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原油の高騰,サブプライムローン問題など,景気が冷え込みそうな話題が多い昨今のアメリカだが,ことゲーム市場は依然としてホットな状況が続いているようだ。しかし,プラットフォームホルダーを除くと,2社で北米市場の50%以上を握るというActivisionとElectronic Arts以外は,伸び悩みを見せている。そんな北米ゲーム市場の現状を紹介しよう。
北米トップのパブリッシャに躍り出たActivision
住宅ローン絡みの不良債権に端を発する「サブプライムローン問題」によって株価へ影響が出ており,アメリカでは全体的に景気の冷え込みが懸念されている。だが,2006年末に“次世代ゲーム機”が出揃ったことで,アメリカのゲーム業界は活性化しており,好調を維持しているようだ。
北米市場で旋風を巻き起こすActivisionを牽引するのは,前2作が600万本のヒットを記録したGuitar Heroシリーズだ。新作の「Guitar Hero III: Legends of Rock」がリリースされたばかりだが,ここに元王者のElectronic Artsが「Rock Band」を引っさげて追撃するという構図になる
2007年10月のゲームの売り上げは,前年と比べて50%の伸びを見せて,5億5500万ドル(約600億円)ほどになったという。ここ最近は株価を急激に落としている他業種の会社も少なくないのだが,ゲーム業界に関しては,楽観的な予想が多い。
しかし,実情はやや厳しいようだ。大ヒットと呼べるような売り上げを記録したゲームは多くなく,勝ち組と負け組がはっきりしてきているのである。
さて,そんなアメリカのゲームメーカーの中で,勝ち組の代表格といえるのがActivisionだ。2007年度上半期の売り上げが3億6570万ドル(約400億円)にもおよび,Electronic Artsに肉薄。10月だけに絞ればシェアが28.7%となり,トップの座に躍り出た。これまで10年以上,Electronic Artsが1位に君臨してきたことを考えると,これは偉業といっても過言ではないだろう。Activisionの堅調さに同調するように株価も上がり,ここ1年で55%も上昇しているのである。
Activisionには,「Spider-Man」や「Transformer: The Game」のように映画のライセンスものが多いが,この躍進の牽引役となったのは,なんといっても欧米で大旋風を巻き起こしているGuitar Heroシリーズだろう。Activisionの売り上げの30%は同作によるものといわれているのだ。
2006年には,同シリーズの開発元RedOctaneを1億5000万ドルで買収し,2007年10月にはシリーズ第3弾の「Guitar Hero III: Legends of Rock」を市場に投入。このままの人気を持続できれば,Activision初の“1ビリオン(10億ドル)ソフト”になるのではないかと予想されている。同社の今秋のラインナップは,PCでもすでにヒット作となっている「Call of Duty 4」や「Tony Hawk's Proving Ground」といった知名度の高いものが多く,このまましばらくは堅実に成長していきそうだ。
安定したスポーツゲームで底力を見せる
Electronic Arts
2007年度のヒットチャートの現状は,「Halo 3」(370万本)が1位で,そこにElectronic Artsの「Madden NFL 08」(320万本)が続いている。この後,5位までは,「Guitar Hero II」(280万本),「Wii Play」(250万本),そして「Pokemon Diamond」(210万本)という数字になっていて,プラットフォームホルダーを除くと,ActivisionとElectronic Artsの2社の強さが際だっている
久々にライバル企業の後塵を拝してしまったElectronic Artsだが,6月末から9月末までの2007年度第2四半期の発表によると,販売総額は前年比で18%減の6億4000万ドル(約700億円),販売利益は45%減で2億4500万ドルとなっている。次世代ゲーム機開発への投資を行ったのちに,盛んに有能なゲーム開発チームの買収,さらにはCEOのJohn Riccitiello(ジョン・リチティエロ)氏やスポーツ部門を統括するPeter Moore(ピーター・ムーア)氏らを獲得するという大型人事を進めている(関連記事)。その一方,今後2年にわたっては世界に点在するスタジオの一部閉鎖やリストラを行うなど,変革を進めていくようだ。
Electronic Artsは,モバイル向けゲームを合わせると,この3か月間で50本以上の作品を北米市場向けに投入している。その中で,100万本のプラチナヒットとなったものは,「Madden NFL08」「FIFA 08」「NCAA Football 08」「Tiger Woods PGA Tour 08」,そして「MySims」と5作もあるのだ。さまざまな要因が重なって利益が減ったとはいえ,スポーツ系ソフトは相変わらずの強みを見せており,Wiiや携帯ゲーム機でのカジュアルゲームも盛んに拡充している。また,クリスマス商戦に向けては「Crysis」「Need for Speed: Pro Street」「Rockband」,そして「SimCity Societies」など,独自IPものも多く投入されており,一時的に揺らいだとはいえ,Electronic Artsの牙城が,まだまだ強固なものであるのは変わらない。
双璧に食い下がる中小メーカーの現状
ActivisionとElectronic Artsという双璧に対し,調子を落とし始めているのがTHQとMidway Entertainmentである。THQは,第2四半期が700万ドル(7億7000万円)の赤字となった。ここ13年間右肩上がりだった年間収益がどうなるかは,クリスマス商戦の結果次第となるわけだが,同社はその決戦の舞台に「WWE Smackdown vs. RAW 2008」や「Cars 2: Mater-National」といった切り札をそろえている。
一方のMidwayは,社の命運を懸けて開発したといわれる「Stranglehold」を投入。イギリス市場で5週間ほどトップ10入りしていたが,全体として売り上げは芳しくなかった。ほかの作品も開発が遅延しており,前期は3350万ドル(約37億円)の赤字になってしまっている。どちらも,大きく躍り出る機会を伺っていたメーカーだけに,この停滞は少し残念なところである。
まだ具体的な販売本数は明らかになっていないものの,欧米のゲームサイトなどコアファンには軒並み高評価なのが,2007年8月に発売された2K Gamesの「BioShock」だ。2008年春に延期された「Grand Theft Auto IV」の穴埋めを見事に果たした
また,依然として経営危機にあるAtariの第2四半期は770万ドル(約8億5000万円)の減益。2006年よりは改善したとはいえ,CEOのDavis Pierce(デイビッド・ピアース)氏の辞職を筆頭に北米本部でのリストラが続いている。Driversシリーズの開発元Reflections Interactiveや「The Matrix: Path to Neo」のShiny Entertainmentを売却するという処置も行っているが,現在もNASDAQ上場廃止の監査が行われているという,厳しい状態なのである。
もっとも,中小メーカーだからといって“負け組”なのではなく,Take-Two Interactiveのように裁判やソフト回収といったマイナス要素に苦しみながら,「BioShock」というスマッシュヒットを得て息を吹き返しつつあるメーカーや,カジュアルゲームや携帯ゲーム機向けソフトに集中することで,経営を拡大させているMajescoなどのメーカーもある。
また,ヨーロッパに目を向けると930万アカウントを保有する「World of WarCraft」によって2007年度上半期の売り上げが2006年よりも91%アップしたVivendi Gamesや,「Assassin's Creed」のようなコアゲームと,Petzシリーズなどのカジュアルゲームとのバランスが良いUbisoftがいる。
アメリカのゲーム業界団体ESA(Electronic Software Association)によると,2003年から2006年までの4年間,4%というアメリカの経済成長を遥かに上回る,平均17%という成長率で北米のゲーム市場は発展してきた。
今回紹介したメーカーばかりでなく,Microsoft,Sony Computer Entertainment of America,そしてNintendo of Americaといったプラットフォームホルダーや日本のさまざまなゲーム企業,そして新規参入を目指すオンラインゲーム会社などが入り乱れ,北米ゲーム史上は激しい動きを見せながら成長していくだろう。
ゲームを遊ぶ立場としては,市場全体が成長を続けゲーム会社が潤っていき,良質なゲームで我々を楽しませてくれるという,そんな好循環に期待したいものだ。
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