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「シヴィライゼーション VII」が目指した“音の真正性”とは? オーディオチームの面々がその舞台裏を語る[GDC 2026]
ご存じのとおり,「Sid Meier's Civilization VII」(PC / PS5 / Xbox Series X|S / Switch2 / PS4 / Xbox One / Switch)は2025年2月にローンチされた,ターン制ストラテジーの金字塔シリーズの最新作だ。
3つの異なる時代を段階的にプレイしていくゲームシステムに加え,文明と指導者を切り離すという新たな方向性には議論があるものの,西洋史観に偏ることなく,それぞれの文明や指導者に最大限に敬意を払った開発の姿勢には好感を持てる。
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現在までに31の文明と26人の指導者(バリエーション含む)が登場し,今なおアップデートが続いている本作だが,その“音”の作り込みについて,これまで深く意識したことがなかったというゲーマーも多いはず。
今回のセッションでは,開発メンバーたちがどれほどのこだわりをもってオーディオを設計してきたのかが明らかにされたので,改めて本作のサウンドにスポットライトを当ててみたい。
歴史的言語の再構築と,指導者の「声」の真実味
シニア・ナラティブデザイナーのFinn Taylor(フィン・テイラー)氏は,ゲームに登場する指導者たちの「言葉」を,単なる情報伝達の手段ではなく,その文化や時代背景を映し出す「歴史への窓」として位置づけているという。
その例として紹介されたのが,モンゴル帝国のチンギス・ハーンにおける言語の再構築だ。中世モンゴル語は現代には断片的にしか残っておらず,そのままでは台本を完全に翻訳はできなかった。
そこでチームは,現代モンゴル語をベースとしつつ,最古のモンゴル語文献でありチンギス・ハーンの事績を伝える「元朝秘史」から古語や特有の言い回しを抽出し,それらを融合させる手法を採用した。
これにより,現代のモンゴル語話者が理解できる明瞭さを保ちながら,当時の古風で威厳ある響きを再現することに成功したのである。
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また演技(パフォーマンス)においても,ステレオタイプを排するための細心の注意が払われている。
例えば「黒ひげ」ことエドワード・ティーチの場合,メディアで定着している「誇張された海賊訛り」を避け,彼の出身地とされるブリストル地方の西国訛り(West Country accent)を,歴史家やイギリス人ディレクターの監修のもとで現代的に調整した。
これにより,単なるキャラクター化された海賊ではなく,生身の人物としてのリアリティを声に与えることに成功したそうだ。
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文化的多様性を反映した「叫び」と,包括的な環境音
アソシエイト・オーディオディレクターのKadet Kuhne(カデット・クーネ)氏は,既存のオーディオライブラリが抱える「西洋中心主義」という課題に取り組んだ人物だ。一般的な効果音素材は,非西洋圏の表現が質・量ともに不足しているため,チームは独自の収録を行うことにしたという。
その説明で興味深かったのが,言語や文化によって異なる「痛みの表現」などに関する細かな差異だ。ペルシャ語,ヒンディー語,中国語などのネイティブスピーカーを起用し,特定の音節(「ah」や「oi」など)を発声するときの舌の位置や顎の動きまで考慮して,戦闘時のうめき声や叫び声を収録したのだとか。これにより,各文明のユニットが発する声に,その言語圏特有のスピリットを宿らせることに成功している。
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また都市の雑踏音の制作では,各言語のリアルな言葉をそのまま使うのではなく,「The Sims」などに見られる「ジベリッシュ(意味をなさない言葉)」を,高度な粒子合成技術で加工する手法が採られている。
これは世界中の多様な言語をレイヤー状に重ね合わせることで,特定の言語としては聞き取れないものの,感覚的に「国際的で多様な人々が共生している都市」の響きを生み出す仕組みである。
さらに女性兵士の声についても,従来のライブラリに多い「悲鳴」のような弱々しい音ではなく,戦場を駆ける「戦士」としての力強い発声にこだわったという。こうしてプレイヤーがどの性別や文化を選んでも自分を投影できる,包括的な音響設計が実現したわけだ。
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時代と共に進化する「音の風景」
サウンドデザイナーのDmytro Nabesh(ドミトロ・ナベッシュ)氏が担当したのは,数千年にわたる歴史の変遷を,いかに「音」で表現するかという課題だ。
まず固有ユニットの音作りでは,歴史的文献に残された「音の記述」を,現代の技術で具現化することにフォーカスしたという。
例えば“スターリンのオルガン”という異名で知られるソ連のロケット砲「カチューシャ」の事例では,兵士たちが恐怖したという独特の咆哮音を再現するため,象の鳴き声を加工して引き延ばし,そこに花火の炸裂音を重ねることで,当時の戦場の恐怖を聴覚的に描き出している。
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また都市のアンビエンス設計では,文明の発展に伴う音環境の変化が動的に表現されている。
ゲーム序盤の古代では自然の音が支配的だが,時代が進み建物が密集するにつれて,馬車や自動車といった機械音や人々の活動音が,自然の音を「サイドチェイン(押し下げる)」するように設計した。これにより,人類が地球の音風景を塗り替えていく過程を,プレイヤーが耳でも体験できるようにしたという。
さらに俯瞰視点でプレイされる本作において,「インプレッショニスティック・リスニング(印象派的な聴取)」という概念が導入されているとナベッシュ氏は説明した。
これは物理的な距離(高度数千フィート)をあえて無視し,ズームアウトした状態でも重要な音や歴史的なディテールが鮮明に聞こえるよう調整する手法である。これにより,戦略的なプレイを続けながらも,常に歴史の「質感」を感じ取ることが可能になっている。
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音楽的伝統の継承と「真正性」の再定義
コンポーザーのGeoff Knorr(Geoff Knorr)氏は,各文明の音楽を「一貫した一つのスタイル」として扱うのではなく,王朝や時代ごとに厳格に区別して表現することを選択した。例えば中国なら漢・明・清のそれぞれの時代で,楽器編成や音階の扱いを変化させているという。
アジアの弦楽器の代表格である琴/箏ひとつを取っても,日本,中国,韓国,ベトナムでは使用される木材や弦の素材が異なっている。さらに,爪の当て方や弦の振動の減衰(サステイン)のさせ方など,演奏技法や文化的なリズム感にも大きな違いがあるそうだ。
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ノール氏らのチームは,その分野の専門家を招聘するだけでなく,簡単には運び出せないような貴重な民族楽器の演奏者や収集家の元へ赴き,現地のスタジオで収録を行ったという。
民族音楽は必ずしも西洋的な楽譜だけで完結するものではなく,専門家にアレンジを依頼する場面もしばしばあったそうだ。
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今回のセッションで頻繁に言及された「真正性(オーセンティシティ)」が意味するのは,単に過去を再現するにはとどまらない。現代の奏者が持つ技術や解釈を尊重しつつ,その文化のルーツを知る人々が聴いたときに,「自分たちの文化が正しく尊重され,表現されている」と感じられるような,誠実なリサーチに基づく表現ということなのだ。
こうした細やかな違いへのこだわりが,プレイヤーが特定の文明を選んだときに感じる「本物らしさ」の源泉へと昇華されているのだろう。
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- ライター:奥谷海人
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