![]() |
ゲーミフィケーションに関するアンテナを張っている人であれば,中西製作所のスマートフォン用ゲーム「給食マスター!」(iOS / Android)のことはすでにご存じだろう。異世界に召喚された主人公が給食センターの経営を任され,おいしい給食を作って皆を笑顔にするという物語が描かれる。
![]() |
![]() |
中西製作所は1946年に給食用アルミ食器の販売からスタートし,その後はさまざまな厨房機器を製造してきた。給食を作るには,大量の料理を効率的に仕上げる必要があり,なおかつ衛生的でなければならない。それだけに機器は大きく,製造には独特のノウハウが必要になる。
たとえば「省エネ型ガス連続炊飯機」の最大モデルは,重量2360kg,全長8188mmという大きさで,1時間あたりのガス消費量は30.7m?にもなる。普段,家で使っている炊飯器とは別物であり,中西製作所のような専門業者が必要になることが分かるだろう。
![]() |
こうした厨房機器と給食センターの世界をゲームとして表現したのが「給食マスター」である。給食センターに必要な知識や専門的な考え方を,遊びながら学べる。
たとえば,給食センターでは職員の動線確保が大切で,搬入された材料を処理する「ピーラー」「下処理」「受け渡し」「カット」「焼き物/揚げ物/煮炊き」「配送」という工程の順番で機器を並べなければならない。
また,運び込まれた材料を保存する冷蔵庫も重要であり,こちらは動線とは別の「冷蔵力」というパラメータで表される。冷蔵庫が給食センターを下支えしていて,ここから出てきた材料が,整然と並べられた厨房機器で料理されるという基本が自然と分かるわけだ。
HACCP(食品の安全を保つため,工程ごとに管理と記録を行う仕組み。2021年から原則としてすべての食品等事業者に,これに沿った衛生管理が義務付けられた)の考え方も取り入れられており,専門的な内容をしっかり取り扱っているという印象だ。
給食センターについては,小学校でおかずを受け取りに行った経験などを通じて知っているつもりでいたのだが,プレイしてみるとさまざまな発見があって面白い。
たとえば,できた料理を届ける「配送」が一つのカテゴリになっているのは,利用者としてはなかなか気づきにくい点である。料理を作るだけで終わりではなく,届けるところまでが給食センターの仕事というわけだ。
![]() |
もちろん,厨房機器の話ばかりをして宣伝に終始するなんて内容ではない。個性的な栄養士たちを雇ってメニューを開発し,献立を決め,給食センターを発展させていくゲーム的な面白みもある。
当初は謎のペーストやブロック栄養食といった味気ない「ディストピア飯」ばかりだった給食も,温野菜やグラタン,ステーキなど彩り豊かなものとなっていく。プレイ中には「排水溝の蓋で滑って転びそう。どうする?」など現場あるある的なアクシデントへの対応が求められ,給食センターへの理解も深まるのだ。
![]() |
中西製作所がゲームアプリを配信し,東京ゲームショウに出展する理由について,同社広報・マーケティング室の原田理央氏は,業界への理解を促すことや,現場で働く人たちの努力を知ってほしいという思いがあると語る。
就職希望者が「給食マスター」をプレイして条件を達成すると,2次面接から選考に参加できる「体験型ゲーム採用」も行われており,ゲーミフィケーションが本格的に活用されているという印象だ。
なお,ゲームは仕事内容を理解するための体験コンテンツであり,スコアによって選考の合否を決めるものではない。
体験型ゲーム採用の公式サイトでは「就職活動では,企業理解が浅いまま『志望動機』や『自己PR』だけが先に出来上がりがちです。だから私たちは,説明よりも先に仕事理解が進む体験を用意しました」と理念が語られている。
なるほど,いかに耳当たりの良い「志望動機」にするか言葉をこねくり回すより,実際の業務について学ぶほうがよほど有意義であるし,見学と違ってゲームなら24時間365日体験できるわけだ。
こうした背景もあって「給食マスター」は完全無料で,広告や課金も一切ない。にもかかわらず,出展に合わせて大型アップデートを実施し,にじさんじの加賀美ハヤトさんと早乙女ベリーさんに公式に実況を依頼するなど,業界を理解してほしいという思いの強さが伝わってくる。
このプロジェクトは中西製作所の代表取締役社長である中西一真氏が主導しており,「給食マスター!」は外部のゲームメーカーとともに制作が進められた。ゲームメーカー側にイメージを伝える際も,厨房機器や給食センターにおける動線の大切さなどが知られていないと浮き彫りになり,「自分たちの業界はここまで認知されていないのか」と再認識することもあったという。
業務での調理といえば飲食店も思い浮かぶが,飲食と給食は違う世界だ,と原田氏は強調する。たとえば,使い終えた大量の食器を確実に消毒・乾燥させる設備や,汚染防止のために肉や野菜の動線を物理的に完全に区画分離する構造は,大量の食数を安全に提供する給食施設ならではなのだという。
このように身近なようでいて知られていない給食や厨房機器の世界を遊びつつ学べるというのは,ゲーミフィケーションの有効な活用例といえるだろう。ゲームを就職に役立てられる体験型ゲーム採用の施策を見ると,ゲームへの信頼が高まっていることを改めて感じられる。
中西製作所では,求職サイトをテーマとしたARG(代替現実ゲーム)「CAREER ANSWER」もスタートしている。こちらは求職サイトにエントリーすると,管理者を名乗る謎の人物からメッセージが届くという内容である。
彼が約束するレアな求人に釣られて調査に協力していると,いつの間にか管理者のXアカウントなどを調べ,ソーシャルハッキングのような真似をしている自分に気付く。そんなスリリングな展開だ。結末が気になる人は,こちらもチェックしてみよう。
![]() |




























