen+)
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