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謎多きベテラン作曲家“与猶啓至”氏。魅惑の80年代風シンセサウンド全開の「星霜鋼機ストラニア」でBGMを担当した氏に音楽の魅力と背景を聞く
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印刷2011/09/29 00:00

インタビュー

謎多きベテラン作曲家“与猶啓至”氏。魅惑の80年代風シンセサウンド全開の「星霜鋼機ストラニア」でBGMを担当した氏に音楽の魅力と背景を聞く

同人音楽CDの先駆者。伝説の「サイバーフォニック」


4Gamer:
 では,与猶さんの音楽のもう一つの核である,アマチュア活動について掘り下げていきたいと思います。与猶さんは知る人ぞ知る,同人音楽CDのパイオニアでもあります。ゲーム音楽家が同人活動で,個人名義のCDアルバムを出したのは,与猶さんの「サイバーフォニック」(1994年) がおそらく初めてですよね。


与猶氏:
 そうなのかな? 当時,僕は作る側としてはいろいろやっていましたが,あまり売り場に行ったり,まわりの状況を調べたりはしていませんでしたから。それまでコンピレーション(カセットテープ)への参加を何度かしていて,その主催レーベル(MYU-REOCRINGS)から「CDを作ってみないか」という話があって出したものなんです。ちょうどそのとき,さっき話したようないろいろな音楽スタイルを融合させる研究をしていて,その成果をCDにしてみないかという話でした。

4Gamer:
 同人といっても,当時はずいぶんハードルが高かったと思います。製作費も現在とは比較にならないほど高かったはずですし,そもそもマーケットがなかったですよね。これが売れるのかという不安はありませんでしたか?

与猶氏:
 いえ,事の重大さはあまり分かっていなかったです(笑)。ほかの人も同じようなことをやっていると思っていました。結果的には,よく売れたそうなんですよ。たしか1日で100枚だったかな。


4Gamer:
 当時は同人関連ショップがあるわけでもなく,まだインターネットも普及していない時代で,売り場はとても限定されていましたから,数字の重みが違いますね。そうした面から見ても,「サイバーフォニック」は注目を集めた1枚だったと思います。細江慎治(※4)さんがレコメンド(編注:雑誌などでの推薦)を書いていたり,雑誌にレビューが掲載されたりしていました。
 この「サイバーフォニック」シリーズや,その発展形ともいえるバンド・MOTLEYでの活動のあと,与猶さんは一旦インディーズ活動を終息させますが,近年また「KORG DS-10」などで活動を活性化させています。なぜ「DS-10」にあそこまでハマることに?

与猶氏:
 ひとえに面白かったからですね。「DS-10」はアナログシンセ方式なんですが,僕はシンセサイザーとの付き合いが長いとはいっても,FM音源以降だったので,それより古い時代のアナログシンセに憧れみたいなものがありました。
 FM音源っていうのは音の幅はすごく広いですが,アナログシンセにはそこにはない音の太さとか,ウェットな感じの質感があるんですよ。それがずっと気になっていたんですけど,ゲーム音楽はPCMシンセが主流になっていったので,使う機会がありませんでした。また,昔のアナログシンセはクセがあって,僕の感覚での音色作りが難しかったんです。
 それに比べると「DS-10」は非常に直感的というか,音の操作に違和感がないんですよ。あの小さな中にいろいろなバリエーションの「アナログらしさ」が詰め込まれていたし,それに何より,ポケットに入れて持っていって,どこにいてもパフォーマンスができる手軽さがありました。

4Gamer:
ニコニコ動画などで作品を発表されるようになって,ライブをやって,さらに同人CDも制作。こうした活動を通して,与猶さんの知名度が高まったと思います。しかしこれだけリスナーに近い立場にいる姿は,それまでの与猶さんとは対照的な気がします。

与猶氏:
 そうですね。それまでは硬派というわけではないですが,意固地になって新しい技術に対してはちょっと距離を置いて,昔ながらの構成で職人的にやっていました。新しい技術や情報を知ってしまうと,そればかり気になってしまって,振り回されてしまうところがあります。それで,VOCALOIDなどにもあまり触らないでいたんですが,最近は余裕が出てきたんでしょうね。
 もし新しいものに積極的に興味を持っていれば,自分の音楽性の広がり方も何か変わるんじゃないだろうかと思えるようになりました。そこに「DS-10」という新しいアイテムが出てきて,それとの付き合い方を考えることで,今までの意固地な自分を壊していくことができるかなと思っていたんですよ。

4Gamer:
 ちなみに「初音ミク」が登場したときは,まったく触っていなかったんですか?

与猶氏:
 「初音ミク」ではないですが,実はその一世代前のVOCALOID「MIRIAM」が出たときに,ちょっと触ったことがあります。あれで日本語で歌わせたりしてましたが,周囲からあまり反応がありませんでした。当時は動画配信にも疎かったので,そうしたサイトで配信しようという発想がなく,そのまま終わってしまいました。
 その後「初音ミク」が出てきたときも,「また同じようなことになるんだろう」と思っていたら,すごいことになっていて(笑)。そのことがあったから「楽しいことは諦めずにどんどんやっていかなきゃ」という教訓ができて,「DS-10」はとことんまで楽しもうと思ったんです。

4Gamer:
 なるほど。現在のライブや同人活動も,プロとして気負うことなく,楽しんでやっておられるんですね。

与猶氏:
 そうですね。今はイベント出演とかコンピレーションへの参加とかを頼まれたら,何も考えずに引き受けるようにしています。受けてからどうするかを考えようという感じの,自分内キャンペーンを楽しんでいます(笑)。

4Gamer:
 キャンペーンだったんですね(笑)。ちなみに同人と商業の活動は,切り分けているんですか? それとも両者の間に何らかのフィードバックがあったりするのでしょうか。

与猶氏:
 金銭が発生する/しないという違いがありますし,同人の音楽はゲームの中で流れるものではないですから,そういう意味では自分の中で分けているつもりです。もちろん同人と仕事のどちらかがないと,音楽のモチベーションが違ってくるという,気持ちの部分でフィードバックはありますが,音楽的なところではありませんね。
 「DS-10」を使い始めた頃に,実験的に商業でもその音を使ってみましたけど,別にそれが必要かというと,そういうわけでもないですから。

4Gamer:
 分けて考えているんですね。では,リスナー側はどうでしょう。ゲーム音楽で与猶さんを知った人が,与猶さんの同人活動に興味を持ったり,その逆に同人音楽からゲーム音楽に興味を持ったりという反応はあるのでしょうか。

与猶氏:
 うーん,それはあまりないみたいです。そこが面白いところだと思うんですが,クラスター化されているというか,これもキッチリと分かれています。
 両者がうまく繋がっていけば面白いだろうということで,僕を中心にそういう企画を立ててくれる人もいるんですが,実際にやってみると何かが違うんですよ。
 だから,これは分けておいたほうがいいのかなと感じています。ゲームに組み込まれた状態で音を楽しんでくれる人と,「DS-10」から出る音を楽しんでくれる人は,やはり音への関わり方が違う。そこにまず壁ができているのではと考えています。

4Gamer:
 単純に音楽性が共通していれば良いというものではないわけですか。

与猶氏:
 そうですね。それだけでは成り立ちません。それ以外のいろいろな外的要素があって,そこにキーワードやタグが付いて,はじめて音楽にアクセスできるんだと思います。
 同じゲームでも「ストラニア」のようなアーケードゲームと,PC美少女ゲームとでは,聴いている層は全然違いますよね。そうした部分はなかなか一枚岩にならないという印象があります。もちろん,一枚岩になれば面白いと思っていますけど,無理やりそれをくっつける必要もなくて,このまま「近くのお隣さん同士」でも良いんでしょうね。

4Gamer:
 アーケードゲームとPC美少女ゲームのようにジャンルをまたぐと,作曲の姿勢もやはり違ってくるものでしょうか。

与猶氏:
 方法論はあまり変わらないですが,意識の持ち方は違ってきます。シューティングの音楽とアドベンチャーパートの音楽,それにライブイベントなどのステージで演奏する音楽とでは,そもそも時間の流れ方がまったく違うんですよ。
 例えば,シューティングは短い時間の中に詰め込めるだけエモーションを凝縮させますが,ライブイベント用の曲は長く長く作って,ある一点にエモーションを集中させる。美少女ゲームのようなアドベンチャーパートだと,短いところでガツンとテンションを上げていくようなところはほとんどないので,エモーショナルな部分は強く出さずに,全体的な雰囲気を作り込むことでクオリティを上げていきます。

4Gamer:
 では最後に,今後のご予定などお教えいただけますでしょうか。

与猶氏:
 PC美少女ゲームになるんですけど,「神咒神威神楽」というゲームが9月30日に発売となります。それと梅本 竜さんの遺作でもある「INSTANT BRAIN」(Xbox 360)にも参加していて,こちらは11月1日に発売となります。イベントのほうでは,9月30日から3日間連続で行われるゲーム音楽フェス「4starオーケストラ」に出演します。そこでは「KORG M01」(ニンテンドーDS)などで自分のゲーム音楽を演奏する予定です。

4Gamer:
 本日は,ありがとうございました。


 現在のゲームBGM作曲家は,オールマイティな才能が求められがちで,それゆえ往々にして,突出した個性よりも,平均的な完成度のほうが重視されるように思われる。一方で,シューティングゲームはその中にあって,BGMの個性がことさら重視される,ニッチでありつつも特別なポジションにあるといえるだろう。
 与猶氏は長いキャリアの中で,FM音源から美少女ゲーム,同人音楽,そしてシューティングに至る幅広いジャンルを渡り,どこであっても自らの個性を損なうことがなかった,稀有なコンポーザーだ。その足跡には,これからのゲーム音楽を考えるうえでのヒントが詰まっているのかもしれない。


※1 渡部恭久氏 元タイトーのサウンドコンポーザー。代表作に「サイバリオン」「メタルブラック」など。のちスーパースィープに所属し,現在フリー。近年は「旋光の輪舞」「ボーダーダウン」など,グレフ作品での活躍が目立つ。

※2 安井洋介氏 スーパースィープ所属。近年シューティング作品を中心に注目を集めつつある。グレフ作品では「まもるクンは呪われてしまった!」を担当。

※3 アース・ウインド・アンド・ファイアー 1970年代のディスコブームを代表するバンドのひとつ。ジャズやファンクを下地としつつ,ポップミュージックとして完成された音楽を数多く送り出した。

※4 細江慎治氏 スーパースィープ代表取締役。当時すでにゲーム音楽界の重鎮としてその名を知られていた。また同人CD黎明期の最大手,トルバトールレコードの中心人物でもあった。
 
  • 関連タイトル:

    星霜鋼機ストラニア

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