連載
インディーズゲームの小部屋:Room#617「Arise: A Simple Story」
あけましておめでとうございます。年末年始は懐かしのゲーム機を引っ張り出して遊んでいた筆者がお届けする「インディーズゲームの小部屋」の第617回は,Piccolo Studioが開発した「Arise: A Simple Story」を紹介する。本作は,死を迎えた一人の老人の人生を振り返るというアクションアドベンチャーだ。古いゲーム機を見つけるまではいいけど,ゲームソフトを発掘するのが大変……。
本作のテーマは「愛と喪失」。ゲームは,とある老人の葬儀の場面から始まる。薪の上に横たえられ,人々が見守る中,荼毘に付された老人が次に目を覚ますと,そこは一面の雪に覆われたリンボ(辺獄)だった。そして,老人を招くように雪山の頂上で輝く不思議な光へと辿り着くあいだに,老人は喜びと悲しみが入り混じった,これまでの人生を振り返ることになる……。
人生の最後をどう過ごすかをテーマにしたゲームは,本連載の第481回で取り上げた「Old Man's Journey」や,第570回で紹介した「The Stillness of the Wind」などがあるように,そこまで珍しいものではない。生きることは失うことでもあるというテーマは,誰もがやがて辿り着く共通の思いなのだろう。いずれも人生について考えさせられる,しんみりとしたゲームで,本作もその1つだ。
プレイヤーは老人を操作して,幻想的で美しい風景の中を進んでいく。老人はそこで,しばしば過去の思い出の一場面を再現した自分の石像と出会い,プレイヤーはそれを通じて老人の人生に何があったのかを知ることができる。基本的なゲームシステムはジャンプアクションを中心としているが,大きな特徴となっているのは,時間を進めたり,巻き戻したりできることだ。
例えば,時間操作によって湖の水位が変化し,それまでは水中に沈んでいた足場が浮かび上がったり,崖崩れで落ちてきた岩に飛び乗ってから,時間を巻き戻して崖の上まで移動したりといった具合。ジャンプアクションはそれほど難しくないものの,場面ごとにカメラアングルが決まっているため,やや距離感をつかみにくいと感じることもあった。なお,ゲームを進めると,時間を完全に静止させることも可能になる。
物静かで美しい音楽も,本作の雰囲気づくりに一役買っている。各章のタイトルを除き,セリフや文字をいっさい使わずに紡がれていくストーリーは,人生の悲劇的な側面にやや偏っているきらいはあるが,ラストの演出は文句なしに感動的。愛おしげに石像の肩にそっと腕を回す老人の姿に,思わずうるっときてしまった。そんな本作は,Epic Games Storeにて2000円で発売中。年の始めに人生を見つめ直したい人は,ぜひどうぞ。
■「Arise: A Simple Story」公式サイト
https://arise-game.com/- この記事のURL:
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