連載
インディーズゲームの小部屋:Room#30「アパシー ミッドナイト・コレクション vol.1」
すでにご存じの人もいるかもしれないが,本作を制作した七転び八転がりは,ゲームクリエイターである飯島多紀哉氏が発足したゲーム制作サークル。飯島氏と聞いて筆者が真っ先に思い出すのは,飯島健男名義で制作された名作RPG「ラストハルマゲドン」だ。人類の滅びた地球上で,魔族とエイリアンが戦う(プレイヤーは魔族)という異色のRPGで,練り込まれたシナリオと凝ったゲームシステムに,当時は夢中になってプレイしたものだ。
飯島氏はその後も,「BURAI」「学校であった怖い話」「ONI」といった作品を発表。現在の名前に改めたあとも,都市伝説をテーマとした複数の作品をリリースしている。そして,テキストアドベンチャーの名作の一つとして現在でも高い人気を誇っている,「学校であった怖い話」こと“学怖”の世界観を引き継ぎ,インディーズゲームとして制作されたのが本作というわけだ。
本作は,テキストを読み進めながら,ときおり出てくる選択肢を選ぶことによって物語を進行させていくという,一般的なスタイルのテキストアドベンチャーで,「送り犬」「恵美ちゃんの殺人倶楽部観察日記」「柱の傷」の,三つのシナリオが収録されている。テキストアドベンチャーでは,「かまいたちの夜」に代表されるように,殺人事件の犯人を探し当てるといった明確な目的があるものが多いが,本作ではさまざまなストーリーを楽しむことに主眼が置かれており,とくに事件の解決などを目的とした話にはなっていない。
ゲームの性質上,物語の展開が非常に多岐にわたるうえ,あまり詳しく紹介してしまうと楽しみが削がれてしまうため難しいのだが,それぞれの話のさわりの部分だけを紹介しよう。三つの話はどれから読み始めてもいいので,自分の気に入った話から手を付ければいいだろう。
この恵美ちゃんという子は,一見すると明朗快活な普通の少女なのだが,相変わらず激しい妄想癖の持ち主で,ストーリー自体も三つの中で一番ぶっ飛んでいる。本作に収録された中では,最もコメディ色とスプラッタ色の強いシナリオで,友達がいきなり口からエクトプラズムを吐き出したり,血みどろのバトルロワイヤルが繰り広げられたりといったハチャメチャなストーリーが展開される。
もう,この段階でかなりイヤな予感がしてくるわけだが,ここで引き下がってしまっては話が進まない。泰成は,1階は全部開かずの間で,住んでいるのは隣室の不気味な老婆だけという,廃屋同然のこのボロアパートに入居することを決意するのだが……といったストーリーが展開する。やっぱり,チェーンソーを持った殺人鬼が追いかけてくるより,こういったじわじわくる話のほうが怖いよなあ。
ただ一つ残念なことに,このシナリオだけは選択肢がなく,ただ読み進めるだけとなっている。また,いくつかの謎が未解明のまま残されており,いずれ何らかの形でこれが補完されることを期待したい。
おまけイラスト |
また,本作では一つの話を読み終えるごとに,公式サイトと連動したパスワードが表示され,これを公式サイトの専用ページで入力することで,おまけイラストや攻略のTipsなどが見られるという,お楽しみ要素もある。エンディングリストやシナリオの達成率を見ながら,頑張ってすべてのストーリーを体験してほしい。
七転び八転がりの公式サイトからは,体験版やデモムービーがダウンロードできるので,興味を持った人はまずはそちらをお試しあれ。また製品版は1575円(税込)にて発売されているので,気に入った人は公式サイトで取り扱いショップを確認のうえ,購入を検討してみよう。
そして最後に,飯島氏は現在,新作の「アパシー レンタル家族」を制作中であるとのこと。次回作はなんと,家族や恋人,友人など,さまざまな愛の形を描いたラブ・ファンタジーで,ホラー要素は皆無であるという。こちらの作品は,4〜5月頃に七転び八転がりから,PC向けインディーズゲームとして発売される予定で,ボリュームもかなりのものになるようだ。飯島氏がこれまで手がけてきたものとは,まったく異なるジャンルの作品だけに,いまから完成が待ち遠しい。
■七転び八転がり 公式サイト
http://www.takiya.jp/78/おまけイラスト |
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