レビュー
難しさが癖になる,協力&正体隠匿型ボードゲーム
デッド・オブ・ウィンター完全日本語版
Isaac Vega(アイザック・ヴェガ)氏とJon Gilmour(ジョン・ギルモア)氏がデザインを手がけ,2015年フランス年間ゲーム大賞にノミネートされたのをはじめ,海外のボードゲームメディアでも数々の賞を受賞している同作は,ゾンビを題材にした協力型ゲームだ。だが同時に正体隠匿系ゲームの要素もあり,ほかのプレイヤーに裏切られることもしばしばと,その高い難度からやり応えのあるゲームとして海外ではよく知られている。
コンポーネントに300枚以上のテキスト付きカードが含まれることから,英語版でプレイするのはなかなかに厳しかったが,この度,晴れて日本語版が登場したことで,ようやく気軽に遊べるようになった。今回は本作のプレイフィールをじっくりと紹介していこう。
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溢れ出すゾンビと,背後に立つ裏切者
本作の舞台となるのは,ゾンビがはびこる世紀末。極寒の地に位置するとある施設“最後の砦”に取り残されたプレイヤー達は,さまざまな能力を持った30人のキャラクターから自分の部隊を編成し,ゾンビから逃げたり戦ったりして生き延びながら,目的の達成を目指すことになる。
前述したとおり,本作は協力型ゲームだが,だからといって全員が同じ目的に向かうわけではない。勝者となるのは最終的に自身の勝利条件を満たしたプレイヤーで,それゆえ勝者は全員かもしれないし,1人だけかもしれないのだ。
面白いのは,本作では2種類の勝利条件が用意されており,ゲームに勝利するためには,どちらの条件も満たさなくてはならない点だ。一つはプレイヤー全員で共有し,協力して達成を目指す“砦の使命”。そしてもう一つが,各プレイヤーごとに配られる“密命”である。
“密命”について詳しく説明しよう。メインボードの定位置に置かれ,いつでも確認できる“砦の使命”とは違い,“密命”はプレイヤーそれぞれが胸に秘めておく勝利条件となる。ゲームのセットアップ時に密命カードが配布される仕組みで,勝利するためには,“砦の使命”を達成した時点で同時に“密命”の条件を満たしていなければならず,その内容は「手札に特定のカードが○枚以上あること」「規定の隊員数が部隊にいること」「特定の装備をしていること」など多岐に及ぶ。中でも“裏切者”の“密命”は「士気が0」――つまり裏切者だけはほかのプレイヤーと異なり,ゲームオーバーが勝利条件の一つになっている。このため,このカードが誰かの手に渡っていれば,ゲームは波乱に満ちたものになるだろう。
では,そんな“裏切者”にプレイヤーはどう対抗すればいいのか。ご安心いただきたい。本作には投票によってプレイヤーを「追放」するシステムが用意されている。追放されてもゲームには参加し続けられるが,行動が大きく制限されるため,ほかのプレイヤーの邪魔をすることは極めて難しくなる。逆に言えば,裏切者のプレイヤーはそうとはバレないように,うまく立ち回る必要があるわけだ。
“最後の砦”に迫り来る危機の数々
では,実際のプレイを見ていこう。
セットアップでは,まず各プレイヤーに4枚の職能者カードと5枚の支援カード,そして1枚の密命カードが配られる。うち密命カードは内容を確認したのち,手元に伏せておく。職能者カードは好きな2枚を選んで手元に残し,残りは捨て札とする。選んだ2枚は表向きにして手元に配置しよう。つまり,この2枚が最初の部下というわけだ。支援カード(後述)はそのまま手札として持っていればよく,あとはアクションで使用するダイスを3個確保すれば準備は完了だ。
戦いの舞台は,活動のメインとなる“最後の砦ボード”(以下,砦ボード)と,それに隣接する6枚の“施設シート”から構成される。
砦ボードはたくさんのキャラクターが滞在できる大きな施設だが,補充の支援カードは隣接する施設シートに用意されているため,ゲーム中は頻繁にこの間を行き来することになる。各施設シートは,それぞれ「警察署」「雑貨屋」「学校」「図書館」「病院」「ガソリンスタンド」を意味しており,それぞれ20枚の支援カード(内容は施設ごとに微妙に異なる)が山札として置かれる。
施設で手に入る(あるいは最初から持っている)支援カードはいわゆるアイテムのようなもので,治療薬や食料,燃料,武器などの種類がある。その効果はさまざまで,普通に使うだけでも便利なのだが,支援カードにはそれ以外にも重要な役割が設定されている。
一つは“砦の使命”に関連し,勝利条件として設定されている場合。特定の種類の支援カードを,指定された数だけ所定の位置(砦の使命カードの下)に置くといった使命があり,この場合は考えなしに消費していると勝利条件をクリアできなくなってしまう。
さらに,ゲーム中に発生する危機――いわゆるイベントによるマイナス効果を回避するためにも,支援カードは必要になる。これも指定された種類のカードを,規定数集め,砦ボード上の危機管理エリアに置くという形になるので,やはり支援カードの残りには,常に気を配っておく必要がある。
では,迫り来る危機を回避できなかった場合はどうなるのか。多くの場合,これは“士気の低下”という形でプレイヤーが追い詰められていくことになる。
士気とは,プレイヤー全員が共通するパラメータであり,砦ボード下段にある士気トラックによって管理されている。初期値は5〜8くらいでスタート(“砦の使命”によって異なる)するが,これが0になってしまえば即ゲームオーバーとなる。
士気が低下する要因には,先の危機が回避できなかった場合に加え,職能者が死亡したときなどがあり,一瞬で大きく下がることもある。職能者は死んでしまっても比較的簡単に補充ができるため,「まあ,なんとかなる」と思いがちなのだが,より重要なのはそれが引き起こす士気の低下のほうなのである。筆者の経験では,開始2ラウンドでゲームオーバーになったこともあるほどだ。
一方で,士気の回復は危機を回避したときに,指定されたカードを多く出すなどして可能な場合がある程度で,ほとんど運頼みといっていい。
というわけで,職能者をなるべく負傷させないように施設間を移動して支援カードを集め,ゾンビが溢れないよう適度に戦い,突如襲いかかる危機をかいくぐっていくのが本作のゲームプレイということになる。それも,裏切者の存在に目を光らせ,後ろから刺されないように気をつけながらだ。……ゾンビアポカリプス後の世界で生き抜くのがいかに大変か,その一端をお分かりいただけただろうか。
シナリオ「もっと検体を」を実際に遊んでみた
さて,本作の大まかな概要をお伝えしたところで,4人で挑んだ実際のプレイの風景を紹介しよう。今回選んだ“砦の使命”は,マニュアルに初心者向けと書かれていた「もっと検体を」というものだ。その勝利条件は……
- ゾンビが撃破されるたび,ダイスを1個振る。出目が4以上ならゾンビ・トークン1個をこの使命カード上に乗せる。ゲーム開始時のプレイヤーの数の3倍のゾンビ・トークンが,この使命カード上にあること。
とのことで,確かに簡単そうに思える。ようするにゾンビを倒しまくって12個のゾンビ・トークンを集めればいいわけだ。一方で,筆者に課せられた“密命”は「歴史家」。これは“砦の使命”を達成したうえで,手札に知識カードが2枚以上残っていれば達成される,比較的簡単なものだ。楽勝楽勝。
なんて思いながら,すでに4ラウンド経過したのだが……おかしい。まったくゾンビ・トークンが集まらない。普通の6面ダイスで4の目以上が出ればいいのだから,確率でいえば1/2。都合24体も倒せば12個集まって良いはずなのに※,現状は20体のゾンビを倒してわずか7個。おかしい。ともあれ,もっとゾンビを倒さねばなるまい。
※編注:確かに期待値ではそうだが,24体倒してトークンが12個以上出る確率は実際には約58%。20体で7個なら,実はそう運が悪いわけでもない。
全6ラウンドの“砦の使命”なので,残るはあと2ラウンド。この2ラウンドのうちに,残る5つのゾンビ・トークンを集めなくてはならない。次のラウンドで3つは確保しないと,かなり苦しいことになるだろう。……などとほかのプレイヤーと相談しながら,第5ラウンドがスタートした。
ラウンドの初めは,まず危機発覚ステップから。危機カードを1枚めくると,出たカードは「絶望」。医療品カードを4枚集めなくてはならないカードである。このタイミングでこれは,正直言ってかなりキツイ。
「……みんな医療品カード持ってる? ボクは持ってないんだけど」
「オレも持ってない」
「持ってるけど……自分は職能者を治療したいんだよねぇ。もう瀕死だし」
いろいろと相談した結果,今回の危機は思い切って無視することにした。ここで医療品を危機管理エリアに出してしまうのはもったいないという判断だ。その場合のペナルティは士気−2だが,現在の士気は4なので即ゲームオーバーにはならない。危険な賭けではあるが,使命を達成するにはこれしかない。
これ以上職能者が死ななければ,なんとかなるはずだ。士気が下がる要因はこのほかにも(というか,そこかしこに)あるのだが……今は考えないようにする。
危機カードへの対応方針を決めたところで,いよいよ行動開始。まずはプレイヤー全員でダイスを振って,アクションダイスを決めるところからだ。この時振るダイスの数は,「職能者の数+1」なので,3人を抱えている筆者の場合,4個のダイスを振ることになる。このときに出た目は,未使用ダイスエリアに確保しておき,今後の職能者が行動するときにコストとして支払っていく。余裕があれば,ほかのプレイヤーの出目も確認しておけばなおいいだろう。
実際の行動は,ラウンドのスタートプレイヤーから手番がはじまり,時計回りに手番が進行していく。ゲーム開始時は,職能者が持つパラメータのうち「影響力」の大きい職能者を持ったプレイヤーから行動できるが,以降のラウンドではスタートプレイヤーが右隣に移っていく仕組みだ。というわけで,このラウンドは筆者が1番手となった。
さて,どうすべきか。まずは職能者カードを確認してみよう。
このアシュリーの場合,2以上のダイス目があればゾンビへの攻撃が可能で,5以上の目があれば施設を捜索(その施設の山札から1枚取る)できる。このラウンドで3つゾンビ・トークンを集めるなら,少しでも多くのゾンビを倒しておきたい。よし,まずはゾンビを叩くことにしよう。攻撃は2以上の出目で可能なので,とりあえず3のアクション・ダイスを使うことにする。
これで1体撃破だが,同時に感染のチェックも行う必要がある。これは攻撃だけでなく,移動時にも行わなくてはならず,職能者達は常に感染の危険にさらされながら行動しなくてはならない。
この判定は「感染判定器」という12面ダイスで行い,何も書かれていない目が出ればセーフ,ドクロマークが出ればなんらかのダメージを負うことになる。ちなみに職能者によっては,この判定を回避できる者もいるのだが,そういう有能なやつに限ってすぐ死亡したりする。実にありがちである。
というわけで振ってみたところ……
問題なくゾンビを倒すことができた。さてゾンビ・トークンの出目は……
残念ながらトークンは落としてくれなかった。くそー,もう5連続で失敗しているんだけど。うぐぐ,悔しいので3の出目を使ってもう1体殴って見ると……。
凍傷だ! ダメージトークンが1枚乗って,これで合計2ダメージ。さらに凍傷は,次の手番開始時に必ず追加で1ダメージを受けてしまう。そうなれば合計3ダメージになってあの世行きだ。職能者が死ぬと士気が−1されるので,次のラウンドは士気1で迎えることになってしまう。これは治療しなくては! 誰か医療品カードの「治療薬」持ってない?
「ない」
「施設の病院で探索するしかないんじゃない?」
仕方ない。捜索向きの能力を持ったアーサー・サーストン校長を病院に移動させることにする。
先に説明したとおり,感染判定は移動時にも行われる。しかし,怪我を治すために,怪我を増やしたのでは意味がない。というわけで,感染判定をすっとばす支援カード「燃料」を使い,車を使って急いで病院に向かうことにした。ここまできたら,感染判定は1回でも少なくしておきたいからだ。しかし……
「あーはいはい,ちょっと待って。交差点カードが発動した」
交差点カードとは,特定の条件によって発動するイベントカードのこと。手番プレイヤーの右隣のプレイヤーが山札から1枚取って,こっそりと確認しておき,条件を満たしたところで発動が宣言される。今回のイベントは……まさかの「自動車事故」である。
「えーっと読み上げるね。燃料を使う……つまり車を運転していたところに,子供が飛び出してきたわけだ。で,それがゾンビだと気がつく前に,あわててハンドルを切って事故ってしまいましたとさ」
ここで用意された選択肢は2つだ。
- 壊れた社内で救助を待った。職能者に凍傷トークンを1個載せた上で砦に戻る。
- 事故のあと,歩きながら目的地へ向かった。感染判定を3回行う。
いやぁ,これは厳しい,どうしよう。校長先生は今のところノーダメージだから,ここで凍傷をもらったとしてもすぐに死ぬことはないはずだ。次が最終ラウンドなわけだし,ここは大人しく砦に帰るべきか。いや,しかし。そもそも病院を目指したのは,治療薬を確保するためだったのではないか。ここで引いては元も子もない。感染判定3回,やってやろうじゃないか!
(コロコロ)無傷! (コロコロ)無傷! (コロコロ)1ダメージ!
おし! いや,これで済んで本当によかった。というわけで命からがら病院に辿り着き,アクション・ダイスの出目2を使って探索を開始する。カードをめくると……「よそ者2名」カード。違う,そうじゃない。今は職能者を増やしている場合じゃないのだ。とりあえず,ほかにできることと言えば……病院の入口にいるゾンビを倒すくらいしかなさそうだ。
残る出目5のアクション・ダイスを使ってゾンビを撃破。感染判定はセーフ。そしてゾンビ・トークンは……よし,落とした! これでゾンビ・トークンは合計8つ。残るはあと4つとなった。
さて,これでアクション・ダイスは使いきってしまった。あと出来ることといえば,手札の支援カードを使うか,職能者を移動させるくらいである。支援カードは最終ターンのために温存しておくとして,図書館にいるデイビッド・ガルシアくんは一旦砦に戻ってもらったほうが良さそうだ。
本作ではラウンド開始時に職能者が施設にいる場合,1人に付き1体のゾンビを呼び寄せてしまう。そうして増えたゾンビによって施設のゾンビ・マスが溢れると,施設にいる人は襲われて死んでしまうのだ。図書館にはすでに3体のゾンビがおり,これでMAX状態なので,これ以上,ここに留まるのは危険である。
というわけでデイビッドを砦に移動し,安全を確保しておく。感染判定は負傷で,ダメージ+1。まあ凍傷よりはいい。最後に食糧カードをプレイして,砦に備蓄食糧を置いておこう。これでこのターンでできることはすべてやった。結局アシュリー女史を治療することはできなかったが,それは他のプレイヤーに任せることにしよう。誰かコイツの面倒をなにとぞよろしくお願いします!
マニュアルや交差点カードのフレーバーテキスト
なお,本作には記事中で詳しく説明しなかった要素,例えば装備品や保護すべき無力者の存在,また噛まれて死亡した時の感染拡大など――が多く残されており,実際のプレイでは,これらがさまざまなシチュエーションを生み出すことになる。そのため遊ぶ度に展開が変化する,リプレイ性の高いタイトルとなっているわけだ。
さらに本作の特徴をもう一つ。先のプレイ風景にも少し登場したが,カードに書かれた数多くのフレーバーテキストから窺い知ることのできる,本作の世界観もまた,大きな魅力といえる。
ルールブックには,ゲームに使う砦の使命カードごとにプロローグが記載されていて,ゲームの最初にこれを読み上げることになっている。自分達が今どういう状態におかれているのか,またどこに希望を見出せば良いのかが伝わる内容になっていて,ゲームの雰囲気を一層盛り上げてくれる。交差点カードにしても,「こんな条件,起こるハズないよ!」なんてカードが見事に的中したりして,その不運ぶりが,まさにゾンビ映画の中に身を置くという気持ちにさせてくれるのだ。
ただ冒頭にも書いたとおり,とにかく難度が高いゲームであることは間違いなく,そうそう簡単にクリアできるとは思わないほうがいいだろう。筆者にしても,すでに10回以上はプレイしているが,そもそも,“砦の使命”すらクリアできないことがほとんどで,“密命”も含めて勝者になれたのは,まだ1度。ただ,プレイする度に上達を感じるタイトルではあるので,いつしかプレイヤー全員が勝利となる完全クリアを達成してみたいと思っている。本稿で興味を持った人は,ぜひ親しい友人と一緒に挑戦し,完全クリアを目指してみてはいかがだろうか。
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