![]() ピーター・ムーア(Peter Moore)氏 |
イギリスのリヴァプール出身のムーア氏は,地元の大学卒業後に「サッカーを教えるため」に渡米。フランス製のシューズを車に積み込んで販売する副業から,やがてReebokに入社して「グローバルマーケティング」という手法を確立する。その手腕が買われて,Sega of Americaを率いることになったのは1999年2月のこと。Dreamcastの発売までたった7か月でゲーム業界のイロハを学び,運用資金に恵まれないまま広報プランを整えるとともに,同年9月の北米ローンチでは2週間で50万台のセールスという実績を残している。これは,当時の北米市場における新記録だった。
ただし,その翌年に登場したPlayStation 2の攻勢には敵わず,とくに販売が不調だった日本本社からのハードウェアビジネス撤収という告知を受け,2002年3月には早々にDreamcastの生産中止を決定。その際,大量解雇やライバルだったメーカーに頭を下げて開発キットの要請を行ったことなど,非常に難しい仕事に取り組んでいる。
2001年にはMicrosoftから初代Xboxがリリースされていたが,当時は北米市場で23%程度のシェアしか獲得できていなかった。その現状の業を煮やしたスティーブ・バルマー(Steve ballmer)氏に招聘される形で,ムーア氏はMicrosoft本社があるシアトルに単身赴任。同社でも果敢な戦略により,Xboxブランドを築き上げることに成功した。さらにXbox 360のローンチを見届けた2007年には,家族と合流するためにサンフランシスコ近郊の自宅に戻り,Electronic Artsのスポーツブランド「EA SPORTS」を統率することに。その後,昨年末に同社のCOO(チーフ・オペレーティング・オフィサー)に就任したことが発表されている。
そんなムーア氏は,近年の“コンシューマー機戦争”(アメリカではThe Console Warと呼ぶ)をどう見ているのか。また,その激動の中でElectronic Artsをどのように舵取りしているのか。今回のインタビューでは,そのあたりをじっくりと聞き出してきた。
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我々の役目はシアトルとトーキョー
双方を成功に導くこと
4Gamer:
Electronic Artsに入社されてから6年くらいになりますが,これまでを振り返っていただけますか。
Peter Moore(以下,Moore)氏:
ええ,ようやく慣れてきた感じだね。トイレの場所も全部覚えたし(笑)。いや,真面目な話,ここしばらくElectronic Artsは経営的にもずっと苦しんできましたが,次世代のゲームメーカーはどうあるべきかを毎日真剣に考えているような連中と一緒に仕事ができて,本当に誇りを持っています。
次世代ゲーム機の登場を目前にして,ただのゲームパブリッシャという立場から,消費者により良いゲーム体験やサービスを提供できる“次世代型のパブリッシャ”に近づいてきたと思います。こうした取り組みを続けてきたことで,大きなやりがいを感じています。
4Gamer:
年末には,PlayStation 4とXbox Oneがリリースされるということで,ゲーム業界にとって重要な時期が訪れますね。
Moore氏:
実に刺激的なホリデーシーズンになるでしょう。両陣営ともに,過去のハードウェアのローンチには見られなかったほど,熱心に各ハードの魅力を伝えようとしているのを感じます。今年の始めまでは,「本当に次世代ゲーム専用機なんて必要なのか」といった風潮でしたけどね。
4Gamer:
現在のゲーム業界内外の盛り上がりを見ると,確かに信じられないですね。
Moore氏:
今回のgamescomでゲームファンの熱狂を肌で感じましたが,ゲーム専用機に対する需要はとても大きいと確信しました。2大ゲームメーカーが同時期に新型ハードをローンチするというのは,それだけでもかつてないほどのイベントです。我々,Electronic Artsの役目はシアトル(Microsoftのこと)とトーキョー(Sony Computer Entertainmentのこと)の双方を成功に導くことで,ゲームファンを始めとするすべての人が楽しめるようにすることだと思っています。
4Gamer:
MicrosoftはXbox Oneの発表以来,ファンの支持を得ることに苦労しているようです。これについてはどうお考えですか。
Moore氏:
長いスパンで考えれば,数年後には誰も覚えていないと思います。例えば,スポーツ選手は常に何らかの失敗や困難がついて回るものです。試合前に体調を崩す,練習方法を変えてみる,大切なシューズを無くしてしまう……。しかし,一流選手はスタートラインには必ず最良のコンディションでやってきます。
次世代ゲーム機のプラットフォーマーは,どちらも一流のプロフェッショナルです。プレオーダーの状況やサービスの内容,価格帯などを考慮してもネガティブな影響はないように思います。私はそれほど心配していませんよ。
![]() Titanfall |
御社のラインナップでは,「Titanfall」の前評判が非常が高いですね。
Moore氏:
今から予告しておきますが,Titanfallは“怪物級”です。今回のプレスカンファレンスで最新トレイラーを公開しましたが,すでに完成度が高いビルドであることはお分かりになったでしょう。
これほどまでに新鮮なゲーム体験があり,ワクワクするようなロボットバトルを繰り広げるゲームを見たことはありません。Respawn Entertainmentのメンバーは,我々の期待以上のクオリティに仕上げてくれるはずです。
4Gamer:
そのTitanfallを筆頭に,「FIFA 14」のUltimate Team Legendsや「Battlefield 4」のSecond Assault DLCなど,Xbox One独占ないしは先行配信となるコンテンツが発表されています。さらに「Plants vs. Zombies: Garden Warfare」はXbox OneとXbox 360のリリースしか明らかになっていません。どちらかと言えばXboxプラットフォームに注力している印象を受けます。
![]() Battlefield 4 |
そのようなことはないですよ。先ほどもお話ししたように,我々は双方のプラットフォームが成功することを望んでいて,両社と良い関係を築けています。
Titanfall(Microsoftが提供するクラウドサーバー技術を採用)はともかく,あなたが挙げたタイトルにはXbox Oneのタイム・エクスクルーシブ(期間限定の独占コンテンツ)が含まれています。こうした判断は良いビジネスチャンスが舞い込んできたから選択したのであって,どちらかのプラットフォームを贔屓にするということではありません。
4Gamer:
しかし,FIFA 14はヨーロッパ圏のXbox One予約購入者のみ無料バンドルされることが発表され,大きな話題になりました。
Moore氏:
それも我々がMicrosoftとの友好関係を保つための戦略であり,大きなビジネスチャンスだったことは間違いないですね。
4Gamer:
FIFA 14が無料で手に入るとは,ヨーロッパのゲームファンにとってはタダゴトじゃないですね。
Moore氏:
私も長くハードウェアビジネスに関わってきましたが,どうすればゲーム機が売れるのか,ファンは何を求めているのかを考えることは非常に大切です。それは我々パブリッシャーにも言えることで,共通するメンタリティが今回の交渉を結実させたということなのです。
「FIFA」シリーズは毎年リリースされる人気フランチャイズですから,今回のアイデアはタイミングがばっちりでした。ハードにしてもソフトにしても,発売直後のスタートダッシュにはなんとしても成功したい。とくにハードのほうは,Wii Uのように2週間後にはショップにパッケージが山詰みされたままという状況は是が非でも回避したいと願うはずです。そのためにプラットフォーマーはさまざまな施策を打ち出してきますし,我々もゲーム業界として良い結果を出すための戦略が必要であるということです。
4Gamer:
なるほど,良く分かりました。
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EAの目指す次世代型のパブリッシャ像
4Gamer:
それでは少し話題を変えますが,Electronic Artsは2013年度の第1四半期は,収益の実に79%をデジタル販売で占めていました。これについてはどうお考えですか。
Moore氏:
我々にとっては,予測どおりの良い成長だったと思っています。Originの売上や「FIFA」シリーズのゴールドパックなどが好調でしたが,やはりモバイルゲームの健闘が大きかったです。妙な話に聞こえるかもしれませんが,我々の最も大きなリテイラー(取引先の小売店)は数字上,Appleになったわけですからね。
4Gamer:
(笑)。
Moore氏:
今後は次世代ゲーム機向けのパッケージ販売などに期待しているので,こうした“珍事”はしばらく起きないと思います。ただ,パッケージの新作が出ない時期でもデジタル販売で補えるというのは,我々がここ数年,推し進めてきた変革の成果が現れてきたということなのです。
4Gamer:
「FIFA」シリーズのゴールドパックやBattlefield 4のDLCを含めて,今後はこうしたデジタル販売も強化していくと?
Moore氏:
もちろん。先ほど「次世代型のパブリッシャ」という表現を使いましたが,実際,ほんの2年前まではElectronic Artsのビジネス構造は,まだコアゲームに依存し過ぎていました。例えば,膨大な予算を投入した大作が振るわなかったというような特定の状況に,業績が非常に左右されてしまう状況でした。
ゲームソフトを発売して,それを売り切ったらまた数年かけて新作を出すというサイクルは,ファンが本当に求めている形でではないと思います。皆さんが,今遊んでいるゲームのコンテンツを増やすためにはどうすればいいのか。そして,そこからどうやって利益を生み出せるのか。こうした展望を持つことこそが,次世代ゲーム機市場で成長していくための鍵になるはずです。
4Gamer:
次世代ゲーム機と言えば,現行機版(PS3/Xbox 360)で遊んだBattlefield 4の戦績を次世代機版(PS4/Xbox One)に引き継げるというプレミアムサービスを発表されましたね。
![]() Battlefield 4と同様,FIFA 14でも一部データの引き継ぎが明らかになっている |
ええ。これまでは「次世代機でも現行機のゲームが遊べるのか」といったポイントが注目されてきましたが,今後はこれが必ずしも大きな焦点であり続けるとは思いません。
例えば,Battlefield 4はタブレット端末でコマンダーモードを遊んだり,スマートフォンからロードアウトを確認したりできます。こうした機能を含めて,次世代ゲームはもはや“ゲーム”というよりも,もっと大きな”総合デジタルサービス”になりつつあります。データの引き継ぎに関しても,せっかくプレイヤーが時間をかけて築いたものをハードが変わっただけで始めからやり直すなんて,まったくナンセンスな話ですよね。
4Gamer:
ムーアさんは,どのようなゲームテクノロジーに興味を持たれていますか。
Moore氏:
最近はクラウド技術を始め,さまざまなテクノロジーが登場していますが,私個人としてはElectronic Artsが長年進めてきたサーバーシステムの構築が完成に近づいていることに興奮しています。決済システムなどを含めて,外見上は地味なことですが,将来のデジタル化に対応できているので満足しています。
4Gamer:
Electronic Artsは前CEOのジョン・リキテロ(John Riccitello)氏が退任されてから,もう5か月が経過しています。いまだに新任が決まっていないのはなぜでしょうか。
Moore氏:
このようなことは往々にして時間が掛かるものですから。誰が最も適切な人材なのかを調査し,そこからじっくりと調整する必要があるのです。
4Gamer:
MicrosoftからZyngaに移籍したドン・マトリック(Don Mattrick)氏に,白羽の矢を立てたというのは本当なのでしょうか。
Moore氏:
私も記事を読みましたが,役員会の話なので内情は知らないのです。
4Gamer:
ムーアさんが適任ではありませんか。
Moore氏:
人事は役員会が決めるものだから(笑)。本当に私が関知するところじゃないんですよ。
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4Gamer:
ムーアさんは最近までEA SPORTS部門を統率されていましたが,世界的に大きなブランドであるにも関わらず,日本では苦戦している現状をどうお考えですか。
Moore氏:
アメリカンフットボールやバスケットボールに関しては,ある意味でアメリカに根差したものだから,海外で受けないというのは仕方のないことです。しかし,「FIFA」シリーズに関しては引っかかるものがありますね。
それでも,来年はFIFAワールドカップが開催されることもあって,日本でのセールスにも期待しています。もう日本は本戦出場を決めたんですよね? 多くの日本人選手がヨーロッパで活躍していますから,来年こそ日本の皆さんに「FIFA」シリーズの進化を知ってもらえる良い機会になりそうです。
4Gamer:
自身もサッカー選手としての経験があり,リヴァプール(英プレミアリーグ)の大ファンだそうですね。今季については,どのような期待を持っていますか。
Moore氏:
(目を輝かせて)今夏の移籍やフレンドリーマッチでの仕上がりには満足しています。リーグ初戦のストーク・シティには何とか勝ったという感じでしたが,次節は強豪アストン・ヴィラ戦でちょっと心配しています(このインタビュー後,リヴァプールは1-0で勝利)。近年はスター選手の育成工場みたいになっていて,かつての勢いはありませんが,ファンなら長い目で見て応援しないとね(笑)。



















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