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[TGS 2012]鵜之澤 伸氏によるTGS 2012基調講演詳報。「FE 覚醒」や「ガンダム バトルオペレーション」「PSO2」を例に業界の新たな取り組みを紹介
ここでは,その基調講演の内容をより詳しくお伝えしたい。
そんな鵜之澤氏の目から見ても,この1〜2年,ソーシャルゲームの台頭などがもたらしたゲーム業界の変化は大きいという。氏はまずゲーム業界に起こった変化の歴史を示すスライドを来場者に見せた。
「PONG」に始まり,「パックマン」などの人気タイトルを生んだアーケード機によってゲームビジネスが確立。続いてPCやコンシューマ機,中でもファミリーコンピュータの登場によって,ビジネスの規模が一気に拡大した。その人気の延長線上に,携帯ゲーム機が登場する。
ここまでは「スタンドアロン」の時代だが,鵜之澤氏によれば,続く「ネットワーク」の時代で,ゲームビジネスに大きな変化が訪れたという。フィーチャーフォンやiPhoneに代表されるスマートフォンの登場により,ちょっとした空き時間に小さな画面で楽しむというゲームが出現したのだ。
こうしたゲームに,従来の数千円でパッケージを販売するという方法論はうまくあてはまらず,無料あるいは数百円程度でダウンロード販売するというモデルが一気に普及することになった。
ネットワークの時代に続いては,現在大きな盛り上がりを見せている「ソーシャル」の時代になる。ソーシャルネットワークサービス(SNS)におけるコミュニケーションの手段としてゲームが注目され,ここ3年ほどで大きなジャンルを築き上げた。
ではこれからのゲーム業界はどのような方向に進むのか。鵜之澤氏は「おそらくクラウドだろう」と予測する。
ただしスライド中,人々がクラウドゲームを楽しむことになるハードウェアは「Smart X」と書かれており,鵜之澤氏は「スマートテレビなのか,スマートカーなのか。もしかしたらスマートゲーム機かも」と語り,予想がつかないようだった。
以上,ゲーム業界の歴史を振り返り,近い未来の予測を終えたあと,鵜之澤氏は,ゲーム業界は全体で見れば大きく伸びている,とアピールする。最近「スマートフォンがゲーム機のユーザーを奪っている」といった趣旨の報道が多いが,鵜之澤氏の主張によれば,奪い合いではないのだという。
激しく移り変わる業界の流れにメーカーが対応していることの証明として鵜之澤氏がまず挙げたのが北米のゲームメーカー,Electronic Artsの決算資料だ。この資料からは,同社が総売上におけるデジタル配信の割合を増やしながら,業績を維持していることが分かると鵜之澤氏は語った。
では国内メーカーはどうか。鵜之澤氏はCESAがまとめた国内市場のデータから,緩やかな右肩下がりになっていることは認めながらも,続けて大手6社の業績データを示し,「大手メーカーの業績は悪化していない。(バンダイナムコゲームスの)副社長である自分もそう感じている」と断言した。
鵜之澤氏によれば,前述したメーカーが業績を維持しているのは,メーカーがプレイヤーとの距離を縮める新しいアプローチに取り組んでいるからだという。具体的にはFree-To-Play,ダウンロードコンテンツ,統合されたユーザーIDといったところで,それに加えて,そういった新しい仕組みをうまく活用できるゲーム制作にも力を注いでいる。
続けて,こういった新しいアプローチによって成功したタイトルが鵜ノ澤氏から紹介された。
まずは任天堂のニンテンドー3DS用ソフト「ファイアーエムブレム 覚醒」だ。
鵜之澤氏は,タイトルの紹介に入る前に「驚くべきデータだ」と前置きして,ニンテンドー3DSの国内ネット接続経験率が75%という数字を挙げた。ほかのコンシューマ機に比べてネット接続率が悪いというイメージがあっただけに,確かに意外な数字と言えるかもしれない。
そんな3DS用ソフトであるファイアーエムブレム 覚醒は,有料DLCのダウンロード数が120万本で,約3.8億円を売り上げている。鵜之澤氏は,ストレージ容量が違う2モデルをラインナップしたWii Uにも触れながら,「任天堂も,ネットワークを意識した取り組みを行っている」と語り,今後の展開に注目しているとした。
次に鵜之澤氏が紹介したのはバンダイナムコゲームスのPlayStation 3用ソフト「機動戦士ガンダム バトルオペレーション」だ。これは,2012年6月末にサービスが開始されたタイトルで,基本プレイ無料のアイテム課金制を採用している。同作の8月末のクライアントダウンロード数は約57万本だったが,DLC購入数は約125万本を記録し,売り上げは約7億円を記録したという。さらに,講演が行われた9月20日の時点では8億円を突破したとのことで,鵜ノ澤氏は「これだけで開発費を回収できた」と語った。
この作品では課金方法以外にも,ネット中心の宣伝活動など,新たな試みが行われたという。
3つ目はセガの「ファンタシースターオンライン2」だ。鵜之澤氏はこのタイトルの特徴として,PC/PS Vita/スマートフォン版が用意され,それらのすべてを同じIDでプレイできる点を挙げた。
また,課金アイテムが,見た目を変えるコスチューム的なものや,アイテムを所持できる数が増える倉庫といったものに限定されており,武器や防具といったバトルに影響を与えるアイテムがないという点を指摘し,「お金を使ったプレイヤーが強い」という事態を回避する好例だとした。
こういった実例を挙げた鵜之澤氏は,パッケージでのビジネスにとらわれていたメーカーが,ネットワークやダウンロードコンテンツをうまく活用して,これまでゲームに興味を示さなかった新規層をうまく取り込んだと分析し,「ゲーム業界は伸びている」と改めて強調した。
また,このビジネスモデルであれば,海外,とくにパッケージビジネスが難しかったアジアにおいての成功も見込めると,今後の展開にも期待を示し「海外で最も成功している日本のコンテンツはゲーム」「ゲームが日本のコンテンツビジネスをリードできる」とアピールした。
講演の最後で鵜之澤氏は,「元気な日本ゲーム産業」というメッセージを打ち出すため,グローバルな競争や新たなゲームビジネスに対応すべく,ゲーム業界は常に変化し続けるとした。
ただ,変化するとしながらも「子どもはクレジットカードで買い物をしないでしょう」「すべてがネットにいくことはない」と,パッケージ版モデルに代表される従来のビジネスモデルも継続されると予測する。
任天堂が始めた「小売店でカードを買って家でダウンロードする」というモデルを例に挙げ,実際に顔を合わせることで生まれる人間関係の重要性に触れつつ「ユーザーの皆さんが,笑顔でコミュニケーションしながらプレイできることが目標」という言葉で基調講演を締めくくった。
講演の終了後,鵜之澤氏が事前に寄せられた質問に答えるというセッションが設けられたので,その模様を続けてお伝えしよう。
――海外のゲーム市場で日本の存在感が薄くなっていると言われているが,実際のところはどうでしょう。
鵜之澤氏:
バンダイナムコゲームスは,(海外で成功しようと)背伸びして失敗したと思っています。現地の開発スタジオのいいなりになってしまったり,ビジネスモデルの違いに対応できなかったりしました。
やはり日本と海外では,映画と同じように開発手法も違うし,プレイヤーの好みも違います。無理に海外にこびる必要はなかったのではと思っています。マリオやポケモンなどは,こびることなく成功しています。
――日本で流行したカードバトル系ソーシャルゲームが海外でも成功しつつあるようですが,これについてはどのように考えていますか。
「神撃のバハムート」はApp Storeで1位をとったこともあるくらいなので,少なくとも受け入れられているとは思います。グリーやDeNAの方も「このやり方でいける」と手応えを感じられているようです。
海外受けを考えるより,自分達が面白いと思えるものを作るほうが健全であり,もの作りが得意な日本人にも会っていると思います。
――ゲーム業界への就職を考えていますが,学生のうちにやっておくべきことはなんでしょうか。
鵜之澤氏:
英語ですね。英語ができれば人生が変わったな,と今でも思います。入社時に英語力が高くてもその後落ちてしまう人がいるので,ぜひ英語に触れ続けてほしいです。
――コンシューマゲーム機はこれからどうなると思いますか
鵜之澤氏:
すべてのゲームがタッチパネルでプレイすることになるとは思えませんし,パッケージ以外のビジネスモデル,例えばFree-to-Playなどを取り入れながら残っていくと思います。
メーカーではどんどん人材の配置換えをするので,ソーシャルゲームのノウハウがコンシューマタイトルに生かされるということもあるでしょう。
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