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[CEDEC 2021]人間の能力を拡張する「ヒューマンオーグメンテーション」とは。人とAIの融合によって起こりうる社会構造の変化
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印刷2021/08/26 20:53

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[CEDEC 2021]人間の能力を拡張する「ヒューマンオーグメンテーション」とは。人とAIの融合によって起こりうる社会構造の変化

 ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2021」の3日め(2021年8月26日),基調講演「Human Augmentation: 人間拡張がもたらす未来」が行われた。このセッションでは東京大学情報学環教授/ソニーCSLフェロー・副所長 暦本純一氏が,現在行われているヒューマンオーグメンテーション(Human-Augmentation,人間拡張)の研究を紹介するとともに,それらが一般化した将来に起こりうる社会構造の変化などについて語った。

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※記事内の画像はすべて配信画面をキャプチャーしたものです。

人間とAIの融合


 ヒューマンオーグメンテーションは,ここ数年メディアなどで大きく取り上げられるようになったが,暦本氏によると概念自体は,AIとほぼ同じ頃に生まれたという。当時は「Intelligence Amplification(Augmentation)」――つまり「知能増幅(拡張)」と表現され,AIが人間の思考・行動を再現するシステムを指すのに対し,文字どおり人間の知能・能力を増幅したり拡張したりするシステムを指していたそうだ。

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 東京大学ヒューマンオーグメンテーション寄付講座では,ヒューマンオーグメンテーションをAR/VR,AI,ロボティクス/サイボーグ,ヒューマンインタフェースと,大きく4つの方向に分類しているとのこと。それらを相互に作用させることで,外骨格や義足などによる「身体機能の拡張」,現地に集まらなくとも会議ができるオンライン会議システムなどを指す「存在の拡張」,ARによって本来見えないはずのものが見えるようになる「近くの拡張」,そして「認知の拡張」が実現するという。

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手の力が弱くなった人用の,空気圧を使ってものを掴みやすくする外骨格型デバイスが紹介された
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 また暦本氏は人間とAIの融合や,AIによって人間が拡張されることに注目して研究を進めている。セッションでは,口の動きでその人の発話意図を理解できるようにする「サイレントボイス」を実現するシステム「Sotto Voce」が紹介された。このシステムは,声帯を損傷した人の発話を再現するために利用したり,あるいは屋外など声を出しにくいところで音声認識システムを使うときなどに利用する想定で,研究が進められているとのこと。

 具体的には,発話している言葉と超音波エコー装置で映し出した発話中の舌の動きをディープラーニングでAIに学習させて,音声を復元している。これにより,声帯を使わずとも人間が口を動かすだけで発話できたり,スマートスピーカーなどのデバイスを操作できたりするわけだ。
 暦本氏は,「このように人間とAIを直結することには,非常に大きな可能性があると考えている」と期待を語った。

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喉の下の皮膚に加速度センサーを装着して動きを検知し,サイレントボイスを実現する「Derma」も紹介された
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「Derma」は,重度の視覚・聴覚障害を克服したことで知られるヘレン・ケラーが,家庭教師のアン・サリバンの発話を触覚で読み取ろうとしたエピソードにインスパイアされたという
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 人間とAIを直結することにより,AIがいろいろと学習していくことは当然だが,暦本氏は人間側も学習していくことに気づいたという。すなわちSotto VoceやDelmaを使った実験を長く続けているうちに,システムにより正確に発話させるための口の動かし方が分かってくるそうだ。暦本氏はそれを「新しい楽器の演奏方法を学んでいるような感じる」と表現し,「人間とAIを直結すると,人間はAIも含めて自分だと思うようになり,能力を拡張していくと考えている」と語った。

手の動きをAIに学習させて発話を実現する「Glove Taik II」も紹介に。細かい動きで抑揚なども付けられるという
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人間がAIを含めて自分だと思うようになることは,例えばクルマを運転しているとクルマも自分の延長にあるように思えるのと同じ現象とのこと
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 ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)の進化を考えるときに,今やAIの存在は無視できないとのこと。HCIとAIについて「自分」と「他者」,「明示的(見える)」と「非明示的(見えない)」の軸で考えると,ヒューマンオーグメンテーションは自分の中に見えない形でAIが含まれている状態を指すのではないかと,暦本氏は指摘した。

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 自分の中に見えない形でAIが含まれている状態は,概念的なものではなく,現実としても研究が進められている。例えば「サイボーグとして生きる」の著者である工学博士のマイケル・コロスト氏は,自身の頭部に人工内耳のチップを埋め込んでいるが,このチップはプログラムを書き換えられるという。
 暦本氏は「能力を自分で変化させられる可能性を示唆している」とし,「こういうことは今後広範囲で行われるようになる」と予想した。また日本では禁じられているが,海外では手術で身体にチップを埋め込み,NFC対応機器を使用できるようにしている国や地域があることにも言及した。

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Neuralinkのブレイン・マシン・インターフェイスも紹介された
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AppleのAirPods Proに一昔前の超高性能コンピュータと同等のチップが搭載されているとのこと。これを利用して特定の音を聞き分け,エンジンの調子をチェックするなどの聴覚拡張アプリの登場が予想されるという
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ダグラス・エンゲルバート氏はマウスを開発したときに「人間の知能拡張における大きなプロジェクトの始まり」と語ったという
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エンゲルバート氏は,1962年の段階で人間とAIの融合のようなことを考えていた
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時間の操作


 暦本氏は,ヒューマンオーグメンテーションにおいて時間は非常に面白い存在だと考えているという。例えば最近は動画などを1.5倍速で観る学生が増えているそうで,それは一種のヒューマンオーグメンテーションだと言えるとのこと。また1.5倍速に慣れてしまうと,現実世界の講演の速度を変えられないことが不便に感じるそうだ。これが動画なら,速度を変えていらないところを飛ばしたり,逆に詳しく知りたいところを繰り返し観たりできるというわけである。

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 そのように時間を操作する能力について,暦本氏は「ヒューマンオーグメンテーションの最上位」と表現。例えば「テニスのラリーをするとき,初心者からベテランに行くときと,ベテランから初心者に行くときとでボールのスピードを変えることができたら,能力の格差を是正できるだろう」とし,「トレーニングのやり方も大きく変わるのではないか」と語った。

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ドローンを使ってスピードや軌道を変えられるボールの研究。激しく扱うとすぐ壊れてしまうため,まだ本格的なスポーツには使えないそうだ
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VRを使ったテニスのトレーニング。基本的にはVRテニスゲームだが,実際のコートと同じ広さの空間を走り回ってボールを打ち返すことになる
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最初はボールの速度を遅くし,徐々に上げていくことで上達していくことが分かる
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英語学習の1つ・シャドーイングも,読み上げる速度を変化させることでスムーズな上達を図れる
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 スポーツや語学などのトレーニングについて暦本氏は,「いきなり難しいことをやると能力獲得は見込めないが,今の実力よりほんの少し難しい課題をこなすことで能力を改善できる」とし,AIの強化学習も最初は簡単にして,徐々に難度を上げていくことにより,結果的に早く学習できるという研究があることを紹介した。

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能力のインターネット(Internet of Abilities, IoA)


 話題は,「能力のインターネット」(Internet of Abilities, IoA)にもおよんだ。IoAは個々の人間によるヒューマンオーグメンテーションではなく,人と人,あるいは人とロボットや機械などの間でインターネットを介して能力を活用することを指す。
 暦本氏はこの基調講演を引き合いに出して「インターネットを介していると,いろいろなことができる」とし,「オンラインでやっているのだから,実は録画であっても構わない」「同時通訳のプログラムを使えば,英語でしゃべっているかのように見せることもできる」と多様な可能性を紹介。「リアルだけで閉じない世界の発展が期待できる」とまとめた。

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 暦本氏がIoAを考えるにあたっては,ウィリアム・ギブソン著「ニューロマンサー」に登場する「ジャックイン」の存在が非常に大きいという。ジャックインは電脳空間に意識ごと没入する能力のことで,暦本氏は他人やロボットに憑依することも含めてこの名称を使っている。

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他人の視界にジャックインするデバイス「JackIn Head」。自分が行けない場所の風景を見たり,スポーツ選手の競技中の視界を体験できたりする
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JackIn Headの映像を観た体操選手によると,同じ映像でもスタビライザーを使ったほうが自身の視界に近いとのこと。人間の脳が自分の視界のブレを補正していることが分かるエピソードだ
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JackIn Headは一人称視点のシステムだが,空間を含めて三人称視点でジャックインできる「JackIn Space」の研究も進められている
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JackIn Spaceでは,一人称視点と三人称視点をシームレスに行き来できる。映像は複数のデプスカメラを使って再現しているとのこと
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近い将来には,遠隔のオフィスにジャックインして,その場にいる人達と話せるようになるという。暦本氏は,現在のオンライン会議アプリの次に来るコミュニケーションプラットフォームになるのではないかと予想していた
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福島・双葉町の除染作業を遠隔体験したときの様子
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肩乗せ型のジャックインデバイスも開発中
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自身が学会などの現地に行けない場合に,以前は代わりにアバターロボットを使うということも行われていた
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アバターロボットには階段を上れない,ドアを開けられないという欠点があるが,それを克服すべく,暦本氏は他人の身体を借りる「Chameleon Mask」の研究を進めたのだとか
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Chameleon Maskを使うと,しっかりその人の存在感を伝達できるという
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ヒューマンオーグメンテーションの社会的な位置付け


 暦本氏は,アーサー・C・クラーク「技術が人間を発明する」という言葉を紹介。例えば人間は,言語能力を獲得したことで思考するようになり,石器を発明したことで器用さを獲得した。「発明したものの効果で別の能力を獲得し,また別の何かを発明する」といった技術と人間の能力が相互に作用しており,どちらが先かとははっきり言えないことを示唆している。
 暦本氏は例としてインターネットを挙げ,「インターネットが発明され普及したことにより,我々人間の考え方も変わった」と語った。

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J・C・R・リックライダーの論文「Man-Computer Symbiosis」(人間とコンピュータの共生)の一節も紹介された
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リックライダーが言及した,Mechanically Extended Manの例
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同じくHumanly Extended Machinesの例。人間に映像を見せてその脳波を観察し,その映像が良いものかどうかを機械に学習させるというもの。考え方としては,クラウドソーシングを使ったAIの機械学習に近い
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 暦本氏は以上をまとめて「機械による人間の拡張」「機械による人間の拡張」が同時に起きているのがIoAの世界でありと,「そうした拡張はネットワーク化により,以前より遥かに容易になった」と語った。

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 それでは,そうしたIoAの世界で発生している人間と機械の相互拡張により,人間は幸せになれるのだろうか。暦本氏は,昨今ではGPSに頼りすぎて地理的な空間把握能力が減退する,あるいは機械翻訳の使いすぎでせっかく身に付けた英語能力が落ちるといった,いわゆる「デジタル健忘症」が問題視されていることを挙げた。

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 その一方で,人間は自分自身で何かを成し遂げることに幸せを感じる,という研究事例も多いそうだ。例えば自閉症の人に「何でも良いからアート作品を作ってください」と,ものを作らせるとストレスが減るという実験結果があるとのこと。
 またパーキンソン病の人は手が不随意に振動してしまう症状があり,普通のスプーンではうまく食事ができないのでサポートが必要になる。その場合にロボットなどのサポートを受けて食事をするよりも,スタビライザー付きのスプーンを使って自分自身で食べ物を口に運んだほうが幸福度が高くなるそうだ。
 暦本氏は,ヒューマンオーグメンテーションがそうした幸福感に大きく寄与するものであると語った。

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 またヒューマンオーグメンテーションを「効率性」と「効能感」の2軸で考えると,4つのクラスに分類できるとのこと。
 効率性と効能感がどちらも高いクラス1は,眼鏡や義足のように使う人にとって「拡張アプローチが必須のもの」である。そして効率性が高く効能性が低いクラス2は「拡張により性能・効果が向上するもの」で,本講演で解説された人間とAIの融合などを指す。
 効率性は低いが効能感が高いクラス3は「拡張により充足感が向上するもの」で,すなわち最後に紹介されたスタビライザー付きスプーンなどのことである。暦本氏は「ヒューマンオーグメンテーションに技術開発では,効率性と効能感のどちらに寄せるかを考えることになるだろう」と話していた。
 なお効率性も効能感も低いクラス0に関しては,誰もやりたくないことなので,例えば掃除能力を拡張するのではなく,自動的に掃除をするロボットを作ったほうが良いとのことだ。

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暦本氏の著書やWebサイト,ウィリアム・ギブソンとの対談動画も取り上げられた
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「CEDEC 2021」公式サイト

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