レビュー
骨太さと平易さを兼ね備えた,故き良きドイツボードゲーム
王と枢機卿
ゲームデザインを手がけたのは「Coloretto」「Zooloretto」などでしられるMichael Schacht(ミヒャエル・シャハト)氏。ドイツでは2000年に発売され,その年のドイツゲーム年間ゲーム大賞候補に選ばれたほか,ドイツゲーム賞で8位選出という実績を持っている。後に舞台を中国へと移したリメイク版が「China」という名前で発売され,こちらも話題を呼んだ。
見た目の重厚さはいかにもドイツゲームといった印象だが,内容はいたってシンプルで,ゲームの進行もスピーディー。日本語版が登場したことで入手もしやすくなり,ドイツゲーム事始めに最適……というわけで,今回はこのタイトルの魅力について迫っていこう。
ゲームフィールド「王と枢機卿」販売ページ
欧州の各地に自身の地歩を築け
先にも述べたとおり,「王と枢機卿」は「修道院の建設」と「枢機卿の派遣」という二つの行動を通して欧州におけるプレイヤーの影響力を高め,そのポイントを競うというゲームだ。修道院と枢機卿は,ポイントを得る手段という意味では共通しているものの,その効果には違いがある。そこについては後述するとして,まずはその使い方について解説しよう。
修道院を建築するにせよ,枢機卿を派遣するにせよ,これらの行動を行うためには,各地域の色毎に分けられた「地域カード」が必要になる。地域カードはゲーム開始前に予め各プレイヤーに3枚ずつ配られ,手番が終わる度に山札から手札が3枚になるまで補充される。基本的に,プレイヤーは自らの手番時に,これらの手札から地域カードを出し,該当地域に修道院コマや枢機卿コマを配置していく。
地域カードとコマは基本的に1:1の関係になっており,手札1枚でコマ1つが配置できる。ただし例外として,同じ色の手札を2枚用いることで,“その色以外の地域”にコマを1つ配置することもできる。
プレイヤーが手番で消費したカードは捨て札として扱われ,補充により山札がなくなった時点で「中間決算」となりゲーム前半は終了。一度ポイントの計算が行われた後,再度捨て札から山札を作り直し,後半戦がスタートする。作り直した山札が再度無くなれば「最終決算」となり,その時点で最も総合点数の高いプレイヤーが勝利する……,というのがひと通りのゲームの流れだ。
ここで重要になってくるのが,先にも少しだけ触れた修道院コマと枢機卿コマの違いだ。最終決算においてはどちらもポイントの源となる両者だが,中間決算でカウントされるのは修道院コマのみ。というわけで前半戦では修道院の建設を優先し,枢機卿には後半戦にご活躍を願うことになる。
そのほか,コマを配置するにあたっては以下のような制限がある。
- 1手番でコマを置くことができる箇所は,1つの地域に限定される。
- コマが1つも置かれていない地域には,1手番で1個だけしかコマを置くことができない。
- すでに1つ以上のコマがある地域であっても,1手番でおけるコマは最大2個まで。
- 修道院コマは,マップ上に描かれた修道院マーカーに置く。マーカー1つにつき,置けるコマは1つまでで,空きがない場合には置くことはできない。
- 枢機卿コマは,「その地域で最多を占める色の修道院」と同数までしか置くことができない(その制限内であれば,置くことは誰でも可能)。
時は12世紀の欧州。すなわち,飛行機や自動車で移動するわけにもいかないためか,1回で布教できる地域は1つまでというわけだ。それなら異なる地域に複数の宣教師を派遣すればいいだけの気もしてならないが,きっと宣教師の人員不足なのだろう。この布教活動に関わっている宣教師団は,恐らく「権藤,権藤,雨,権藤」といった勢いで酷使されていることがうかがい知れる。合掌。
また宗教未開の地に宗教を布教するというのは,いわば日本にキリスト教を布教しにやってきたフランシスコ・ザビエルのようなもの。時の権力者に「キリシタン弾圧!」と目くじらを立てられないためにも,まず地道に橋頭堡を築くところから始めなければならない。枢機卿コマが修道院がない地域に置けないことも,宗教未開の地では枢機卿といえどもただのオッサンであり,まったく顧みられない存在であるという哀愁が伝わってくる。
話が若干脇に逸れたが,ともかく布教活動には制約があり,かくしてプレイヤーは,その中での最適解を模索していくこととなる。
密集地帯に介入せよ!――ポイントにまつわる駆け引きの数々
では,実際にはどんな風に布教していけば良いのだろう。それを考えるにあたっては,まず「ポイント計算の仕方」について知っておく必要がある。
まず修道院は,「各地域ごとに建てた修道院の数」が基準となり,多く建設したプレイヤーから順にその恩恵が与えられる仕組みだ。例えばその地域の1位ならば,そこに建てられたすべての修道院の数と等しいポイントが得られる。2位ならば,1位のプレイヤーが建てた修道院の数と同数のポイントを得られる。以下,3位ならば2位のプレイヤーが,4位ならば3位のプレイヤーが,それぞれ建てた修道院の数がポイントとなる。
さて,このポイント計算の方法だと,必ずしも地域において1位を取ることが最重要ではない,ということに気づいただろうか? 仮に宗教未開の地で1つだけ修道院を立てて1位になったとしても,それは1点にしかならない。だが,1位のプレイヤーが3つ修道院を建てている地域で1つ修道院を建てて2位になれば,それは3点を得る行動となり,前者と較べてポイント効率は3倍である。修道院は中間決算の対象でもあるので,早めに点数行動がとれれば,6点行動にもなりうる……というわけだ。
こういった競争率の高い密集地帯を作りつつ,いかに漁夫の利を得るべく立ち回るか。これが本作のキモとなる部分だ。1位を目指すのか,そこはあえて2位でよしとするのか,そもそもこの地域に介入するべきか否か。こういった駆け引き,戦略思考を楽しむのが,このゲームの醍醐味といえる。
■枢機卿による「同盟」を活かせ!
修道院によって地盤を固め終わったら,次は枢機卿を派遣する番だ。枢機卿は,修道院と同じく地域カードを用いることで,「その地域で最多を占める色の修道院と同数」まで派遣可能だが,コマを置く場所は,各地域に刻まれた紋章の上となる。だが,枢機卿は修道院とは違い,単体ではポイントとして計算されない。枢機卿をポイント源とするためには,彼らを複数派遣することによって,地域間の「同盟」を結ぶことが必要になるのだ。
では,どうすれば地域間の同盟を結べるのか? 同盟を結ぶためには,前提として同盟の対象にしたい地域両方に枢機卿が派遣されていなければならないが,このほかにボードの各所に記された数字にも注目する必要がある。
地域の境目,あるいは海を跨いだ線上に記されたこれらの数字は,同盟が可能な地域同士を示している。つまり,数字によって結ばれていさえすれば,3番や5番のような遠く離れた地域間でも同盟を結ぶことができ,反対に隣接していようとも数字によって結ばれていない場所は,同盟を結ぶことはできないのだ。
さて,そうと分かればさっそく同盟を結ぶべく,枢機卿を派遣していきたいところだが……ここにもほかのプレイヤーとの駆け引きは介在する。修道院の場合と同じく,ほかのプレイヤーの動向が,ポイント計算に関わってくるからだ。
枢機卿コマのポイント計算は,具体的には前述の同盟を示す数字毎にカウントされる仕組みになっている。そのポイントは,「同盟の対象となった地域にある自身の枢機卿コマ」を,地域毎にカウントし,同盟地域の双方において“最多”となったプレイヤーにのみ与えられる。その場合に得られるポイントは,「両地域にあるすべての枢機卿コマの総数」分。つまり(1)の同盟において,「Englandに赤の枢機卿コマが2つ,青の枢機卿コマが1つ」「Lothringenに赤の枢機卿コマが2つ,黄の枢機卿コマが1つ」だった場合,枢機卿コマの総数となる6点を,赤のプレイヤーのみが得ることになる。
そう考えると枢機卿をポイントとするのは難しいように思えるが,ここでいう“最多”が同数1位でも構わないところがミソなのだ。例えば,先ほどの例でEnglandの青のコマが2個だったとしても,赤は最多の条件を満たすことになりポイントを得ることができる。また両地域で最多を満たすプレイヤーが2名いるようなら,その双方がポイントを得られる。ただし一方の地域で“最多”をとったとしても,もう一方が“最多”を満たせないようなら,誰もポイントを得ることはできない。
つまりは修道院の場合と同じく,辺境の地に独り寂しく枢機卿のオッサンが佇んでいても,大した旨味はないのだ。あえて群雄割拠の地に率先して乗り込み,その地で同盟点を獲得することが大量ポイント獲得への道となる。
“最多”が同数でも良いので,枢機卿によるポイントの獲得は,ほかのプレイヤーと協調して行うことが多くなるだろう。反対に途中まで協力するふりをしておき,終了直前になって相手を出し抜く,といったこともできる。ときには1位に追いつくため2位と3位が協力し,ときには自らが1位となるために協力相手を出し抜いて……といったマルチプレイヤーならではの駆け引きを楽しむことができる。
■ロンゲストロードを目指そう
ここまで修道院と枢機卿という,2種類のポイント獲得について説明してきたが,本作には,もう1つポイント獲得の方法がある。それが修道院と修道院をつなぐ「道」によるポイントだ。最終決算時,自身の持つ修道院が「道に沿って4つ以上連続して置かれている」場合,対象の修道院1つにつき,1点のポイントが獲得できる。つまり,条件を満たしてさえいれば,最低でも4点以上のポイントが期待できる。
この道によるポイントは,修道院単体によるポイントや同盟によるポイントとは異なり,密集地帯を避けたほうがより効果を発揮しやすいのが特徴だ。ほかのプレイヤーが集まる地帯で道を長く引こうとしても,伸ばせるスペースが限られてしまうため,あまり得策とは言い難い。逆に,ほかのプレイヤーがまだ介入していない地域へ向け,火事場泥棒の如く道を伸ばしていくスタイルのほうが,ポイントとするための条件は達成しやすいだろう。
とはいえ,もちろん辺境の地でひたすら道を伸ばし続けるのは考えもの。ほかのポイント源とのバランスも考えつつの立ち回りが求められる。4つ以上連続してさせればいいので,最小構成で複数の道を押さえるのも効果的だが,王のロマンとして5連,6連と長い道を目指したくなるもの。アッピア街道よろしく長大な道路を築き上げ,自身の修道院をつなぐ線で欧州の版図を切り取り,ポイントの大量獲得を目指したいところだ。
地図の下のほうで火事場泥棒の如く立ち回り,長大な道路を築き上げた図がこちら。白いコマがここから得られるポイントは10点。それだけで勝負するにはもの足りないが,枝葉の点数としては決して無視できないものとなる |
このように,間に修道院を配置することでほかのプレイヤーの道を邪魔をすることもできる。トップに悠々と独走させないため,こうしたインタラプトをいれるのも戦術のうちだ |
シンプルでありながら,熱い駆け引きが楽しめる名作ボードゲーム
欠点を挙げるとするならば,基本は陣取りというゲームの性質と,質実剛健な見た目のおかげで,プレイまでのハードルが一見高く見えてしまうところだろうか。重厚さを感じさせるコンポーネント(ボードやコマといった内容物)は賛否両論あるところだろうが,カジュアルゲーマーに受け入れられやすいとは少々言い難い。
しかし,地域カードによって修道院コマを置くか,枢機卿コマを置くかを決めるだけというルールは至ってシンプルで,プレイフィール自体はカジュアルなもの。でありながら,それによって生まれる駆け引きはけっして単調でなく,奥深いものとなっている。そういった駆け引きを堪能したい人にとっては,ぜひ一度手にとってほしいタイトルだ。
ゲームフィールド「王と枢機卿」販売ページ
- 関連タイトル:
王と枢機卿
- この記事のURL: