
レビュー
北米生まれのディスプレイ一体型ゲームキャリングケース
GAEMS Vanguard Personal Gaming Environment
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そんなトーナメントコミュティにおいては,オフラインの対戦環境をどうやって構築するのかがしばしば問題となる。こと日本ほどネットワークインフラがいき届いていない欧米で,それはより顕著だ。つまり「持ち運べる対戦環境」への需要が高いのである。
そんなオフライン交流の需要を受けて,北米市場ではなかなかにユニークな製品が登場している。ゲームアクセサリーメーカーであるGAEMSから販売されている液晶ディスプレイ一体型ゲームキャリングケース,「Vanguard Personal Gaming Environment」(以下,Vanguard)がそれだ。
「Personal Gaming Environment」(個人用ゲーム環境)と称されたVanguard(ヴァンガード)は,HDMI(Type A)入力端子を有する19インチ,解像度1920×1080ドットの液晶ディスプレイとステレオスピーカー,そして家庭用ゲーム機本体を収納できる堅牢なキャリングケースを一体化したもの。つまり,これを利用すれば,家庭用ゲーム機のプレイ環境を,安全かつ楽に持ち運べるというわけである。
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思えば20年前,ネット対戦など夢のまた夢という時代に,筆者もNEOGEO本体一式と対応ソフト一揃えを担いで,友人宅をよく訪ねていた。もちろんそのときはNEOGEOを友人宅のテレビにつないで対戦していたわけだが,このVanguard(と電源)があればそれこそどこでも対戦ができてしまうのだ。
今回4Gamerでは,対戦ゲーム好きにとってはわりと夢のような製品であるVanguardの使い勝手をさっそくレビューしてみたい。
Vanguard Personal Gaming Environment製品情報ページ
米Amazonから届いた,質実剛健なゲームデバイス
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Vanguardは,米国のAmazon.comで注文すると,日本にも配送してもらえる。輸入代行サービスなどを利用する必要はないので,入手のハードルは比較的低いといえるが,当然のことながら,Amazon.comのアカウントを用意し,クレジットカードを登録する必要がある。また,不測の事態が生じたときには英語でメールなどのやりとりが必要だ。誰にでも勧められるというわけではないので,入手はくれぐれも自己責任で行ってほしい。
価格は定価が349.99ドル(※日本時間2014年6月21日時点で,Amazon.comの販売価格は324.18ドル)。日本から購入する場合,このほか送料と関税などがかかることになる。送料は安価な手段であっても航空便なら2000円程度,税金のほうは,後日,若干の払い戻しがあるケースもあるが,おおむね4000円程度なので,ざっくり6000円以上の追加コストが必要という理解でいいだろう。
注文から到着までの所要時間はケースバイケースと思われるが,2000円程度だった航空便の場合,注文から1週間ほどで手元に届いた。読者が注文する場合も,だいたいそのぐらいと考えておけばいいのではなかろうか。
というわけで,実際に届いた段ボールを開梱したときの模様が下の写真だ。かなり大きな梱包で,筆者は軽く驚いた。
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開梱すると,ビニールに覆われた状態のVanguard本体と,ゲーム機本体を固定するとき下に敷く中敷き,そして小型の段ボール箱が出てくる。小型の段ボールには,マニュアル類とACアダプター,リモコン,ストラップに,大小2つのポーチが入っていた。
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Vanguard本体だが,畳んだ状態でのサイズは501(W)×177(D)×425(H)mmとなっていて,持ってみての印象は「大きめのビジネスバッグの奥行きを,さらに広げたもの」といったところ。Amazon.comの商品紹介ページに「Vanguard fits easily in carry-on luggage for all major airlines」(Vanguardは主要航空会社の機内持ち込み可能な手荷物に適合します)と記載されているので,機内持ち込みできる手荷物サイズに収めました,ということなのだろう。
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重量は本機のみで約5.2kg。中にPlayStaion 3(以下,PS3)やXbox 360などを入れると,おおむね10kg弱になる。数字で見ると結構な重さだが,据え置き機を持ち運ぼうとしているのだから妥当なところだろう。上部に幅広の取っ手が固定されているので,稼働式の取っ手が付いたハードケースにありがちな持ちにくさはなく,成人男性ならばそれほど運搬に苦を感じることはないはずだ。
また,付属のストラップも幅広で,肩掛け部分に滑り止め加工がされているなど,携行しやすくするための配慮が感じられる。
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![]() 肩掛け時。奥行きが広く,腰や太ももに接触する部分はちょっと痛いが,我慢できないほどではない(ちなみに写真のモデルは松PP) |
![]() 付属ストラップは頑丈な作り。肩掛け部分は滑り止め加工が施されており,携行性が確保されている |
ケースを開くときは,左右には1つずつ付いている留め具を外す仕組みになっている。閉じたときにはかなりガッチリとロックされているので,よほどのことがない限り,自然に開いてしまうことはないはずだ。南京錠やワイヤーチェーンのための通し穴もついているので,海外へ持っていく場合は,ここにTSAロックをかけておくといいだろう。
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ケースを開くと,液晶ディスプレイがはめ込まれた天面側と,ゲーム機本体を収納する台座を備えた底面側が露わになる。台座部分には,クッションとなる中敷きと,マジックテープで長さを調節できるベルクロストラップが2本据え付けられている。中敷きの上に置いたゲーム機本体を,ベルクロストラップで固定する仕組みだ。
対応するゲーム機本体は,GAEMS公式サイトによると,「PlayStaion 4」「PlayStation 3 Slim」「Xbox 360 E」「Xbox 360 S」「Xbox 360 Elite+HDMI」(※原文表記ママ)の5種類。つまり「Xbox One」と「初期型PS3(CECHxシリーズ)」「現行PS3(CECH-4000シリーズ)」には,今のところ対応していないことになる。これはおそらく,先の中敷きに用意された“溝”に,これらの機種がフィットしない,もしくはベルクロストラップの長さが足らないなどといった理由により,本体をしっかり固定できないということなのだろう。
ゲーム機側がHDMI出力にさえ対応できればVanguard側の液晶ディスプレイと接続できるため,対応外の機種でも,Vanguardを外部ディスプレイとして使用すること自体は行える。ただ,「Wii U」や「PlayStation Vita TV」といった小型の筐体を持つ機種を収めようとする場合,固定が甘いと移動中に固定が緩んでゲーム機本体が“暴れ”てしまい,結果,液晶ディスプレイを傷つけることにもなりかねない。対応外のゲーム機を利用する場合は,あくまでも自己責任となる。
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Vanguard自体がどれだけの堅牢性を持つかは,公式サイトに用意された動画が参考になる。VanguardにXbox 360を収納した状態で車に轢かせるという,なんともアメリカンな検証によれば,Vanguard内のディスプレイこそ破損してしまったものの,収納されたXbox 360は無事だったそうだ。まあ,普通に使ううえで,車に轢かれるような事態はまずないと思うが,貨物として運ぶとき,ちょっと手荒く扱われたくらいで破損することはなさそうなので,ひとまず安心はできるだろう。
なお,GAEMSのPersonal Gaming Environmentsと題される製品は,Vanguardのほか,「Sentry」と,Sentryの旧バージョンである「G155」の3種類が用意されている。Vanguardは最上位機種という位置付けで,1080pに対応した19インチディスプレイを搭載するほか,ストラップやリモコンといったアクセサリが同梱されている。SentryとG155は720P対応の15.5インチディスプレイとなっていて,アクセサリ類も別売りだが,その分重量や価格が控えめなのが主な違いだ。
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ゲームプレイ環境としての実用性やいかに
ケースとしての性能に続いて,ディスプレイの性能周りをチェックしてみよう。
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前述のとおり,Vanguardの液晶パネルは19インチで解像度1920×1080ドット(アスペクト比16:9)。映像入力はHDMIの1系統のみで,PS4やPS3,Xbox 360を接続した場合,1080pの表示が可能だ。なお,Vanguardはあくまでも可搬性に優れたディスプレイというだけなので,ノートPCのようにバッテリーの類を内蔵しているわけではない。ディスプレイとして稼働させるためには,付属する12V5AのACアダプターを介し,電源を供給する必要がある。
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ディスプレイは,液晶パネル下部の輝度調整ボタンで輝度を変更できるだけでなく,[MENU]ボタンでメニューを開けば,輝度調整ボタンを上下移動,[MENU]ボタンを決定として,詳細な設定も行える。操作できるのは以下の4項目だ。
- Brightness(いわゆる明度,0〜100まで)
- contrast(コントラスト,0〜100まで)
- Saturation(いわゆる彩度,0〜100まで)
- Color Temperature(いわゆる色温度,Warmer/Warm/Normal/Cool/Coolerの5段階)
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画面の視野角は公称で左右各85度の170度。横並びで対戦する場合を考えても,これだけの視野角があれば実用で困るということはない。複数人で試合を観戦しつつ楽しむといったオフライン対戦会ならではのシチュエーションでも,よほどの角度でない限りはとくに問題にはならないだろう。
ノングレア(非光沢)パネルが採用しているため,照明が映り込んでしまう心配が無用なのも嬉しいところだ。
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なお,ゲームをプレイするうえで重要となる表示遅延だが,筆者自身がプレイしている限り,とくに気になることはなかった。しかし公式サイトなどには表示遅延についての記載がなく,気になる人も少なくないだろう。そこで実際に測定してみることにした。
テストにあたっては,PCから出力された1080p映像をDVI−HDMI変換アダプタでHDMIに変換したのち,マイコンソフト製のHDMIスプリッタ「ROOTY HD SP2」で分配。その一方をVanguardに接続し,もう一方をBenQのゲーマー向けディスプレイ「XL2410T」に接続した。
この状態で「LCD Delay Checker」(Version 1.4)を起動し,その模様をカシオ製ハイスピードカメラ「HIGH SPEED EXILIM EX-FH100」の240fps設定で録画する。このとき,XL2410Tは設定で「FPSモード」を選択,パススルーモードにあたる「Instant Mode」もオンにし,遅延が最小になるよう設定している。その結果が下に示すムービーだ。
ムービーをコマ送りして輝点の移動を比べてみると,VanguardはXL2410Tとほぼ同タイミングで輝点が動いていることが分かる。ゲーマー用を謳うだけあって,PC用のゲーマー向けディスプレイと同程度の応答速度が確保できており,大会前の練習環境にはもちろん,大会での試合環境としても十分使用に耐えうるディスプレイと言っていいだろう。
サウンド周りも紹介しておきたい。
冒頭で簡単に触れたとおり,Vanguardには,3.5mmミニピンのヘッドフォン出力端子が2つ用意されているほか,液晶パネル下部にはメタルコーンを採用した2chステレオスピーカーが内蔵されており,これを利用して音を出すことができる。なお,入力インタフェースはHDMIによるデジタル1系統のみだ。
![]() ヘッドフォン出力端子は2つ。海外のトーナメントシーンでは,ヘッドフォン用にわざわざ分配機を用意することが通例となっているので,そのあたりを踏まえているのだろう |
![]() ディスプレイ下部に2chステレオスピーカーが埋め込まれている。ちなみに,音量調整ボタンを同時に押し込むとミュートになるので,これは覚えておくことを勧めたい |
内蔵スピーカーの音質は,低音が若干弱めではあるものの,全体的にシャッキリとしており,デフォルトの状態でも十分聴けるという印象を受けた。本機にはサウンドメニューが用意されており,音質をある程度は調整できるが,低音を上げた途端にモコモコとした音になってしまうことには注意したい。
スピーカー同士の物理的な距離が近いため,左右の定位感がほとんど感じられない点は,致し方なしといったところか。
なお,音量は0〜100の範囲から1刻みで設定できるようになっているのだが,デフォルトの50でも音はかなりデカイ。集合住宅では音量を下げる配慮が必要だ。もっとも,対戦会のような騒がしい状況であっても,音は聞き取りやすいので,Vanguardのコンセプトに即した性質を備えているとはいえるだろう。
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据え置き機を外に持ち出す。プロゲーマー・sako氏に聞く,プロユースの一例
液晶ディスプレイ,スピーカーともに,ゲームプレイ環境として十分に実用レベルにあることは分かってもらえたと思うが,Vanguardは,あくまで持ち運ぶことを目的とした製品だ。基本的な仕様を確認するだけでは,レビューとしてはいささか物足りない。
そこで,Vanguardを実際にオフラインイベントに持ち出し,その利便性を検証してみることにした。
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というわけでいきなり結論めいたことから述べるが,Vanguardを持ってイベントに参加するとき,最も便利に感じられるのは,搬入,設置,撤収にかかる手間が全然かからなくなる点だ。
オフラインイベントなどでプレイ環境を用意しなくてはならない場合,ディスプレイや家庭用ゲーム機の故障を防ぐため,ダンボールなどで梱包した状態で搬入するのが一般的である。搬入時はもちろんのこと,撤収時もいちいち梱包仕直さなければならず,これがかなり時間がかかる。
また,ダンボールに梱包した状態で持ち運ぼうとすると,たとえ1台だけだったとしても,電車を交通手段として使うのは,不可能ではないまでもかなり面倒である。しかしVanguardであれば,持って電車に乗ったりするのも容易だ。なにより撤収にあたってもケースを閉じるだけで済むのが,イベントを運営する側からしてみると非常にありがたい。
ちなみに今回は1台だけでの運用だったが,複数台となればその利点は,さらに活きてくるはず。数が多くなると,当然搬入には車が必要にはなるだろうが,液晶ディスプレイと家庭用ゲーム機を個別に管理/梱包する必要がなくなるおかげで,撤収作業が大幅に楽になる。このあたり,イベントスタッフの経験者なら,その利便性が容易に想像してもらえるのではないだろうか。
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またVanguardは,その特性から大会前の練習環境としてもかなり役立ちそう……なのだが,筆者自身は昨今,大会に出場する機会があまりない。そこで,「実際にVanguardを活用しているゲーマーはいないものか」と調べてみたところ,Team HORI所属のプロゲーマー・sako氏が本機を愛用しているとの情報を聞きつけた。正確にはバージョン違いであるSentryを利用しているとのことだが,使い勝手を聞くには格好の相手だろう。というわけで,色々と話を聞いてみた。
sako氏によれば,Sentryを使い始めたのは2013年5月に行われた「TOPANGA ASIA LEAGUE」の頃だそうで,現在では,イベントに参加するときは必ず携行しているとのこと。もちろん,氏が「スーパーストリートファイターIV アーケードエディション Ver.2012」部門で見事優勝を収めた「Capcom Cup 2013」にも,練習環境としてSentryを持参していたという。
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大規模な大会では,待ち時間が長い割に,会場内に練習環境が用意されていないことが多く,待っている間に勘が鈍ってしまいやすい。その点VanguardやSentryであれば,会場内にも持ち込むのも難しくないため,常に臨戦態勢のまま試合に臨めるというわけだ。
ただ,Sentryとアーケードスティックを両方持ち運ぶのはやはり重さが気になるとのことで,「できればキャスター付きのものが欲しい」ともSako氏は述べている。
ちなみに海外遠征時の荷物梱包は,sako嫁ことakikiさんが担当しており,持ち運ぶことを常に考えて,Sentryを中に入れられる大きめのキャリーケースを新調したそうだ。ただ,1つのキャリーケースにSentryとsako氏愛用のアーケードスティックを同梱した場合,場合によっては,飛行機に無料で預けられる荷物の重量制限を超えてしまう可能性がある。なので,Sentryとアーケードスティックは別々に分けているとのことだった。sako氏1人で移動する場合,アーケードスティックのみを手荷物として機内に持ち込むといった話は,プロゲーマーならではの生活の知恵が垣間見えるエピソードといえるのではないだろうか。
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オフラインイベントに足繁く通うコアゲーマーなら,持っておいて損はないかも
現行の家庭用ゲーム機各種を収納できる堅牢なキャリングケースに,ゲームプレイに十分な性能を持つディスプレイが一体となったVanguard。“携帯できるゲームプレイ環境”としては,極めて考えられた製品だということは分かってもらえたのではないかと思う。
欠点を述べるとするなら,送料&諸税込みで約4万円というコストと,個人輸入するしかないという手間の部分だろうか。ただ単にゲームプレイに適したディスプレイを求めるならば,Vanguardより安価で,かつ同等以上の性能を備えたものがいくつもあり,可搬性に優れるという部分に魅力を感じないならば,ちょっと手を出しにくい。
また,「可搬性に優れる」とはいえ,ゲーム機を搭載した状態で重量は10kg前後に達する。それを持ち運ぶとなればそれなりに手間はかかるわけで,やはり一般受けする製品とは言い難いだろう。
というわけで,“刺さる人には刺さる製品”という,いつもの言い回しになってしまうわけだが,その“刺さる人”――家庭用ゲームの大会や交流会,はたまた海外遠征を考えているコアプレイヤーにとって,これほど取り回しの効くゲームプレイ環境がなかなかないのは確か。少なくとも,仲間内で誰か一人でも所有していれば,さまざまな場面で役に立ってくれることは間違いなく,そうした活動に足を突っ込んでいる人には,ぜひともオススメしたい製品だ。
というわけで,筆者も今年の「Evolutin 2014」には持って行こうかなと考えている。もしゲームをする時間がなくても,PCのサブディスプレイ(関連記事)になるだろうし……。
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Vanguard Personal Gaming Environment製品情報ページ
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