6月23日より6月25日まで,東京ビッグサイトで
「3D&バーチャルリアリティ展」 が開催された。これは,例年行われていた「産業用バーチャルリアリティ展」がパワーアップしたものだ。
ざっとした印象で述べても,出展数が増えて会場は賑わいを見せていた。昔はごく限られた業界のためのイベントだったので,ゆったり見て回れたものだったのだが,今年は朝から妙に人が多い。テレビを中心とした,立体視対応の流れは確実にあるようだ。この展示会について言えば,はるか昔からそういう分野を専門にしていたわけだが,展示会の名前から「産業用」という単語が落ちるくらいには一般化しつつある。
さて,名前が変わっても,内容は大きくは変わらない。立体視対応ディスプレイやモーションキャプチャ,地図情報,立体計測,代替現実系,シミュレータ系,各種オーサリングツールなどが中心だ。今年は,立体視対応テレビの影響か,立体視対応放送技術で,要するにどんなカメラを使うのか,どうやって編集するのかといった部分も少し目立っていた感じだ。
富士フイルムの立体デジカメFinePix REAL 3Dを使って,3D形状を入力するツール
ソニーのハーフミラーを使った業務用立体視カメラ
立体視ディスプレイあれこれ
最初に,多少はゲームに関係ありそうな立体視ディスプレイについてまとめると,会場ではレンチキュラー系裸眼立体視のものが減り,過去の展示ではほとんどなかった液晶シャッターが増えた印象。ヘッドマウントディスプレイ式は例年どおり少なく,偏光メガネ式がやや多め,液晶シャッターと視差バリア式裸眼立体視が続いている感じか。
デザイン用などでクオリティを求めてか,ディスプレイ2面の映像をハーフミラーで合成する方式を使ったTrue3Diをあちこちで見かけた。また,いくつかのブースでは,立体視表示でNVIDIA 3D Visionが使われていた(おそらくグラフィックスカードはQuadroなのだろうが)。現状ではコストパフォーマンスに優れた立体視ソリューションなのだろう。
※ムービーファイルへのリンク
会場には,以前,ニンテンドー3DS用ではないかと
紹介 したシャープのタッチセンサー付きの裸眼立体視ディスプレイが展示されていた。PDAサイズの3.8インチタイプと10.6インチタイプの2種類だ。ニンテンドー3DSに使われている液晶については公式発表はされていないのだが,可能性として大きいのは,やはりシャープ製であろう。今会展示されているものは,液晶の解像度や縦方向での立体視対応などでいろいろ違いがあるので,そのものではないとしても,3DS用がシャープ製であったとすれば近い見え方をする可能性は高い。
ということで,不確定要素がまだまだ多いのだが,どんな見映えになるのかを撮影してきたので頑張ってご覧いただきたい。例によって裸眼立体視平行法である。
※ムービーファイルへのリンク
シャープは視差バリア方式の裸眼立体視で多くの特許を持っている会社ではあるが,多段視差の製品は作っていない。基本的に正面にいる人にしか立体視できないという欠点がある。小型機器ではいいのだが,大画面だとちょっとつらい。一方で,視差バリア方式で大画面に対応した多段視差を扱っているのはニューサイトである。
シャープブースの隣では,ニューサイトのディスプレイで立体視対応映画を一躍有名にした「AVATAR」のデモリールが流されていた。
展示されていたニューサイト製ディスプレイは8視差の表示に対応しており,要するに,7方向から見た映像が同時に表示できる製品だった。正面にいる人だけでなく,ちょっと斜めの位置にいる人にも立体で見える。しかもちゃんと斜めから見た状態の映像が再現されるというシステムだ。
しかし,今年の展示は,多方向視差を使ったものではなくて,2視差の立体映像を多くの方向で立体に見えるように表示するというものであった。
AVATARもそうであるが,最近制作される映画には立体視対応のものが増えてきたのは,ご存じの人も多いだろう。そのような映像ソースをニューサイト製のディスプレイで表示しても,実はあまり嬉しくない。映像は2視差分の情報しか入ってないので,8視差を扱えるディスプレイにとっては役不足である。ちなみに,2視差の映像を斜めから見た複数の映像に変換してやるという技術もあり,それは視差変換と呼ばれているのだが,今回展示されていたのは別のものだ。
見る角度に応じた映像が見えるというのが多段視差の醍醐味ではあるのだが,あえて同じ立体視映像を多方向で見えるようにするというのが,今回の展示であった。立体視対応映画を,メガネをかけずに,多くの人が同時に楽しめるディスプレイというのは,現状でもっとも求められている製品かもしれない。
※ムービーファイルへのリンク
※ムービーファイルへのリンク
それぞれ,違う角度から見たところ
とはいえ,2視差の映像を単純に8視差分に分配していくと,角度によっては左右が逆転してしまうことがありそうなのでちょっと確認してみたのだが,逆転は発生しないようになっているとのことだった。実際にディスプレイをいろんな角度から見ても,不思議なことにとくに破綻はない。途中の視差を間引いて6視差分で8方向に対応というのなら分からなくもないのだが,微妙な角度から見ても大丈夫だったような気もする。なかなか謎の技術であった。
さて,シャープの話に戻るが,シャープでは大型の立体視対応テレビのほうも展示していた(こっちがメインだという話はある)。これは液晶シャッター方式のものである。左右60Hzずつ,120Hz駆動のものとなる。
ディスプレイ自体が,4色を使った色の鮮やかさをウリとしている最新のAQUOSクアトロンをベースにしており,とくに明るさが強調されていた。
4色化は,単位面積あたりの画素が3個から4個に増え,1画素あたりは小さくなるので,単純にやると暗くなるとのことなのだが,4色化以前の段階で液晶の開口率を大幅にアップしていたから実現できたのだという。通常の半分以下の明るさしか確保できない液晶シャッター方式の立体視表示システムでは,明るいということは無条件に利点となる。
※ムービーファイルへのリンク
液晶の反応速度には自信を持っているようで,クロストークの少なさは業界で一番だとの評価をもらっているとのこと。それでも左右画面のクロストークは,数%発生しているとしていたあたりは,なかなか正直だ。
それでも切り換え時に多少時間差は出るのか,そのあたりは黒画面を挟むとか液晶シャッター側の開放時間を調整するなど,各社それぞれの工夫はしているとのこと。
久々に見たような気がするZalmanの立体視液晶ディスプレイ。以前 と同じく横ラインの偏光フィルタ方式で,フルHD対応の24インチ製品が出展されていた。近日発売予定とのこと
※ムービーファイルへのリンク
参考出品されていたソニーの業務用立体視対応ディスプレイ。民生用とは違って,偏光フィルタ方式が採用されている
こちらは球形の立体映像を表示するディスプレイ。なんと,アナグリフ方式(要するに赤青メガネ)で,赤と青のLEDを6列用意し,明滅させながら高速に回転させている
※ムービーファイルへのリンク
フルHD解像度の立体視対応プロジェクタによるデモ映像より
※ムービーファイルへのリンク
モーションキャプチャの新しい形
モーションキャプチャ関係でも,会場内でいくつかデモが行われていたが,目を引いたのはZero C Sevenのマーカーレスキャプチャシステム「Stage」と,カメラなしキャプチャシステムの「MVN」の二つ。
Stageは,背景のない専用の空間に14台のカメラを設置しておき,中に入った人に対してキャリブレーションを行えば,とくにマーカーなどを付けることなくモーションキャプチャができるというもの。おそらく人間以外の形だと認識してくれないのだろうが,画像認識で動きを解析する手法だ。
一方のMVNは,位置方向加速度などを感知するセンサーと曲率センサーを組み込んだスーツを着て身体の動きを記録するもの。見た限り,一昨年紹介したものと同じものだが,KillZone 2などでも使われたとのことなので,改めて紹介しておこう。
この機器はカメラレスかつワイヤレスなので,どこでも使用できるなど,通常のモーションキャプチャスタジオでは取れないようなモーションも記録できるのが最大のウリだ。ムービーでは,スカイダイビング中の動きやスノーボードやフィギュアスケートの動きを録る例が示されていた。
身体中に17個のセンサーを付ける必要があるのだが,それさえ付けてしまえば,上に服を着こんでも問題ない。面白い使い方のできそうな機器である。
水晶球内に映像を映し出すディスプレイ。立体映像ではないが目を引く展示
昨年多めだった代替現実関連は,今年は少なめ。
時代の流れか,立体視関係が元気だ。立体視ディスプレイの普及という思いもよらないことが現実になりそうな昨今だが,あちこちの家電量販店に設置された立体視テレビの体験コーナーを覗くと,普及はまだまだ先かなという気配もある。たいていの体験コーナーでは長蛇の列になっており,興味を持っている人の多さを感じさせるものの,メガネなしではできないのかなどと聞いている人も多々見られた。そして,見終わったあとに,「目が疲れた」という人が多い。120Hz以上での液晶シャッター方式は目が疲れるほどにはちらつかないものの,こういった場所での立体視のデモでは,必要以上に立体感を出そうとしており,きつめの視差が設定されていることが多い。ある程度慣れてないと目に負担がかかるのはしかたがない。とはいえ,短時間ならさほど疲れないと思うのだが,こういうものは目が疲れるものだという思い込みのある人も多いのかもしれない。
ちなみに,今回の展示会では,シャープやソニーの展示などは控えめな視差で設定されていたように思うが,それで十分な効果なのだ。市販品だと,フジフイルムの立体デジカメも必要以上に視差が大きくしてあって,以前聞いた話だと,立体感を強調するためにカメラの間隔をちょっと広めにしているのだそうだ。一般の人に立体映像をアピールするのに懸命なのはよく分かるのだが,逆効果になっている可能性は否めない。
もっと自然に見える立体視で,多くの人に受け入れられるプロモーションを目指してもらいたいところである。
シャープの60インチ液晶を縦に3面使うという迫力のATI FirePro V8800のデモ
突っ込んだら負けかなと思わせる,Virtual Realityでの理髪デモ
左:フォースフィードバック式のジョイスティック。動かしてみるとかなり重めの負荷もかかる。PCとの接続はLANケーブルだった。お値段は未定だが600万〜800万円程度とのこと 右:3Dオブジェクトの触感をボタンの振動で表現するVib-Touch
どちらもジェスチャーでUIを操作するデモ
Google Earth用に高解像度のテクスチャを適用するデモ
GPS機能や角度センサーなどと連動させ,iPhoneやiPadを通して京都市内の古代の姿を見ることができるというアプリTimeScope。地図で選べば現地でなくても使用可能。まもなくApp Storeで公開予定とのこと
ニューサイトで展示の立体視フォトフレーム。普通の写真を立体視写真に変換するソフト付き
http://www.ivr.jp/