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これはアウトオオオ! 「放課後ライトノベル」第103回は『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』で,言いたいことも言えない世の中を変革します
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印刷2012/08/04 10:00

連載

これはアウトオオオ! 「放課後ライトノベル」第103回は『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』で,言いたいことも言えない世の中を変革します



 「暑い……でもあと2か月くらい我慢すれば……!」と,自ら慰めてもどうにもならないほど暑い今日この頃。もういっそ,マンホールの中にでも入って涼みたいものです。それか冷たい土の中に深く静かに沈降してみたい。

 いや,ここは逆に,外に出てスッキリするのがいいのかもしれない。例えば海外旅行,具体的にはオマーン国際空港に行ってみたりとか。海でアワビ獲りもいいかもしれませんね。まだ先の話ですが秋にはマツタケ狩りにも行きたいですなあ。

 そんなふうに,最初にごく普通の身辺雑記を挿入してみた今回の「放課後ライトノベル」では,第6回小学館ライトノベル大賞・優秀賞を受賞した『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』を紹介する。タイトルや表紙で誰もが気になりつつも,購入に二の足を踏んでいるであろう本作。ここは一つ,筆者がライトノベルのアナリストの端くれとして,深いところまでずっぽりとレビューしてみたい。

これはアウトオオオ! 「放課後ライトノベル」第103回は『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』で,言いたいことも言えない世の中を変革します
『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』

著者:赤城大空
イラストレーター:霜月えいと
出版社/レーベル:小学館/ガガガ文庫
価格:620円(税込)
ISBN:978-4-09-451352-3

→この書籍をAmazon.co.jpで購入する


●そこは,かちんこちんに固くなった世界(※ものの考え方が)


 全国民に《PEACEMAKER(PM)》なる超小型端末の装着が義務付けられた近未来の日本。人々の言動はPMによって常に監視され,性的な言葉を口にしたが最後,警察の善導課(性的な事件を専門に取り締まる部署)が飛んできて逮捕されてしまう。この世界では《公序良俗健全育成法》によって,性的なものは,言葉を口にすることすら罪になるのである。

 《公序良俗健全育成法》に反対したテロリスト(国会議事堂にコンドームをばらまいて逮捕)を父に持ちながら,自身は健全に生きようとする少年,奥間狸吉(おくまたぬきち)は,憧れの少女アンナ・錦ノ宮(にしきのみや)を追って時岡学園高等部へ入学する。入学初日,彼は電車で痴漢の冤罪を被せられそうになっている男を助けるが,そのせいで今度は自身が善導課に追われることになってしまう。

 絶体絶命の狸吉。と,そこへ一つの希望が差し伸べられる。

みなさん逃げてください! 《雪原の青》が現れました!

 動揺を隠せない善導課に,狸吉を助けた何者かは悠然と相対する。
 顔を覆う純白のパンツ。
 全裸の上にまとったタオル。
 周囲が騒然とする中,《雪原の青》と呼ばれた“彼女”は,公衆の面前で,誰彼はばかることなく大声でこう叫ぶ――

おち●ぽおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 アウトオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


●《SOX》結成! 理想はどこまでも高く屹立する


 あたりが大混乱に陥るのに乗じ,狸吉は変態仮面謎の痴女に導かれ,なんとかその場を脱出する。そうして学校にたどり着いた彼を待っていたのは,アンナを会長とする生徒会からの勧誘だった。

 下ネタという概念が失われたこの世界の中でも,時岡学園はとくに情報統制が厳しく,生徒たちは子供の作り方さえ知らない。だが,《雪原の青》の暗躍によってその網にほころびが生まれ,学園の風紀が乱れ始めているのだという。アンナは“卑猥”の概念が分からない生徒たちの代わりに,狸吉に取り締まりを頼みたいというのだ。

 一も二もなく承諾した狸吉は,生徒会副会長・華城綾女(かじょうあやめ)と共に行動を開始。だが,それが間違いだった。彼女の正体こそ,世を騒がす怪人《雪原の青》その人だったのだ! 綾女から脅しを交えた勧誘を受けた狸吉は,彼女と共に反社会テロ組織《SOX》を立ち上げ,世に下ネタを解放せんがために働くことに……。

 かくして生徒たちの純粋さを死守しようとする生徒会と,それを欺かんとする《SOX》との戦いの火蓋が切って落とされる。ただ,当の生徒たちはというと,妊娠する方法を知りたいがために産婦人科に突撃して出入り禁止を食らったり,好きな相手に近づこうとストーカーまがいのことをやったりと,下ネタ云々とは別のところでいろいろ心配したくなる連中ばかり。果てはこの作品唯一の良心だと思われていたアンナまでもが……。何事も締め付けすぎるとかえってよくない,といういい見本ですね,うん。

 その中でも,本作を象徴する綾女=《雪原の青》の変態ぶりはずば抜けている。幼い頃から下ネタ好きで,その様は本人いわく「語尾はちんちん、見た目は幼女、二言目には“交尾まだー?”」。とある手段でPMを欺きながらマシンガンのように下ネタをまき散らし,イライラした時の口癖は「ち●こち●こち●こ」……。そんな彼女に感化され,狸吉もじわじわと下ネタ好きな本性を引き出されることに。なんとも恐ろしい「下ネタ系女子」だ。


●人々の中に,たっぷりと濃いもの(=正しい知識)を注ぎ込め!


 本連載の第95回で紹介した『空知らぬ虹の解放区』で描かれた世界観を,全国レベルまで推し進めたような本作。「下ネタに自由を!」とか書くといかにもアホ臭く見えるが,PMというツールによって事実上の言論統制が敷かれていることを考えると,本作の世界は一種のディストピアであると言える。

 それは,ポルノ規制をめぐる議論が過熱している昨今を鑑みるに,決して絵空事の未来図ではない。本作はそんなディストピアを破壊せんとするテロリストたちの死闘を描く物語でもあるのだ。……まあ,やってることはエロ本争奪戦とか,そんなアホなことばっかりだが。

 そして本作にはもう1つ,重要なキーワードがある。「愛」だ。
 人と人とが愛し合う以上,その先にある肉体的なつながりを無視することはできない。人を過剰なまでに性的なものから遠ざけてしまえば,正しく人を愛することさえできなくなってしまうかもしれない。前段で例示した生徒たちも,正しい知識を教えられなかったばかりにそうした行動に出てしまった,とも言えるのだ。重要なのは情報から遠ざけることではなく,正しく知識を伝えること――本書は我々に,そう強く訴えかけてきているように思える。

 タイトルや表紙から,10人中10人が色物と断じるに違いない本作だが,その根底には,現代社会に対する鋭い批評眼がある(ような気がする)。未読の人はぜひ,見た目だけで色物扱いすることなく,レジに持っていく勇気をほんの少しだけ絞り出して,本作を手に取ってみてほしい。

■第6回小学館ライトノベル大賞の受賞作をまとめてチェック

『狩りりんぐ! 萩乃森高校狩猟専門課程』(著者:森月朝文,イラスト:いわさきたかし/ガガガ文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
これはアウトオオオ! 「放課後ライトノベル」第103回は『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』で,言いたいことも言えない世の中を変革します
 『下ネタ〜』が優秀賞を受賞した第6回小学館ライトノベル大賞ガガガ部門からは,同作を含め5つの新作が世に送り出された。残る4作品も『下ネタ〜』に負けず劣らず個性的なラインナップとなっている。
 ガガガ大賞受賞の『狩りりんぐ!』は,害獣被害が増加し大きな社会問題となっている世界で,ハンターを育てるために創設された狩猟専門課程で学ぶ少年少女の生活を描く物語。学園生活をコミカルに描く一方で,「命を奪う重み」といったテーマにも踏み込んだ意欲作だ。「モンスターハンター」シリーズのファンやサバイバルゲーマーにオススメしたい。
 優秀賞の高岡杉成『こわれた人々』では,他人には姿が見えない“ウラビト”と呼ばれる存在と人知れず戦う少年の孤独と悲哀が描かれる。日常の陰で世界を救っている英雄も,そうと知らない人間の目には頭のおかしい人にしか見えない,という,異能バトルものの定番を逆手に取った設定が秀逸だ。
 同じく優秀賞の竹林七草『猫にはなれないご職業』は陰陽師ものだが,当の陰陽師がなんと猫。授業中もペンとキャップで妄想するBL同人作家のヒロインを始めとする,登場人物たちのやり取りの軽妙さにくすりとする。かと思うと最後にはぐいっと泣かされる,完成度の高い一作だ。
 審査員特別賞を受賞した水沢夢の『俺、ツインテールになります』は,まさに「ツインテール好きの,ツインテール好きによる,ツインテール好きのための小説」。異世界からツインテール属性を奪いに来た悪の組織を倒すため,無類のツインテール好きな少年がツインテール幼女に変身して戦う。確かな文章力・構成力に裏打ちされた,ぶっ飛んだキャラクターたちによるドタバタ騒ぎは,最初から最後まで笑いとおせること請け合いだ。

■■宇佐見尚也(ヤッターマンコーヒーライター)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中の,自称心清らかなライター。「下ネタとは無縁の人生を送ってきたのが事実であることは,今回の原稿を読んでいただければお分かりいただけることでしょう」と,妙に自信満々の宇佐見氏だが,最近Twitterの「#ラノベのタイトルに夜のを付けるとエロい」タグで遊んでいたことは,すでにバレバレなので,見栄を張っても無駄ですよ。
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