イベント
「World of Tanks」の新モード「ヒストリカルバトル」の実装意図と背景を説明するレクチャーが実施。Militariaを巻き込んで,さらなるレベルアップを目指す
「World of Tanks」公式サイト
4月10日に掲載した記事でもお伝えしたように,ヒストリカルバトルとは,第二次世界大戦で実際に行われた戦闘をテーマにしたモードで,プレイヤーは戦史に沿った車両を使い,実際の戦場をイメージしたマップで戦うことになる。今のところ「クルスクの戦い」「バルジの戦い」,そして「春の目覚め作戦」の3つが用意されている。
すでにヒストリカルバトルを体験した人も少なくないと思うが,そもそもヒストリカルバトルとは何か? どういう意図を持って作られたのか? というあたりに疑問を持っている人もいるかもしれない。そうした疑問に応えるべくレクチャーを担当したのは,ウォーゲーミングジャパンでミリタリーアドバイザーを務める宮永忠将氏で,宮永氏は今回のヒストリカルバトルの実装についても,深く関わっているとのことだ。
![]() |
設計図を含む資料の多くは失われたとされているが,多くのスタッフの努力により意外なところで見つかったりもしており,また,似た車両からの類推や工学的必然性などによってレストア作業が進められていると宮永氏は述べた。実際にマウスが機動すれば,1945年以来のことになり,それだけに,プロジェクト発表後のWargaming本社への問い合わせには,担当者が対応しきれないほど凄まじいものがあったという。
ちなみに宮永氏によれば,マウスの存在を西側の専門家が知ったのは,それほど昔の話ではなく,グラスノスチ(情報公開)のおかげでフィンランドのメディアがクビンカにカメラを持ち込み,そのとき背後にチラっとマウスが映ったことが発端だったそうだ。ゴルバチョフ時代,1980年代のことだ。「こちら」の記事でも紹介したように,筆者もクビンカのマウスを実際に見た経験があるが,現用戦車よりもさらに大きいその風情は,まさに鉄の塊であり,まさかこれを動かそうと考える人がいるとは想像もしなかった。
またこのほか,5月13日に掲載した記事でもお伝えしたように,バトル・オブ・ブリテン開幕直後の1940年8月26日,爆撃ミッションの帰路にイギリス空軍第264戦闘機中隊のボールトンポール デファイアント機に撃墜されて北海のグッドウィン サンズの底に沈んだドイツ空軍のDo-17 Z-2(ドルニエ 17)の引き揚げ作業にも,Wargamingは協力している。RAF(イギリス空軍)博物館には,すでに展示予定の特設ブースが用意されており,世界唯一の現存するドルニエ機の復元作業は順調に進んでいるようだ。写真を見る限り,引き揚げられた機体は原型を留めないような有様に見えるが,RAF博物館の公式サイトによれば,これほど部品が揃った例はかつてないのだという。
さらに,ミャンマーのヤンゴン周辺に埋設遺棄された(という情報のある)スピットファイア戦闘機の発掘作業を支援するなど,Wargamingは世界中の軍事博物館や軍事記念館とのリレーションシップを強めている。
こうしたことを行うのはなぜか? ゲームメーカーとしてのWargamingの立ち位置は,ほかのメーカーと変わるところなく,それはつまり制作したゲームを世界中のプレイヤーが遊び,さまざまなフィードバックを受けてゲームをシェイプアップしていくというものだ。
だが,ほかと異なるのはWargamingの制作するゲームがすべてミリタリーをテーマにしたものであることだ,と宮永氏は続けた。登場する戦車にせよ戦闘機にせよ軍艦にせよ,すべて実物をモチーフにしており,そのため,プレイヤーの目には見えないところで多数の軍事博物館や専門家,マニアなどの協力を得ている。上記の数々のプロジェクトもその流れの中にあり,資料などで常にお世話になっているさまざまな軍事博物館や記念館に対する,Wargamingの返礼であると言えるかもしれない。
![]() |
このような,ほかにはないミリタリー知識の集積を使って新たなプレイヤー層に訴求しようとする施策の一つが,ヒストリカルバトルだ。そしてその新たなプレイヤー層というのが,レクチャーのタイトルにもある「Militaria」であると宮永氏は言う。あまり聞き慣れない言葉で,辞書で調べると「軍事コレクション」などという意味もあるようだが,ここでは「ミリタリーマニア」,あるいはもっと砕けて「軍事オタク」と呼ばれる人々を指すという。
つまり,ゲームに加えてミリタリーそのものにも興味がある人々をWorld of Tanksの世界に誘い,彼らの知識を活かしたフィードバックを得て,ゲームをさらにレベルアップさせようというのがヒストリカルバトルなのだ。
ここで宮永氏は,用意された3つの歴史的な戦いについての説明を行った。詳しく書くときりがないので概略を紹介すると,まず「クルスクの戦い」は,1943年7月に起きた「プロホロフカの戦車戦」がモチーフになっている。
クルスクの戦い
![]() |
バクー油田を狙ったヒトラーのカフカス侵攻計画は,スターリングラードの第6軍全滅で頓挫したが,続くソ連軍の反撃も第三次ハリコフ攻防戦の敗北により停止し,両軍は息を切らして対峙することになったが,そこまでの戦いの結果,戦線にはクルスクを中心にした巨大な突出部ができていた。ドイツ軍にとっては自軍の戦線にできたこの突出部はきわめて危険であったため,これを南北から挟撃して包囲殲滅するという「ツィタデレ作戦を」発動した。当初,作戦開始は5月に予定されていたが,ヒトラーは「パンター」や「エレファント」などの新兵器の量産配備を主張したため,作戦の発動は7月にずれこみ,その間を利用してソ連軍は重厚な縦深防御陣地を構築し,ドイツ軍を迎え撃った。
![]() |
ゲームでは,Tier 7のティーガーIが登場することが特徴的で,同じTierではそれほど強いという印象のない戦車だが,1943年の段階ですでに戦線に投入されていたことがティーガーIの凄みなのだと宮永氏は述べた。
バルジの戦い
![]() |
「バルジの戦い」は,第二次世界大戦末期の1944年12月,ドイツ軍が米英軍に対して行った大攻勢で,ドイツ軍が戦線を突破した状況が樽などのでっぱり(バルジ)に似ていたためこう呼ばれる。ドイツ軍の作戦秘匿名称としては,防戦を連想させて相手を混乱させる「ラインの守り」があるほか,主戦場から「アルデンヌの戦い」とも言われる。
![]() |
悪天候のため連合軍の航空機が飛べず,虚を突かれた米英連合軍は各地で敗退したが,ドイツ軍は要衝バストーニュの攻略に失敗し,さらに南方に展開していた米第3軍がすばやく方向を転換して北に向かったため,ドイツ軍の進撃速度は日を追って鈍り,ついには撤退を余儀なくされてしまった。
ゲームでは,Tier 8のティーガーIIのほか,M10に偽装したパンターが登場する。対するアメリカ軍は,おおむねTier 6の戦車だ。
春の目覚め作戦
![]() |
![]() |
この,あまりにも意外な攻勢に当初,油断していたソ連軍は混乱したが,すばやく立ち直って反撃を加えた。雪解けの深い泥濘に足を取られたドイツの重戦車は,燃料不足も加わって次々に擱座し遺棄され,かくして,ドイツ最後の攻勢はなんの成果もなく終わりを告げたのだ。
最末期の作戦ということもあり,ゲーム的にはドイツ,ソ連共に高Tierの強力な戦車が多数出てくることが特徴になる。
![]() |
ドイツがフランスに侵攻した西方電撃戦,続いてソ連に侵攻した直後の独ソ戦では,Tier 2〜Tier 4(ソ連がTier 5)の戦車が中心で,北アフリカでの戦いやスモレンスク攻防戦など,ヒストリカルバトルのモチーフになりそうな戦いも登場してくる。
![]() |
![]() |
![]() |
1941年の終わりから1942年にかけては,Tier 3からTier 6の戦車による戦車戦が東部戦線と北アフリカで繰り広げられ,Tier 4からTier 8が主力になる1943年の戦いを経て,1944年6月のノルマンディー上陸作戦の頃にはTier 5〜Tier 8の強力な戦車が主力になる。イタリアを舞台にした山岳戦や,ミハエル・ヴィットマンを有名にしたヴィレル・ボカージュの戦い,そしてソ連軍がドイツ中央軍集団を壊滅させたバグラチオン作戦など,ヒストリカルバトルのテーマになりそうな戦車戦が非常に多い。
果たして,次のヒストリカルバトルがどこになるのかを考えるのも楽しいだろう。遮蔽物が何もない北アフリカの砂漠は,戦車を操作する腕前とチームプレイが必要になりそうだし,北フランスでは,細い路地が複雑に入り組んだ市街戦のセンスが問われるだろう。低いTierの戦車しか出てこない初期の電撃戦も,やりようによっては面白いはずだ。
ヒストリカルバトルの課題
![]() |
まずは再現性で,ご存じのように本作には戦車以外の兵器は出てこない。その見切りのよさがWorld of Tanksというゲームの分かりやすさであり魅力でもあるのだが,それに対して実際の戦場には,歩兵や砲兵,さらに航空機がいて,それらが決定的な役割を果たした戦いも少なくない。
戦場の規模を考えれば,こうした戦車のみの状況になることもそれほどおかしくはないのだが,雰囲気を高めるためのビジュアルがあってもいいのではないかと宮永氏は言う。さらにXbox 360版では実現されたものの,PC版ではいまのところ天候変化は再現されていない。視界の悪いモスクワ正面の雪中戦なども再現してほしいところだ。
また,史実の勝敗が戦闘結果に反映されていないため,敗者側でチャレンジする動機が薄いとも感じており,何かしらのリワードが必要なのではないかと思っているそうだ。さらに,参加条件が厳しいことや,非力な車両を選ぶメリットがあまりないことも挙げたが,今後,そういう問題を解消していけるだけのポテンシャルがWorld of Tanksにはあると述べた。そして,ミリタリー好きのプレイヤーの積極的な関与や,意見の交換を経て,さらに魅力的なコンテンツになるように磨いていきたいとして,レクチャーを終了した。
「World of Tanks」公式サイト
- 関連タイトル:
World of Tanks
- 関連タイトル:
World of Tanks: Xbox 360 Edition
- この記事のURL:
キーワード
- PC:World of Tanks
- PC
- ストラテジー
- MMO
- RPG
- アクション
- Wargaming.net
- ミリタリー
- ロシア
- 現代戦
- 戦術級
- 戦争物
- Xbox360:World of Tanks: Xbox 360 Edition
- Xbox360
- イベント
- 編集部:松本隆一
(C) Wargaming.net
(C) Wargaming.net LLP, 2013-2014. All rights reserved.






























