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パズル感覚でどうぞ。「放課後ライトノベル」第20回は『二年四組 交換日記』でクラスメイトの本名を特定せよ!
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印刷2010/11/27 10:00

連載

パズル感覚でどうぞ。「放課後ライトノベル」第20回は『二年四組 交換日記』でクラスメイトの本名を特定せよ!



「ねえ,寧々さん」
「なに,尚也くん?」
「最近,急に寒くなってきたね」
「そうね」
「風邪,引かないように気をつけてね」
「ありがとう。でも大丈夫。ほら,こうすれば……(手を握る)」
「あっ……」
「ね? あったかいでしょう?」
「……うん,そうだね」
「うふふ……」
「あははは……」

 ……………
 ………
 …
 ハッ! 夢か……。

 いやね,最近学園もののラノベとかマンガとかアニメとかを見てると,ときどき切なくなるんですよ。ああ,自分もあんな風に女の子と仲良くなってうれし恥ずかし学園生活を送りたかったなあって。リアルでそんな桃色イベントが発生したことなんて,自慢じゃないけどこれまで一度たりともありませんがな。

 しかも奥さん,ちょっと聞いてくれる? 高校時代なんて共学なのに3年間ずっと男だけのクラスという謎の灰色生活でしたのよ? もしかしてこの人生,バグってるんじゃないの? 思い出したら切なさのあまりつい現実逃避して,脳内寧々さん※筆者の脳内にいる想像上の寧々さん。実際の寧々さんとは異なります)とキャッキャウフフする夢まで見てしまった。

 そりゃあね,今だから言うけど自分だって靴箱にラブレター入れられたかったですよ。通学途中に転校生と正面衝突だってしたかった……。放課後の校舎裏で告白されたり,初めてのデートの前夜に緊張して眠れなかったり,あとは――そう,交換日記をこっそりやり取りしたりとか,それくらいのイベントを期待したっていいじゃないか。しかし,どこでどうフラグ立てを間違ったのか知らないが,現実はご覧の有様だよ

 そんなこんなで,ついに交換日記で甘酸っぱい思いをすることもなかった筆者だが,今回の「放課後ライトノベル」では,スーパーダッシュ文庫新人賞出身者のデビュー作『二年四組 交換日記』を紹介しよう。まあ,こっちの交換日記はちょっと一筋縄じゃいかないわけですが……アレ? どうして,泣いてるんだろう。こんなに華麗に前フリからつなげたっていうのに……。

画像集#001のサムネイル/パズル感覚でどうぞ。「放課後ライトノベル」第20回は『二年四組 交換日記』でクラスメイトの本名を特定せよ!
『二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない』

著者:朝田雅康
イラストレーター:庭
出版社/レーベル:集英社/スーパーダッシュ文庫
価格:560円(税込)
ISBN:978-4-08-630573-0

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●二年四組に集うのは,個性派だらけの問題児たち!


 舞台となるのは私立伯東高校。2年目の新人教師・愛川奈美(あいかわなみ)は,クラス分け会議の場で先輩教師たちの仕掛けた罠にかかり,個性的すぎる生徒ばかりを押しつけられてしまう。かくして彼女の担任する二年四組は,腐ったリンゴ“ばかり”が詰め込まれた段ボール箱のようなクラスとなるのだった。

 生徒数は全部で35名。所属するのは,優等生に三馬鹿トリオ,学園のマドンナにスポーツ万能男,いじめられっ子に登校拒否児にストーカー……と,よくもまあこんなに集めたものだと呆れるほどに個性バラバラなメンツ。中にはハッカーや,お嬢様とそのメイド,なんてのもいる。委員長や秀才といった,一見まともそうな個性の持ち主もいるが,別のところでずれていたりして,やっぱり扱いが大変なことに変わりはない。

 そんなとっちらかったクラスをまとめるために,クラス委員長の号令のもとに始められたのが交換日記だ。作中では,各章がその交換日記の1日ぶんとなっており,何人もの生徒が代わる代わる日々の出来事を綴っていく形で話が進んでいく。

 さすがに35人全員が書いているわけではないものの,書き手によってクラスメイトの印象や,クラス全体に対する見方がまったく違っているなど,読み進めるにつれ二年四組というクラスへの興味が増していくこと間違いなし。書き手ごとに,きちんと文体を変えているあたりも芸が細かい。そうしたクラスメイトたちの視線を通して,騒がしくも楽しげな学校生活が描かれるのが,この『二年四組 交換日記』という作品なのだ。
 ちなみに先に書いた担任の先生,最初と最後にしか出てきません。いやほんとに。


●人間関係の糸が絡み合う裏で,とんでもない事件が勃発!?


 さて,そんな二年四組のクラス内には大きく3つの派閥があり,35人いるクラスメイトのほとんどはそのどれかに属している。もっとも,それは一番大雑把なくくりでの話。実際には,誰と誰が仲良しで,誰が誰に恋をしていて,誰と誰が幼なじみで……といった具合に,非常に細かく複雑な人間関係が作り出されている。

 35名という大人数に加え,人間関係も複雑ということで,誰が誰だか分からなくなるのでは,と心配する向きもあるだろうが,これで不思議とつまずくことなく読み進められる。そもそも個々人が非常に個性的なのに加え,「ハツラツ娘」「インドア男」「解説者」などなど,その生徒がどんな人間なのかが一目で分かるニックネームが1人1人につけられているからだろう。とはいえ,いくら個性的といっても彼らは高校生。それぞれ恋愛や友人関係で悩みを抱えており,前半は主にそうした問題にまつわるあれやこれやで話が展開していくことになる。

 一方その裏では,暴走族との衝突や謎の詐欺事件,ロシアの諜報機関の暗躍といった出来事が起こり,物語には次第にきな臭い雰囲気が漂い始める。ついにはクラスメイトが誘拐されるに至り,二年四組の面々はそれぞれのスキルを活かして事態に立ち向かうことになる。やることなすことバラバラだった生徒たちが,果たしてどうピンチを切り抜けるのか――というのが,本作後半の読みどころだ。

 とまあ,作中では結構いろいろと大変なことが起こるのだが,もともとの体裁が,すでに起こったことを回想して書く「日記」ということで,大変な事態が語られる場面も,どこか他人事のようなとぼけた雰囲気が漂う。それもまた,この作品の味の一つと言えるだろう。まあ,いろんな意味で規格外の生徒が揃っているからこそ,一歩間違えば大怪我しそうな状況も,何となく安心して眺めていられるのかもしれないが……。


●本作ならではの楽しみ方,クラスメイトの本名を特定せよ!


 しかし,この作品の本当の楽しみ方は小説の外にある。
 先に,クラスの面々には1人1人ニックネームがつけられている,と書いたが,実はこの作品,作中(交換日記中)では基本的に,生徒たちは本名では呼ばれない。章によっては本名で書かれることもあるものの,多くの章ではニックネームで呼ばれ,本名との対応は最後まではっきりとは書かれない。こうしたニックネームと,本名との対応を見つけ出すというのが,本作ならではの楽しみなのだ。

 ご丁寧に巻頭のカラー口絵には,ニックネーム“だけ”が書かれた二年四組の名簿が用意されており,読みながらパズル感覚で本名当てゲームを楽しめるようになっている。丁寧に描写を追っていけば,全員の名前を特定するのはそう難しいことではないので,自信があって友達がいる人はどれだけ早いページで特定できたかを競争してみるのも面白いかもしれない。なお,各章の日記を書いている生徒が誰なのかも明確にされてはいないので,それぞれの書き手を当てるというおまけ的な楽しみ方も可能だ。

 35人という登場人物の多さ,交換日記という形式,そして本名当てというパズル要素。二年四組の面々に負けないくらい,個性的な要素を3つも兼ね備えた本作は,昨今に刊行されたライトノベルの中でもきわめて特異な作品だといえるだろう。また1人,次の作品が楽しみな新人が現れた。

■スーパーダッシュ小説新人賞の代表作をまとめて紹介!

『ニーナとうさぎと魔法の戦車』(著者:兎月竜之介,イラスト:BUNBUN/スーパーダッシュ文庫)
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画像集#002のサムネイル/パズル感覚でどうぞ。「放課後ライトノベル」第20回は『二年四組 交換日記』でクラスメイトの本名を特定せよ!
 『二年四組 交換日記』を送り出したのは,スーパーダッシュ文庫を母体とするスーパーダッシュ小説新人賞。今回で9回目を数える同賞からは,これまで数多くの作品が刊行されており,その中には,のちにアニメ化された作品も少なくない。代表作としては,『銀盤カレイドスコープ』(海原零/第2回大賞),『電波的な彼女』(片山憲太郎/第3回佳作,デビュー第1作となる『紅』がTVアニメ化),「戦う司書」シリーズ(山形石雄/第4回大賞)などが挙げられる。
 第9回からは,『二年四組 交換日記』で佳作を受賞した朝田雅康以外にも,3人の新人がデビューしている。大賞が兎月竜之介『ニーナとうさぎと魔法の戦車』と神秋昌史『オワ・ランデ!』,佳作が佐々之青々『ライトノベルの神さま』(作品名はいずれも刊行時のもの)。大賞と佳作が各2作という,まれに見る豊作の回だっただけに,各書き手の今後の活躍に期待が高まる。

■■宇佐見尚也(ライター/怪盗帝国)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。原稿と共に「よく誤記されますが,ボクの名前は宇佐『美』ではなく宇佐『見』です。『美』だとこのボクの美しさがさらに強調されちゃいますからね! ああ,美しいボク」というメッセージを送ってきた宇佐“見”氏こと怪盗トゥエンティ。あー,はいはい。間違えたことは謝りますから,早く上着を着てください。乳首立ってるじゃないですか!
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