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「サガ スカーレット グレイス 緋色の野望」インタビュー。独特なプレイ感を持つRPGはどのようにして生まれたのかを聞いた
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印刷2018/08/01 12:00

インタビュー

「サガ スカーレット グレイス 緋色の野望」インタビュー。独特なプレイ感を持つRPGはどのようにして生まれたのかを聞いた

 スクウェア・エニックスは,「サガ スカーレット グレイス 緋色の野望」(以下,緋色の野望 PC/PS4/Switch/iOS/Android)を,2018年8月2日に発売する。
 今回4Gamerでは,本作の開発を手掛けた,ゲームデザイナーの河津秋敏氏率いるスクウェア・エニックスの開発チームにインタビューを行った。新しいスタイルのRPGを構築した経緯や,「緋色の野望」における変更点,そして開発陣が意識する「サガらしさ」という部分について聞いてみたのでお届けしよう。

左からディレクター 生田泰浩氏,サガシリーズ総合ディレクター 河津秋敏氏,プロデューサー 市川雅統氏
画像集 No.001のサムネイル画像 / 「サガ スカーレット グレイス 緋色の野望」インタビュー。独特なプレイ感を持つRPGはどのようにして生まれたのかを聞いた

 本作は,2016年12月にPlayStation Vitaにて発売された「サガ スカーレット グレイス」(以下,SSG)をより遊びやすく改良し,さらにシナリオなどに新要素を加えたタイトルだ。移動と会話とバトルのみで構築された,新スタイルのコマンドRPGが,今回新たに5つのプラットフォームに対応して発売となる。一連のゲーム内容に関しては,6月に掲載したプレイレポートを参考にしてほしい。
 本日(8月1日)20:00からは,開発陣による発売直前生放送も行われるので,気になる人はこちらもチェックしよう(関連記事)。


ダンジョンを廃したことで柔軟な開発が可能となり,クオリティアップに直結


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。緋色の野望のお話の前に,まずはSSGについてお聞きします。SSGと言えば,非常に特徴的なゲームデザインが印象に残っているのですが,あれは企画段階から考えられていたのでしょうか。

サガシリーズ総合ディレクター 河津秋敏氏
画像集 No.002のサムネイル画像 / 「サガ スカーレット グレイス 緋色の野望」インタビュー。独特なプレイ感を持つRPGはどのようにして生まれたのかを聞いた
河津秋敏氏(以下,河津氏):
 あの頃のゲーム作りは,それまでのハイエンドな方向から,スマホのソーシャルゲーム的なシンプルなものへと移行していくという流れにあって,我々としても,じゃあ次に何をすればいいのか,どんなプレイヤーにどんなゲームを届ければいいのかと,迷っていました。
 その時に考えたのが,シンプルなコマンドタイプのRPGであっても,しっかり作り込めば受け入れてもらえるのではないかということだったんです。そして,RPGを表現するのに最低限必要なものは何なのかを練り直した結果,あのようなデザインになりました。

4Gamer:
 とはいえ,フィールドとバトルと会話のみでゲームが進行して,ダンジョンもランダムのエンカウントもないというデザインは,あまりに挑戦的でしたよね。ここまでやるのかと驚かされました。

河津氏:
 ダンジョンをなくすことは,自分としても最後まで悩みました。しかし,3Dダンジョンはレベルデザインが大変で,それ専用のプランナーやデザイナー,それをまとめる管理業務が必要になります。だったら別の部分にコストをかけようと決めたんです。

生田泰浩氏(以下,生田氏):
 ダンジョンがないぶん,いろんなロケーションを増やすなど柔軟な対応が可能になったので,ゲーム全体の幅を広げやすくなって,それがトータルのクオリティをアップできるいい方向につながりましたね。

河津氏:
 ダンジョンがなくても,フィールドに固定のバトルを配置して,移動とバトルを繰り返して,手に入ったものでキャラクターを強化をするというサイクルと,それに合わせたストーリーがあれば,十分にRPGとして成立するんです。ボリュームも,ダンジョンがあるRPGよりずっと大きなものになって,面白さも詰められました。
 ただ,実際に遊んでもらうまでは,それらを伝えるのが難しかったですね(笑)。

市川雅統氏(以下,市川氏):
 「JRPG」という,ある種のフォーマットに則った独自のRPGのジャンルが提唱されていますが,SSGはまったく新しいタイプのRPGとしてチャレンジできたのが良かったですね。自分がこの世界を無限に冒険できるみたいに錯覚するようなシチュエーションがあるのに,ゲームとしてはシンプルに研ぎ澄まされていて,すごく濃縮されたRPGができたと,プロデュースサイドで感じていました。

画像集 No.006のサムネイル画像 / 「サガ スカーレット グレイス 緋色の野望」インタビュー。独特なプレイ感を持つRPGはどのようにして生まれたのかを聞いた


サガシリーズ最新作を手掛ける開発陣が考える「サガらしさ」とは?


4Gamer:
 SSGに限らず,サガシリーズは毎回システム的な部分でチャレンジをしているようなイメージがあります。そういった方向性の中で,開発陣の皆さんは新作を手掛けられるとき「サガらしさ」みたいなものを意識することはあるんですか?

河津氏:
 いえ,そんなに意識はしていません。タイトルに「サガ」と付けなくても構わないぐらいの気持ちです。もちろんプレイヤーさんはタイトルを聞いて「サガだからきっとこういう面白さがあるはず」と思うので,そこがズレていると「えっ!?」となるんですが,かといって,そのズレがないと新作として面白くならないと思います。
 サガの場合,開発の戦力的にも限りがありますから,プレイヤーのすべての思いをカバーするために,ゲーム全体を広げていく「ファイナルファンタジー」的な手法で作るのが難しいので,ゲーム的な面白さをズラしていく方向に特化しているんです。まあ,やりすぎると,本当に外れちゃうんですが。

市川氏:
 河津さんの中には「クリエイティブの目標値」みたいなものが必ずあって,それに到達したものがサガなんだと思っています。
 河津さん本人よりも,僕らのような周囲の人間のほうが,「サガらしさ」にとらわれてしまうことが多いかもしれません。ゲームに限らず,グッズやコラボも「これは本当にサガらしいのか」と,常に自分の中にいる河津さんに問いかけてますから(笑)。

ディレクター 生田泰浩氏
画像集 No.004のサムネイル画像 / 「サガ スカーレット グレイス 緋色の野望」インタビュー。独特なプレイ感を持つRPGはどのようにして生まれたのかを聞いた
生田氏:
 河津さんが作ってさえいれば,サガらしくなるとは思うんですが,自分の場合はプレイヤーとしての立場が長かったので,今回のSSGでは「ここはサガらしいから手を入れずにバシッと決めよう」「ここはちょっと外しすぎな気がするので,もっと丁寧に説明を入れよう」という意識を持って作っていました。会議では「そこまで意識しなくていいんじゃない?」と言われたりもしますが,サガプレイヤー個人としての感覚はどうしても意識してしまいますね。それはほかのスタッフにも多少あって,河津さんのゲームデザインに,スタッフの意識がちょっとずつ混じりあって最終的に完成するのが,サガなのかなという気がしています。

4Gamer:
 河津さんはそうした周りの皆さんの意識を受け止めて,ゲームに反映する方ですか?

河津氏:
 そのチームで何がやりたいのか,何ができるのかを出して,それを自分の考えている方向になんとなくまとめていくという作り方をしているので,基本的には全員がやりたいことをやっていますね。

生田氏:
 実際,かなり自由に作っていましたね。アイデアも出しやすかったですし。

河津氏:
 プレイヤーが好きに進められるゲームを作ろうとしているのに,作る側が自分達を枠にはめても仕方ないですからね。作っている人間も自由に考えて,それを合体させたら思ってもみなかったものになった,そんな要素がないと,プレイヤー側にも驚きがなくなってしまいます。

4Gamer:
 SSGが発売されてからの手応えはいかがでしたか?

河津氏:
 発売前は不安の声もありましたが,発売後には「心配しなくてよかった」という意見が多かったです。もちろん想像したものとは違うという方もいましたが,そこは毎回変えていく中で言われることなので,割り切って受け止めています。ダンジョンがないことなどは,新しいプレイ体験として意外にすんなり受け入れてもらえて,ゲームを設計した側としては満足できました。


スマートフォン向けタッチインタフェースの確立に苦心


4Gamer:
 SSGがPS Vitaで発売されたのに対して,今回,緋色の野望は5つのプラットフォームで展開されますが,ここも思い切って一気に拡大しましたね。

河津氏:
 開発当初からほかのハードでも発売したいと思っていて,ようやくの実現となります。

市川氏:
 サガのプレイヤーは,ゲームボーイの「Sa・Ga」の頃から最近のタイトルのファンまで幅が広いので,いろんなプラットフォームで遊んでもらいたいという気持ちがずっとあるんです。とはいえ,ゲームプレイの環境は皆さん違いますので,それぞれに対応できる普遍的なコンテンツとして,楽しんでもらえればいいなと考えています。

4Gamer:
 5種の対応プラットフォームがすべて同時発売というのは珍しいかと思いますが,開発が大変だったのでは?

河津氏:
 大変でした。想定ではもっと早く出す予定だったんですが,スマートフォンとPS4で想定していたところに,SwitchとSteamへの対応が加わって,作業量が一気に増えましたから。
 それと,スマートフォン向けのタッチインタフェースに関しても,もっと簡単にコンバートできるかと思っていたのですが,想像以上に苦戦したんです。PS Vitaの時点でタッチ操作は一切使わず,完全にボタンを使ったコマンドRPGのインタフェースでしたから,そこをどうタッチ操作に移植するかのハードルは高かったですね。

画像集 No.008のサムネイル画像 / 「サガ スカーレット グレイス 緋色の野望」インタビュー。独特なプレイ感を持つRPGはどのようにして生まれたのかを聞いた

4Gamer:
 確かに,タッチ操作でコマンドを間違えたりしたら,シャレにならないですもんね。

河津氏:
 そうなんですよ。インタフェースは,ストレスを感じさせないことが設計として最低限のラインで,とくにスマートフォンは機種によって画面の大きさが違うので,その落としどころに苦労しました。

生田氏:
 緋色の野望では,PS Vitaで不評だった部分はできる限りフォローして,評価された部分は前に出したいと思っていたので,インタフェースでストレスを増やしてしまうことは本末転倒ですからね。できるだけ妥協せずに取り組んだ結果,時間がかかってしまいました。

4Gamer:
 プラットフォーム別に発売日を変えるというプランもあったかと思うのですが,同時発売にこだわった理由があるのでしょうか。

市川氏:
 SSGの性質として,プレイヤーごとに全然違うプレイスタイルが構築されていくので,「えっ,そんな展開があるの!?」とプレイヤー同士のコミュニケーションが楽しめるんですが,それがPS Vitaだけだとちょっと狭いこともあったので,緋色の野望ではいろんなプラットフォームで盛り上がってほしかったんです。そこで発売日がバラバラになってしまうのは,違うかなと。
 ただ,ゲーム機用のパッケージ版とスマホ版に加えて,Steamも同時発売というのは,ほかのタイトルを見てもあまり例がなくて,そこはある意味,サガらしいところなのかもしれません(笑)。

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SSG経験者も新鮮なプレイができるような仕掛けを盛り込んだ


4Gamer:
 SSGからの改良点として,ロード時間なども含めたゲーム全体のテンポがかなり早くなっていましたが,あれはやはりハードウェアの違いという部分が大きいんでしょうか。

生田氏:
 それもありますが,プログラマーががんばって最適化してくれました。

河津氏:
 SSGでは,バトルのロード時間をあまり意識せずに設計してしまったところは反省しています。バトル時のキャラクターを減らしてロードを早くすることもできたんですが,そうすると戦術も何もなくなってしまって,ゲームとして面白くなくなってしまうので,そこはどうしても譲れなかったんです。

プロデューサー 市川雅統氏
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市川氏:
 テンポよく進むようになったのはいいことですが,SSGはロードの間に考える余裕があったので,待ち時間がなくなった寂しさはちょっとあります(笑)。

4Gamer:
 それは分かります(笑)。ちなみにロード時間が短くなっているのは,全プラットフォーム共通ですか?

河津氏:
 はい,全プラットフォームでほとんど変わらないと思いますので,ご安心ください。

4Gamer:
 改良だけでなく,緋色の野望には新要素も入っていますが,改めてその内容を教えてください。

河津氏:
 SSGからの要望としてあった周回プレイ時の引き継ぎや,プレイヤーが自分で調整をしていくことで楽しめる要素などを入れつつ,世界観を楽しむための仕掛けも新たに用意しました。
 また全体のバランスについても,SSGの歯ごたえは残しつつ,無駄に戦う回数が多かったところを削ったり,逆にぬるいバトルしかなかったところにメリハリを持たせたりなど,細かい調整もしています。

4Gamer:
 ゲーム開始時にSSGをクリア済みのプレイヤーに向けたアンケートがありました。あれはどういった仕掛けなのでしょうか。

生田氏:
 緋色の野望では,いずれかの主人公のストーリーをクリアして,2周目を別の主人公でプレイしたときに,先にクリアした主人公の仲間が登場する追加イベントがあるのですが,すでにクリア経験がある人には,それらを1周目から体験いただけるようにしてあります。

市川氏:
 SSGで4人全員をクリアしている人が,あのアンケートに正しく答えてプレイすると,また全然違った感じになると思います。イベントの数が圧倒的に増えていますから。

生田氏:
 最初はそれほどでもないんですが,途中から「あれっ!?」と感じると思います。クリアしていないと分からないこともたくさんありますし,アンケートは正直に答えたほうが楽しめるのではないでしょうか。

河津氏:
 もう一度遊んだときに,より新鮮な気持ちで楽しめるような設計にしています。

生田氏:
 SSGのプレイヤーの中にもいろいろな方がいると思うんです。1人だけクリアしたという人や,途中でやめてしまった人,もうやることがないというところまでプレイした人……。どなたでも,本作を遊べば何か必ず新しい楽しみが得られるようにしていますので,期待していてください。

4Gamer:
 追加要素としてはキャラクターボイスもありますが,イントネーションが違うものを2種類選べるのは面白い試みですね。

河津氏:
 2種類のボイスは,ある意味ネタ的な演出なんですが,実は「Dragon Age」というゲームがアイデアの元になっています。

4Gamer:
 それはまた,意外なところから持ってきましたね。

河津氏:
 Dragon Ageは,キャラメイクでボイスを複数の中から選べたんです。もちろん,演出以外の意味はなくて,自己満足のためのものなんですが,それが面白くて,プレイヤーの満足度を上げるために,いつか似たようなことができないかと思っていました。
 今回は新たにボイスを入れることが決まっていて,なおかつフルボイスでもなかったので,その演出を盛り込んでみたんです。

生田氏:
 でも河津さん,収録直前までボイスを2種類入れることを忘れていましたよね。開発の初期段階でそのアイデアを聞いて面白かったので,全員がやる方向で進めていたのに,いざ収録となったら,河津さんが「えっ,本当にやるの!?」みたいなリアクションで(笑)。

市川氏:
 「さすが河津さん」と思いましたね(笑)。

河津氏:
 (笑)。でも,結果的には2種類入れてよかったと思っています。SSGをプレイしたプレイヤーの中には,イメージと違うという人もいるかもしれませんが,そこに選択の余地を入れられましたから。声優さんの技量も非常に高くて,今回は全員単独で収録したんですが,2人以上の掛け合いのシーンもまったく気にならないほど自然でした。
 最近のスマホのゲームは,音声を切って遊ぶことが多いですが,実際にボイスが入った状態で遊んでみると,全然違いますよね。気持ちが昂ります。

画像集 No.005のサムネイル画像 / 「サガ スカーレット グレイス 緋色の野望」インタビュー。独特なプレイ感を持つRPGはどのようにして生まれたのかを聞いた

4Gamer:
 ボイスだけでなく,伊藤賢治さんのサウンドもありますし,緋色の野望を音声オフでプレイするのは,もったいないと思います。

市川氏:
 伊藤さんには,今回追加曲を4曲作っていただきました。曲によってはなかなか流れる機会がないかもしれませんが,ぜひしっかり聴いてもらいたいです。とくに,とあるバトルで流れる曲は,もともと入っているバトルの曲よりもさらに過激で,まだ知らない伊藤さんがいるんだなと実感しました。

生田氏:
 主人公によってフィールドやバトルの曲が違っていて,全体的な曲数はかなり多いです。古くからサガシリーズに携わっている伊藤さんと,最新のサガのコンビネーションはこんなにすごいことになっていると,ファンの皆さんに感じていただきたいですね。

4Gamer:
 最後にですが,もうすぐ迎える発売を楽しみに待っている方々に,メッセージをお願いします。

市川氏:
 PS VitaでSSGを遊んでいただいたお客様には感謝の気持ちしかないんですが,おかげさまで,また違った形のSSGを届けられるようになりました。まったく新しい遊びが盛り込まれていますので,ぜひ手に取っていただいて,今後のサガシリーズを応援していただければと思っています。

生田氏:
 サガシリーズの最新作ではありますが,これまでシリーズに触れられていない方や,コマンドRPGを普段やらない方にも触ってほしいです。ほかのタイトルでは体験できないようなテンポ感で,コマンドRPGとしての手応えを感じられますので,ぜひご期待ください。

河津氏:
 PS4とSwitch,Steam,iOSにAndroidと選べますから,ぜひ遊べる機種で手に取っていただければと思います。とくにスマートフォンでの遊び心地についてはかなり力を入れましたので,ゲーム機を持っていないという方にも気軽に楽しんでいただけるはずです。よろしくお願いします。

4Gamer:
 ありがとうございました。

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