
業界動向
Access Accepted第628回:MMORPG界のレジェンド,ブラッド・マッケイド氏
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ゲームクリエイターのブラッド・マッケイド(Brad McQuaid)氏が米国時間2019年11月18日に亡くなった。マッケイド氏は「EverQuest」のキーマンとして知られており,ゲーム業界でのキャリアも長い。今回はマッケイド氏への哀悼の意を表しつつ,マッケイド氏の功績を振り返りたい。
PCゲーム激動の時代に誕生したMMORPG「EverQuest」
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その頃のPCゲーム市場はまだ小さなものだったが,3dfx(現NVIDIA)の「Voodoo」シリーズやATI Technologiesの「RAGE 128」といったグラフィックスカードが登場し,3Dグラフィックスのゲームが本格的に作られるようになってきた時代だ。FPSやRTSといった新しいジャンルのゲームががPCゲーム市場を賑わせ,筆者は「海外ゲームを日本に紹介する」という使命を自分に課して,ゲームのレビュー執筆やイベントの参加に精を出していた。
そんななか,当時筆者が所属していたオンラインゲーム雑誌の編集部から,「MMORPGの特集を組みたい」という連絡を受け,βテスト枠を苦労して確保したゲームがあった。それが「EverQuest」だ。
初めてその世界に飛び込んだときは,何も分からないままモブキャラに囲まれて瞬殺され,仲間たちとプレイすることの重要性を認識させられた。その後は,ゲームジャーナリストであることを明かしたうえで,とあるグループに参加させてもらい,さまざまな場所を冒険していった。
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それから20年。MMORPGの勃興と凋落を肌で体験したマッケイド氏が逝去した。死因は明らかにされていないが,亡くなったのは自宅だったという。現在,Visionary Realmsというチームを率いる彼の死は,多くのベテランゲーマーや,新作「Pantheon: Rise of the Fallen」を待ちわびるファンにとって,衝撃的なニュースとなったに違いない。
MMORPGの勃興と凋落
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1995年にリリースした続編の「WarWizards 2」のデモ版が,当時のSony Interactive Studios AmericaでオンラインPCゲーム部門を任されたばかりのジョン・スメドレー(John Smedley)氏の目に留まり,マッケイド氏とクローバー氏はプログラマーとして雇用されることになった。
Sony Interactive Studios Americaはかなり複雑なメーカーで,元々はSony Computer Entertainment America(現Sony Interactive Entertainment)の開発部門の1つである,989 Studiosとして1995年にスタートしている。本部はカリフォルニア州北部のフォスターシティにあったが,南部のサンディエゴにあった支部が,スメドレー氏を責任者に実験的なオンラインゲームの開発を行うことになる。
「EverQuest」のローンチ直前となる1998年末には,本部が「PlayStation」向けのゲーム開発に集中し始めたことによって,スメドレー氏やマッケイド氏ら55名の雇用者全員がVerant Interactiveを結成して独立する。だが,間もなくしてSony Computer Entertainment Americaの再出資を受け,2000年6月には新たに立ち上がったSony Online Entertainmentの中核開発チームとなった。2005年からSCE Worldwide Studios直下の組織となったが,2015年には独立してDaybreak Game Companyが誕生した。Daybreak Game Companyは,現在もオンラインゲームを生み出し続けている。
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ところが,「Xbox 360」へ力を注ぎ始めていたMicrosoft Gamesの方針が転換したことを受けて,2004年以内にローンチできなければ契約解除という,困難な条件を突きつけられる。そこでマッケイド氏に助け舟を出したのが,古巣のSony Online Entertainmentだった。だが,「Vanguard: Saga of Heroes」のローンチはMMORPGのブームが下火になった2007年まで遅れてしまい,大きな成功を収めることはできなかった。
独立してなお,パブリッシャに翻弄されたことを嫌ったのか,マッケイド氏はこの後しばらくは自由契約のコンサルタントとして「EverQuest II」や「Vanguard: Saga of Heroes」の後見役に徹している。だが,Sony Online Entertainmentが開発/運営するすべてのオンラインゲームを遊び放題にした統合型サブスクリプションシステム「SOE All Access」(現Daybreak All Access)という新しいビジネスモデルが登場したのに合わせて,2012年3月にSony Online Entertainmentに呼び戻された。
1年半ほど経過した2013年後半には再び独立してVisionary Realmsを結成。「Vanguard: Saga of Heroes」の精神的後継作として「Pantheon: Rise of the Fallen」を発表した。同作のクラウドファンディングは失敗してしまったが,その後も地道な開発は続けられた。ただし,2018年末に予定されていたαテストが中止されて以降は,そのスケジュールが未公表となり,現在に至る。
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筆者はマッケイド氏のゲームを遊び尽くした熱狂的なファンというわけではない。それでも,マッケイド氏の成功と苦労の期間が筆者の経歴と重なることもあって,彼の訃報は心に重くのしかかってくる。一つだけ言えることは,マッケイド氏の残したゲーム業界とオンラインコミュニティへの功績は,今後も多くの人達を楽しませてくれるということだ。ご冥福をお祈りいたします。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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