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「源平争乱〜将軍への道〜」のレビューを掲載。これまでのストラテジーゲームにはない体験ができる,テーマもゲームシステムも野心的な作品
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印刷2011/06/02 12:00

レビュー

源平合戦を,最新の歴史資料を基に独特なシステムで再現

源平争乱〜将軍への道〜

Text by 徳岡正肇


 “中高年向けPCストラテジーゲーム”という独自路線で業界に参入したサイフォンの第3作は,源平の戦いをテーマとした,「源平争乱〜将軍への道〜」(以下,源平争乱)だ。プレイヤーは反平氏勢力として強大な平氏に反旗を翻し,己の勢力をもって日本を統一しなくてはならない。
 テーマからゲームシステムまで,実に意欲的な……というか,チャレンジングなこの作品を,詳しく見ていくことにしよう。

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源平合戦をテーマにした,最近珍しいストラテジー


 源平の戦いは,ゲームの素材としてはややマイナーかもしれない(「源平討魔伝」「源平合戦」など,存在しないわけではない)が,歴史イベントとしては知名度の高い出来事だ。
 そもそも「祇園精舎の鐘の声,諸行無常の響きあり」で始まる平家物語は,日本の中二病の始祖といってもいい。読者諸氏の学生時代にも,クラスに1人や2人は必要以上に平家物語の冒頭を暗唱していた学友がいた(いる)はずだ。日本の同人文学史上に輝かしい足跡を残す源氏物語同様,今我々が共有しているゲーム系カルチャーとこれらの古典文学は,非常に近しい距離にある。詳しい説明をしていると長くなるので今回は割愛するが,ともかく,あるんだってば。

勢力の選択。最初は源頼朝か木曾義仲しか選べない。義仲の戦闘力でゴリ押しするか,頼朝の地盤で勝負するか
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「源平争乱〜将軍への道〜」公式サイト


 しかしながら,実際の源平の戦いがどのようなものだったかということになると,我々は意外とその詳細を知らない。
 無論,受験生であれば平清盛から源頼朝へと権力が移り,最終的に日本最初の武家政権を頼朝が樹立するという流れは把握していることだろうが,「この戦いに具体的に参与した人物の名前を,20人以上列挙せよ」となると,ほとんどの人が無理なのではなかろうか。筆者も無理だ(20人は多すぎるような印象があるかもしれないが,これが戦国時代や三国志となれば,意外と簡単に20人枠を埋められる)。

 そして事実,この時代が「本当にどういう時代だったのか」は現状,なお曖昧だ。世界的に見て日本は文献資料(手紙や証文など)が多く残っている国だが,それでも800年強という時間は,必要十分な量の文書が生き残るには長すぎた。個々の戦場における戦闘がどのようなものだったのかはもちろん,それ以前に,戦争や政治の形態についてさえ,今なお研究が続いている。

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ゲーム開始時の日本。圧倒的なまでの平氏優勢。ゲームに慣れないうちは,戦力的に見て起こるべきことが起こる
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「軍編成」コマンドで武士団の参加を募る。攻撃目標は相模国だが,その道中にある国の武士団をなびかせるのが主眼
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軍の編成場所を設定する。移動するごとに軍の士気が落ちるので,よほどの事情がない限り前線に近いところで挙兵したい
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武士団に要請を送ってみる。オレンジの笑顔のアイコンは,喜んで挙兵に参加してくれると予想される地域

 1つ言えるのは,どうやらこの時代の戦争は,「国ごとに支配者がいて,その支配者の率いる軍隊を壊滅させ,支配者の住む城を落とせば,その国の支配権が獲得できる」というものではなかった,ということだ。つまり,戦国ストラテジーによく見られるような,国盗りシステムは通用しない。
 とはいえ,史実に反するから,そういうゲームシステムにしてはならない,という理屈は成り立たない。現実と反する要素をゲームから除外するというのでは,多くのFPSやRTSは完成しないだろう。源平の戦いを国盗りゲームとして描いてはいけないという理由は(「史実を忠実に再現しています」などと言い出さない限り),基本的には存在しないはずだ。

 だが,源平争乱でサイフォンは,現状の歴史研究を踏まえたゲームシステムを採用することを選択した。控えめに言っても,勇気ある選択だろう。

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要請する相手の優先順位を決める。1〜3番目までは重点的に要請が行われ(紫色+漢数字),残りは優先順位が下がる(緑色)
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召集に応じた武士団のアイコンの上には,勇ましいセリフが出る。合計兵力数もぐんぐん上昇していくので,嬉しい


12世紀末,日本は暴力装置と風評被害に包まれた


 源平争乱のゲームシステムは,独特なものだ。
 まず最初に,「所領」という概念を忘れよう。なんだかものすごく大事なものを忘れるような気がするが,このゲームは,領地をめぐって争うゲームではない。
 では,いったい何がプレイヤー国……もとい,「プレイヤー勢力」の強さを決めるのか? それは,プレイヤーという「武家の棟梁」が,全国の武士団からどれくらい信望を集めているかにかかっている。

武蔵東に侵入。4000騎近くの我が軍勢を見た地元の武士団は,平氏から頼朝へすばやく鞍替え,5つの武士団が行軍に合流することになった。大勝利である。戦ってないけど
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 この観点から,ゲームマップを見てみよう。マップはいくつもの領地に区切られていて,そこにさまざまな色に染まった刀のアイコンが表示されている。この刀アイコン1つ1つが,その領地を根拠地とする武士団を表し,刀の色は各武士団がどの棟梁を主と仰いでいるかを示す。プレイヤーたる棟梁は基本的に根無し草で,「自分の国」はないと理解したほうが,ゲームとしては分かりやすい。

 各国の武士団が自分の勢力下に入るかどうかを決める要素は,大別して2つ――暴力(およびその誇示)と風評である。
 各国の武士団は,プレイヤーの軍事行動が成功したり,自分が生活している土地にプレイヤーの軍隊が入ってきたりすると,「ここは,あの人に付いていったほうが良さそうだ(ついていくしか選択肢がない)」と考え,麾下に入ってくる。
 またこうした風評は人づてに広がっていくので,プレイヤーがうまくやればうまくやるほど,雪だるま式にプレイヤーの勢力は拡大し,行軍中に自軍の数が増えていくことさえあるのだ。

だが,必ずしもうまくいくとは限らない。半端な戦力で,平氏優勢な下野を目指して行軍するも,平定に失敗。威信に傷がつき,地元の武士団の支持すら失う
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 つまり,気をつけなくてはならないのは,源平争乱においては,仮に「この兵力動員人口の多い領地の武士団達を,自分の麾下に収めたい」と思っても,直接そこに殴りこむ必要はないし,場合によってはそれが下策である可能性すらある,ということだ。
 むしろここで考えるべきは,問題の領地の近くにある,自分に服従しない勢力をしらみつぶしにしていくことだ(実際に戦争するのではなく,現地を訪れて自分の軍隊の威光を見せつければいい)。周辺の武士団が次々にプレイヤー勢力になびいていけば,自然と目標の領地にも転向者が出てくる。そうやって自分を受け入れる体制が出来たところで,威風堂々と行軍していけばいい。実にイヤな感じに素晴らしい

このままだとジリ貧なので,無理に無理を重ねて武蔵西の平定を口実に上野を平定しようと試み,またも失敗。平氏の軍勢と戦わぬうちに,頼朝の地盤はほぼ失われる。こうなったらおしまい
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 ちなみに,ゲーム的には軍隊を召集するときに,「◯◯の国を制圧する」など「今回の旗揚げの目標」を設定する必要がある。当然だがこの設定においても,本当の目標を馬鹿正直に設定するのではなく,適度に達成しやすい目標を立てておいて,集まった軍勢で自勢力の地盤固めを行い,適度に支持が広がったところでシャンシャンと柏手を打って目標達成,といった展開が理想となる。
 行軍距離が長くなればなるほど軍隊の士気が落ちて行くので,最終目的に「敵軍勢との合戦」などという立派な目標を掲げるのは,なるべく避けたい。


勝った戦争だけが良い戦争


 当然だが,暴力と風評で勝ち取った支持基盤は,暴力と風評によって崩れ去る。敵の軍隊が通過した領地に自分を支持する武士団がいたなら,たいていの場合,その武士団は支持対象を鞍替えするし,そうやって「風向きが変わった」という風評が周囲に伝播すれば,周辺領地でも転向者が続出する。無理にふくらませた風船は,しぼむのも早いのだ。

軍と軍がぶつかる場合,武士団を最大7つまでの“勢”に配置していくことになる。それぞれの勢の最初に割り当てられた武士団が,その勢の指揮官になる
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 もちろん,これに対抗して再び軍隊を招集し,またしても暴力と風評をもって自分の支持基盤を再獲得するというのは,正しい選択だ。なので,その繰り返しの果てに,暴力と風評の根元である軍隊そのものが激突するのもまた,必然の結果となる。

 源平争乱の戦闘システムはシンプルなもので,プレイヤーは軍隊の編成と,あとは側面/後背を突く部隊を配置するかどうか以外に選択肢がない(操作もできない)。
 別動隊による後方遮断の効果は絶大だが,戦場に到着するのが遅れることもあるし,到着しても大勢を覆せないこともある。指揮官の人事采配と,軍勢のバランス調整を除けば,「合戦は最後の仕上げ」だ。
 この合戦に勝利すれば,プレイヤーを支持する武士団はぐっと増え,負けた棟梁は支持母体を大きく損なう。小さな合戦の勝敗が,勢力バランスそのものを大きく揺るがす可能性があるのだ。

戦闘が始まる前に,側面や後方へ軍を進出させるかどうかを決める。後方遮断が戦況に与える影響は大きいが,間に合わなければ戦力の逐次投入に過ぎない
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 鋭い方であれば,この段階で源平争乱は,可能な限り合戦をしてはいけないゲームであることを,ご理解いただけるだろう。合戦にプレイヤーの技術が介入する余地がほとんどない以上,合戦とは「必勝の最終的解決」以外のものであってはならない。
 また,支持基盤が風評で簡単に拡大していくシステムなので,ゲーム中盤,平家との決戦が目前に迫ってきたあたりから,残余の中小勢力をどうさばくかが大きな問題となる。領国数で見れば1〜2国程度の勢力であっても,1000騎強の軍勢を仕立てられて支持基盤の切り崩しを狙われると,辺境での支持バランスは簡単に覆る(そもそも源氏がそうやって平氏の支持基盤を切り崩すのだから,ほかの勢力にできないとする理由はない)。

 あまり連続して大量の動員を行うと支持率に悪影響を与えるし,かといって中小勢力を粛清するのにちょうどいい程度の戦力を集めたと思ったら合戦で負けた,というのでは,おごれる平家の二の舞だ。棟梁にとって,イヤな感じの悩みは尽きない

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戦闘が始まるときに,名乗りをあげる武士団もある。その時代らしい風景
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側面を取ることに成功したが,義仲の暴力的な戦闘力を前に前線が崩壊寸前
ほとんど負けも同然だが,攻撃側の義仲は時間内にこちらの軍勢を完全には崩壊させられず,防御側の辛勝だ。辛勝でも勝利は勝利である。これによって近隣武士団の支持率は頼朝有利へと大きく変動する
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テーマのニッチさが滲み出る弱点


 源平争乱は,これまでのサイフォン作品と比較し,インタフェースについてもさまざまな点で改善されている。とりあえず個人的にありがたいのはキーボードショートカットの追加で,ほとんどすべてのアクションがキーボードから1発で選択できる。使うショートカットは限られるにしても,あるとないとでは大違いだ。

 また,「クリックしたオブジェクトの情報を,その場で閲覧できる」のも順当な改善点だろう。自分が招集した軍勢の数と士気の平均は,軍勢をクリックすることで確認可能だ。もう少し表示方法やインタフェースを洗練できる気もするが,これもまた,見えないよりは見えたほうがいいに決まっている。

クリックしたオブジェクトの詳細データは左下の窓で確認できる。微妙に操作しにくいが,確認できるのは大きい
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 面倒な部分があるとすれば,軍勢の編成画面だろうか。30前後の武士団を3〜4の部隊に編成するならばまだしも,これが80や90となってくると,さすがに面倒さが先に立つ。しかし,人数バランスや軍勢の数,指揮官の質などが戦闘結果に影響を与えるため,合戦が及ぼす影響の大きさと相まって,そうそう手を抜くこともできない。

 また,各領国における,武士団の平均的な友好度は,常時画面に表示されていてもよかったように思う。軍隊の召集時に一覧でき,通常時でも各国にマウスカーソルを合わせればステータス窓に表示されるが,情報として重要度が高いので,常に確認できていたほうがありがたかった。

 とはいえ,最大の問題は1ゲームが短いことだろう。ゲームシステムを把握したうえで頼朝を使えば,30分〜1時間程度で統一が果たせる。義仲となると,序盤の立ち上がりにトライ&エラーが必要になるが,それでも1晩あればクリア可能だ。
 前作「戦ノ国〜もののふ絵巻〜」と同様,ゲームをクリアすると選べる勢力が増えるので,繰り返し遊ぶ要素がすぐに枯渇するわけではない。しかしここで,「源平」というテーマのマイナーさがウィークポイントになる――源頼朝で統一し,義仲で統一し,試みに奥州藤原氏で統一したとして,さて,では次にどの勢力であれば愛着を持ってこのゲームをプレイできるだろうか?
 武田や新田など,苗字的には有名な勢力が用意されているものの,極論すれば,武田ファンのほとんどは信玄ファンであって,武田家の(しかもそのご先祖様の)ファンではないだろう。

何回かの行軍と合戦の結果,東日本〜中部をほぼ頼朝傘下に収めることに成功。ここで後白河法皇から上洛命令が出る。受けないと威信に傷がつくので,受けることに
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京都奪還軍の募集に,東日本中から集まってくる武士団。その数3万人オーバー。3000人程度の軍勢で始まった反乱は,その頂点を迎える
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 もちろん,弱小勢力をうまくやりくりして,強大な平氏と,ときに源氏,さらには奥州藤原氏も撃破して日本を統一するのは,ストラテジーゲーム(あるいは一種のパズル)としては面白い。けれどそこに歴史的な魅力が微妙に欠けるのは,否定しがたいところがある。
 もちろん源平マニアであれば,「この勢力で遊べるのか!」と興奮できるだろうと思う。事実,筆者が第二次大戦を舞台にしたストラテジーゲームでポーランドを選んではドイツに蹂躙されることを楽めるのは,つまりそういうことなのだからだ。このあたりは,公式サイトなどでの継続的な情報提供に期待したいところだ。

京都を守る平氏の大軍。しかし総司令官源義経自らが側面を突く作戦で,あっというまに全軍を崩壊させた。合戦とは,かくありたい
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京都に入ったことで,後白河法皇の権勢を利用できるようになる。朝敵として名指しされると,権威に傷がつくため没落も早まる。もちろん,後白河法皇が「そんなものは,ただの私闘だ」と突っぱねることもある
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 「プレイヤーがちゃんと源平の歴史を勉強すればいい」ですって? そりゃあ,お説ごもっともなんですが,「プレイヤーが歴史的知識を学んでおくのは当然」と胸を張ったあるジャンルが,日本では商業的にひどく痛い目にあいましてね……。


軍記とはまったく違う,リアルな源平を再現


 総じて,源平争乱はとても評価の難しいゲームだ。
 ゲームシステムは間違いなく新しいし,なんのかんので粛清に明け暮れていた頼朝の生涯を見るに,なるほどあの時代はこうだったのかという説得力もある。イメージ的には,合戦においては,もう少し兵力よりも士気が重視されるバランスのほうが良かったかもしれないとか,後白河天皇の存在感がいま1つかな,といった印象はあるが,そういった調整は今後のパッチに期待したい。

外交的に敵を減らしていくのも重要だ。京都近くに地盤を持つ相手を放置したくないので,家臣としての服従を求めることにする
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 個人的には,結構ムキになってプレイできた。きわどい情勢の中で次の手を考える楽しさもあるし,1つ1つのアクションのリスクが大きいので,緊張感もある。ごく少数のレジスタンスとして始まった戦いが,燎原の火のように燃え広がり,その広がった速度ゆえの不安定きわまりない政治基盤に頼って決戦を仕掛ける,その決断のタイミングを測る面白さもある。
 演出も適度になされていて(時折スキップしたいこともあるが),ゲームとしての原始的な楽しさ,いわば「光って音が出る」面白さも必要十分に担保されている。

 では万人にお勧めできるのか,ということになると,これはなかなか難しい。
 最大のネックはやはりプレイ時間で,時間に余裕のあるゲーマーであれば,コンテンツのほぼすべて(勢力的に見て,明らかな無理ゲーを除く)を数日で消化してしまうだろう。逆に,システムがあまりにも特徴的すぎるため,最初の数回で「何だかよく分からないゲーム」として放り出してしまう可能性も否定できない――後者はコアなストラテジーゲームの常ではあるが。とりあえず,「死んで覚える」のが苦手な人には,あまり向いていないかもしれない。

義仲で平氏を討ったところ。東日本で見事に支持基盤を失った義仲が藤原氏に喧嘩をふっかけるも,奥州藤原氏の底力の前に恐ろしいことに。油断は禁物である
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九州の緒方氏でプレイ。一時山本氏に大きく攻め込まれるも耐えしのび,対藤原戦線に突入したところで逆襲を開始。日本の支配権を賭け,奥州藤原氏と緒方氏の決戦が今始まる。なにそれ?
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機動力トップクラスの武将2名を使っての機動戦を前に,奥州藤原氏の主力が崩壊する。数的に見て正面からのゴリ押しでも十分勝てるんですがね
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 いずれにしても,本作には「源平の戦い」を描く軍記にあるような,勇ましくもクリーンな戦いは,存在しない。そして実際,源氏側から見れば,この戦いは打倒平氏の戦いであると同時に,熾烈な内ゲバでもあった。
 漫画家の平野耕太氏は「ドリフターズ」において,那須与一のことを「源平の軍記と全然違うのなーこやつ」と,ほかのキャラクターに評させているが,本作をプレイすれば「源平の軍記と全然違うのなーこいつら」と思えること請け負いだ。

 源平争乱は,ブラッシュアップ可能な余地を持った作品であるとは思う。けれど,従来のストラテジーゲームにはない体験をさせてくれるし,それは決して理不尽でもない。あえて言えば,初期のParadox Interactive作品が持っている「興味深さ」に非常に近いものを持った作品――良くも悪くもコア層向けな仕上がりだと思う。それはそれで,いまのストラテジーゲームが目指す方向性として,1つの王道と言えるだろう。
 Paradoxが自社のコアなゲームを丹念に育てて行ったように,今後サイフォンが源平争乱をどう育てるのか。国内に存在する,数少ないPCストラテジーゲームメーカーの作品として,注目したいところだ。

「源平争乱〜将軍への道〜」公式サイト

平氏の軍勢が再編されているが,その数はもはや2000に満たない
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無事,鎌倉政権が樹立。前作「戦ノ国〜もののふ絵巻〜」同様年表型のエンディングだが,戦ノ国のような複雑な結果が出たりはしない
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