レビュー
往年の名機を現代に蘇らせるキカイは買いか?
NEOGEO X GOLD SYSTEM
当時の事情を知っている読者なら,2004年に打ち切りが宣言されたNEOGEO(ネオジオ)が復活するだけでも驚きだろう。そのうえ,SNKプレイモアの公式ライセンス獲得済みなのだから,期待が高まるところだが,果たしてこれはどんなマシンであり,どの程度“使える”のか。4Gamerのライターであるハメコ。氏の力も借りつつ,本機を丸裸にしてみたいと思う。
※本稿は基本的に米田 聡氏がテスト&執筆していますが,操作感のインプレッション部はハメコ。氏がテストと執筆を担当しました。
「100メガショックのインパクトを日本に与えたNEOGEO」を現代に蘇らせるNEOGEO X
現在,家庭用ゲーム機の大手は任天堂とソニー・コンピュータエンタテインメント(以下,SCE),Microsoftの3社が残るだけだが,1980年代後半から2000年前後にかけては世界的に見て百花繚乱の様相を呈しており,日本国内だけでも,セガとエス・エヌ・ケー(現SNKプレイモア。以下 SNK),日本電気ホームエレクトロニクスなどが独自の家庭用ゲーム機を手がけていた。NEOGEOは,SNKが手がけていた製品のシリーズ名だ。
1990年に登場した初代NEOGEOは,SNKが得意とする,アーケードゲームのハードウェア設計を活かした設計が特徴だった。具体的には,専用のROMカセットで,SNKのアーケードゲームがそのまま供給されたのだ。自宅にいながら,本格的なアーケードゲーム――当時,アーケードゲームのハードは,家庭用ゲーム機のそれをはるかに凌駕していた――をプレイできるというのが,NEOGEOが持つ最大の特徴だった。大量の100円玉を消費することなく,出かける必要もなく,アーケードゲームをプレイできるという,画期的なマシンだったのである。
そんなNEOGEOのキャッチコピーは「100メガショック」だった。当時,テレビのCMでもこのコピーがガンガン流されていたので,子供心に100メガショックというセリフが刷り込まれてしまっているおっさんゲーマーは,結構いるのではないかと思う。
ちなみに,この100メガというのはROMカートリッジの容量のこと。アーケードゲーム品質を象徴する大容量として打ち出されたコピーだが,これは100Mbitで,約13MB弱。いまの基準から言えばびっくりするほどの小容量だが,これでも当時としては画期的だったのだ。
そんなNEOGEOは,当時の格闘ゲーム大ブームに牽引される形で,コア格闘ゲーマーから人気を集める家庭用ゲーム機になっていく。ちなみに,初代NEOGEOのハードウェアは,CPUがMotorolaの「68000/12MHz」で,サウンド用に独立したサブプロセッサを搭載するという,アーケードゲーム機に近い,かなり贅沢な構成だった。68000のメインメモリ領域は16MBだが,一部のメモリ領域をバンク切り替えで利用することにより,100メガショックに代表される大容量ROMカートリッジの利用を可能にしていたのである。
NEOGEO CDZ。NEOGEO CDの読み出し速度が遅いという不満への回答だった(※写真提供:SNKプレイモア) |
NEOGEO POCKETの後継として,カラー液晶パネルを搭載する「NEOGEO POCKET Color」も1999年に投入された(※写真提供:SNKプレイモア) |
NEOGEOの減速に追い打ちをかけたのが,1994年末に登場したPlayStationとセガサターンだ。新世代据え置き機の登場によって,多くのアーケードゲームがかなりの完成度で移植できるようになり,「NEOGEOならではの優位性」が消えてしまったのだ。
その後SNKは1998年に携帯ゲーム機「NEOGEO POCKET」を投入し,NEOGEOプラットフォームをめぐる情勢の打開を図ったりするのだが,時すでに遅し。2001年,SNKは倒産してしまう。そして,同社の資産を受け継いだ別会社,SNKプレイモアは,2004年にNEOGEOシリーズの完全終了を宣言したのだった。
……というわけで,手がけていたメーカーが倒産してしまったことで,過去に存在したゲーム機のなかでも復活は考えにくい部類に入っていたNEOGEOなのだが,2012年初頭に「NEOGEOの後継機が発売されるかも」という噂が流れ始め,最終的に国内でも,1000台限定で発売となった。今回4Gamerで入手したのは,この1000台のうちの1台であり,Amazon.co.jpで購入したものである。
なお,1つ注意しておきたいのは,NEOGEO Xが,SNKプレイモアが直接手がけている製品ではないということだ。
開発や販売を行っているのは,米カリフォルニア州に本拠を置き,主にゲームの流通業を営んでいるTommoという企業だ。SNKプレイモアは,システムファームウェアやゲームタイトルにライセンスを与えるという形になっている。正当後継機というよりむしろ,新世代の公式NEOGEOと紹介したほうが適切かもしれない。
まずはNEOGEO X Handheldの外観をチェック
4.3インチパネルの解像度は480×272ドット
前置きがたいへん長くなったが,実機を見ていきたい。
NEOGEO Xの製品ボックスには,ポータブルゲーム機型の本体「NEOGEO X Handheld」(ネオジオエックスハンドヘルド)と,本体をTVに接続して据え置き機として使うためのドック「NEOGEO X Station」(ネオジオエックスステーション),そして専用アーケードスティック「NEOGEO X Arcade Stick」(ネオジオエックスアーケードスティック)が収められている。製品ボックスは割と立派で,現行PlayStation 3の箱よりも2周りくらいは大きい。
製品ボックス。正規ライセンス品であることを誇示するかのようにSNKロゴが印刷された,立派なものだ |
中は,NEOGEO X Handheld&Station入りの箱と,NEOGEO X Arcade Stick入りの箱に分かれている |
HDMIケーブルを筆頭に,買ったらすぐにゲームをプレイできるだけの付属品が揃っているのはうれしい。
上の写真を初代NEOGEOユーザーが見ると,初代NEOGEOの本体を模しつつ,若干の小型化を果たしたNEOGEO X Stationに目が惹きつけられるのではないかと思うが,あくまでも本体はNEOGEO X Handheldのほうだ。なので,今回はNEOGEO X Handheldから見ていくことにしよう。
下に示したのが,NEOGEO X Handheldを正面から撮影したカットだ。実測サイズは170(W)×16(D)×74(H)mm(※突起部除く)で,重量は198gだから,PSP(PlayStation Portable)とだいたい同じ大きさと述べていいのではなかろうか。ポータブルゲーム機として使いやすい大きさ&重さであるといえる。
解像度は決して高くないが,20世紀のゲームをプレイするためのハードとしては,妥当な印象も受けた。
なお,パネルの詳細は語られていないが,見る限りTN型のようで,正面から見たときの発色は悪くない。応答速度も,不満を覚えるようなものではなかった。視野角はかなり狭く,とくに上下方向へ傾けると簡単に変色して見えてしまいがちだが,正対して使う限り不自由しない程度の品質は確保されているといえる。
入力系は,液晶パネルを挟むように,向かって左には方向パッドと[MENU]ボタン,右には[A][B][C][D]ボタンと[START]ボタンが配されている。
方向パッドのデザインは,NEOGEO POCKETのそれを彷彿とするものだが,内部にマイクロスイッチが用いられ,操作に合わせてカチカチとスイッチが入る。うろ覚えだが,NEOGEO POCKETもこんな感じだったように思う。
方向パッドにはマイクロスイッチが採用されていて,カチカチと小気味よい音が鳴る |
こちらは[A][B][C][D]ボタン。正直,とくにコメントのしようがない,平凡なボタンだ |
先ほど,NEOGEO X Handheldのアスペクト比が16:9だと述べたが,この状態では画面を大きく使える一方,引き延ばされた状態になってしまう。そこで,オリジナルと同じ4:3へ変更できるようにもなっているというわけである。
トリガーボタンへのコマンド割り当てといった機能は,NEOGEO X Handheldに用意されていない。もしもNEOGEO X向けの新作が登場するとなれば,ゲームで使われるようになる可能性もないではないが,基本的には補助的なボタンであると認識しておいたほうがいいだろう。
なお,トリガーボタンに囲まれる形でHDMI miniと3.5mmミニピンのアナログAV出力(※コンポジットビデオ出力とサウンドライン出力に対応),USB Micro-Bの3端子が見えるが,これらは基本的にNEOGEO X Stationとの接続用だ。どう接続するかは後述する。
残る2つの側面のうち,向かって左側には何もなし。右には電源スイッチと,「NEOGEO X Game Card」(以下,Game Card)用のスロットが用意されている。
非常にシンプルなメインメニュー
カードスロットでゲームを追加可能
20タイトルの内訳は下記のとおり。収録されているタイトルはすべて海外版なので,括弧書きで国内タイトル名も書き加えた。
- 3 Count Bout(ファイヤースープレックス)
- Alpha Mission II(ASO II -ラストガーディアン-)
- Art of Fighting(龍虎の拳)
- Baseball Stars 2(ベースボールスターズ2)
- Cyber-Lip(サイバーリップ)
- Fatal Fury: King of Fighters(餓狼伝説 -宿命の闘い-)
- Fatal Fury Special(餓狼伝説SPECIAL)
- King of the Monsters(キング・オブ・ザ・モンスターズ)
- Last Resort(ラストリゾート)
- League Bowling(リーグ・ボウリング)
- Magician Lord(マジシャンロード)
- Metal Slug(メタルスラッグ)
- Mutation Nation(ミューテイション・ネイション)
- NAM-1975(NAM-1975)
- Puzzled(ジョイジョイキッド)
- Real Bout Fatal Fury Special(リアルバウト餓狼伝説スペシャル)
- Samurai Shodown II(真SAMURAI SPIRITS 覇王丸地獄変)
- Super Sidekicks(得点王)
- The King of Fighters '95(ザ・キング・オブ・ファイターズ'95)
- World Heroes Perfect(ワールドヒーローズ パーフェクト)
下にムービーで示したとおり,電源投入からメインメニューが表示されるまでの待ち時間は約20秒ほど。長いと思うか短いと思うかは人それぞれだろう。個人的には,待たされる感はあるが,いらいらするほどではないといったところである。
メインメニューは,そのイメージから想像できるように,方向パッドで左右にタイトルをスクロールさせ,[A]ボタンで選択することになる。このとき,効果音は一切出ない。最初は故障じゃないかと不安になるが,どうやらそれが仕様のようだ。
ゲームの選択後,起動までの所要時間は,タイトルにもよるが10秒程度。こちらは待たされている感もあまりない。
ゲーム中に[MENU]ボタンを押すと画面のような選択肢がオーバーレイ表示され,[QUIT]を選択すればゲーム選択メニューに戻れる |
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SDカードにしか見えないが,これがNEOGEO Xに付属のGame Card |
端子も明らかにSDカード。書き込み防止スイッチも用意されている |
なお,内蔵バッテリーは充電式で,フル充電時におよそ3〜4時間プレイできた。あまり長くないが,通勤通学のお供にはなるといったところだ。
さて,前の段落で紹介したように,NEOGEO X Handheldには,NEOGEO X Game Card(以下,Game Card)用のカードスロットが用意されている。そして,NEOGEO Xには,SNKタイトル「NINJA MASTER'S」(国内タイトル:NINJA MASTER'S 〜覇王忍法帖〜)のGame Cardが標準で付属しており,これをスロットに差すことで,メインメニューからNINJA MASTER'Sを起動できる。
ちなみにこのスロット,マニュアルには「将来のために用意されている」とあるので,今後,Game Cardの形でゲームが供給される可能性があるのだろう。ただ,少なくとも日本では1000台限定で流通という製品なので,よほどのことがない限り,Game Card単体が店頭に置かれるといったことはないように思われる。
で,このGame Cardだが,どこからどう見てもSDメモリーカード(以下,SDカード)そのものである。SDカードの書き込み防止スイッチもそのまま残されていて,書き込み禁止にすらなっていなかった。
むしろこっちが主役!? NEOGEO X Handheldを
据え置き型ゲーム機化するNEOGEO X Station
以上,ポータブルゲーム機としては予想以上にソツがない印象のNEOGEO Xだが,本稿の序盤でお伝えしたとおり,本機は,NEOGEO X StationとNEOGEO X Arcade Stickの利用によって据え置き機としても利用できることが大きな特徴だ。
ダミーである以上,スロット部にNEOGEO X Handheldを差し込むわけでもないが,ではどうやってNEOGEO X Handheldを接続するのかというと,NEOGEO X Stationの「中」である。前面に用意された「OPEN」というスライダーを右にスライドさせると,NEOGEO X Stationはぱかっと開く。そして,その中に用意された接続端子とNEOGEO X Handheldつなげるという形になっているのだ。
純粋に端子の向きが補正されていないだけなので,何度か着脱を繰り返していると,端子の向きが補正され,取り付けやすくなってくるはずである。少なくとも,4Gamerで入手した個体は,2〜3回着脱しただけで装着時の固さはなくなった。
NEOGEO X Stationの中にある注意書きは基本的に英語なのだが,わざわざ日本語表記で「接続時は電源を落とすこと」と書かれたシールが貼られている |
NEOGEO X Stationを前面から見ると,USB標準A端子が2つ用意されていると分かる |
NEOGEO X Arcade StickをPCに接続すると,D-Pad+6ボタンのゲームコントローラとして認識された |
さて,NEOGEO X Stationの本体前面にはUSB標準A端子が2つ用意されており,ここにNEOGEO X Arcade Stickを接続することになる。NEOGEO Xの製品ボックスに付属するNEOGEO X Arcade Stickは1つだけなので,2プレイヤーで遊ぶには,国内で正規流通している単体版NEOGEO X Arcade Stickを買い足すほかないが,その実勢価格が5000円前後(※2013年1月22日現在)というのは,なかなか悩ましい。
どこで試しに,筆者が個人的に所持している安価なPC用ゲームパッドを接続してみたところ,使えてしまった。また,NEOGEO X Arcade StickをPCに接続すると,DirectInput対応のデジタルゲームコントローラとして認識されたので,DirectInput対応のアーケードスティックやゲームパッドなら,自己責任を覚悟すれば利用できそうだ。ただし,XInputに対応した最新世代のXbox 360用アーケードスティックだとまったく認識されなかったので,その点は押さえておく必要もあると思われる。
ちなみにNEOGEO X Stationの蓋は,電源とは一切連動していないため,開けた状態のまま電源をオンにできる。そこで調べてみると,NEOGEO X Station側で電源をオンにした場合,まずNEOGEO X Handheld側の液晶パネルにロゴが表示され,その後,HDMI接続されたディスプレイ機器が認識されて,出力が切り替わるという挙動になっていることが分かった。HDMI接続機器側の表示が少し遅れるのはそういった事情によるものなので,心配な場合は,ひとまずNEOGEO X Stationの蓋を開けたまま電源を投入してみるのがいいかもしれない。
もう1つは,NEOGEO X HandheldをNEOGEO X Stationと接続した場合,画面のアスペクト比を変更できない点である。HDMI接続時にはNEOGEO X Handheld側の[L1][L2]ボタンが無効化されてしまうからだ。「一度ポータブル状態でNEOGEO X Handheldを起動してアスペクト比を変更し,その状態で電源を落として,NEOGEO X Stationと接続すればいいのでは?」と思うかもしれないが,電源を落とした時点でNEOGEO X Handheld側のアスペクト比は工場出荷時の16:9へ戻ってしまう。アスペクト比は,ディスプレイ機器側の設定で調整するのが現実的だろう。
なお,ここまであえて触れてこなかったが,NEOGEO X HandheldとNEOGEO X Stationを接続する3端子のうち,HDMI miniとAV出力は,NEOGEO X Stationと接続しない状態でも利用できる。NEOGEO X Handheldをゲームパッドとして,ディスプレイ機器と直結した状態でも利用できるわけだ。
一方,充電にも使われるUSB Micro-B端子は,説明書にはっきりと「NEOGEO X Stationと接続した状態でのみ充電を行うこと。それ以外の方法で充電を行わないように」と書かれている。つまり,NEOGEO X HandheldとUSBケーブルをつないで,PCと接続したり,USB-AC変換アダプタを使ったりして充電するなというわけだが,なぜそう書かれているのかは後ほど考察したい。
操作しづらいが,むしろそれが“味”
復刻版としての完成度は高い
気になるプレイ感覚をチェックしてみよう。
まず,NEOGEO X Handheldからだが,まず,ボタン配置は,NEOGEO CDに付属していたゲームパッドと同じものになっている。中学生の頃,SNKの格闘ゲームをどうしても家で遊びたくてNEOGEO CDを購入し,猿がお手玉する時間をなんとか短縮したくてNEOGEO CDZまで買ってしまった筆者(ハメコ。)としては,何よりも懐かしさを覚えたのだが,ぶっちゃけてしまうと,肝心の操作感はあまり良いとは言えない。
まず,方向パッドがアナログスティック風な“味付け”であるがために,スイッチの位置が体感的に分かりにくく,とくに斜め方向関連の入力でミスが起こりやすかった。まあ,SNKの古い格闘ゲーム,たとえば「餓狼伝説」や「龍虎の拳」は,入力をゆっくり行う必要があるとか,コマンド入力の受け付けが特殊であるとかいったあたりもそう感じる理由の1つなのだろうが。
いずれにせよ,複雑なコマンドを正確に入力するためには,かなりの慣れが必要だろう(※下に示したデモプレイムービーでは少し本気を出している)。
なお,あくまでも遠いあの日の記憶を頼りにした比較だが,パッド自体はNEOGEO CDのそれよりも若干固めのように思える。蛇足を承知で続けると,NEOGEO CDのゲームパッドは,
使い込むと方向パッド周辺部分が削れ,そのカスがスイッチ部分に溜まってしまうために“方向パッドがハマる”ことがあったのだが,そのあたりの耐久性まではチェックできていないので,ちょっと気になるところだったりする。
一方のボタンは可もなく不可もなしという印象。ただ,SNKの格闘ゲーム作品には[B][C]同時押しで終わる超必殺技コマンドが多く,NEOGEO X Handheldのボタン配置だとこれが非常に押しにくいことには注意が必要である。超必殺技を華麗に繰り出すためには,人それぞれボタンの押し方に工夫が必要になるだろう。なお,筆者は中学時代より,親指の側面で押すように心掛けている。そのあたりは下に示したデモプレイムービーをチェックしてもらえればと思う。
次に,NEOGEO X Arcade Stickだが,筐体の対角線をなぞる形でレイアウトされたボタンが特徴的なものとなっている。初代NEOGEOに付属していたコントローラとほぼ同じものと述べていいだろう。レバーとボタンは,三和電子やセイミツ工業による,最近のスタンダードなパーツと比べると一回り小さいものが使われている。
だからどうということはなく,十分普通に遊べるのだが,レバーそのものが軽すぎるせいか,スイッチをきっちり入れるためにはそれなりの力が必要になり,結果的に重いレバーになってしまっている点は気になった。また,筐体自体が軽く,裏面にはゴム足しかついていないので,膝に置いたとき,まったく安定しないという欠点もある。
NEOGEO X Arcade Stickは,初代NEOGEOに付属していたのとほぼ同じコントローラと述べていいだろう。大きな違いは,レバーボールが取り外せなくなっていることくらいか |
NEOGEO X Station(左)とNEOGEO X Arcade Stick(右)の底面。どちらもシンプルなゴム脚がついているだけだ。Arcade Stickを安定させたいなら置き場所は机上“一択”である |
重要なことは,NEOGEO X HandheldにせよNEOGEO X Arcade Stickにせよ,あくまでもかつてのNEOGEO環境を復刻したものであるということだ。あまりよくない操作性も,NEOGEOの味ではあったわけで,そう考えればむしろ愛らしい。書店や駄菓子屋などの軒先で格闘ゲーム黄金期のタイトルに触れ,思わずNEOGEOにまで手を出してしまった格闘ゲーマーなら,十分に懐かしいと感じられる完成度だといえる。
CPUにはMIPSコアの「XBurst」を採用
全体として内部構造は非常にシンプル
概要と使い勝手を見終えたところで,ここからは本体を分解して,「NEOGEO Xとは何なのか」を探ってみることにしたい。
※注意
分解はメーカー保証外の行為です。この記事を参考に分解などの行為を行った結果はすべて,行った本人の自己責任です。メーカーや購入店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も,一切の責任を負いません。4Gamerとして分解を推奨する立場には立っておらず,質問も受け付けておりません。
なお,本稿で紹介する内部構造は,分解した個体に関してのものであり,すべての個体に共通した仕様であるとは限りません。
計8本のビスを外し,裏蓋の爪のある部分をこじるって裏蓋を外したところ。慎重にやればツメが壊れることもないだろう。裏蓋を外すとバッテリと基板にアクセスできるようになる |
筆者はバッテリーパックの下にビスが隠れていることを想定して接着剤を剥がし,バッテリーパックを取り出したのだが,結論からいうとこの作業は不要だった。基板だけなら,サブ基板→メイン基板の順で取り外せる |
まず目に飛び込んでくるのは,割と大きめなバッテリーパックだ。このバッテリーパックはケーブルが基板に半田付けされ,またパック自体が基板に接着剤で貼り付けてあるため,そう簡単には交換できない印象を受けた。
さて,基板そのものはバッテリを外すことなく取り外すことができる。2本のビスが,方向パッド側サブ基板の下に隠れているので,まずサブ基板のビスを取り外し,サブ基板を引き出した状態からメイン基板のビスを取り外せばいい。
というわけで,下の写真が取り外した基板だ。方向パッドはサブ基板に組み付けられていて,専用のプラスチックモールド内に4個のマイクロスイッチが収められていた。ここに上からスティック部が差さる構造だ。スティックの根元を,本体裏側の軸受け支える構造で,これにより,スティックに力がかかっても壊れないよう工夫されている。
わざわざ方向パッド部だけ基板を分けてあるのは,スティックの根本が軸受に乗るよう,基板の高さを変える必要があったからだろう。
主な回路はメイン基板側に集約されており,搭載されているLSIを調べてみると,いろいろと面白いことが分かった。
CPUコアはMIPSアーキテクチャの「MIPS 3000」で,動作クロックは1GHz。USBインタフェースや2Dアクセラレータなども統合されているので,おそらく,このチップ1つでNEOGEO Xの主だった機能をすべて提供しているはずだ。
今でこそ中国のLSIメーカーは何社かがARMアーキテクチャのSoCを手がけているが,在中LSIメーカーが初期に手がけたSoCのCPUコアは,たいていが,権利関係の緩やかなMIPSアーキテクチャによるものだった。XBurstは中国製SoCとしては初期にアナウンスされたシリーズなので,MIPS系なのもさもありなんといったところである。
ちなみにJZ4770は,XBurstシリーズの最新バージョンと位置づけられている製品のようだった。
Samsung Electronics製のDDR2 SDRAM「K4T1G164QF-BCE7」 |
こちらはSamsung Electronics製のNAND型フラッシュメモリ「KLM2G1DEHE-B101」 |
基板上には「SAMSUNG」刻印入りのチップがもう1つあるのが分かるが,こちらは容量16Gbit(=2GB)でMLCタイプのNAND型フラッシュメモリだ。ここにNEOGEO Xのシステムが収められている。
NAND型フラッシュメモリの周囲に,謎のランド(※銅の“島”)と複数のシルク印刷が見えるが,調べてみたところ,海外で出回った初期リビジョンのNEOGEO X Handheld――「R300」というリビジョンで呼ばれていたようだ――には,フラッシュメモリチップの代わりにMicroSDカードスロットが用意され,そこに容量2GBのMicroSDカードが差さっていたようだ。
国内流通版のリビジョンは「R370」となっているが,基板が共通のため,ランドなりシルク印刷なりが残っているということなのだろう。
残るチップはサポート用のLSIだ。「ACTIVE」と書かれたチップはJZ4770の周辺チップで,電源管理用LSI。また,「ITE」ロゴ入りチップはHDMIトランスミッタだった。
まとめてみると,NEOGEO X Handheldの主なスペックは以下のとおりとなる。
- SoC:JZ4770(MIPS 3000/1GHz)
- メインメモリ:256MB DDR2 SDRAM
- 内蔵フラッシュメモリ容量:2GB
NEOGEO XのシステムにはLinuxを採用
USB Micro-BやGame Cardの謎を探る
本体をばらした結果,MIPSコアを採用することが判明したNEOGEO X Handheldだが,まだいろいろと謎が残されているので,最後に,その考察を行ってみたいと思う。まずは本体のUSB Micro-B端子からである。
●USB Micro-B端子の正体はUSB-OTGポート
本体に搭載されているUSB Micro-B端子は,前述のとおり,NEOGEO X Stationとの接続にしか使われないとされているが,実のところ,単体でもちゃんと機能する。
というか,PCとUSBケーブルで接続してみると,驚くべきことに,NEOGEO X Handheldの電源スイッチをオフにしていても,NEOGEOロゴが出て起動するのだ。しかも,PC側からは容量1GBでカラのUSBストレージデバイスとして認識されてしまった。
「ではそれを何に使うか」だが,「何らかのファイルをPCからNEOGEO X Handheldへコピーできる」という点から,想像を働かせて推理してみてほしい。
ちなみに,取扱説明書には,「NEOGEO Xの公式サイトで追加タイトルが発表・発売される可能性がある」と記されている。どのような形で配布されるかは明らかになっていないが,Game Card以外の方法としてダウンロード販売の可能性はあるだろう。今後,ダウンロード購入したファイルをNEOGEO X HandheldのUSBストレージへコピーする,という手段がとられることも考えられなくはない。
なお,PCと接続した場合は充電も行えたが,取扱説明書には「NEOGEO X Station以外から充電するな」と注意書きがあるので,やめたほうがいいだろう。
つまり,NEOGEO X HandheldのUSB Micro-B端子は,USBホストとしてもUSBクライアントとしても機能する「USB-OTG」(USB On The Go)仕様のUSBポートだというわけである。
USB-OTG仕様のポートは一般に,電源オンとオフのとき,ホストとクライアントの動作モードを自動で切り替える。したがって,NEOGEO X Handheldの電源を切らずにNEOGEO X Stationに接続してしまうと,本体がUSBクライアントモード状態になってしまい,USB Arcade Stickが認識されないというトラブルが生じてしまうことになる。だから,(警告によって)それを未然に防ごうというわけなのだ。
●NEOGEO Xの正体はLinux+エミュレータ
先にチラッと触れたが,海外で出回った初期のリビジョンはシステムにMicroSDカードが利用されていたため,非常に解析がやりやすかったようだ。そしてその結果は海外のマニア系Webサイト内フォーラムなどで得られる。
なお,日本で出回っている個体では,MicroSDカードの解析を行えないため,解析や改造の難度が相当に上がるが,不可能ではない。具体的には,ハード的に改造する方法や,Ingenicが開発用に配布しているUSBデバッガを使う方法などがある。
本体を壊しかねない話題なので本稿では詳しく触れないが,興味がある人は各自,調べてみてもらえればと思う。ちなみに,かなりハックしがいのあるハードらしい。
●Game Cardの謎
これはどうなっているかだが,実はこちらも海外ではすでに解析されており,「FAT12形式のファイルシステムをベースとし,一部を改変することでPCから認識できないようにしたフォーマット」が採用されていることが明らかとなっている。
ユーザーが自前でGame Cardを作ることも可能ではあるが,かなり微妙な話題になるので本稿では割愛したい。
「何を求めるか」で評価が変わるNEOGEO X
現実的には「一夜の酒の肴」か?
ただ現実的には,「昔を懐かしむゲーマーが集まって,一晩遊び倒しながら酒の肴にする」あたりに落ち着くのではないかと思う。NEOGEOの復刻機としての完成度は高いが,それ以上ではない。ひとしきり遊んだあと,そっとしまわれて,ゲーム機コレクションの一部になるような,そんなハードウェアであるとまとめておこう。
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NEOGEO X公式Webサイト(英語)
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NEOGEO X
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