2008年2月21日,Intelの日本法人であるインテルは報道関係者向け説明会
「インテル クライアント・レギュラー・アップデート」を開催した。2か月に一度の開催となる定例説明会ということもあり,大きな発表があったわけではないが,45nm High-k世代のCPUをPC以外の分野へも積極的に広げていくという,同社の強い意志が見えるものになっていたので,いくつか興味深い部分をピックアップしてレポートしてみたい。
ユーザーが選ぶのはインテル,という自信?
吉田和正氏
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説明会で登壇したインテルの吉田和正代表取締役共同社長は,2008年におけるIntel/インテルのキーワードをいくつか挙げ,「IT,デジタル家電などの分野で明るい話題を提供していきたい」としたうえで,とくにモバイル分野で「もっと満足度の高い製品やサービスを実現していかなければならない」と強調。さらに,インテルが事業会社の一員として2009年にサービスインすべく進めているWiMAXについても触れ,インターネットにさまざまな機器が接続されればイノベーションが起こるだろうと吉田氏は予測する。
その上で「(イノベーションを)待っているだけではダメ。イノベーションを作り上げていく努力をしていかなければならない」とし,その実例としてインテルを含め4社が協同して開発しているデジタル配信システムのデモを紹介した。
ドリームボートが開発したP2P技術「SkeedCast」を応用し,フェイスによるモバイル端末を利用したコンテンツ配信サービスと,ホームサーバー上でインターネットとテレビをシームレスに統合するクイックサン製のUI(ユーザーインタフェース)を組み合わせたデモ。地上デジタル放送(左)からWebサイト(中央),さらには有償コンテンツの課金→ストリーミング再生まで(右)をリモコン(と決済機能付き携帯電話)で処理してみせた。左の写真で,Webサイトが“チャンネル”として登録されている点に注目してほしい
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P2P技術を利用していたり,テレビとインターネットの操作をシームレスに行えたり,携帯電話を使った課金システムを使っていたりといった特徴はあるものの,デジタルコンテンツ配信技術自体は手垢が付いているといっていいくらいで,決して珍しいものではない。かつてIntelがViivで目指していたものと中身はまるで変わっていないともいえ,結局はホームサーバーPCへIntel製CPUを売りたいがためのパフォーマンスではないかとも思える。
ユーザーがサービスをシームレスに利用できるよう,IA(Intel Architecture)ベースの製品を各方面に広げていくと吉田氏
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だが吉田氏はインテルがこうしたサービスを開発・提案していくのは「“Intelを使ってくれ”という意味では決してない」という。「誰でもオープンな形で競争できることこそ健全だ。選ぶのはあくまでもユーザー」と吉田氏は強調してみせるが,その発言は「ユーザーが選ぶのはインテルだ」という自信の裏返しかもしれない。2008年第2四半期に搭載システムが市場投入予定となっている,超低消費電力のCPU
「Silverthorne」(シルバーソーン,開発コードネーム)など,さまざまな選択肢を提示できるからこそ,「“次の世代”を提案し,作っていくことがインテルの使命」(吉田氏)と言い切れるのだろう。
少々強引に関連づけるなら,いよいよ現実味を帯びてきた携帯電話でのコンテンツ課金システムが実現されれば,オンラインゲームを中心に,課金周りがずいぶんとすっきりする可能性がある。P2Pネットワークを利用した“パッケージタイトル”のオンデマンド配信といった可能性もあるわけで,ゲームと無関係とは言い切れない。
ただ,ゲームプラットフォームとしてのPC復興を目指す
「PC Gaming Alliance」(以下,PCGA)について吉田氏に尋ねてみたところ,微妙な笑顔とともに
「まだこれから」と返されたので,PCGAに絡んで,今回紹介したようなサービスがPCゲームに関係してくるには,まだかなりの時間がかかりそうではあるが。
モバイル(カジュアル)ゲームプラットフォームが
誕生するか〜Silverthoneに注目
ひまわりの種を手に,Silverthorneについて説明する土岐秀秋氏
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いま名前の出たSilverthorneについては,インテルの技術本部 技術部長 土岐秀秋氏が説明を行った。Silverthorneは「超低電圧版Pentium Mと比べて,TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)で10分の1以下の消費電力」(土岐氏)となる,45nm High-kプロセスを採用した新しいCPUだ。
低消費電力の理由について土岐氏は,まず「デュアル・インオーダー・パイプライン発行(HT)」というキーワードを挙げる。ただし,この用語はマーケティング部門が提案しているもので,まだ正式に使われるかどうか決まっているわけではないそうだ。実際,デュアル・インオーダー・パイプライン発行というだけでは初代Pentiumも該当してしまうわけで,その意味ではカッコ書きで追加されているHT(Hyper-Threading)がキモといっていい。
Silverthorneの概要をまとめたスライド。アイドル時にL2キャッシュの電源をカットオフする「Deep Power down」(C6ステート)といった低消費電力技術も実装される
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前提となる話をしておくと,Core 2やAthlon 64,Phenomといった最近のCPUでは,複数の命令を効率よく同時に実行するため,命令の並び順を変える「アウトオブオーダー実行」が実装されている。ただ,アウトオブオーダー実行を行うためには,回路規模を大きくする必要があり,消費電力面で不利になるため,Silverthorneではアウトオブオーダーをあえて非採用としたのだ。インオーダー実行を採用することで回路規模を縮小し,超低消費電力を実現したのである。ちなみに,Intelの一般ユーザー向けCPUとしてインオーダー実行を採用したのは初代Pentium以来で,ある意味,原点回帰のようなCPUといえる。
もっとも,アウトオブオーダーを実装しなければ命令の実行効率は落ちる。そこで,Hyper-Threadingを応用しようというのがSilverthoneの大きな特徴である。二つのスレッドを同時に実行することで,演算ユニットが遊んでしまう時間を減らし,命令実行効率を上げようというわけだ。
ここで土岐氏は「Silverthoneのダイを持ってきたかったのだが残念ながら用意できなかった」と前置きしつつ,インテルが環境重視のイメージとして前面に押し出しているひまわりの種を取り出して,「Silverhorneのダイサイズは,これよりちょっと小さいくらい」と会場の笑いを誘っていた。
動作クロック1〜2GHz時におよそ1〜2Wの消費電力と言われるSilverthorne。
先に4Gamerで“こねくり回した”ASUSTeK Computerの「Eee PC 4G-X」を超えるようなパフォーマンスで登場してくれば,いよいよPCゲーム環境のハンディ化が現実味を帯びてくるはずだ。SilverthorneベースとなるMenlowプラットフォームの,早期の登場を期待したい。
土岐氏は,先に発表された「Skulltrail」(スカルトレイル)こと「Intel Dual Socket Extreme Desktop Platform」についても説明を行った。ただ,氏の示したスライドでも,ゲームの性能向上にはほとんど寄与していない。2月19日の記事で述べられているとおり,やはりゲーム開発者向けと位置づけたほうが分かりやすいかも
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2008年のIntelは,Silverthorneのほか,まったく新しいマイクロアーキテクチャを採用する
「Nehalem」(ネハレムもしくはネヘイレム,開発コードネーム)というCPUも準備しているだけに,多くの話題を提供してくれそうだ。2008年4月2〜3日に中国の上海で開催される「Intel Developer Forum 2008」では,「Nehalemについて詳しい紹介が行われる」(土岐氏)そうなので,こちらも楽しみにしたいところだ。
2008年1月から,プラットフォームのブランド名が(また)変わったこともアナウンスされた。まあ,ゲーマーの立場からするとそれほど重要ではないので,興味のある人はチェックしておいてほしい。ポイントは「Viiv」「vPro」といったあたりが,CPUのサブブランド化していること
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