お気に入りタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

最近記事を読んだタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

LINEで4Gamerアカウントを登録
ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート
特集記事一覧
注目のレビュー
注目のムービー

メディアパートナー

印刷2022/10/22 10:00

イベント

ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

 2022年10月16日,イベント「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」が,東京・港区の高輪区民センターにて開催された。このイベントでは,ナムコやコーエー(いずれも当時)でゲーム開発を手がけた岸本好弘氏らが,港区在住・在勤の親子に向けて,ゲームが面白い理由や,ゲームとの上手な付き合い方を考えるワークショップを行った。

画像集 No.001のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

岸本好弘氏。ナムコの「プロ野球ファミリースタジアム」の生みの親として知られ,現在はゲーミフィケーションデザイナーとして活躍中
画像集 No.002のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

イベントのナビゲーターを務めたスロベニ子さん。「乾杯!女子ゲーム部」(YouTubeリンク)の一員として活動している
画像集 No.003のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

 ワークショップは,岸本氏が投げかけた質問に参加者が回答する形式で進行した。最初の質問は,「最近どんなゲームをどんなプラットフォームで遊んでいるか」というもの。子どもたちからは,「にゃんこ大戦争」「プロ野球スピリッツ」「実況パワフルプロ野球」をスマートフォンやタブレットで遊んでいると答えがあった。また親御さんからは,かつて「スーパーマリオブラザーズ」をファミコンで遊んでいたという回答があった。

画像集 No.004のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

 岸本氏は,この質問をとある中学校の特別授業で中学生113名にも投げかけたそうで,そのときは人気順に,「スプラトゥーン」「Apex Legends」「どうぶつの森」「モンスターストライク」の名前が挙がったそうだ。

 次の質問は,「そのゲームに,なぜ夢中になるのか」。「にゃんこ大戦争」については「強いキャラクターを獲得できると嬉しい」,野球ゲームには「ホームランを打ったときに気持ちいい」「ホームランを打つとストレスが解消される」といった回答が子どもたちから挙げられた。また「スーパーマリオブラザーズ」に対しては,「現実とは異なる設定や世界観」が理由として語られた。

画像集 No.005のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

 なお,岸本氏が質問した上記の中学生たちは「友達と協力・対戦できるから」「敵に勝ったときの爽快感」「クリアしたときの達成感」「キャラクターが魅力的」「ガチャが楽しい」「銃や武器を使える」「模擬体験ができる」といった理由を挙げたという。

 岸本氏は以上のやり取りについて,「普段ゲームを遊んでいて,なぜ面白いのかを考えることはない。ただ,あらためて考えることでゲームをより深く理解できる。そうすることで,ゲームに組み込まれた“面白さの仕掛け”や,世の中のいろんなことに仕掛けられている何かを知ることができるかもしれない」と説明する。

 さらに「“面白さの仕掛け”を理解できれば,面白いゲームを作り出せる。例えばビジネスも同じで,ある商品の売れる理由が分かれば,それを作って売ればいい」とし,「ただゲームを遊んで『面白い!』と思うのではなく,1つ上のレベルで考える。それは学校の勉強にも当てはめられる」と語った。

画像集 No.006のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

 話題は「ゲームが面白いわけ(ゲームデザイン)」にもおよんだ。岸本氏は,「ゲームは面白くて当たり前」とし,それがなぜなのかを参加者に問いかけた。その回答は「面白くないとビジネスにならないから」というもの。
 岸本氏はそのとおりと同意しつつ,さらに「面白くなるように作っているから」と説明を加え,「それがゲームを設計すること,すなわちゲームデザイン」と語った。

 それでは,ゲームデザインとは何だろうか。岸本氏は,かつて自身がゲームを開発していたときに必ず入れていた3つの要素を紹介した。1つめは「主人公を自由に動かせる」という点だ。現実では何かの主役になることは誰もができることではないが,ゲームでは,必ず遊ぶ人自身が主人公になれるからだ(この講座では,小学5年生以上が対象のため,分かりやすい言葉で解説している)。

 2つめは「ちょっと頑張ればクリアできる」という点で,難しすぎず簡単すぎず,誰もが少し頑張るだけでクリアできるような難度に調整することが挙げられた。さらに3つめの要素は,「クリアしたときにものすごく褒められる」という点を入れ,遊んだ人を気持ちよくさせることが挙げられた。

 またこれらの要素のうち,とくに難しすぎず簡単すぎずという難度調整の実現に関しては,「フロー理論」による解説も行われた。
 「フロー」とは,人間がそのとき行っていることに完全に集中し,夢中になって最高のパフォーマンスを発揮する状態を指すが,岸本氏はゲームでは難度と遊ぶ人のスキルのバランスで,意図的に遊ぶ人を「楽しい! 止められない!」というフローに近い状態にしていると説明する。すなわち,自分のスキルの低さに対してゲームの難度が高ければ,遊ぶ人は不安になるし,自分のスキルが高いのにゲームの難度が低ければ退屈になるというわけである。

画像集 No.007のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

 さらに岸本氏は勉強も同じであると続け,親御さんに「自分の能力と目指すべき成績のバランスが取れていれば,子どもたちは夢中になって勉強する。難しすぎる,簡単すぎるではやる気を出さないので,うまく誘導する必要がある」と呼びかけていた。

 ワークショップの中盤には,主催者代表である高輪区民センター所長 奈雲美徳氏が,ゲームのサウンドデザインについて紹介するコーナーも設けられた。奈雲氏は,かつてナムコに在籍し,サウンドクリエイターとして「プロ野球ファミリースタジアム'88」などの携わった人物である。

奈雲美徳氏
画像集 No.008のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

 このコーナーでは,奈雲氏がピアノで弾いたサンプルの楽曲にエフェクトをかけることで室内で鳴り響いているかのように聞こえたり,携帯電話からなっているかのように聞こえたりすることが示された。また音色を変えることで,同じ楽曲でも柔らかい雰囲気となることも紹介された。
 これらについて奈雲氏は,「いろんなイメージを抱くことで,発想力が豊かになる。普段から音を意識してイメージを思い浮かべて,発想力を鍛えていくことがお子さんにとって大切なのではないか」と話していた。

画像集 No.009のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

 ワークショップの後半は,主に親御さんに向けて「ゲームとの付き合い方(ゲームリテラシー)」がテーマとなった。
 岸本氏によると,とくに母親の中に「ゲームと子どもをどのように付き合わせたらいいのか分からない」という人が多いという。これは世代的に,自分自身がゲームをあまり遊んでこなかったという母親が多いからだ。逆に父親は,子どもがゲームで遊ぶことに口を出さないケースが多いそうで,これは自身もゲームで遊んできた経験のある人が多いからである。岸本氏は「ぜひお父さんから,自分がどのようにゲームと付き合ってきたか,お母さんに教えてあげてほしい」と,参加者に呼びかけていた。

 また,岸本氏は「ゲームを通して子どもに大事なことを学ばせる」「ゲームを遊ぶ際にルールを決めること」という2つのアドバイスを提案していた。

 岸本氏は,ゲームを遊んで楽しいと思っているとき,人間の脳には快楽物質のドーパミンが出ていることを紹介する。これはゲームをしているときに出るだけではなく,最近の研究では,ドーパミンは勉強をしているときにも出ていることが判明したとのこと。例えば,1週間後に実施されるテストに向けて毎日勉強するといった行為は,ドーパミンが出ているから実行できるものなのだとか。

画像集 No.010のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

 一方,ドーパミンは与え続けるとさらに快楽が欲しくなるという危険性もはらんでいる。岸本氏は,ゲームは甘いお菓子に似ているとし,「人間にはバランスのよい食事が必要なように,ゲームばかり遊ぶのではなく,勉強したり運動したり友達と外に出かけたりと,バランスを取る必要がある」と説明した。

画像集 No.011のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

 またゲームのガチャ要素については,海外ではギャンブルの一種と見なされ規制をかけている国や地域もある存在であることに触れ,岸本氏は「ガチャは,大人でもハマって大金を払ってしまう要素。自分をコントロールする力がまだ十分ではない状態では,あまり触らせるべきではない」と話していた。

画像集 No.012のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

吉川 徹氏の書籍「ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち」も紹介された。ゲームを子どもたちのモチベーションにつながるものと捉え,両者の付き合い方を考えるという内容だ
画像集 No.013のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

 次に岸本氏は,「子どもの遊んでいるゲームを知ろう」と提案。すなわち,最初からゲームに否定的な親はそもそもゲームを知らないケースが多いことから,「何が面白いのか」「どうやって作られていると思うか」などについて,子どもと話し合う機会を設け,ゲームについてあらためて理解させたほうがいいというわけである。

画像集 No.014のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

 また親子で話し合うにあたり,ゲームを遊ぶことについてのルールを作ることにも言及がなされた。上記のとおり,ゲームは遊ぶ人が大人でもハマりやすいように作られているので,自分をコントロールする力が十分ではない子どもが遊ぶうえではルールを作ったほうがいいと言うのが,岸本氏の見解である。

 ただ,ルールを決めるにあたっては,親が一方的に決めるのではなく,子どもとしっかり話し合う必要があるとのこと。それは,仮に1日1時間と決めたとしても,ゲームによっては1時間で区切りが付かないものもあるからだ。またゲームを遊んでいる最中に,食事の時間が来てしまう可能性もある。
 そうしたケースを踏まえ,1週間単位で1日平均1時間ゲームを遊べるようにする,ゲームを遊んでいても時間が来たら食事を優先するといったようなことをしっかり親子で話し合うべきだと岸本氏は説明した。

 話題は,ゲームについて子どもだけで討論した会議にもおよんだ。その結論は「ゲームはいいものでもあるし,悪いものでもある」というものだったという。たとえば包丁は料理に使う道具であり基本的にいいものだが,人を物理的に傷つける道具として使えば悪いものにもなり得る。ゲームも同様に,使い方や使う人次第でいいものにもなれば悪いものにもなるというわけである。岸本氏は,「ゲームのいい面と悪い面を知ったうえで,自分自身でどう付き合うかきちんと決める」ことが必要だと話していた。

画像集 No.015のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

WHOの定めたゲーム依存症の定義も紹介された
画像集 No.016のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

 ワークショップの最後,岸本氏は「子どもがゲームにハマっている状態は,必ずしも悪いことではない」と語った。上記のとおり,ドーパミンはゲームを遊んだり勉強をしたりすると出る快楽物質で,言い換えればモチベーションの源である。したがってゲームにハマりドーパミンが多く出ている状態は,それだけ興味があるものに対してモチベーションを高められるということであり,将来ゲーム以外のもの──たとえば何かの研究やスポーツなどに興味を持ったとき,それだけモチベーションを高く持って臨むことができるというわけである。

ドーパミンが多く出過ぎるとゲーム依存症につながる可能性がある一方,逆に少ないと鬱状態に陥る可能性があることも示された
画像集 No.017のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

 岸本氏は「ドーパミン放出力が高いのはいいこと」であるとし,ドーパミンをコントロールするために「自分で考え,自分で実行できる力を身に付けさせる」ことが大切であり,それが親子間でのルール作りやそのルールを守ることであるとまとめていた。

画像集 No.018のサムネイル画像 / ゲームが面白い理由や付き合い方を親子で考えよう。ワークショップ「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート

 ワークショップ終了後,主催者代表の奈雲氏に,今後の高輪区民センターのゲームに関する取り組みについて話を聞くことができた。それによると,今後も若年層に向けた施策として,ゲームを採用したイベントを開催していくという。ただ,ゲーム大会以外のゲームに特化したイベントではなかなか人が集まりにくいため,たとえば図書館と高輪区民センターがイベントを共催し,図書館では絵本の読み聞かせを行い,高輪区民センターではゲームに関するサロンを開くといった形で,人々の認知を高めていくそうだ。

 また8月に,「第3回 親子で学ぶゲーム文化トークサロン」として行われた「太鼓の達人」のゲーム大会は継続的に開催していくとのことで,直近では「第17回 輪い輪いまつり」の1コンテンツとして11月12日に高輪区民センター1F 区民ホールにて行われる。こうしたeスポーツの取り組みは,地域活性化の一環として推進しているとのこと。

 さらに高輪区民センター内だけではなく,港区内の学校などに出向いてイベントやセミナーを行うことも検討しているという。これらの取り組みはすぐに定着するものではないが,将来を鑑みて先取り的に継続して続けていくと,奈雲氏は意気込みを見せていた。

「港区高輪区民センター」公式サイト

  • この記事のURL:
4Gamer.net最新情報
プラットフォーム別新着記事
総合新着記事
企画記事
スペシャルコンテンツ
注目記事ランキング
集計:04月24日〜04月25日