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Access Accepted第610回:「ゲーム障害」は疾病として正式に認められてしまうのか
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印刷2019/05/13 12:00

業界動向

Access Accepted第610回:「ゲーム障害」は疾病として正式に認められてしまうのか

画像(001)Access Accepted第610回:「ゲーム障害」は疾病として正式に認められてしまうのか

 昨年(2018年)6月,WHO(世界保健機関)が約30年ぶりの改訂となる国際疾病分類第11版(ICD-11)を発表した。発効は2022年が予定されているが,我々にとって気になるのは,「ゲーム障害」が新たな疾病として含まれていることだ。果たして,「ゲーム障害」の認定はゲーム市場にどのような影響を与えるのだろうか。


ゲーム障害とは


 2018年6月,WHO(世界保健機関)が約30年ぶりの改訂となる国際疾病分類第11版(以下,ICD-11)を発表した。読者の多くがすでにご存じだと思うが,我々にとって気になるのは「ゲーム障害」(Gaming Disorder)が新たな疾病として認められつつあることだ(関連記事)。ここでWHOの言う“ゲーム”とは「ビデオゲーム」や「デジタルゲーム」を指す。なお,「ゲーム障害」が含まれる「物質使用症(障害)群または嗜癖行動症(障害)群」のカテゴリには,薬物中毒や「ギャンブル障害」(Gambling Disorder。ICD-10の日本語表記では「賭博障害」)なども含まれる。

 ICD-11は,疾患や症状のリストのようなもので,医療専門家がこれを参考にして診断を下したり,治療を行ったりすることになる。ただし,ICD-11はすぐに使われるわけではなく,2019年5月に決定機関である世界保健総会に提出され,調整を加えつつ,2022年1月に発効する予定だ。何も問題が起きなければ,2022年には「ゲーム障害」が疾病として世界的に広く認知されることになる。

 「ゲーム依存症」「ゲーム中毒」という言葉は,かなり前から欧米でも使われてきたが,ゲームの場合は「依存」(Dependence)ではなく「嗜好」(Addiction)であり,また「中毒」(Intoxication)とは,“摂取後に生じる可逆的な物質特異的症候群”を指すので,専門家によれば,「ゲーム依存症」も「ゲーム中毒」も,科学的に適切な用語であるとは言えないという。個人的には,「障害」という日本語が,「Disorder」という英単語のニュアンスをうまく表現できているとも思えないのだが,ICD-11が発効されれば,日本でも「ゲーム障害」が一般的な医学用語として使われていくのかもしれない。


 WHOの見解によれば,「ゲーム障害」とは簡単に言って,「ゲームをプレイする時間を自分でコントロールできず,生活や社会活動に否定的な影響が起こる状態」であるとしている。筆者の医学的知識はごくわずかなので,それが正しい定義なのかどうかは分からないのだが,どこまでが単に「熱中してプレイしていること」になり,どこからが精神障害になるのかを判断できるほどの科学的根拠には乏しいという反論もある。また,たとえ「ゲーム障害」だと診断されても,その治療法は十分に研究されておらず,果たして病気として診断を下すことに意味があるのかという疑問も残る。

 例えば,モバイルゲームの「ガチャ」やカードゲームのパック購入にハマったとしても,ガチャ要素はビデオゲームの障害というより,「ギャンブル障害」ではないかという気がするし,カードパックを買いまくることは,デジタルに限らず,実際のカードを使ったゲームでも起こっていることだろう。
 MMORPGなどのオンラインゲームに熱中するあまり育児放棄や離婚に至ったり,最悪の場合,突然死したりするという事例は過去,何度も報道されており,社会や医学界がなんらかの対応を迫られているのは理解できる。苦しんでいる人も少なくない。筆者個人としては,「シヴィライゼーション」を徹夜でプレイしたためにレポート提出に遅れ,大学の単位を落としてしまった体験をしているのだが,それで「ゲーム障害者」に認定されるのには異を唱えたくなる。

WHOは「ゲーム障害」の認定を急いでいるようだが,医学的な考察が不十分だという意見も少なくない
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WHOの疾病認定は,世界のゲーム産業に大きな影響をもたらす


 ICD-11だけでなく,アメリカ精神医学会(APA)が2013年に発表した独自の疾病分類データ「DSM-5」にも,「インターネットゲーム障害」の記述が見られる。だがこの場合,「疾病として特定できるだけの証拠が不十分」であるとして認定には至らず,今後の研究に委ねることになった。
 そのような経緯があるためか,APAに所属する医学者達の多くはWHOの見解に難色を示しており,2017年には先手を打って,「Video game addiction: The push to pathologize video games」(ゲーム嗜癖:ビデオゲームを病気に認定する動き)という論文も発表された。論文では,WHOが結果を急ぎ過ぎるあまり「診断基準や,症例の適切なサンプリングを欠いている」ことを指摘している。

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 言うまでもなく,「ゲーム障害」の疾病認定はゲーム産業に大きな影響を与える。「飲酒」や「博打」と同様,すべてが「ゲーム」としてひとくくりにされ,暴力表現の有無やビジネスモデルの違いなどは考慮されない。そのため,たとえ簡単な落ちものパズルでも,熱中してプレイすれば「ゲーム障害」を引き起こす要因と見なされ,18歳未満には販売禁止といった措置がとられる可能性が生じる。人気ゲームほど,そうなる可能性が高いが,だからといって,なるべく人々が熱中しないゲームを作ることに何かの意味があるとはとても思えない。

 そんな中,ICD-11草案の世界保健総会提出を前に手を打とうとしているのが韓国のゲーム業界だ。香港から海外に情報を発信するニュースサイト,サウスチャイナ・モーニング・ポストの伝えるところによれば,ソウル大学が韓国ゲーム産業に対して行った調査の結果,「ゲーム障害」が疾病として認定された場合に被る損失は,実に約11兆ウォン(約1兆円)に達することが分かったという。
 2017年の韓国ゲーム市場の規模が約13兆ウォンだったと発表されているので,ほぼ潰滅というわけだ。この結果を受けた韓国コンテンツ振興院(KOCCA。Korea Creative Content Agency)は,すでにWHOに書類を送り,再考を求めたと記事は伝えている。

 2001年にはゲームが脳に悪影響を与えるという「ゲーム脳」が日本で話題になったが,筆者の知る限り,海外の脳科学者のほとんどは調査方法に疑問を持っていた。2002年に発行された科学誌「ニューサイエンティスト」では,脳波を専門にするデニス・シュッター(Dennis Shutter)博士が,「もし,ゲームを続けたことで脳波に何かの影響が出たのなら,それは単に疲れによるものだ」と一蹴している。

 その後,ゲームが記憶力の向上や問題の解決能力,さらには社会的な連帯意識の醸成に役立つといったポジティブな研究が数多く発表されているのだが,ここへきて,WHOという国際的に影響力を持つ組織が突然のようにゲーム市場に乗り込んできたのだ。果たして「ゲーム障害」は疾病としてICD-11に含まれるのだろうか。当然ながら,もし病気であるのなら早急な診断法と治療法の確立が望まれるところでもあるので,いずれにせよ今後の動きが非常に気になる話だ。

アメリカでは大学に専用ルームが開設されるほどeスポーツ熱が高まっており,これはもう世界的なトレンドだろう。ICD-11で「ゲーム障害」が認定された場合,eスポーツ界にも大きな影響を与えるかもしれない
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。

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