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【RAM RIDER】「人生そのもの」を描いた「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」の記憶
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印刷2022/05/27 19:30

連載

【RAM RIDER】「人生そのもの」を描いた「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」の記憶

RAM RIDER /  アーティスト /  音楽プロデューサー

画像集 No.001のサムネイル画像 / 【RAM RIDER】「人生そのもの」を描いた「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」の記憶

RAM RIDER「明日なにあそぶ?」

公式サイト:https://ramrider.com/


第3回:「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」


 「ドラゴンクエスト」は日本を代表する二大RPGのシリーズ作品として「ファイナルファンタジー」と比較されがちだ。お互いの存在を認め合いつつ切磋琢磨してきた事実はあるだろうし,とくに初期の作品では中世ヨーロッパのような世界観や,「ウルティマ」的な剣と魔法の存在など,そのルーツにも共通点は多い。

 だが僕にとっての「ドラゴンクエスト」は,そのような系譜で眺めるよりも「『週刊少年ジャンプ』的な何か」という切り口のほうがしっくりくる。「Dr.スランプ」「ドラゴンボール」鳥山 明氏によるキャラクターはもちろんのこと,ジャンプ放送局の“えのん”(榎本一夫氏)“どいん”(土居孝幸氏)がデザイン周りを固めているし(あの素晴らしいロゴは貧乏神によるものだ!),シナリオには「ファミコン神拳」“ゆう帝”(堀井雄二氏)“ミヤ王”(宮岡 寛氏)が関わっている。

 ジャンプ巻頭で誌面の半分にも満たないサイズの袋とじを開き,小出しにされる情報に興奮した日々が懐かしい。「これがアレフガルドだ!」と言われれば「おお,これがアレフガルドか!」と感動し,新しいモンスターの登場シーンが公開されれば「かいはつちゅうがあらわれた!」と心を踊らせたものだ。発売当時(1986年)小学生だった僕にとって「ドラゴンクエスト」は「ジャンプ編集部のおにいさんたちがつくっているファミコンのゲーム」だった。

 さてそんな僕にとって一番思い出深いシリーズ作品は「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」(以下,DQV)だ。

 DQVと聞けば誰もが思い浮かぶのが「ビアンカ・フローラ問題」だろう。DS版ではデボラが追加され,その論争に拍車がかかった。「週刊少年ジャンプ」周辺の人々が関わり,一応は子供達がメインターゲットだったシリーズの中で,主人公の結婚,それも花嫁選びの要素まで盛り込んだのだから話題になるのも無理はない。だけど正直にいえば,それはこのゲーム全体においてはそんなに重要な部分ではない。パラメータや使える魔法に多少の違いがあり(いや,イオナズンの有無は大きいか……),ところどころで出てくるセリフに違いはあるものの,ストーリー全般に大きな変化はないからだ。むしろ現代の価値感に照らしあわせて考えればその「本筋への影響のなさ」は本作の弱点といえなくもない。

スマートフォン版「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」
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 とはいえ,やはりこのゲームの大きな魅力であり,画期的だった点は人生そのものを題材にしたことだろう。「人生そのもの」などというと,さも哲学的かつ抽象的な印象になってしまうが,要は人生におけるタイムラインを幼少期,少年期,青年期とていねいに描き,ライフイベントを交えながら追体験させる試みが本作にはあった。発売当時(1992年),中学生だった僕は時に幼なじみとの小さな冒険に胸を躍らせ,時に父との別れに涙し,あるいは突然の奴隷生活に絶望しながらも主人公の成長を見守った。そしてある時点で主人公は大人になりプレイヤーである自分の年齢を追い越していく。そこからは人生の予習のようなものだ。

 ほかの作品に目を向けてみたい。

 西部開拓時代を舞台としたオープンワールドゲームの大傑作「Red Dead Redemption」ではそれまで何十時間とプレイしてきた主人公が銃弾の嵐を受けて息絶え,バッドエンドか……と思わせた先にその息子のストーリーが続く。これはパパスの目線で描かれたもう一つのDQVといっても過言ではないだろう。また,一本の作品の中で一人の人生を追体験していくといえば,まるでマーティン・スコセッシ監督の映画のようでもある。僕にとってはDQVのほうが先なのでむしろ「グッドフェローズ」「ギャング・オブ・ニューヨーク」がDQVっぽい,というイメージだ。奴隷生活を送った神殿に成長した勇者が戻りケリをつける,なんてあたりは「マッドマックス 怒りのデスロード」にも通じるところがあるかな,なんて気もしてくる。

 このようにさまざまな作品と勝手ににこじつけてつなげだしたらキリがないが,後々から考えればやはりDQVは自分に「人の一生」を感じさせてくれた最初の作品であることに変わりはなさそうだ。「一生」といっても必ずしも誕生から始まり,その死までを描く必要はない。かすかに残った親との記憶と死別,そこから自分自身が親となって同じ眼差しで子を見つめる日まで。これらが円環構造となったうえで最後の戦いに挑むことになるため,否が応でも盛り上がってしまう。DQVはそのコンセプトからしてもう勝利が決まっていたとすら思える。

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 自分にとって「ドラゴンクエスト」シリーズは,数年に一度時間を見つけてはクリアまでプレイするゲームだ。「I」は今やその気になれば1日でクリアできる。「II」の序盤でサマルトリアの王子を宿屋で見つけた瞬間のあの感情は何度プレイしても変わらない。「III」のサブタイトル「そして伝説へ…」の意味を理解した瞬間の驚きも印象深い。「IV」は今回の依頼を受けてどっちを書くか最後まで迷ったぐらい好きな作品なので,いつかその機会がほしいところだ。「VI」以降はさすがにクリアまでが長いこともあって数えるほどしかエンディングまでたどり着いていないが,それでも発売時にプレイしてそれっきり,ということはなかった。

 そんな中でもDQVはプレイするたびに自分自身を振り返り「思えば遠くにきたなあ」などと思わせてくれる名作だと思う。スマートフォンなどにも移植されているし,これを機にプレイしてみてはいかがでしょうか。もし5年ぶり,10年ぶりだとしたら,これを読むあなたが今何歳だったとしても,きっと新しい発見があることだろう。あの頃読んだジャンプの漫画の数々を大人になった今,読み返すように。

■■RAM RIDER(アーティスト / 音楽プロデューサー)■■
楽曲提供いろいろ。今年の後半はソロ作品のリリースを予定。最近はエアブラシと塗装ブースを導入して車のプラモデルを作っているそうです。
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