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[GDC 2018]「Mystery House」はこうして作られた。ゲーム史の研究者によるPostmortem(事後検証)という異色のレクチャー
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印刷2018/03/24 17:45

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[GDC 2018]「Mystery House」はこうして作られた。ゲーム史の研究者によるPostmortem(事後検証)という異色のレクチャー

Laine Nooney氏
 コンピュータになじみのない主婦,ゲームを作りたいとは思っていなかった夫。そんな2人が,のちの歴史に大きな影響を与える重要なゲーム作品を作ることができるのか? こうしたテーマを扱うレクチャー「Beneath the Flesh of Walls: The Making of Sierra's Mystery House」が,Game Developers Conference 2018で行われた。
 タイトルにもあるように,1980年にリリースされたアドベンチャーゲーム「Mystery House」の開発を語る内容だ。普通,Postmortem(事後検証)では開発者自らが登壇することになるのだが,スピーカーはニューヨーク大学でコンピュータゲーム史を研究するLaine Nooney氏が務めた。ある意味,異色の講演である。

[GDC 2018]「Mystery House」はこうして作られた。ゲーム史の研究者によるPostmortem(事後検証)という異色のレクチャー

 主役はケンとロバータのウィリアム夫妻(Ken&Roberta Williams)。彼らはOn-Line Systems(のちのSierra On-Line)というメーカーを作り,歴史的な作品を次々に発表することで,黎明期の欧米ゲーム市場をリードした。「Mystery House」は同社とウィリアム夫妻の長い旅の始まりとなったのだ。
 「Mystery House」は,それまでテキストだけだったアドベンチャーゲームに初めてグラフィックスを使った作品である,70もの場面がアップルIIのフロッピーディスク1枚に収まるという,技術的にもレベルの高いものだった。

[GDC 2018]「Mystery House」はこうして作られた。ゲーム史の研究者によるPostmortem(事後検証)という異色のレクチャー
[GDC 2018]「Mystery House」はこうして作られた。ゲーム史の研究者によるPostmortem(事後検証)という異色のレクチャー

 時は1979年。大統領はジミー・カーター,ESPNが開局,ボイジャー2号が木星に最接近した時代,オイルショックによる不況にアメリカは苦しんでいた。そのとき,フリーのコンピュータエンジニアだったケン・ウィリアムス氏は,弟と共同で一台のテレタイプ端末を使っていたという。
 ディスプレイとキーボードを備えた本格的なパーソナルコンピュータとして,コモドールPETとアップルIIが1977年に発売されているが,彼は持っていなかった。テレタイプ端末は高価でやかましく,ディスプレイも付いていなかったが,音響カプラで簡単にメインフレーム(大型コンピュータ。ここではミニコンを含む)に接続できるため,FORTRANでプログラムを作って売ろうとしていたケンには適していた。
 以上,テレタイプ端末とかFORTRANとか,現在はあまり聞きなれない単語が出てきたが,詳しく知りたい人は各自で調べていただけると幸いだ。

[GDC 2018]「Mystery House」はこうして作られた。ゲーム史の研究者によるPostmortem(事後検証)という異色のレクチャー
[GDC 2018]「Mystery House」はこうして作られた。ゲーム史の研究者によるPostmortem(事後検証)という異色のレクチャー

 ある日,ケンはスタンフォードにあるPARC(パロアルト研究所)のメインフレームの中にゲームを見つけた。それは,1970年代中期に作られ,すべてのテキストベースのアドベンチャーゲームの祖先となった「アドベンチャー」だった。Don Woods氏という人が作った小さなゲームで,ピューリッツァー賞を受賞したノンフィクション「超マシン誕生」(トレイシー・キダー著)でも,開発者達が「アドベンチャー」で暇つぶしをする場面が出てくるほどポピュラーな作品だ。

[GDC 2018]「Mystery House」はこうして作られた。ゲーム史の研究者によるPostmortem(事後検証)という異色のレクチャー

 その年(1979年),ケンは25歳,ロバータは26歳だった。彼らはロサンゼルス郊外で育ち,1972年に結婚した。キューバ危機,ケネディ暗殺,ベトナム戦争を見て育った典型的なベビーブーマー世代のカップルで,すでに2人の幼い子供がいたという。子供の世話はロバータが受け持ち,ケンはメインフレームオタクとしてコンピュータの仕事を次々にこなしていた。

 ケンはベッドルームにいた妻を呼び,「アドベンチャー」を見せた。ケン自身,あまりゲームに興味がなかったが,ロバータが好きになるかもしれないと思ったのだ。もっとも,ロバータのほうはコンピュータを使ったゲームにあまり興味がなく,ボードゲームや読書を好んだらしい。ケンはこれまでもメインフレーム向けのゲームを妻に見せていたが,彼女はいずれも気に入らなかった。
 しかし,テレタイプの前に座ったロバータは,「これは何かが違う」と感じたという。「アドベンチャー」は,彼女がこれまでに見たことのないゲームだったのだ。

[GDC 2018]「Mystery House」はこうして作られた。ゲーム史の研究者によるPostmortem(事後検証)という異色のレクチャー

 アドベンチャーというジャンルの最初の作品は,William Crowther氏の「ADVENT」(別名「Colossal Cave Adventure」)で,もともとは娘のために作られたものだった。当時,メインフレームのゲームを作って売るという考え方はなかったので,誰でもコピーして改変したり移植したりすることが可能であり,上記の「アドベンチャー」もその1つだった。
 多くのゲームは子供向けにデザインされていたが,基本的にプログラマー達はプレイヤーのことはあまり考えず,自らの楽しみのために制作していた。

 1971年,企業家のノーラン・ブッシュネル(Nolan Bushnell)氏は,メインフレームのために書かれた世界初のシューティングゲーム「Spacewar!」を商業化し,「Computer Space」と名付けた筐体を売り出した。しかし,もともと「Spacewar!」はやたらとボタンを押さなければならない,操作の複雑なゲームだったためにさっぱり売れなかった。
 これに懲りたブッシュネル氏は,酔っぱらいでも遊べる「Pong」を作ってバーに置き,大成功を収めている。

[GDC 2018]「Mystery House」はこうして作られた。ゲーム史の研究者によるPostmortem(事後検証)という異色のレクチャー
[GDC 2018]「Mystery House」はこうして作られた。ゲーム史の研究者によるPostmortem(事後検証)という異色のレクチャー

 ロバータは1週間で「アドベンチャー」を終え,もっともっとアドベンチャーゲームをやりたいと思った。文字を打ち込むデバイスとしてキーボードはポピュラーであり,テレタイプにも付いていた。ディスプレイを持たないテレタイプでも,アドベンチャーゲームは十分に楽しめたのだ。
 当時のコンピュータゲームビジネスはまだ小さく不確かであり,2つの会社がオリジナルゲームを作っているだけだったが,ロバータはそれらをやり尽くした。

 その後に起きたことは,「正確には分かっていない」とNooney氏は述べる。ロバータはついにゲームの制作を始めるのだが,それがいつなのか,なぜなのか,どれくらい真剣だったのかは知られていないという。
 ともあれ,彼女は1979年に「Mystery House」のアイデアを思いつく。インスピレーションはアガサ・クリスティの小説「そして誰もいなくなった」から。また,ゲームシステムは「Clue」というボードゲームからヒントを得ている。コックのデイジー,墓堀人のジョー,お針子のサリーなど,8人のキャラクターが一軒の家に招かれ,そこで殺人事件が起きるという物語が展開する。
 ゲームは単語を入力することで進めていくが,これはテキストアドベンチャーでも同じ。最大のイノベーションは,グラフィックスを用意したことだ。これはロバータのアイデアで,絵によって多くの説明を省略できると同時に,さまざまな手がかりを提示できる。ここでロバータはケンに協力を求めた。

[GDC 2018]「Mystery House」はこうして作られた。ゲーム史の研究者によるPostmortem(事後検証)という異色のレクチャー

 現在,ウィリアムズ夫妻はゲーム業界から距離を置いているため,これほどの作品が有名であるにもかかわらず,インタビューを行った人はいなかった。Nooney氏は,1週間にわたって夫妻の家に通い,さまざまな話を聞いたという。それによると,ロバータは最初から事業としてゲーム販売を行う気でいたという。一方,ケンはあまり乗り気ではなかったそうだ。
 なお,対応機種としてアップルIIを選んだのは,それがデフォルトですばらしいグラフィックス機能を持っていたから。また,アップルIIをビジネス機として成功させたフロッピーディスクドライブの存在も忘れてはならない。当時,アップル以外の機種は外部記憶装置としてカセットテープを使っていたのだ。

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 ケンの記憶によれば,ロバータはまずゲーム内の各部屋のスケッチを行ったという。ロバータはゲーム全体を部屋の集まりとして考えており,それぞれの部屋がどのようなものかを絵にしたのだ。この時代のゲーム制作では,プログラマーは同時にデザイナーでもあったが,夫妻は最初から分業を行ったようだ。ロバータの物語作りにはスケッチが欠かせなかった。
 文字入力のロジックを考えたケンは,3つのカラムを用意し,それぞれに「動詞」「名詞」,そして「何が起きたか」を入力させるようにした。
 ケンは能力の高いプログラマーであり,ゲームは1からスクラッチされた。ただ,ロバータの求めるグラフィックスをアップルIIのパワーで実現することは難しく,開発プロセスではロバータの要求とプログラムで実現できることのせめぎあいだったという。この状況は約40年を経過した現在も,あまり変わっていないかもしれない。

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 かくして,当初は100の場面を用意するつもりだったが,相談のうえで70に落ち着いた。1つの場面についても,どれくらいのラインやポイントが必要なのかが重要だった。1つのポイントが1バイトになるので,ケンはコード量を見積もり,さらにVersaWriterという入力機を使って,ロバータのスケッチをデジタル化した。それまでのテキストアドベンチャーは簡単に移植できたが,「Mystery House」はアップルII専用であり,これはある意味,挑戦である。そして,発売を迎えた「Mystery House」は成功を収め,メディアの評判も良かったという。
 例えば,1980年のクリスマスにリリースされた専門誌「Computing」では,レビュアーが本作のグラフィックスを「非常に良い」とし,「部屋やオブジェクトのディテールが豊かだ」と書いている。当時はそのように思われたのだ。

VersaWriter
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 当時のアメリカでゲームソフトを手に入れたいユーザーは,郵便でオーダーするのが一般的だった。「Mystery House」の場合,購入するとジップロックに入ったフロッピーディスクと紙1枚(マニュアル)が送られてきた。のちにパブリッシャを変えて24ドル95セントで発売されたときは,4ページのマニュアルになっている。
 また,「Micro」という雑誌に広告を出したが,MicroはアップルIIのユーザーというよりはコンピュータ専門家向けの雑誌だったという。

[GDC 2018]「Mystery House」はこうして作られた。ゲーム史の研究者によるPostmortem(事後検証)という異色のレクチャー [GDC 2018]「Mystery House」はこうして作られた。ゲーム史の研究者によるPostmortem(事後検証)という異色のレクチャー
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 2人はSierra On-Lineの前身となるOn-Line Systemsというメーカーを作って,「Mystery House」を売った。1980年5月にリリースされると,6月の売上が2万ドル,7月は3万ドルといった調子でオーダーの郵便や電話が鳴りやまなかったという。
 彼らのほかにも,キッチンやガレージで起業したゲームメーカーが次々に成功を収めており,まさに産業の勃興という雰囲気が感じられる時代だった。

 その後,Sierra On-Lineは次々とヒット作品を送り出したが,紆余曲折を経て,やがて姿を消すことになる。これはまた別の話だ。
 Nooney氏は,コンピュータになじみのない主婦と,ゲームを作りたいとは思っていなかった夫が,のちの歴史に大きな影響を与える重要なゲーム作品を作ることがあり,こうしてことはこれからも起きるかもしれないと述べてレクチャーを終了した。

[GDC 2018]「Mystery House」はこうして作られた。ゲーム史の研究者によるPostmortem(事後検証)という異色のレクチャー
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