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[Unite]AIの進化はゲームデザインとプレイヤーにどんな影響をもたらすのか。セッション「ゲームAI・ゲームデザインから考えるゲームの過去・現在・未来」をレポート
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AIの介入により,マッチングはフィルタリングからコネクティングに移行
これに従ってゲームメカニクスを分類すると,例えば格闘ゲームならアクションが大きな比重を占めると同時に,官能性も高いと表現できる。また将棋なら,駒を使ってどのように相手を倒すかというパズルや,手持ちの駒をどうやり繰りするかというリソース管理の比重が大きい,という具合だ。
このように,5つの要素の比率をうまく変化させて,ゲームにどのような面白さを持たせるかを決めることになる。
しかし,この視点は,あくまでも既存のゲームやゲームジャンルを考えるうえで役に立つものであり,新しい何かを作り出すときには不十分であると大野氏は言う。そして,自分が新しいゲームを企画するときには「視点を引く」とし,ゲームを作る要素や,人とゲームの関係性に着目すると述べる。
「人とゲームの関係性」は,ゲームや技術の進化に伴って変化してきた。例えば,最初の遊びはかくれんぼなどのように人間の身体だけを使うものだったわけだが,やがて将棋のように道具を使う記号化された遊び(これを,メタ化の遊びと呼ぶ)が生まれた。そしてコンピュータやインターネットの登場により,対戦相手やルールの判定を下す審判さえもメタ化されるようになった。
その次の段階は「現実世界のメタ化」「生物のメタ化」になるだろうと,大野氏は持論を展開した。ここでいう現実世界のメタ化とは,現実空間をデータ化,AI化することであり,具体的にはIoTや,現在すでにゲームでもさまざまな展開を見せているARやMR(複合現実)を指すという。
また,生物のメタ化とは,すなわちロボットのことだ。大野氏は,すでに一般に普及しているロボットの例としてスマートフォンを挙げた。カメラとセンサー,そしてSiriのようなAIを使ったアプリを搭載するスマホは,「手足がないだけで,ロボットといっていい存在」(大野氏)だという。
ルンバのようなロボット掃除機もまた,カメラとセンサーに加えて移動手段を備えていることから,「コンテンツさえ用意されれば,ゲームにできる」と説明。例として,吸いとったゴミを栄養として仮想生物の子どもを育成し,さらにその過程をスマホなどを使ったARで確認できる「たまごっち」風のコンテンツを挙げた。
こうした現実世界および生物のメタ化はゲームにさまざまな影響をもたらすと予想されるが,大野氏がとくに注目しているのが「人と人が向かい合う」ゲームだ。ゲームにおけるプレイヤーのマッチングはこれまで,勝率などに応じたレーティングといったフィルタリングが中心だった。しかしマッチングにロボットやAIが介入することで,「この人の長所は,あの人の長所と組み合わせるといい」「この人は,この役割に向いている」といったような「コネクティング」が可能になる。それがやがてゲームデザインの変化や,よりよいゲーム体験の提供につながるのではないかと,大野氏はまとめた。
ゲームデザインそのものを担うようになっている「メタAI」
こうした分散された人工知能の考え方は,3Dゲームが主流となった2000年頃に登場したもので,それ以前はAIなのか,ギミックなのか,システムなのか,あるいはレベルデザインなのか,判然としていなかったという。
かつてのゲームのAIとは,ゲームデザイナーが考えたことを単にスクリプト化したものであり,例を挙げれば,NPCや敵キャラクターは,あらかじめ作られたスクリプトに沿って動いているだけだった。
しかし最近のゲームAIは知識と思考を持っており,さまざまなデータを与えることで上記の各AIが独自に判断し,それらの連携によって動く自律型になっているという。戦闘中,崖から落ちたキャラクターが大きく迂回して戦闘に戻ってくる,あるいはプレイヤーがドアに鍵をかけた場合,敵が窓ガラスを割って部屋に侵入してくるといった動きは,以前はいちいちスクリプトを組まなければ実現できなかったが,最近ではAIが自分で状況を判断して行っている。
三宅氏によれば,上記3つのAIのうち,セッションの主題となるゲームデザインと大きく関わるのがメタAIだ。メタAIの歴史は1980年代にまで遡るのだが,当時と現代では異なっている部分も多い。
現代のメタAIは,敵の配置と生成,ストーリー,レベル生成など,いわばゲームデザインそのものを担う存在になっているという。会場では,「Left 4 Dead」がサンプルに挙げられ,プレイヤーの状況に応じてメタAIが敵の出現数を制御することにより,適切な緊張と緩和をもたらすようになっているという紹介が行われた。
現在ではまた,メタAIが戦闘にメリハリを付けたり,ドラマチックな演出をしたり,NPCが地形を効果的に活用したりなど,動的な対応を実現するための研究が進められているという。これらが実現すれば,プレイヤーのスキルやテクニックに応じた,絶妙な難度のゲームを提供することも夢ではなくなるというわけだ。
メタAIの進化により,プレイヤーごとに異なるゲーム体験が提供可能に
セッション後半では,大野氏と三宅氏が前半の内容を踏まえた対談を行った。
最初のテーマは,「人とゲームAIの向き合い方の未来」で,三宅氏は,大野氏が提示したゲームAIによるコネクティングの考え方について,「これまでのAIは人間の代わりを務めるものだったが,最近はプレイヤーとプレイヤーの間に介在して,よりゲーム体験を深めている」と同意する。
そして,今後はメタAIがゲームをドラマチックにし,プレイヤーを楽しませるようになっていくだろうとした。
2つめのテーマは「メタAI」。三宅氏は,キャラクターAIを「役者」であると表現し,それらをコントロールしドラマを作っていく監督がメタAIであると説明した。
大野氏は,今後ARが普及することにより,ゲーム中だけでなく,現実世界でも面白いドラマが求められるようになってくるのではないかという持論を述べ,そのときメタAIはどのように機能するのかという疑問を提示した。これについて三宅氏は,「AIはもともと三次元の存在ではないので,現実世界が苦手ではないか」と答える。現在は,前に立った人をカメラを使って認識し,性別や年齢などに応じて表示する内容を変えるデジタルサイネージのように,「現実世界にカメラを配置して,AIの目を増やしている段階」と説明した。
その一方,メタAIがプレイヤーのSNSデータを参照して,「この人は今日,誰かと喧嘩をしたから,友情をアピールするようなシナリオ展開にする」といった感じでの現実世界のリンクなら,将来的に実現する可能性があるという。
そのほかメタAIの進化により,1本のRPGで,プレイヤーが勇者だけでなく,宿屋の主人などこれまでNPCが務めていた役を演じるといったこともできるという可能性も2人によって語られた。
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3つめのテーマは,「未来のゲーム(AI)は,人々をどこに連れていくのか?」というもの。三宅氏は,「これまではゲームデザインが固定されていたため,多くの人が同じ体験をしていた」とし,「これからは,メタAIがプレイヤーのSNSやほかのタイトルのプレイデータなどを参照してストーリーを生成したりレベルデザインを行ったりして,プレイヤー固有の体験を提供する時代になる」という展望を述べた。その結果として,それぞれが「オレはこんな体験をした」と,これまで以上にプレイ動画を共有したくなり,プレイヤーコミュニティが広がっていくのではないかと語っていた。
大野氏は,「エンターテイメントのコンテンツは今後,体験した人に『現実世界で,次に何をするか』と考えさせるようなものになる」とし,「その中でも,ゲームはインタラクティブな要素を備えているため,より先鋭化された,より良い体験の提供ができる」とコメントした。
最後に三宅氏が,「ゲームのAIはゲームデザインと密接に関わっていたため,グラフィックスなどと比較して進歩が遅かった。これからはゲームデザイナーと共にAIエンジニアがアイデアを出し,新しい体験を生み出すことが可能になるはずだ」と述べて,セッションを締めくくった。
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