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  • 発売日:2019/10/10
  • 価格:1833円+税
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クソゲーだから,覚悟のうえで買ってほしい――「moon」移植版配信開始記念,木村祥朗氏&西 健一氏インタビュー
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印刷2019/10/12 00:00

インタビュー

クソゲーだから,覚悟のうえで買ってほしい――「moon」移植版配信開始記念,木村祥朗氏&西 健一氏インタビュー

それぞれのやりたいことを追及し,

メンバーが自然に拡散する


4Gamer:
 話を聞けば聞くほど,ラブデリックというのはフリーダムで破天荒な会社だったと思います。そんなラブデリックも,「moon」のあとに「UFO -A day in the life-」と「L.O.L. 〜LACK OF LOVE〜」のチームに分かれてしまったんですよね。

木村氏:
 ケンカをしたり,言い争ったりといったことはなかったんです。それぞれのやりたいことが違っていたから,自然に分散する雰囲気で。

4Gamer:
 そして,工藤さんと木村さんは「UFO」,西さんは「L.O.L. 〜LACK OF LOVE〜」の開発をスタートする。その後,工藤さんはヴァンプール,西さんはスキップを立ち上げて,木村さんはパンチラインを設立し,Onion Gamesに至る。3人の道がそれぞれ分かれました。

西氏:
 俺の視点からすると,追い出したんじゃなくて,みんなが出て行っただけだから(笑)。
 みんながまた集まる日のためにラブデリックという名前も残しておいたんだけど,コアメンバーがいないのに屋号を使ってるのもかっこ悪いからちゃんと処理してね。周囲からは「なぜなんだ」といわれたけど,答えは簡単だよ。俺一人だったらラブデリックじゃないから。

木村氏:
 でも西さんが一人でラブデリックという名前を使い続けても,関係者は誰も怒らなかったと思いますよ。

画像集 No.017のサムネイル画像 / クソゲーだから,覚悟のうえで買ってほしい――「moon」移植版配信開始記念,木村祥朗氏&西 健一氏インタビュー

4Gamer:
 とはいえ,「moon」を作っていたメンバーが全員そろっていて,初めてラブデリックという名前が使える,ということなんでしょうね。

木村氏:
 例えば西さんや,太郎ちゃんと一緒に仕事することを想像することもあるんですけど。ダメでしょうね。3人でやる意味のあるアイデアが出ない。
 飲みには行けるけど,一つの作品を作るために同じ場所に集まるのは無理だろうと。

4Gamer:
 みんなが抱えているもののタイミングが急に合ってしまったのが「moon」だった?

西氏:
 さっきも言ったとおり,風が吹く瞬間ってのはそういうものかも知れない。狙ってやれるものでもないし。

木村氏:
 昔の自分とは違うから,また集まっても同じ力が発揮されるとも限らない。

西氏:
 これまでも「moon」の移植や移植の話もいろいろあったんだよね。10周年のときにみんなで集まって,Ustream(動画配信サービス)でもその様子を流したけど,その時にはいい意味での「無理感」があった。みんな別の方向を向いていたから。

木村氏:
 人生いろいろで,それぞれの方向に歩いちゃってますよね。

西氏:
 「moon」のコアメンバーは,ほぼ全員ゲーム業界に残っていて,ほとんどが社長になってる。全員が主役級だったのが「moon」だし,ミラクルが起きていたんだと思うよ。

木村氏:
 ミラクルかもしれないし,ただラッキーなだけだったのかもしれない。
 そうそう,ラブデリック最後の企画ってなんだっけ。たしか「L.O.L. 〜LACK OF LOVE〜」のあとに1本ありましたよね。

西氏:
 あったあった。「L.O.L. 〜LACK OF LOVE〜」の後に,サンプルまで作った仕事が流れちゃったよね。だから,さすがに不安になったんだろうね。社長の鈴木さんから「お前が乗っている車を売ったらいくらになるか調べておけ」と言われたりしてた。決して高級車に乗っていたわけじゃないけど,売ればみんなの給料になるから。

画像集 No.018のサムネイル画像 / クソゲーだから,覚悟のうえで買ってほしい――「moon」移植版配信開始記念,木村祥朗氏&西 健一氏インタビュー

4Gamer:
 ちなみに,そのときに作っていたのはどういうゲームだったんですか?

西氏:
 2次元のドットキャラクターが3Dのポリゴンに成長していくというゲームだったね。色数もモノクロからフルカラーになって,音もモノラルからステレオになる。つまり,主人公の成長がゲームの歴史にオーバーラップするような内容だったんだよ。「DOT AT HEART」という仮題までついてたんだけど,ボツになっちゃった。

4Gamer:
 「moon」同様にメタっぽい視点を含んだものだったんですね。

西氏:
 メタねぇ。「moon」はよくそうした言い方をされていたけど,最初からメタやアンチテーゼをやろうっていう気はまったくなくて,ただそのときに面白いと思っていたものを追っかけただけなんだよね。
 僕はトリッキーでトリッピーなものが好きで,祥ちゃんは旅人で,妖怪とか押し入れの中っぽいものが好き。そして工藤は,世界観よりディテールが好きだった。そして倉島はあの絵しか描けない。役割も被らないし,バランスが取れていたんですね。さらに晃君っていう、オシャレで温かみのある背景を作る人が,良い感じにまとめてくれていた。

木村氏:
 僕が持っている世界観はアングラで暗くて,唐十郎のテント芝居みたいなのが大好きなんですけど,晃君の明るい温かい色味の背景で調和が取れていたと思う。アイロニーのあるテキストを書くときでも,背景が明るいからバランスが取れる。だから,思いっきりやれたのは背景のおかげ。


たとえ道は分かれても,

お互いへのリスペクトは変わらない


4Gamer:
 別々の道を歩むことになったラブデリックメンバーですが,木村さんと西さんは代表作として「moon」の名前を出されることに抵抗があったと伺っています。

西氏:
 確かに,できるだけ「moon」のことを隠したかった時期があったんだよ。取材を受けても,記事では「moon」のことに触れないでほしいと頼んだり。
 「moon」的なものを求められることも多くて,でもこっちはすでに別のことをやっている……というギャップがつらいこともあったね。

木村氏:
 僕も「王様物語」のあたりまでは「moon」の話をされるのがイヤでした。ただ,実際問題“「moon」の木村”ってならないとメディアが記事にできないということはあるんですね。作家として新しいものを作っているのに昔の作品ばかりを利用するのはかっこ悪いんですけど,社長として,プロデューサーとしてプロモーションをするにあたっては妥当な言い回しで,この方法がベストになるという矛盾。

画像集 No.019のサムネイル画像 / クソゲーだから,覚悟のうえで買ってほしい――「moon」移植版配信開始記念,木村祥朗氏&西 健一氏インタビュー

西氏:
 そうした意味では,祥ちゃんが「moon」を温め続けてくれたところがある。今回の移植もそのおかげだよ。

4Gamer:
 では,クリエイターとしての木村さんに,社長としての自覚が備わったのはいつごろなのでしょうか?

木村氏:
 企画を売り込んでパブリッシャから開発費を出していただくということを意識したのは「チュウリップ」からです。西さんが「moon」の企画を売り込んでいるのを見て,お金があれば開発チームを作れるということを見て,自分もそっちの方向で物事を進めるべきだって思いました。そうした意味では,西さんの影響がもの凄く大きいですよね。
 でも結果,経営やお金のことを考える自分と,ただ面白いものを作りたくて物語を考えている自分が同時に存在することになっていて,すごく精神的にはヘビーです。でもこれ,矛盾しているけど意味はあるんです。こうじゃないとOnion Gamesは成り立たないから。でも,なんかつらい!

4Gamer:
 西さんをお手本にしつつ,クリエイターと社長の役割で板挟みになっていると。

木村氏:
 (笑)。お手本かどうかわかりませんが。だいたいそういうことです。
 だから実は僕は西さんのことをけっこう見てますし,尊敬してもいるんです。どんなゲームを作ったのかもずっとチェックしていますし。
 例えば,僕がパンチラインで「チュウリップ」を作っているとき,西さんはスキップで「ギフトピア」を作っていたんですが,セロニアス・モンキーズの谷口(博史)さんの音楽にどれだけ嫉妬したことか。

西氏:
 (笑)。

画像集 No.020のサムネイル画像 / クソゲーだから,覚悟のうえで買ってほしい――「moon」移植版配信開始記念,木村祥朗氏&西 健一氏インタビュー

木村氏:
 谷口さんの「架空世界のオペラ」が大好きなので,「『ギフトピア』じゃなくて僕のゲームに使えばいいのに……」ってずっと思っていました(笑)。「BLACK BIRD」が架空言語による“幻聴歌劇”のスタイルを採っているのも,あの時の気持ちからですね。
 あと,西さんの「アルキメDS」がむちゃくちゃ好きだったから,「これを世界に出すべきだ!」と思って当時マーベラスの和田さんとか,関係者を飲み屋に集めてみんなで遊ぶ会を催したりもしました。ああいうことができたのも,西さんの持っているプロデューサーの要素をちょっともらったからかもしれません。

西氏:
 それを言うなら,俺も「勇者ヤマダくん」をけっこう遊んでたよ? 主人公のオッサンが家に帰ってきて,PCに向かう前にパンイチになったのを見て「負けた!」って思ったね。これは祥ちゃんのセンスだし,誰からも出てこない。

木村氏:
 「勇者ヤマダくん」を作ったときは「moon」のことが頭にありました。「あ,もう1回勇者行けるな」ってアイデアを思いついて(笑)。こうしたプロデューサー脳と,オッサンがPCに向かう前にパンイチになるっていう僕の根源に近い,パーソナルなものが合体していたからああなったんだと思います。

西氏:
 祥ちゃん節を全開にするとちょっとニッチになるところがあるけど,晃君や俺や工藤が絡んでると,もう少し広く訴えられるものになる。そんなみんなのエレメントが一緒になったのが「moon」だよね。もう一緒にやるのは無理だけど。

木村氏:
 まじ無理だよね。でも……「勇者ヤマダくん」でアパートの風景を頼むときに,「オレンジと緑を使って晃君のテイストに近付けてほしい」って頼んだりもしましたし。どんだけ「moon」が好きかってことですよ。

西氏:
 みんなの中で一番「moon」が好きなのは祥ちゃんだよね。俺の中では「moon」が過去に打たれた楔みたいになってて,もういいじゃんとも思ったけれど,やっぱりそう割り切ることもできない。
 結局,「moon」が好きなんだよ。関わったみんなにそういう思いがあるから,今回の移植にもつながったんだと思うよ。
 
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