イベント
DeNAのゲームにおけるAI活用事例や,TBSグループのゲーム事業などに関する講演が行われた「Game Technology Summit Vol.1」をレポート
ゲームとほかのジャンルの融合が進み,新しいエンターテイメントの市場が生まれる
イベントの冒頭では,ゲームクリエイターズギルドの相談役を務める和田洋一氏が基調講演を行った。和田氏はまず,ゲーム産業がIT産業,PC,インターネットとほとんどパラレルに動いていることを指摘。PCの歴史は,アラン・ケイがダイナブックのコンセプトを提唱して以降,古くは電卓に始まり,電子手帳やワープロなどを経て,1995年にWindows 95が登場。ほぼ今のPCの形となって,そこから10年くらいはひたすらスペックが上がっていく状態だった。続いて2000年代の半ばごろからはインターネットの重要性が増し,今はスマートフォンという形に落ち着いている。
一方,ゲームのプラットフォームは,1台のゲーム機で1つのゲームが遊べるアーケードゲームに始まり,1台のゲーム機で複数のゲームが遊べるファミコンが登場。そしてPlayStationやXboxの登場で,コンシューマゲーム機とはどういうものかという定義がなされ,PCと同じくスペック競争の道をたどり,2005年にXbox 360,2006年にPS3が登場する。さらにPS4ではインターネット接続が普通になった──つまりネットワークがプラットフォームになったのである。
和田氏は,さらにオンラインという意味でのネットワークから,ネットワーク効果の脈絡でネットワーク・プラットフォームになったことで,ゲームに求められる価値が以前とは変わったと表現。例えば,ゲーム実況やeスポーツなど,ゲームプレイを見せる人と,それを視聴する人が出てきたように,人々のコミュニケーションの取り方やその動機が変わり,それらをもっと楽しむためのネタとしてゲームが使われているというわけだ。
そうやってゲームに求められる価値が変わったことにより,ゲームはほかのジャンルと融合して,今後さらに市場が拡大していくと和田氏は語る。ただ,日本ではPCがゲームプラットフォームとして普及したことがない点には注意を払ったほうがいいとのこと。というのも,日本以外の国ではコンシューマゲーム機以上に,PCがゲームプラットフォームとして根付いているからだ。
PCをゲームプラットフォームにする場合にはMODが使えたり,マルチタスクでゲームをプレイしながらメッセンジャーアプリでコミュニケーションを取ったりできるが,コンシューマゲーム機向けにゲームを開発して来た人にはそういう発想が自然に出てこないと和田氏は危惧する。またスマートフォンについても,マルチタスクができる仕様にはなっているが,基本的にはシングルタスクで使うものなのでPCとは違うと指摘していた。
また和田氏は,昨今何かと話題の生成AIにも言及した。今後ゲームがほかのジャンルと融合していくにあたり,それを加速させるのが生成AIなのだという。和田氏は生成AIを「簡単に言えば翻訳機」とし,「今までは人間がインプットしないとデータがデジタルの世界に入らなかったが,生成AIは写真や動画,SNSの投稿などをどんどん読み込んで,ものすごい勢いで翻訳していく」と説明。結果としてインタフェースの垣根が下がり,ゲームとほかのジャンルが融合した新しいエンターテイメントの土壌ができるとし,「生成AIをテコにしてゲームが一発ジャンプする可能性がある」と話していた。
DeNAのゲームにおけるAI活用事例とその広がり
続いて,ディー・エヌ・エー AI技術開発部ゲームエンタメグループ 加納龍一氏による,「DeNAのゲームにおけるAI活用事例とその広がり」と題したセッションが行われた。
本セッションの前半では,「逆転オセロニア」(iOS / Android)の事例が紹介された。
同作はオセロとカードゲームを組み合わせたような対戦ゲームとなっており,プレイヤーは最初に,それぞれ固有のスキルを持つ6000体以上のキャラクターの中から,16体のパートナーを選んでデッキを作成。オセロのルールでパートナーを盤面に配置していくとスキルが発動し,相手プレイヤーの体力を削れる。最終的に相手プレイヤーの体力をゼロにすれば勝利となる。
そんな同作には,さまざまな形でAIが活用されているのだが,会場では2つの事例が示された。1つは対戦AIで,これは目的によって求められる要件が大きく異なるとのこと。例えば,初心者に向けた学習コンテンツに使う対戦AIは,トッププレイヤーの対戦ログを学習して,その特徴をうまく真似るということが必要になる。その一方で,新しいスキルを持つキャラクターが実装後にどのように使われるかを検証するための対戦AIは,対戦ログがない状況でも開発できるようにしておきたい。
そうした対戦AIを開発するための代表的な手法として,加納氏は「教師あり学習」と「強化学習」を紹介した。前者はトッププレイヤーの対戦ログを集めて教師データとしてAIに学習させ,その動きを模倣させるというもので,対戦環境にアクセスする必要がある。
後者の強化学習は,対戦環境にアクセスせずに,ランダムに動くAI同士を対戦させて,どう動いたら勝ったのか,あるいは負けたのかを学習させていくというものだ。この手法で対戦AIを強くするには,膨大な回数の対戦を行う必要がある。
実際,同作の「オセロニア道場」には,教師あり学習を用いた対戦AIが使われているとのこと。このコンテンツは対戦相手のデッキの種類やレベルを指定することが可能で,プレイヤー自身が自由に組んだデッキを使って対戦できる。対戦AIの勝率も調整されており,初心者から熟練者までほどよい手応えの練習相手となっていることがデータからも読み取れるそうだ。
一方,強化学習を用いた対戦AIは,対戦環境のバランス調整をサポートするものとして使うために研究開発を行なっている。すでに6000体以上のキャラクターが実装されている中,新キャラクターや新スキルが強すぎて既存のキャラクターが使いものにならなくなるといった事態が発生しないよう,事前に検証する必要があるのだが,そこで対戦ログが要らず,人間では不可能な網羅性を誇る強化学習が使われるというわけである。
2つめの事例は,デッキ構築のサポート機能に使われるAIである。「逆転オセロニア」は,どんなデッキを組むかによって使える戦術が変わるので,手持ちのキャラクターでそれを模索するのが楽しい半面,初心者にとってはつまずきやすいポイントとなる。そこで同作にはプレイヤーが使いたいキャラクターを1体指定すると,AIが手持ちの中から相性のいいキャラクターを自動的に選択してデッキを組み,それらしくプレイできる「オススメ編成」が用意されている。実際,この機能を用いてデッキを作ったプレイヤーとそうでないユーザーの勝率を見てみると,前者のほうが高いというデータも得られたそうだ。
セッションの後半では,「逆転オセロニア」のAI技術が,ディー・エヌ・エーのほかに事業にも応用されていることが紹介された。まずデッキ構築のサポートAIは,ライブ配信プラットフォーム「Pococha」のレコメンド機能と通づるものがある。加納氏によると,完全にそっくりそのまま同じ仕様というわけではないそうだが,「根底に存在する考え方は非常にシナジーがある。ゲームで培った技術も,実は少し目線を広げるとほかの事業で役に立つ」とのことだ。
また,強化学習は,加納氏がかつて開発に携わっていたタクシー配車アプリ「GO」のタクシードライバー向けサービスに使われていることも紹介された。
セッションの最後には,加納氏が「AI技術は多様な形でプロジェクトに貢献している」「ゲーム開発に関わる技術は,ゲーム以外の事業でも活躍するポテンシャルがある」とし,「これらを感じられたのは,DeNAが多彩な事業ポートフォリオを持っているからこそという側面もあるが,決して特殊な話ではないと捉えている」とまとめた。
テレビ局が本気で取り組むゲーム事業とは?
「テレビ局が本気で取り組むゲーム事業とは? シナジーと展望をご紹介!」と題されたセッションでは,TBSテレビ 特任執行役員 ゲーム事業責任者 蛭田健司氏が,同社のゲーム事業を紹介した。
蛭田氏は,TBSグループが放送事業を中核として,コンテンツ制作や文化事業,ライフスタイル事業,不動産事業と多岐にわたって展開し,そのブランドプロミスが「最高の“時”で,明日の世界をつくる。」であることを紹介した。
続いて,そんなTBSグループがゲーム事業を開始する背景が明かされた。まずTBSグループは,2030年に向けた中期経営計画として「放送の枠を超えコンテンツを無限に拡げよう あらゆる『最高の“時”』へ」を掲げている。
これは少子高齢化やほかのさまざまなメディアとの競争などもあることから,放送事業だけだと視聴者をどんどん右肩上がりに増やすことは難しいため,放送以外のところへもコンテンツを広げていくという意向の表れだという。そして,その中の1つがゲーム事業というわけだ。
さらに中期経営計画の中の拡張戦略として,「Expand Digital Global Experience」の頭文字を取った「EDGE」も掲げられている。つまり「デジタル分野」「海外市場」「エクスペリエンス(ライブ&ライフスタイルなど体験するリアル事業)」の3分野を強化していくというわけだが,ゲーム事業はいずれの分野にも関わる重要なポジションとなっている。
また,TBSグループの放送事業以外の売上高比率は,2020年当時だと40%だったが,2030年には60%を目指すという。蛭田氏は「EDGEの部分がしっかり成長しなければ,この目標を達成できない。つまりゲーム事業が担うべき責任も非常に大きい」と話していた。
実はTBSグループでは,これまでにもゲームをリリースしている。しかしそれらのゲームは番組ごとに出したもので,ノウハウの集約がなされなかったとのこと。また社内にゲーム開発のノウハウを持つスタッフがほぼ不在で,クオリティは開発会社にお任せしていたそうだ。そこで今回,TBSグループ全体の取り組みとして,あらためてゲーム事業に取り組み,プロデューサーを募集してクオリティコントロールもしっかり行うという。
話題は,TBSグループが取り組んでいる「赤坂エンタテインメント・シティ計画」にもおよんだ。この計画では,2028年に41階建ての東棟と19階建ての西棟のツインタワービルを建築する予定だという。とくに西棟は下層がホールとなっており,eスポーツイベントの開催も検討しているそうだ。
蛭田氏は「東京のど真ん中でeスポーツイベントが開催されるとなると,例えば会社帰りに観戦することも可能になる。そうなると観戦者の層や,eスポーツ自体の人気などにも変化が現れるのではないか」と展望を語った。
TBSグループのゲーム事業・TBS GAMESの掲げるコンセプトは,「まだ見ぬ最高の“時”をゲームで」。蛭田氏によると,「本当に皆さんに心から楽しんでいただける。最高の時と感じていただけるようなコンテンツを作っていく」とのことで,コンシューマゲーム機,モバイル,PC,アーケード,カード,ボードゲームと,アナログもデジタルも関係なく,プラットフォームも関係なく,ゲームと名の付くものであればすべて事業領域にしていくという。
またテレビ番組をゲーム化することもあれば,逆にゲーム発のオリジナルIPでヒット作を出し,それをアニメや映画,ドラマ,舞台にしていく横展開も視野に入れているとのこと。
蛭田氏は「ゲーム会社単体だと,なかなかアニメ化や映画化は難しいが,TBSグループであればコンテンツを広げていくことが可能だし,世界に届けることもできる」と話していた。
また,アニメやドラマとゲームを連動させるアイデアも披露された。例えば,アニメの第1話が放映されたとすると,続きは1週間待ってからということになる。しかしその第1話のサブストーリーをゲームとして配信すれば,第2話が放映されるまでの間も,そのアニメの世界を楽しめるというわけだ。
ほかにもコミュニティを形成するなど,単純にアニメやドラマをゲーム化するのではなく,ゲームと連動させることでより深くコンテンツを楽しませることができると,蛭田氏は語った。
さらにTBSには,情報を扱う番組がある。蛭田氏は「電波の私的利用はできないが」と前置きしつつ,「我々が本気でコンテンツを作ってニュース性のあるものが出来上がれば,情報番組で取り上げられる可能性も高まる。それができるのが,TBSの強み」だと表現していた。
セッションの終盤,蛭田氏はあらためてTBSグループの中期経営計画に言及し,2023年は種蒔きにあたるフェーズ1の最後の年であるとした。TBSのゲーム事業にとっては,まず知ってもらうことが重要とのことで,CEDEC 2023では講演も行う予定だという。
また2024年から始まるフェーズ2では,実際にゲームを作ってリリースしていくが,それだけでなくM&Aや分社化などといった形での大きな成長も視野に入れているそうだ。そしてフェーズ3では,より多くの人に楽しんでもらえるゲームを世に出すべく,人員も売上も拡大していくと展望を語っていた。
このほか,スポンサーセッションでは,ThinkingDataの土川真幸氏より,データ分析ソリューション「ThinkingEngine」の特徴が紹介された。
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