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命がけの旅の終着駅で待つものとは? 「放課後ライトノベル」第123回は『金星特急』にのりこめー^^



 2012年の本連載も今回で最後となる。年頭に「今年はあれもやろう,これもやろう」と思っていたことが,振り返ってみると何一つできなかった気がする。長いこと旅行にも行ってないし。とはいえ,残り10日を切った今からでは行けるところは限られているし,せいぜい12月29〜31日の東京ビッグサイトくらいだろう。

 だが,ちょっと待ってほしい。こういうときこそ,我々にはゲームがあるじゃないか! というわけで,旅気分を味わおうと「風ノ旅ビト」を始めてみたら,没頭のあまり気がつけば数時間もプレイしてしまっていた。うーん,やっぱ旅はいいよね!
 それを仮想体験させてくれるゲームももちろん素晴らしいし,そんなゲームの情報をたくさん伝えてくれる4Gamerはやっぱり最高! だから今,筆者の目の前の原稿が真っ白なのも仕方ないし,担当さんもきっと笑って許してくれるよね! きっと! たぶん! おそらく!(編注:許されざる状況ですよ!

 気を取り直して,「来年こそ頑張る」を2013年に向けた抱負に掲げる筆者がお贈りする「放課後ライトノベル」第123回では,先日最終巻が刊行されたばかりの『金星特急』を紹介する。謎の美女“金星”に導かれ,金星特急に乗って旅をする花婿候補たちの,波乱万丈の冒険譚だ。

画像(001)命がけの旅の終着駅で待つものとは? 「放課後ライトノベル」第123回は『金星特急』にのりこめー^^
『金星特急7』

著者:嬉野君
イラストレーター:高山しのぶ
出版社/レーベル:新書館/ウィングス文庫
価格:966円(税込)
ISBN:978-4-403-54186-5

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●神秘の美女を射止めるため,男たちの旅が始まる


 年に1回,その列車は下記のようなポスターと共に,世界のどこかに忽然と現れる。

『花婿募集

 条件:生殖能力のある男性
 報酬:この世の栄華

                                応募主:金星』


 現れてから7日後,列車は希望者を乗せて走り出し,やがて現れたときと同様に忽然と消失する。あとを追いかけようとした者も,不可思議な力によって消え失せてしまう。戻ってきた者は,誰一人としていない。まるでいけにえを求めているかのような,この謎の列車――金星特急を,人々はこの世ならざるものとして恐れた。それでも「この世の栄華」に魅せられ,列車に乗り込む男はあとを絶たなかった。

 金星特急の存在が確認されて9年目となる今年もまた,金星の花婿の座を射止めんと,多数の男たちが東京駅に詰めかけていた。錆色の髪を持つ少年,錆丸さびまる。“錆”は正しくは金偏に青)もその一人。彼はホームにて,無愛想な隻眼の男・砂鉄(さてつ),美形の青年騎士・ユースタスと出会う。自身と同じく花婿候補である2人と,錆丸はひょんなことから行動を共にすることになる。

 錆丸,砂鉄,ユースタスを含むたくさんの花婿候補たちを乗せ,金星特急は走り始める。どこへ行くとも,いつ終わるとも知れない旅路へと――。


●特急の旅は命がけ! 二転三転する物語の行く先は!?


 東京を出発し,西へ,西へと大陸を進む金星特急。だがその道行きは,平穏なものとはとても言い難い。

 発車前に突如として客車の1つが押し潰され,中にいた乗客が消失したのを皮切りに,数々の異変や事件が次々に錆丸たちを襲う。一時停車した上海ではマフィアに襲撃され,インドシナではジャングル内で宝探しをさせられる。やっとのことで宝を見つけたと思ったら列車に置いて行かれ,追いつくために軍の拘束から抜け出し,一路空路でチベットへ――。まさに一難去ってまた一難。玉を転がすようにくるくると状況が変わっていき,まるで読書のやめどきが見つからない。

 旅が進むにつれ,ほかの花婿候補や旅先で出会った人々など,錆丸たち3人以外にもスポットが当てられ,物語はさらに深みを増していく。とくに,流浪の傭兵集団・月氏(げっし)と接触してからは,主要な登場人物が一気に増え,より群像劇的に。それでいてキャラクターそれぞれに見せ場とドラマが用意され,キャラ被りや不要なキャラクターがいないのだから見事というほかない。

 過酷な旅の中で,日本で普通に暮らしてきた錆丸はもちろん,腕に覚えのある砂鉄やユースタスさえも幾度となく命の危機にさらされる。当初はそれぞれの目的のために互いを利用し合うだけの関係だった彼らも,やむなくお互いを支え合う中で,相手への感情を少しずつ変化させていく。旅は人を変える――読みながら頭に浮かんでくるのは,まさにそんな言葉だ。


●たくさんのワクワクが詰まった,宝石箱のような名作


 多くの花婿候補と謎を乗せたまま,どこへともなく走り続ける金星特急。だが,本作の謎はこれだけではない。冒険が苛烈さを増すのに比例するかのように,その背後に横たわる謎も,明かされるどころかより深さを増していく。

 200年前に突如現れ,現在では全世界共通の言語となっている世界語 (“語”は正しくはさんずいに語。「シージエユー」と読む)。正しい世界語の普及に血道を上げる,純国語普及委員会。世界語が通じないバベルの民。ここに,世界中で起こった少女の消失事件といった出来事が絡み,物語の結末を簡単には予測させてくれない。キャラクター一人ひとりにも秘められた過去が用意され,それが1つ明かされるたび,旅はまた一歩,目的地に近づいていく。

 故郷を遠く離れ,度重なる苦難に見舞われつつも,錆丸は決して金星特急を降りようとはしない。理由はただ1つ,金星に会いたいから。多分に甘さを抱えた少年の,それだけは純粋でゆるぎない想いに動かされ,いつしか誰もが彼の恋を叶えようと力を尽くし始める。そして同時に,彼ら自身もまた,己の恋に向き合っていく……。

 冒険と謎,そして恋。どれか1つでもワクワクする要素を3つも,それもふんだんに盛り込んだのだから,面白くならないはずがない。女性向けのイメージが強いレーベルの作品だが,それを理由に敬遠するのはもったいない名作だ。男性も女性も,年末年始のこの機会にぜひ,金星特急の旅路とその終着点を見届けてほしい。
 それではまた来年。良いお年を。

■時刻表が読めなくても分かる,鉄道ライトノベル

『僕は君たちほどうまく時刻表をめくれない』(著者:豊田巧,イラスト:松山せいじ/ガガガ文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
画像(002)命がけの旅の終着駅で待つものとは? 「放課後ライトノベル」第123回は『金星特急』にのりこめー^^
 金星特急を水先案内人としたロードノベルとしての側面も色濃い『金星特急』。マンガやアニメなどにおいても,古くは『銀河鉄道999』から近年では『鉄子の旅』まで,鉄道が重要なモチーフとなる作品は枚挙にいとまがない。もっともファンの中心は大人の男性であり,中高生を主なターゲットとするライトノベルとは無縁――かと思いきや,列車や鉄道をモチーフとしたライトノベルも意外に多い。
 そのリードオフマンと言えるのが,かつて某電車運転ゲームの宣伝を担当していたという豊田巧。平凡な男子高校生と,鉄子なヒロインとの出会いから幕を開ける『僕は君たちほどうまく時刻表をめくれない』は,イラストを担当する松山せいじも『鉄娘な3姉妹』『ゆりてつ 私立百合ヶ咲女子高鉄道部』といったマンガを手掛けた鉄道ファンで,まさにベストコンビ。豊田巧はこのほかにも,国鉄が民営化しなかった架空の日本を舞台とする『RAIL WARS! ―日本國有鉄道公安隊―』(創芸社クリア文庫)や,児童文学レーベルの『電車で行こう!』(集英社みらい文庫)といった作品を手掛けており,いずれもシリーズ化されている。
 過去にはアニメ脚本家の倉田英之が,超巨大列車を舞台にした冒険活劇『TRAIN+TRAIN』(電撃文庫)を送り出すなど,鉄道とライトノベルの関係性は意外に深い。「鉄道ライトノベル」というジャンルが確立する日も近い……かも?

■■宇佐見尚也(ライター/無賃乗車)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。今年はPS Vitaを買ったりと,久々に“ゲーム充”した感のある1年になったという宇佐見氏。最近はニンテンドー3DSがいよいよ本格的に気になり始め,購入まで秒読み状態だとか。「来年こそはゲーマーの本領発揮といきたいところですな」と鼻息も荒く語っていました。本業の原稿のほうでも本領発揮してもらいたいところです。

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