業界動向
奥谷海人のAccess Accepted / 第278回:2010年冬の陣〜欧米ゲーム市場の年末商戦の話題
PlayStation MoveやMicrosoft Kinectなどの新たなハードウェアに加え,大作感のある多数の新作タイトルなど,激しいセールス合戦が繰り広げられることになりそうな北米の年末商戦。例年のごとく,その背後にはいろいろなドラマもあるようだ。今回は,ヨーロッパ産のアクションRPG「Two Worlds II」と,Electronic Arts期待のFPS「Medal of Honor」を例に,ちょっと気が早いかもしれないが,次第にあわただしさを増してきたゲーム市場の雰囲気をお伝えしよう。
2007年のRPG作品では,同じヨーロッパ産の「The Witcher」と並ぶヒットとなった「Two Worlds」。とはいえ,ファンからはバグの多さが指摘され,これまで何度もパッチがリリースされてきた。それだけに,「Two Worlds II」でもそのイメージを強くしそうなパブリッシャのコメントには,突っ込まざる得なかったようだ
SouthPeak Gamesが北米で販売を担当しているアクションRPG「Two Worlds II」の発売に関して,ちょっとしたトラブルが起こっている。
9月14日に予定されていた発売が行なわれず, 16日になって初めて,発売日が10月5日に延期されたことが発表されたのだ。延期の理由は明らかにされていないが,9月14日は現在大ヒット中の「Halo: Reach」の発売日でもあり,SouthPeak Gamesはギリギリのところでそれを避ける決定を下したと思われている。
ヨーロッパも9月16日から10月29日へと発売日が延期されており,予約していたファンにとっては残念なことになった。
ところが,それから2週間ほど経った9月29日,同作の発売日がさらに2011年1月に延期されることが発表された。2度目の延期の際は,プレス向けに理由を公開しており,それによれば,「Two Worlds IIはトリプルAタイトルであるが,ファイナル版をさらに磨き上げるための時間が必要だと判断した。アメリカでリリースされる際には,バグのない完全な製品にしたい」とし,さらに「発売日を早めて年末商戦に参加することもできたが,ゲームを本来の姿に完成させてリリースしたほうが,ファンにとっても良いことだろう」と続ける。
しかし,そんなSouthPeak Gamesの説明に反論したのが,ほかならぬ開発元のTopWare Interactiveだ。同社は「長期間のバグチェックもしており,ゲームは9月に入った段階で完成していた」と発表したのだ。
SouthPeak Gamesの説明では,あたかも未完成のままゲームを出荷してしまう状況だったかのような印象を与えてしまう。ゲームを開発し,ファンの評価を受ける立場の開発会社なら当然行なってしかるべき反論に違いない。
そして,もしTopWare Interactiveの言い分が事実なら,開発会社をスケープゴートにして正しくない説明を行ったSouthPeak Gamesの態度は批判の対象になりそうだ。
もっとも,そのTopWare Interactiveにしても,必ずしも発売延期に対して反対しているわけではなく,「2010年の年末商戦は,競合ソフトが多過ぎる」と感じているようだ。
Halo: Reachだけでなく,直接のライバルとなるRPGにおいても,「Fable III」や「Fallout: New Vegas」,そしてヨーロッパで根強いファン層を持つ「Arcania: Gothic 4」のリリースが控えている。最近の欧米産RPGは非常に大作感のある作品が多く,一度買えばしばらくほかのゲームに手を出す必要はないほど遊び込める。
アメリカでは年間に発売されるゲームタイトルの45%が,11月〜12月に集中するといわれており,毎年文字どおり激しい“商戦”が繰り広げられる。
ビッグタイトルがひしめく時期を避けるのは,なにもSouthPeak Gamesのような中堅のパブリッシャだけでなく,思いつくだけでも,THQの「Red Faction: Armageddon」,Ubisoft Entertainmentの「Tom Clancy's Ghost Recon: Future Soldiers」,Atariの「Test Drive Unlimited 2」,Activisionの「True Crime: Hong Kong」といった大手メーカーのタイトルが,2011年以降に先送りされているのだ。
筆者が取材などをとおして見る限り,Electronic Artsはアフガンで戦う兵士に対して十分なリスペクトを送っているという印象を個人的に受ける。イラク戦争を扱った「6 Days in Fallujah」がキャンセルされたことがあるが,センシティブなテーマをゲーム化する難しさを感じる
欧米では人気の高いジャンルであるFPSに少しスポットライトを当ててみよう。
2010年9月にリリースされたHalo: Reachに続き,10月にはElectronic Artsの「Medal of Honor」,そして11月にはActivisionの「Call of Duty: Black Ops」が発売される。いずれも話題作だが,この中で,やはり劣勢に立たされているのは,記録ずくめの2作の間に挟まる格好のMedal of Honorだろう。
1000万本到達は確実と言われるHalo: Reachと,予約数が「Call of Duty: Modern Warfare 2」のそれを超えているとされるCall of Duty: Black Opsに対し,パブリッシャのElectronic Artsも「予約数は,シリーズでは過去最高」と発表しているが,それでも話題性に関してはほかの2作品におよばないという感がある。
最近,Electronic Artsの幹部が「(Medal of Honorが)300万本以上売れなければ,今後,シリーズの新作は作らない」とコメントしているが,こうした発言をすること自体,Electronic Artsが危機感を感じていることの表れといえそうだ。
また,すでに知っている読者も多いと思うが,アメリカの軍人会や戦死者の家族会などから,Medal of Honorを問題視する声があがっている。これは,Medal of Honorのマルチプレイにおいてプレイヤーがタリバン兵となってアメリカ軍と戦うということが批判されたもので,北米の一般メディアも大きく取り上げている。
これに対してElectronic ArtsのCEOであるJohn Riccitiello氏は,「我々はアフガニスタンで戦う米兵を誇りにしており,Medal of Honorでは開発初期から退役軍人らに話を聞いてきた」とメディアに向けて発言したものの,アメリカ軍は「Medal of Honorは兵士を過敏にする恐れがある」として,軍事施設内のショップには置かないことを決めた。
これを受け,Electronic Artsはゲーム内勢力の名称をタリバンからOpposing Force(敵対勢力)という抽象的なものにし,問題の解決を図っている。
同作のエクゼクティブプロデューサーが,アメリカのGamasutra誌のインタビューに答えて「我々の目的は,戦地で戦う米兵たちを賛えることだった。しかし,その意図から外れた印象を与えたかもしれないと考えると,夜も眠れない」という心情を話すなど,思わぬ方向から火がついた批判にあわてた様子がうかがえる。
アメリカのリサーチ会社Kaufman Bros.は,「Medal of Honorは,年末商戦で成功できるだけの十分なバズ(話題)が作れていない」と分析しているが,どうやら意図しない方面でネガティブな話題を作ってしまったようだ。ただし,話題性の乏しさにしろ上記の批判にせよ,ゲームそのものの面白さとは関係ない話であり,ゲームのデキが問題になっているわけではない。
ちなみに,PC版のマルチプレイβテストが,アメリカ時間の10月4日(日本時間5日)から4日間行なわれる予定になっており,公式サイトでクライアントをダウンロードできる。果たして,Medal of Honorは年末商戦のダークホースになり得るか,購入を考えている人はチェックしておくべきだろう。
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